崎山蒼志を音源や映像など、一つのイ
メージでとらえることは不可能だと確
信した一夜を振り返る

崎山蒼志 TOUR 2021 「find fuse in you(th)」

2021.3.21(日) 恵比寿 LIQUIDROOM/【2回目】
二度目の緊急事態宣言が解除された日、そして日本中に春の嵐が吹き荒れた夜、恵比寿リキッドルームで崎山蒼志を観た。アルバム『find fuse in youth』は、聴いて、本当に素晴らしいと思ったし、会って話すこともできたが、生のライブは初めてだ。コロナ時代にあっても、守るべきルールがいくつあっても、新しい音楽に生で接する、わくわくは変わらない。椅子の出されたフロアはしっかり満員で、無言のざわめきの中に静かな期待感が満ちている。外の風雨と繋がって、空気の中に、嵐を呼ぶ電気が入り込んできているような気がする。
1曲目は、エレクトリック・ギターのインスト曲「観察(Interlude)」。ほとんど顔が見えない暗い照明の下で、たっぷりとリヴァーヴを効かせたエレクトリックギターが、ジャズのアドリブのように自由奔放なメロディを奏でる、幻想的なオープニング。そこからアコースティックギターに持ち替え、ゆったりとフォーキーな「ただいまと言えば」から、猛烈なスピード感を持つ「鳥になり海を渡る」へ、一気呵成にテンポを上げる。極端にテンションを高めた激しい弦の音が、もはやアコギではなく、工作機械のような金属的な響きで迫り来る。独特のビブラートを駆使した鋭角的なボーカルが、マイクロ波のように体内に浸透して熱を生み出す。ひとこと、すごい迫力だ。
「このような状況下で、お足元の悪い中、集まっていただいて本当にありがとうございます。静岡県浜松市から出てきました、崎山蒼志です。今日は楽しんでいってください。よろしくお願いします」
ライブのMCというよりは、学校の記念行事に臨むような、丁寧な挨拶が初々しい。見守る観客も、まるで保護者参観のように、緊張感の中にほっこりとしたあたたかさを滲ませる。基本はギター1本のワンマンショーだが、アコギで歌う「国」、iPadでリズミックなトラックを流す「うねり」、そしてエレクトロビートに合わせ、ギターを外しハンドマイクで飛び跳ねる「waterfall in me」へと、1曲ごとにアレンジを変えて飽きさせない。視覚的に余計なものは何もない、音楽だけで勝負する、潔いステージングにぐいぐい引き込まれてゆく。
鮮やかにシーンが一転したのは、6曲目「find fuse in youth」だった。一人でエレクトリックギターをかき鳴らす序盤を経て、暗闇の中に突如バンドの姿が浮かび上がり、ドラム、ベース、キーボードが一丸となって爆音をたたき出す、あまりのかっこよさに、誇張抜きに椅子からずり落ちそうになった。闇と光の視覚効果を生かした、シンプルだが魔法的な演出だ。そのまま「Heaven」「Undulation」「花火」と、アップテンポのロックチューンを、バンドの先頭に立ってリードする、たくましい18歳の姿に見とれる。単なるバックバンドではなく、仲良しこよしでもなく、まるで高度なジャズのセッションを見ているような、スリリングな演奏に聴き惚れる。ドラムス守真人、ベースはマーティ・ホロベック、キーボード宗本康兵。ロックだけじゃない、ジャズに造詣の深いメンバーだからこその、ベストコンビネーションだ。
「バンドセット、かっこいいなー。ありがたいですね。めちゃかっこいい方々です」
素晴らしい演奏に子供のように喜び、生中継中の配信ライブに触れて「配信の方、見てますかー」と、カメラに手を振る。その姿はまだまだ幼い18歳で、歌う時の怖いほどに研ぎ澄ました眼力と好対照を描く。そして披露した新曲「逆光」は、Amazon Prime Videoドラマ『賭ケグルイ双(ツイン)』主題歌になった、スッキリとストレートなオルタナロック。初めて崎山蒼志を聴くリスナーには、聴きやすく、ちょうどいい入口になるだろう。「Samidare」は、超キャッチーなサビのメロディが際立つスピードチューンで、マーティの超絶技巧ベースが、唖然とするほどすごすぎる。ピアノと二人で奏でる「そのままどこか」、「ブラックリバーブ」と、スローでメロディアスな曲では、崎山の正確なリズム感と、ギター演奏の巧さ、そして叙景的な美しい歌詞の言葉選びが自然と際立つ。《夕焼け前の空は水彩のにおい》、《真澄の空が月へと続いてく》(「そのままどこか」)――なんてもの悲しく、美しいフレーズだろう。
「今日は本当にありがとうございました。崎山蒼志でした」
最後まで丁寧なあいさつを終え、ラスト2曲、まず諭吉佳作/menと共作したリズミックなポップチューン「むげん・」を、諭吉のボーカル入りのトラックを流して疑似デュエットで。そしてアルバム『find fuse in youth』の中から「Repeat」を、同じくトラックを流しながら、躍動感いっぱいにハンドマイクで。美しい逆光の中のフィナーレに感じたものは、夾雑物のまったくない、多幸感そのものだった。ソロ、バンド、アコギ、エレキ、トラック、ハンドマイク、それが何であっても崎山蒼志の音楽として納得できる、ジャンルのない、時代の流行りとも一線を画す、極めて純度の高い音楽家と素晴らしい時間を共有できた、かみしめるような感動がそこにあった。
アンコールは、1曲。自ら弾くエレクトリックギターと、ドラムの二人だけで演奏した「回転」は、崎山蒼志のオルタナで先鋭的な側面を思い切り解放した、ノイズまみれのカオスチューンだ。とんでもない速度でピックで弦を削りながら、それでも正確なリズムを刻み続ける、彼の体内リズムの正確さは、驚異的としか言えない。最後のノイズが消え、ぺこりと頭を下げ、おどけて大きく手を振ってステージを去る、その姿はお茶目としか言えない。音源や映像や、一つのイメージで、崎山蒼志をとらえることは不可能だと、ライブを観てつくづく思う。こんな時代だが、やはり何があっても、生のライブで崎山蒼志を観てほしいと思う。無限の可能性を持った、この純粋音楽家がまだ18歳だという事実は、日本の音楽シーンにとって本当に幸せなことだと思う。

取材・文=宮本英夫 撮影=KEIKO TANABE

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着