鈴木茂、『COSMOS’51』リミックス盤
発売記念ライブで熱演「演奏している
時の自分の顔が、ブルース・リーに似
ている」

はっぴいえんどやティン・パン・アレイなどさまざまなバンドで活躍した日本のロック・シーンを代表するギタリストであり、作曲家/アレンジャーとしても数多くの曲を手掛けてきた鈴木茂。1979年の作品『COSMOS’51』が鈴木自身の手でリミックスされ、『2021 SPECIAL EDITION』として蘇ったことを記念して、7月17日に東京・渋谷の老舗ライヴハウス・La.mamaでライヴが行なわれた。

バンド・メンバーは、中西康晴(キーボード)、鈴木雄大(ギター、コーラス)、グレート前川(ベース)、上原裕(ドラム)といった豪華な面々で、鈴木を入れて5人編成。昼の部と夜の部の1日2回公演で、セットリストを変えて行なわれた。夜の部のスタートは17:30。『COSMOS’51』の曲をやるのは間違いないが一体何から?と期待していると、オープニング曲はティン・パン・アレイの「ソバカスのある少女」。のちに桑田佳祐もカヴァーした名曲だ。ボサ・ノヴァ・タッチの心地よいグルーヴに乗って、ライヴはリラックスしたムードで幕を開けた。

続いて演奏したのは、はっぴいえんどの「花いちもんめ」。初めて鈴木が作曲した記念すべき曲だ。「ソバカスのある少女」から一転して、タイトなバンド・サウンドが鳴り響き、鈴木のエレキ・ギターが咽び泣く。そして、そこから鈴木のソロ時代の代表曲「100ワットの恋人」へ。ドラムがファンキーに跳ねるなか、鈴木の左手の小指にはめたボトルネットが弦を滑り、見事なスライドギター奏法を聴かせた。
ライヴの前半は鈴木の代表曲が次々と演奏されて、ファンにはたまらない展開に。「LADY PINK PANTHER」で開放感あふれるトロピカルなサウンドを聴かせたかと思うと、はっぴいえんどの「氷雨月のスケッチ」ではブルージーなギターを奏でる。演奏後の鈴木の話によると、この曲は大好きなギタリストであるバジー・フェイトンが書いたラスカルズの「Icy Water」にインスパイアされた曲だとか。はっぴいえんどの頃から演奏してきて時代によってアレンジは変わったが、曲を書いた時の気持ちは今も忘れないと言う。

その後「最近、バラード歌手に転向をようかと思って模索中なんです」と照れ臭そうに笑うと、「8分音符の詩」「MOON BABY」とメロウなナンバーを続けて演奏。この2曲はしっとりとしていて、鈴木の甘い歌声にスポットを当てた選曲だ。どちらも大人のラブソングといった趣で、曲を聴きながら、はっぴいえんどのなかで一番ロマンチストなのは鈴木かもしれない、と思った。
いよいよライヴのクライマックス。『COSMOS’51』の曲を披露するコーナーへ。鈴木によると『COSMOS’51』はアレンジの仕事が忙しい中で制作に入り、方向性は決めずに書いた曲を集めたアルバムだとか。アルバム収録曲はこれまでライヴでほとんどやったことがなく、それだけに貴重な機会となった。

まずはアルバムのオープニング曲「君はだまっていても嘘をつく」。爽快なギター・サウンドに導かれた最高にポップなナンバーだ。そして、アルバムの曲順通りに「あと5歩で君のくちびる」へ。オリジナル曲はホーンをフィーチャーしたソウルフルなアレンジだったが、今回は力強いバンド・サウンドでロック色が強くなった印象。ここでMCを挟んで一息いれて「Galaxy Girl」をプレイ。シティ・ポップ的な洗練された曲調で今の時代の空気にもなじんでいる。ぜひ、今後のライヴのレパートリーに加えてほしい曲だ。

鈴木は『COSMOS’51』から3曲演奏すると、「最後にお馴染みの曲を」と「砂の女」のイントロを弾き始める。キーの高いパートをファルセット・ヴォイスで歌い上げ、曲の後半はバンドが一丸となって白熱のセッションを展開。なかでも、縦横無尽に弾きまくる鈴木のギター・プレイは圧巻だ。
アンコールを含め、バンドは1時間半にわたってたっぷり演奏してくれた。昼の部があったにも関わらず疲れた様子は一切見せずに、バラエティ豊かな選曲と見事な演奏で観客を楽しませた。鈴木の人柄をしのばせるMCも楽しく、「最近、演奏している時の自分の顔が、ブルース・リーが敵を倒す時の顔に似ていることに気づいたんです」と言って会場を沸かせていた。

また、ミュージシャンにとってライヴがとても重要なものだということも語っていた鈴木。今回、小さな会場を選んだ背景には、困難な状況に負けずに初心に帰って音楽を続けよう、という決意が込められているように思えた。時々見せるブルース・リーのような表情はコロナという強敵と戦っているようにも見えて、鈴木とバンド・メンバーたちの音楽に対する情熱と愛情が伝わるライヴだった。
文:村尾泰郎
撮影:森久

<鈴木茂 コスモス’51リミックス発売
記念ライブ 夜の部>

2021年7月17日(土)@東京・渋谷La.mama
[ セットリスト ]
01. ソバカスのある少女
02. 花いちもんめ
03. 100ワットの恋人
04. LADY PINK PANTHER
05. 氷雨月のスケッチ
06. 8分音符の詩
07. MOON BABY
08. 君はだまっていても嘘をつく
09. あと5歩で君のくちびる
10. Galaxy Girl
11. 砂の女
(アンコール)
12. 夜更けにベルを押す時は

アルバム『COSMOS’51 2021 SPECIAL E
DITION』

2021年7月7日発売
CRCP-20576 / 3,000円
[ 収録楽曲 ]
01. 君はだまっていても嘘をつく
02. あと5歩で君のくちびる
03. 幻花(まぼろし)
04. Galaxy Girl
05. VIVA CALIFORNIA
06. HEY! WOMAN
07. BAD DREAM
08. サンタモニカ・ラリー
09. Cold Blood
10. PHOENIX

BONUS TRACKS】
11. UNCHAINED MELODY (新録カヴァー)
12. Message from Shigeru Suzuki 2021 (本人コメント)
13. 君はだまっていても嘘をつく (BACKING TRACK)
14. あと5歩で君のくちびる (BACKING TRACK)
15. 幻花(まぼろし) (BACKING TRACK)
16. HEY! WOMAN (BACKING TRACK)
17. BAD DREAM (BACKING TRACK)
18. サンタモニカ・ラリー (BACKING TRACK)
19. Cold Blood (BACKING TRACK)

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