2年ぶりの復活果たす丸美屋食品ミュ
ージカル『アニー』は楽しさがダイレ
クトに伝わる特別バージョン~ゲネプ
ロレポート

【THE MUSICAL LOVERS】ミュージカル『アニー』第40回

2年ぶりの復活果たす丸美屋食品ミュージカル『アニー』は楽しさがダイレクトに伝わる特別バージョン~ゲネプロレポート
2021年の丸美屋食品ミュージカル『アニー』が4月24日(土)、新国立劇場 中劇場にて開幕する……が、残念ながらこの東京公演はその日のみの上演で幕を閉じることが23日夜に公式サイトで発表された。
『アニー』のオリジナル初演は1977年4月21日、NYブロードウェイで開幕し、同年のトニー賞でベスト作品賞など7部門を受賞した。一方、日本テレビ主催版は1986年(昭和61年)にスタートして以降毎年上演を続け、全国で180万人を動員してきた。ところが35年目の昨年(2020年)、新型コロナウイルス感染症の影響により東京公演と夏公演(8月・9月)が共にすべて中止となってしまった。長い上演史の中で初の事態であった。
そこで、2年ぶりの開催となる今年(2021年)は、前年に出演予定だった子どもたちが再結集し、5月10日まで上演を敢行する予定だった……が、ここに来て政府より三度目の緊急事態宣言が発令されることとなり、25日以降の25ステージについて、またしても中止を余儀なくされてしまったのだ。公演関係者たちの胸中は察するに余り有る。ただ、今回、4月24日の一日だけでもかろうじて公演をおこなえることが、せめてもの救いといえるのかもしれない。
その24日は、マチネ公演(12:30開演)をチーム・モップ(アニー役:德山しずく)が、ソワレ公演(16:30開演)をチーム・バケツ(アニー役:荒井美虹)がそれぞれ務める。それが各チームの初日かつ千穐楽となる。また、当初、1ステージに2人ずつの出演とされていたダンスキッズは急きょ2チームに再編され、24日に全員が出演できるように調整されるという。
初日の前日4月23日(金)夕方には、報道向けにゲネプロ(総通し稽古)が公開された。出演は、チーム・バケツ。舞台は、世界大恐慌直後のニューヨーク。誰もが希望を失う中、「明日」を信じて生きるアニー役を、大舞台初挑戦の荒井美虹が表現力豊かに演じた。
<丸美屋食品ミュージカル『アニー』あらすじ>
1933年12月、真冬のニューヨーク。1929年に起こった世界大恐慌が色濃く残り、誰もが希望を失っていた中で、ニューヨーク市立孤児院には前向きな11歳の少女、アニーがいた。アニーは孤児院を脱走し、犬のサンディと出会うが、警官に補導され連れ戻される。そこにやって来たのが大富豪ウォーバックスの秘書グレース。彼女の取り計らいにより、アニーはウォーバックス邸でクリスマス休暇を過ごすことになる。ウォーバックスはアニーを気に入り、養子にしたいと願うが、アニーが「普通の子と同じように両親と暮らしたい。父さんと母さんを見つけ出したい」と望むので、ウォーバックスは5万ドルの賞金を用意し、アニーの両親を公開捜索する。しかし名乗り出てくるのは、両親になりすまそうとする賞金目当ての悪人ばかり。さらには孤児院長ハニガンと、その弟ルースター、ルースターの恋人リリーも悪事を企んで……。さてどうなる、アニー!?

