WONK、1年越しのライブで時代とシン
クロしたアルバム『EYES』を完遂

WONK EYES LIVE TOUR 2021 2021.4.16 TSUTAYA O-EAST
あらゆる意味で“立体的”“重層的”なライブだった。
昨年6月にリリースしたアルバム『EYES』は荒田洸(Dr)が高度に発達した情報社会の多様性と宇宙というテーマを発案し、井上幹(Ba/Gt)が中心となって脚本を書き、アルバムを構成する楽曲はメンバー個々が軸に作曲するという手法を採っている。ロックやジャズ、ネオソウル、ヒップホップなど様々なバックボーンを持つこのバンドのメンバーの個性が際立っているという意味で、この作品自体が立体的だ。このアルバムを観客がいる状態でようやく構築することができたのが、約1年越しとなる今回のライブである。アルバムのリリース後、8月にはメンバーのリアルな動きとシンクロしたアバターがバーチャル空間でライブを展開する『SPECIAL 3DCG LIVE』を実現。その後、ツアーの中止を余儀なくされ、今回の有観客ライブは『EYES』を完遂する意味でも、配信を何度も行うことに意義を見出せないというバンドのポリシーからも不可欠なライブだったと思う。
WONKはこの1年以外でもそれぞれがソロ作やプロデュース、楽曲提供で研鑽を積んできた。今回、オンラインで視聴したのだが、コメント欄を覗くと古参のファンから初めての人までオーディエンスも多様。リアルの会場であるTSUTAYA O-EASTのキャパシティも正直、手狭だったのではないだろうか。
暗転したステージにブルーのライトがスペイシーな印象を与える中、インスト曲「Introduction#5-EYES」でメンバーが位置に付き、アルバムの実質的な1曲目「EYES」でスタート。変則気味に連打されるキックが荒田の人力によるものだと分かり、美しさの中に悲しみが潜む江﨑文武(Key/Syn)のピアノが耳に滑り込んでくると、瞬時に『EYES』の世界に引き込まれる。「皆さんこんばんは、WONKです。今日は声を上げられない分、拍手とその目で訴えてください」という長塚健斗(Vo)のMCとともに明るくなったステージの全貌が見える。長塚を囲むように、3人それぞれの場所が確保され、要塞感とともに個々のミュージシャンの侵しがたい領域のようなものも感じられる。踊れるノリの「Rollin’ 」、温かみを感じる「Orange Mug」では長塚の美声が冴える。この時点で、アルバムを曲順通りに演奏していくことは予想できたが、結果的にほぼノンストップで演奏を続けていくスタイルには4人の執念も感じた。
メンバー各々の寄りのカメラはプレイの精緻さも映し出し、「Sweeter,More Bitter」では荒田のJ・ディラ直系のタイム感の気持ちよさと共に、ドラミングを間近で見られるのも眼福。そしてなんと長塚がギター&ボーカルに初挑戦しつつ、難しいフロウもこなすなど見所満載。続く「Filament」ではドラムとピアノの真上からのカメラが、アレンジの理解度も深めさせてくれる。少しビザールな「Mad Puppet」ではボーカルにエフェクト処理がなされ、音源の世界観を崩さず、さらにライブならではの立体感を作り出していた。
一瞬の暗転が別の惑星への移動をイメージさせ、江﨑のオルゴールのようにも聴こえるエレピの音から井上のエレクトリック・アップライトベースの深みのある低音が響く「Blue Moon」。一人ひとりのプレイが明快に聴こえることで、ライブへの没入感が高まり、「Signal」での江﨑の長めのピアノ・ソロが長編映画の劇伴のようなドラマ性を生む。そこに鳴る心音のようなSEは荒地に命を見つけたような効果をもたらし、続く長塚のボーカルに体温を感じさせくれた。井上のギターがフュージョン的でありつつビート感はハウスな「ESC」、場面転換的な「Third Kind」を挟み、再びブルーのライティングで場面転換。「Depth of Blue」のイントロが流れ込み、クラップが起こる。ファンがアルバムを聴き込んでいることが実感できる場面だ。奥の高いエリアでギターやベース、シンセベースなど持ち替えつつ、何も手にしていない時は踊る井上、そしてその井上を見て笑う江﨑と、ビビッドなメンバーの表情が捉えられているのも嬉しい。祝祭的なシンセサウンドから後半は明るいネオソウルのフレーバーに展開し、リリックの前向きな内容とリンクしていく。
後半を特徴づけたのはハードかつインダストリアルな「If」。江﨑のブラッド・メルドー経由のグランジ体験がアレンジにも反映されているこの曲、ソリッドなロックをジャズアレンジのピアノに転換する手法は、ライブで一層ドラマチックだ。熱を帯びた演奏は「HEROISM」、「Fantasist」で加速。フロアに長塚が3・1・1拍のクラップを促し、他の演奏が止まった中、荒田が怒涛の関節外し的なソロを決め、大喝采が起きた。
物語も主人公が人間性を回復して行くくだりに入り、スムーズなR&B「Nothing」ではオーディエンスも一つの旅の帰着点を堪能しているように見える。再び長塚がギターを手にし、必要最低限のコードを鳴らしながらの「Phantom Lane」は、SFだがどこかロードムービーの味わいも。演奏を終えると小さく「サンキュー」と感謝を述べて、大事なラストナンバー「In Your Own Way」をギター・イントロでスタート。彼のピュアネスが、ギター&ボーカルだとより際立つ印象だ。曲中の「大変な時期に、1年待ってわざわざお越しいただきありがとうございます。WONKはまだまだ進化します」という言葉には、モニター越しでも拍手してしまったぐらいだ。意図せず時代と同期してしまった『EYES』の物語。彼らのアンサンブルを聴いて、見ていると、異なるバックボーンを持つ他者同士だからこそ、接点を見つけブレンドすることの面白さや、違和感が新しさを生み出すという事実を目撃できる。ジャンルのミックスというと曖昧だが、4人の演奏を目の当たりにするとその意味がよく分かるのだ。
アンコールでは彼らにしては珍しく陽のイメージが強い新曲「FLOWERS」が披露されたのだが、この曲を作ることになった、重い病気にかかってしまった一人のファンからのメッセージと、誰か一人のために曲を作るのもミュージシャンとしてアリなんじゃないかという経緯、ステージ上にアンコールのためだけに用意した巨大な生花も、WONKらしい筋が通ったものだった。詳細を文字に起こすと野暮な気もするので、ぜひアーカイブで確認してみてほしい。どこまでも作品でものを言うバンド、WONK。そのスタンスに寄せられる信頼が自ずと2021年の活躍に結実すると確信した。バンドもオーディエンスも重層的かつ立体的に進化の真っ最中、なのだ。

取材・文=石角友香 撮影=Kihara Takahiro

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