OAUツアーファイナル、晴天の日比谷
野音に響かせた音と言葉

OAU TOUR2021 -Re:New Acoustic Life- FINAL supported by BALMUDA

2021.4.18 日比谷野外大音楽堂
4月18日日曜日、晴天に恵まれた日比谷野外大音楽堂でOAUを体感する。なんという贅沢だろうと、ここにいられることに感謝する。この1年で世界はすっかり変わってしまったが、確かに変わらないものがここにある。キャリア初の、セルフカバーによるベストアルバム『Re:New Acoustic Life』を引っ提げての、今日がツアー・ファイナル。売店の缶ビールや缶チューハイがどんどん売れている。いい雰囲気だ。
「Welcome,Welcome,Welcome!」
午後5時ちょうど、MARTINの歓迎の言葉から始まった春の宵の宴。バイオリンの伸びやかな音がリードする、ゆったりとした音合わせの中からやがてリズムが立ち上がり、アイリッシュトラッド風味が豊かに香る「A Strait Gate」が始まる。背後にバンドロゴを掲げたシンプルなステージ、夕陽に輝く木々の緑、心地よく吹き抜ける風。ああ季節が変わったなと思ったら、TOSHI-LOWがその思いを代弁してくれた。
「やっと、春が来たんじゃないでしょうか。雪の下で我慢していたものが、やっと芽吹いたような気がします」
みなさんが“歌ってくれる”曲を――と言って披露した「こころの花」。歌えない代わりに、手振りで応えるオーディエンス。客席後方から見る風景は普段のライブと変わらない。TOSHI-LOWとMARTINが「すごいなー、晴れた」「みんなといい思い出を作りたいね」と、のんびり話してる。気合はあるが気負いはない、いつものOAUだ。
「夢を追いかけるとか言うと、甘っちょろいこと言うんじゃねぇよと言われそうですが。現実をクリアにしていくことが夢を追いかけるということです。そうやってライブをやっていくのが俺たちの夢です」
相変わらず、TOSHI-LOWの言葉はいちいちかっこいい。パーカッションのKAKUEIが元気いっぱいにクラップを煽る「Follow The Dream」から、「all the way」「Black and Blue Morning」を経て「Thank You」へ。スライドバーを使ったKOHKIのギターが冴えわたり、MAKOTOのコントラバスがご機嫌な4ビートを繰り出す。いつのまにか、オーディエンスがみんな立ち上がって体を揺らしてる。TOSHI-LOWも笑顔でクラップに加わる。ラストはお約束、RONZIの「超ロングスティック」が登場してコミカルに締めくくる。楽しい。
「いろいろあるけど、楽しむときは思い切り楽しんだほうがいい。その“楽しみ預金”が体の中にあれば、苦しんでいる人に分けてあげられるじゃん?」
今日一つ覚えた“楽しみ預金”という素敵なワード。今度早速使ってみよう。MARTINとKAKUEIが吹くティン・ホイッスルの、ノスタルジックなイントロが沁みる「朝焼けの歌」から、力強く三拍子を踏みしめる「Dissonant Melody」へ。TOSHI-LOWの歌の説得力に聴き惚れる「夢の跡」、MARTINらしさ全開のカントリーバラッド「Memories」、どこか60’ sポップスを思わせるキャッチーな「I Love You」。アイリッシュトラッドのイメージが強いOAUだが、内包している音楽性はカントリー、フォークソング、ポップス、ロック、ジャズなど実に多彩なことが、ライブを体感するとよくわかる。だんだんと日が落ちて、あたりが暗くなり、ステージの照明が輝きを増した。ライブはそろそろ後半だ。
「飲んでます? 売店の“氷結”がなくなるまで帰さないからね」
TOSHI-LOWのいじりに、歓声の代わりに手をあげて応えるオーディエンス。「Americana」は厳しい緊張感をはらんだメッセージ性の強い曲で、音から伝わる感情は明らかに“怒り”だ。OAUにはこういう一面も確かにある。そして2年前、映画『新聞記者』主題歌になった「Where have you gone」では、「誰か一緒に歌ってくれねぇかな」というTOSHI-LOWのつぶやきから、サプライズゲストの細美武士が登場する。MARTINの歌、細美のハーモニー、TOSHI-LOWのハーモニカが、重なり合って美しい色彩を見せる。「最後まで楽しんで行ってね」と手を振る細美。たった1曲のために彼を呼ぶ、実に贅沢な瞬間だ。
「夕暮れから夜になる手前の一瞬が好きです。こんな時間に歌ってみたかった曲を、みなさん一緒に歌ってください」
曲はもちろん「帰り道」。ゆったりと大らかなリズム、ノスタルジーを誘うメロディ、大人の包容力。すっかり陽の落ちた霞ヶ関のビル街に響き渡るグッド・ミュージック。法務省、総務省、外務省、もしかしてその向こうの国会議事堂まで、この音楽は聴こえているだろうか?
「コロナ禍の中の怒りをぶつける、新曲をやります。でもOAUを通すと、怒りが愛に変わるんです。なかなか世界は変わらないけど、幸せと不幸のどちらかを選ぶなら、幸せを取りましょう。どうせ変えるなら、自分から変えましょう」
OAUにとっては非常にポップなメロディ、わかりやすい歌ものに寄せた新曲のタイトルは「世界は変わる」。まだ見たことのない夢を見に行けるのなら、さあ行こう。今日からまた歩き出そう――。そんな歌詞を、ハンドマイクでステージを歩きながら、明るい決意を持って歌うTOSHI-LOW。そのまま「Bamboo leaf boat」、そして新曲のインスト曲(タイトル未定)と、問答無用にリズミックなインスト曲を並べて一気に盛り上げる。みんな立ち上がって体を揺らし、手をあげ、後ろの方のオーディエンスは缶ビールや缶チューハイを高々と掲げる。風が強まり、音が流れ、見上げると天頂に月が輝く。野音はいいなとしみじみ思う。
陽気な高速ダンスチューン「Again」を経て、「Midnight Sun」ではダンサーのATSUSHIが登場、長いストールを巧みに操りながら美しくパワフルなダンスで魅せてくれる。曲の後半、それまでただの飾りだと思っていた背後のバンドロゴに突然灯りがともり、隠していたバックライトと、七色のスポットライトが一気に点灯する。なんて粋な演出だろう。「Making Time」で締めくくる全20曲、思わず「おお!」と声がでる、素晴らしい起承転結。
「コロナの中で、自分が大事にしているものの優先順位がわかりました。音楽は、ビットコインや株より大事なもの。俺たちは歌を残すしかないと思ってます」
アンコール1曲目、OAUの楽曲としてすでに定着した「最後のニュース」を、“地球上のサンソ、チッソ、COVID-19は/森の花の園にどんな風を送ってるの”と、TOSHI-LOWは歌った。後半の、壮絶にラウドな演奏と渾身のシャウトに、歌を残すしかない男たちの揺るぎない決意を見た。熱くなった心と体をふっと和ませるラストチューン「Change」を歌い終えたTOSHI-LOWが、オーディエンスに呼び掛けた。
「緊急事態宣言、マンボウの中、ライブができたのはみなさんのおかげです。次はどこで会えるか、その時までご無事で」
無事でいること、幸せでいること、大事なものを大事だと思えること、できるだけ笑顔でいること。OAUが伝えてくれるメッセージはいつもシンプルで、それゆえに深く心に沁みる。それがバンドの力、音楽の力、人間の力。次はどこで会えるか、その時までご無事で。

取材・文=宮本英夫 撮影=KAZUYAKOSAKA

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