■厳しい時代をしたたかに生き抜くアニー
今年(2020年)の丸美屋食品ミュージカル『アニー』は、クオリティと感染症対策を両立させた90分(休憩なし)の特別バージョンで上演されることが前もってアナウンスされていた。これは、未成年、学生、アマチュア向けにマイルドにアレンジされた『アニー Jr.』という台本をベースに構成されたもので、大人がメインのシーンや楽曲、そして歴史や世情を風刺する内容、マニアックな登場人物が省かれ、どの年齢層にも非常に分かりやすくなっている。また、感染症対策のために、シーンやミュージカルナンバー、セットや登場人数を減らしているが、それによって、観るポイントも整理され、アニーという主人公の輝きが却ってはっきりと浮かび上がるようになった。
今回のベースになっている『アニー Jr.』にしかないセリフといえば、「ねえおじさん、孤児のピクニックに、リンゴを1つ恵んでくれない?」だ。古の『アニー』ファンには、山田和也演出以前のジョエル・ビショッフ演出(2001年~2016年)でもおなじみだろう。荒井美虹の演じるアニーは、厳しい時代をしたたかに生き抜く。孤児院を脱走し、リンゴ売りからリンゴを1つ恵んでもらっての「孤児のピクニック」は、朗らかでイタズラッ子感にあふれている。その後も、自分の欲しいものを勝ち取ろうというたくましさがある。荒井のアニーは表情のみならず声の七変化が魅力的で、目も耳も惹きつけられる。彼女の明るく前向きで、どんな時でもくじけない姿を通じて、なぜ『アニー』がどんな時代でも必要とされてきたかが、改めて痛感されてやまない。
荒井美虹(右)
■社会において、大人が果たす役割とは?
『アニー』の舞台となる1933年のNYは、インフルエンザが大流行し、当時まだワクチンもなく、世界大恐慌による経済的苦難ともあいまって、大きな社会不安が渦巻いていた。まるで現在の私たちが置かれている状況のようだ。
そんな中、劇中の大人たちはどうふるまうのか。大富豪ウォーバックス(藤本隆宏)、NY市立孤児院の院長ハニガン(マルシア)、ウォーバックスの秘書グレース(笠松はる)、ハニガンの弟で詐欺師のルースター(栗山 航)、その恋人リリー(河西智美)を見てみよう。
大富豪ウォーバックスはアニーに出会い、最初こそ子どもという存在への戸惑いはあるものの、人と接する楽しさ、自分の中の慈しみの心に目覚める。アニーの望むことが、たとえ自らの願いと正反対だったとしても、アニーの気持ちを優先し、何としても叶えようと奮闘する。藤本隆宏は2017年に山田和也が演出を担当して以降、ウォーバックス役を演じ続けている。彼のウォーバックスは、人に対して懐が深く、どっしり構えていて、秘書グレースからの助言を素直に受け止め、周囲への気配り・目配りも忘れない。ウォーバックスは世界大恐慌でも生き残った数少ない経営者だが、トップとはかくあるべきだ、と思わされる。時々見せる弱さや切なささえも凛々しい。
(前列左から)荒井美虹、藤本隆宏
その秘書グレース役に抜擢されたのが、劇団四季出身で『オペラ座の怪人』クリスティーヌ役など数々の主演を務め、2020年5月には日本オペラ協会公演 歌劇『紅天女』でタイトルロールを演じた笠松はるだ。笠松は『アニー』初出演だが、知性と落ち着きあふれる大人の女性であるのみならず、アニーに優しく寄り添う姿からは、アニーを幸せにしよう、という並々ならぬ心意気と正義感を感じる。そして何よりも抜群の歌唱力が耳福だ。今回の劇中には、彼女とマルシアと荒井美虹がオペラ調の掛け合いをする場面もあった。
(左から)笠松はる、マルシア、荒井美虹
ウォーバックスとグレースが、随所随所において、アニーを本当に愛しているからこその決断をしているのに対し、孤児院の院長ハニガンは酒に溺れ、子どもたちに掃除ばかりさせている。もっとも、インフルエンザが流行し、ワクチンもなかった時代ゆえ、孤児院のマネジメントとしては「衛生管理が徹底している」ともいえるのだが。
2017年にハニガンを演じて以来、4年ぶりの同役となるマルシアは、孤児たちを威嚇するさま、弟のルースターとその恋人リリーへのあしらい方が、怖いけれども笑ってしまう。ハニガンは、毎日孤児たちが仕掛けるイタズラ等に手を焼いており、甘えん坊な口調から突然怒りへ転調する様が爆笑を生む。サービス精神旺盛というべきか、彼女が人一倍アドリブを利かせているようにも思えたのは、筆者の思い過ごしであろうか。随所で魅せてくれる美脚も健在だ。
(左から)孤児たち[木内彩音、大谷紗蘭、成瀬綾菜、久野純怜、山﨑もも、藪田美怜]、マルシア
