L→R 細美武士、TOSHI-LOW

L→R 細美武士、TOSHI-LOW

【the LOW-ATUS インタビュー】
the LOW-ATUSのたった一枚の
アルバムになったとしても十分

東日本大震災以降、精力的に支援活動を続けているTOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)と、細美武士(the HIATUS/MONOEYES/ELLEGARDEN)によって、自然発生的に結成されたthe LOW-ATUS。これまではライヴ活動中心、しかも演奏するのはカバー曲ばかりだったふたりが、オリジナル楽曲での1stアルバム『旅鳥小唄 / Songbirds of Passage』をリリース。その経緯を訊いた。

フローチャートをやっていったら
CDができたという

まず確認なんですけど、the LOW-ATUSは2014年に福島で演奏したのが最初ですよね?

細美
そう。『STEP in FUKUSHIMA 2014 at Alios』が最初だね。

そこから各地のフェスに出演するなどライヴ活動を行なってきたと聞いています。それが今回、アルバムという音源を出すに至ったのは、東日本大震災から10年経ったことや、現在のコロナ禍の影響があったりするんですか?

TOSHI-LOW
う~ん…こじつければそうって感じかな? 東日本大震災から10年後じゃなかったら、もしかしたらやらなかったかもしれないというのは、10年の意味としてあるとは思うんだけど、“10年だからやろう”ということではなくて。でも、オリジナルをやりたいと思ったのは事実だと思うし、オリジナル曲ができちゃったからという理由もあってやってみたということでしかないんですよ。

そのオリジナル曲というのもthe LOW-ATUSの大きなポイントではあって。これまではフォークソングのカバー曲であったり、それぞれのバンドのセルフカバーであったりを演奏しています。でも、今作にはそれらのカバーは入らず、全部がオリジナル曲となりましたね。

細美
何て言うか、そんなに前もってしっかり設計図を考えて生きているわけではないので、俺の場合は気づいたらそうなってたっていうことがすごく多いんです。そもそもバンドをやってるのも、“どうしてもプロになりたい!”ってやってたわけじゃなくて、気づいたらこうなってた…みたいな。目の前にある小さな選択肢をひとつひとつ“こっちかな? こっちかな?”と選んでいったらそうなっていたことが多くて、大きなひとつの選択じゃないっていうのかな。the LOW-ATUSもずっと弾き語りでカバーをやっているうちに、“そのうちオリジナルが欲しいよね?”って途中から言ってて、それでも“さぁ、作るぞ!”ってことがあったわけでもなく、TOSHI-LOWが作曲している時に“これはBRAHMANでもOAUでもないな”っていう曲ができたんだよね。それを“みーちゃん(細美武士の愛称)、the LOW-ATUSの曲ができたよ”って言ってきて、歌詞をもらったりして。“じゃあ今度録音しようか”っていう話になるみたいな、小さな選択を積み重ねていったら、いつの間にかフルアルバムになっちゃったという感じです。
TOSHI-LOW
フローチャートをやっていったらCDができたという(笑)。
細美
そうそう(笑)。

the LOW-ATUSは当初、東日本大震災の被害に遭った東北で演奏していたというと、阪神淡路大震災の時にソウル・フラワー・ユニオンがチンドン屋スタイルで慰問ライヴをやったソウル・フラワー・モノノケ・サミットが思い出されるんですが、the LOW-ATUSはあれとはちょっと違いますかね?

TOSHI-LOW
いや、the LOW-ATUSもチンドンスタイルですよ。しゃべってゲラゲラ笑って、笑わせたり笑われたりして。で、歌を歌う。

結果的に同じようなスタイルになったという感じですか?

細美
もともとは俺もTOSHI-LOWも、当時あんなに大変になっている場所にえらそうに歌を歌いに行く気なんかなかったんだよね。物資を運んだり、ボランティアに行ったりして、力仕事をしたほうがいいと思ってた。そういうのはCDもたくさん売れて、TVでも人気みたいな誰でも知っているミュージシャンのやるべきことで、俺たちみたいなのが“ライヴやります”って避難所に行ったり、炊き出しを配ったりしたところで“そういうことじゃねえんじゃねえの”って思ってたから、ふたりとも力仕事をやってたの。でも、やっぱりファンの人に声かけてもらったりして、 “細美さん、来てるんだったら歌ってください”ってギターを貸してくれたりして、少しずつ歌う感じになっていったわけ。だから、どれもこれも小さな選択の積み重ねですね。
TOSHI-LOW
うん。“東北が大変だからボランティアに行く?”“行く!”みたいな。で、ボランティアをしました。そこで“歌う?”“歌う!”というね(笑)。
細美
その中で、the LOW-ATUSができたって感じ(笑)。

そうですか。「みかん」で“ギター2本で声ふたつ”とおっしゃっていることから、the LOW-ATUSがアコースティックユニットであることは分かるんですが、音源を作る上ではリズムを取り入れたりすることはできるわけじゃないですか…

