カルメン・マキがブルース
・クリエイションとともに
日本のロックの礎を
作り上げたと言っていい意欲作
1971年、国内外の音楽シーン
本作を解説する上では、1971年とはどんな年だったのか、その時代を探ってみるのが分かりやすいように思う。まず当時の国外の状況。その前年の1970年にThe Beatlesが事実上解散して、同年5月にアルバム『Let It Be』を発表。その5カ月後にJimi Hendrixが、さらにその1カ月後にはJanis Joplinが亡くなっている。1970年はロックのシンギュラーポイントみたいなものだったのだろうか。巨星が去ったロックシーンは群雄割拠な状態になったのか、のちに誰もが認める名盤が多数産み出されている。代表的なところをザッと上げてみると、Emerson, Lake & Palmer『Tarkus』、The Rolling Stones『Sticky Fingers』、Black Sabbath『Master Of Reality』、Aretha Franklin『Live At Fillmore West』、T. Rex『Electric Warrior』、Pink Floyd『Meddle』などなどで、何と言ってもLed Zeppelinの代表作である『Led Zeppelin IV』がリリースされたのが1971年だ。当コラムは“邦楽名盤列伝!”だし、筆者は洋楽に疎く、この辺りは何がどうしてこうなったのか上手く説明できないので、ここまでで止めておくけれども、何度目かの黄金期だったようではある。
一方、その頃の日本の音楽シーンは…というと、1971年の年間シングルチャートのトップ3は、1位:小柳ルミ子「わたしの城下町」、2位:加藤登紀子「知床旅情」、3位:尾崎紀世彦「また逢う日まで」で、その年の日本レコード大賞が「また逢う日まで」で、最優秀新人賞は小柳ルミ子が受賞している。年間アルバムチャートを見ると、1位:Elvis Presley『ELVIS THAT’S THE WAY IT IS』(当時の邦題は『この胸のときめきを MGM映画<エルヴィス・オン・ステージ>主題歌集』)、2位:Simon & Garfunkel『Bridge Over Troubled Water』(邦題『明日に架ける橋』)、3位:Simon & Garfunkel『GREATEST HITS II』と、トップ3は洋楽が占めていたが、上記の黄金期の洋楽アーティストの名前はトップ10にはなかった。また、この頃のElvis PresleyはR&R以外も歌うようになっていて、昔からのファンにはやや不評ではあったとも伝え聞いている。こうした国内外の動向を比較すると、日本と欧米とでは指向がかけ離れていたと見ることもできるが、まったくかけ離れていたかというと、単純にそういうことでもなかった。Chicago、Pink Floyd、Led Zeppelin、Grand Funk Railroadが初来日。Chicago、Led Zeppelinは日本武道館でそれぞれライブを行なっているし、Pink Floydは日本初の野外フェスと言われているイベント『箱根アフロディーテ』に参加し、Grand Funk Railroadは後楽園球場で開催された『ロック・カーニバル♯6』で演奏した。その頃、ロックは一般大衆の隅々にまで浸透していたわけではないが、すでにアンダーグラウンドなものではなかった。過渡期というか、端境期というか、そんな時期だったようである。
フォークからロックへの転身
そして、カルメン・マキである。もともとフォークシンガーとして活動していた彼女もまた、この時期にロックから最大級の洗礼を受けたひとりであった。彼女の経歴については、これも過去の当コラムで『カルメン・マキ&OZ』を紹介した回に譲るけれども、1970年にロックへ転身した彼女が、この時すでにデビューを果たし、1971年3月に2ndアルバム『悪魔と11人の子供達』を発表したばかりの竹田和夫(Gu)率いるバンド、ブルース・クリエイションとともに作品を作ったことは、ある種、歴史の必然だったのかもしれない。この時、マキが20歳、武田は19歳。ふたりに限らず、誰もが己の可能性を疑わない年頃である。カルメン・マキ本人にしても、ブルース・クリエイションのメンバーにしても、アレコレ考えるより先にまずは一枚アルバムを作る…といったところに集中していたと思われる。実際、本作にはそういう音が収められていると思う。
https://okmusic.jp/news/56565/
■『カルメン・マキ&OZ』/カルメン・マキ
https://okmusic.jp/news/56565/
■『悪魔と11人の子供達』/ブルース・クリエイション
https://okmusic.jp/news/275149