詐欺師のルースター役は男劇団 青山表参道Xのリーダーで演技力に定評のある栗山 航、リリー役は元AKB48で多方面に活躍する河西智美、ともに『アニー』初出演だ。栗山は力強くて馬鹿なルースターという斬新な役作り、河西はその彼女だけあって、ハニガンと相撲(?)で勝負するような勝気さに気圧される。ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』では、河西の可憐な少女ウェンディ役に魅了された筆者だが、河西の演技者としての振り幅に改めて驚かされた。大恐慌時代を生き抜いたたくましいカップル、それに乗っかるハニガンのロックなシャウトに力がこもる。
(左から)河西智美、栗山 航、マルシア
■子どもたちから発せられる生命力
厳しいオーディションを経て出演権を得た子どもたちは、1年の充電期間中にさらにパワーアップすべく健闘したのだろう。アニー役を演じる荒井も毎日2キロのマラソンをして、上演期間に息切れすることのないよう鍛えたという。
従来、ゲネプロは第一幕のみのレポートとなるため、アニーの両親を捜索するラジオ番組のシーン以降は紹介できなかった。今回は90分バージョン記念に、孤児たちの笑顔いっぱいの、多幸感あふれるシーンを紹介したい。ラジオに出演したアニーの声を孤児院の皆が聴き、羨ましくなって番組名物の曲「Fully Dressed Without A Smile(フリードレス/おしゃれは笑顔から)」を歌い出すシーンでは、曲名どおりに弾ける笑顔を見せてくれる。
ラジオの司会者を真似て歌い出しを担当する年長の孤児・ダフィ(大谷紗蘭)。「ラジオなんか羨ましくない」と意地を張っていたペパー(久野純怜)もしぶしぶ参加、「着飾るよりも大事なのは微笑み」とジュライ(藪田美怜)が澄んだ声で歌えば、最年少のモリー(山﨑もも)が一丁前に相槌を打つ。小さなケイト(成瀬綾菜)やテシー(木内彩音)もダフィお姉さんに混ざっておしゃまにコーラスを披露する。「着飾るよりも大事なのは微笑み」……とはいえ、孤児たちだっておしゃれをしたい! 孤児院長ハニガンの洋服やアクセサリーを勝手に引っ張り出し、化粧をしあい、心の高揚で歌って踊る。なんだか、ミュージカルの原点を観ているようだ。今年は大人のシーンが減ったこともあり、孤児たちの生命力をよりいっそうダイレクトに感じられる。1年待ったこの晴れ舞台に、自分の全部を捧げる姿、舞台に立てる喜びがこちらにも伝播してくる。
(左から)孤児たち[成瀬綾菜、藪田美怜、山﨑もも、大谷紗蘭、木内彩音、久野純怜]
■新音楽監督・小澤時史
今回の演奏は、生オーケストラではなく録音である。指揮は2017年からオーケストラピットで振ってきた福田光太郎が担当している。音楽監督は、2017年から担当してきた佐橋俊彦から、小澤時史へと交代した。上田一豪 (東宝演劇部/TipTap)のもとで音楽監督を任されることの多い小澤は、ビッグナンバー「N.Y.C.」の盛り上がりのストリングス、終盤のドラムにキレがある。サクサクと進行する90分バージョンは、エンディングのこれまでと違うアレンジが耳に残る。
ビッグナンバー「N.Y.C.」。ダンスキッズは、高嶋悠花と三輪駿斗
「今日がダメでも、明日はきっといいことがある」という『アニー』の核は失われず、楽しめる部分をテンポよく繋いでいく90分バージョンは、ユニバーサルデザインバージョンとも呼べるのかもしれない。感染症、経済的苦境にダメージを受け続け、恐れに押しつぶされそうな今の私たちは、希望を捨てずに前を向き続けるアニーの姿に、きっと元気づけられるだろう。
「トゥモロー」を歌う荒井美虹 with イエヤス(サンディ)
1986年、ミュージカル『アニー』は日本テレビの「良心」として始まり、歴代の現場プロデューサーから、その上の部長クラスまで、たくさんの人が味方になり、大切に守られてきたという。昨年はその灯が消えてしまったが、2021年、今回だけの特別バージョンとして復活した。緊急事態宣言の発令により、両チーム各1回だけの公演となってしまったが、2020年・2021年を駆け抜けた丸美屋食品ミュージカル『アニー』出演者・スタッフの皆様に、心からの敬意をおくりたい。
公開ゲネプロの時点では、皆、明日を、そしてそれ以降の上演を信じていた。以下、その時に届いた出演者からのコメントを紹介する。
●アニー役:荒井美虹コメント
昨年、公演中止が決まった時にはがっかりしましたが、「来年はできるのでは⁉」と期待がありました。
私が出演する"チーム・バケツ"は明るく、おもしろいチームです。暗い世の中ですが、お客様にはミュージカル『アニー』を観て明るく、
元気になって、笑顔で帰ってもらいたいです!