TOSHI-LOW
ふたりでやっている以外の音が想像つかなくて。変な話、オリジナルじゃなくても良かったんだけど、ふたりでやるっていうのは前提な気がしていて。ふたつの声があって、しかもヴォーカルがふたりいて、ギター2本で鳴らしているもので…ってことでカバーも選んでいたから、それ以上の音数はいらないなと。一番初めにオリジナルを作ったのも“弾き語りでもなく、バンドでもないんだよね”ってところから始まってて、この音数に当てはまってて、自分が“いいんじゃないかな?”と思うものを選んでいるから、違う頭が働いていれば、バンドに持って行ってちゃうだろうし、違うものになったんだと思うんだけど、どうなんですかね?
細美
俺もそう思うよ。例えば、4ピースバンドのギターとヴォーカルだけで弾き語りをやると何か欠損感があるじゃん?やっぱりドラム欲しいなとか、ベース欲しいなって思うよね。 本当の完成体から何かが欠けた状態だから、そういう人たちが何かを作るとなると足りない楽器を入れるのが普通になるんだろうけど、俺たちはthe LOW-ATUSになった時からふたりしかいなかったから、そもそも何も足りなくないんだよね(笑)。だから、逆にレコードだからって、今ほしいと思っていないものを足すっていう発想はなかったね。

TOSHI-LOWさん、アルバム収録曲で最初に出来たものはどれですか?

TOSHI-LOW
「通り雨」ですね。「通り雨」の頭のフレーズというか、何となく“こういう歌い出しで…”というのを、2年くらい前の3月11日の福島で。
細美
Jヴィレッジの楽屋で“曲、できたよ”って言ってたのは覚えてるな。「通り雨」ができて、“じゃあ、俺も一曲作るから録っちゃおうよ”っていう話になったんだけど、その年は結局できなくて。今年はコロナ禍が長引いたこともあってライヴがないから、“今なら録れるんじゃねぇかな?”って思って、俺がしつこく“録ろう! 録ろう!”ってせがんでスタジオに入ったの。

今回のアルバムリリースは東日本大震災から10年目ということは直接的な理由ではないとおっしゃってましたが、the LOW-ATUSの最初のオリジナル曲「通り雨」ができたのは、やはり…と言うべきか、3月11日だったわけですね。

TOSHI-LOW
ふたりが被災地やライヴ会場以外でいるのは遊んでる時だから、そういう時には“ねぇ、ギターと歌を聴いてよ”という気にはならないだよね。楽屋で時間があって、ライヴまであと2時間待っている中で、ふたりでいる時が一番音楽的というか。

呼ばれてライヴをしに行った時以外で、ふたりでスタジオへ入るようなことはまったくなかったんですか?

細美
リハ―サルもしたことないもんね。
TOSHI-LOW
ない。…音楽の話をしたことがないもんね?
細美
そうだね(笑)。500人くらい観に来てくれてたりする時でもさ、本当の直前まで何の曲やるか決まってないからね。決めたところでステージ上で変わっちゃうし。こっちも遊びだから、それはそれでいいんだよ。そういうことができるっていうのも別に悪いことじゃないっていうかさ。思いっきりふざけて、みんなが笑ったらいいなって感じでやってきたんで。そもそも“そろそろレコードを出そうぜ”とか、そんなんでもなくてさ。

ゲラゲラ笑うだけはなく、ちょっと微笑むとかニコッとするとか、悲しんだあとで少しでも笑えることの重要性とか、そういったものが今作にはありますよね。

TOSHI-LOW
the LOW-ATUSが生まれた経緯というのは、ほぼほぼ瓦礫の道の横を歩いてきてて、そこの人たちと泣くこともあった…でも、その人たちが酒を飲んで笑い出したら、一緒に笑ったり、面白い話をしてやろうとも思うのね。あと、最初は“自分が何かしてあげよう”みたいな感じで被災地へ行ったけど、最終的にもらって帰ってくんのよ。“あれ? 俺のほうが元気もらってね?”みたいな。被災者の人が言う被災者ギャグとか、すごいんだよ。熊本へ行った時、“あんちゃん、どっから来たんだ?”って訊かれて“東京です”って言ったら、“今日、橋あったか?”とか言うわけ(笑)。もうさ、笑っちゃって、“その話、最高ですね”って。もちろん、初めはみんな泣いたと思うんだけど、そのあとから笑いを入れることによって、みんな頑張って、お互いを勇気づけて生きてきたんだなって。だから、大事よね、笑うことは。泣くことも大事だけど。
■アルバム『旅鳥小唄 / Songbirds of Passage』ジャケット写真
(c)林忠彦作品研究室
L→R 細美武士、TOSHI-LOW
アルバム『旅鳥小唄 / Songbirds of Passage』【CD】(C)林忠彦作品研究室
アルバム『旅鳥小唄 / Songbirds of Passage』【LP】(C)林忠彦作品研究室

OKMusic編集部

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