●アニー役:德山しずくコメント
ドキドキしている半面、公演がとても楽しみです。私が出演している"チーム・モップ"は、負けず嫌いで、努力家なチームです。
昨年の分まで前向きに、一生懸命にお稽古を頑張ってきました。ミュージカル『アニー』は観ていて楽しくなる舞台です。
ぜひ劇場に観に来てください!
●ウォーバックス役:藤本隆宏コメント
昨年は、あと数シーンの稽古を残しての公演中止の決定。残念な気持ちでいっぱいでしたが、舞台に立てなかった事でわかる、「学び」もたくさんありました。そんな思いを込めて、昨年の分まで、精一杯演じてまいります。演出も内容も特別バージョンですが、ミュージカル『アニー』の持っている力は変わりません。
ご観劇の皆様と共に、たくさんの夢や希望を共感できるステージになるよう全力で頑張ります。
今年しか観ることのできないアニーを是非お楽しみください!
●ハニガン役:マルシアコメント
2021年のミュージカル『アニー』はきっと特別な『アニー』になることでしょう。
ステージからの私達の思い、そして、お客様の思い、今の時代だからこそ更に響くメッセージがあるに違いないです。
アニーの前向きな生き方から得るものがきっときっとあなたへ……。
そしてハニガンは更に暴れるでしょう!
よろしくお願い致します!楽しんでね。
●グレース役:笠松はるコメント
歴史あるこの作品に参加でき大変光栄です。
お稽古は感染症対策を徹底し、幕を開けたい一心で皆でがんばってきました。
『アニー』という作品には、コロナ禍で不安を抱える今の我々に、より響くメッセージがあると感じます。昨年の公演中止を乗り越えた子供達のパワーと共に、今こそ「明日を生きる希望」をお客様に感じていただけますよう、私も丁寧にグレース役を努めたいと思います。
●ルースター役:栗山航コメント
トゥモロー♪トゥモロー♪と気持ちの良く、透き通ったアニーの歌声が響き渡る稽古場。それは1年前の稽古でした。それから公演中止が決定し、皆でとても悔しい時間を過ごしました。そして今年、万全の体制で挑みます!キャストもスタッフも例年よりも少ないです。しかし!シーンを厳選し、内容を凝縮した特別バージョンということも忘れてしまうくらい、パワフルに、華やかに、賑やかに!!2年分の『アニー』をぶつけていきます!!
●リリー役:河西智美コメント
初日を迎えることが当たり前では無いんだ。と痛感したこの1年でしたが、今日という日を無事にカンパニーの皆さんと迎えられたことがなにより本当に嬉しいです!
Annieで頭がいっぱいの毎日がとても楽しくて幸せで、ずーっと終わって欲しくないですが、やっとお客様にお届けできるんだ!と思うとさらにわくわくしています!
今までとは何もかもが違う毎日ですが、明日への希望を持ち続けるAnnieのパワーとエネルギーをたくさん感じて頂けたら幸いです。
(後列左から)河西智美、笠松はる、藤本隆宏、マルシア、栗山 航、(前列左から)荒井美虹、德山しずく ANNIE(c)NTV
取材・文=ヨコウチ会長  舞台写真撮影=安藤光夫(SPICE編集部)

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