関西フィルハーモニー管弦楽団51年目
のシーズンについて、手塚裕之楽団長
に聞く

コロナで受けた経済的な打撃を、クラウドファンディングで補填する。今では当たり前となった取り組みだが、関西のオーケストラでいち早く仕掛けたのは関西フィルハーモニー管弦楽団だ。
テレビニュースでミスタータイガース掛布雅之が「甲子園の左のバッターボックスに入って、掛布コールを聞いているような、そういう激しい音を、関西フィルに感じたことがあるんです」と語っていたことを強烈に覚えている。
クラウドファンディングの発起人、関西フィルの首席指揮者 藤岡幸夫が、掛布雅之と俳優の辰巳琢郎に協力を求め、趣旨に賛同した二人が藤岡と並んで記者会見の席に着いた。そこで語られたのが掛布の先のメッセージだが、掛布からこんなメッセージを引き出すなんて…。
この会見を昨年の8月に開いて、クラウドファンディングの協力を呼び掛ける発想こそが、関西フィルであり、発起人を務めた首席指揮者の藤岡幸夫なのだ。当初の目標額には惜しくも届かなかったものの、大きな成果を得てクラウドファンディングを終えた後、オーケストラ丸ごと練習拠点を移動するという難題も見事に乗り切り、関西フィルの50周年イヤーは、まもなく終わろうとしている
関西フィルの51年目のシーズについて、楽団長の手塚裕之に聞いた。
―― なかなか大変な50周年でしたね。
記憶に残る50周年になってしまいました。51年目の今年に予定をしていたヨーロッパ公演は来年に延期となりましたが、さて、来年本当に出来るのかどうか。
楽団長 手塚裕之    (c)H.isojima
―― 今流行りのクラウドファンディングですが、関西ではいち早く実施されましたね。元阪神タイガースの掛布さんや、俳優の辰巳琢郎さんなどを応援団長に、返礼品もバラエティに富んだものが並びました。その後から始まったクラウドファンディングのモデルケースになりました。
さまざまなメディアでも取り上げて頂き、多くの企業様に応援を賜りました。お陰様で多くのファンの方に参加していただき、無事に終えることが出来ました。応援していただいた皆様に心から感謝しております。
―― 結局コロナでこの1年、音楽監督のデュメイさんは一度も来日できませんでした。
デュメイ監督自身、3月の住友生命いずみホールシリーズと、同じく3月の「大阪4オケ4大シンフォニー2020」には、2週間待機を覚悟で来日予定でしたが、1月に発表された新しい政府方針を受けて諦めることになりました。
音楽監督 オーギュスタン・デュメイ   (c)ELIAS
―― 来年度のラインナップを拝見すると、デュメイさんは5月、9月、11月に来日されるようですね。
はい、来日が叶うとよいのですが。やはり音楽監督が来ないと盛り上がりません。デュメイ監督も、5月が万一ダメなら、考えがあると言っていましたので、よく相談したいと思います。
―― 事務所と練習場が門真に移転しました。オーケストラの引っ越しは、楽器庫や楽譜の管理の問題などもあって大変そうですね。
はい、事務局長を先頭に、担当者とステージマネージャーそして、ライブラリアンが一番大変でした。門真までは大阪京橋から20分弱と、とてもアクセスは便利です。何よりも、ルミエールホールという本番が出来る立派なホールが練習場になり、これまでの練習場のデッドな音響問題がクリアになって、オーケストラとしては最高の環境です。
門真市民文化会館ルミエールホール 大ホール
門真市民文化会館ルミエールホール外観
―― 門真のルミエールホールは立派なホールですが、稼働率が低かったので、ホール側もウエルカムでしょうね。これで、大阪フィルが大阪市、大阪交響楽団が堺市、日本センチュリー交響楽団が豊中市で、関西フィルが門真市のオーケストラと、行政ともども棲み分けが図られました。
その辺りの表現の仕方は、なかなか悩ましいところです。厳密に言うと活動の拠点は、定期演奏会だとザ・シンフォニーホールですし、よく使わせていただく住友生命いずみホールも中央公会堂も大阪市です。正確には、門真を練習拠点にするオーケストラ。門真をホームタウンに活動する関西フィルといったところでしょうか。門真市役所の皆さまには大変歓迎していただき、我が町のオーケストラ!と喜んで頂いて感謝しています。関西フィルは、滋賀や兵庫、奈良、京都の都心から離れた街からも呼んで頂いているオーケストラですので、各地で受け入れて頂くような活動を続けていきます。
―― なるほど、見せ方の問題は大切ですね。では、来年度の定期演奏会について教えてください。 
定期演奏会が9公演に、「第九」特別公演で合計10公演と例年通りです。デュメイ監督が9月と11月に指揮者として、5月はソリストとして登場します。首席指揮者の藤岡幸夫さんが4月と10月、桂冠指揮者の飯守泰次郎さんが、6月と3月に登場し、4公演を客演指揮者が指揮をします。
―― シーズン最初の4月は、目下絶好調の藤岡さんからスタートですね。
首席指揮者 藤岡幸夫   (c)SHIN.YAMAGISHI
ショスタコーヴィチの交響曲第12番「1917年」をメインに、田中カレンさんの現代曲をお聴きいただきます。
田中カレン(作曲家)
ジョヴァンニ・ソッリマ(チェロ) (c)Francesco Ferla
―― ショスタコーヴィチは藤岡さんにとって、大切な作曲家だとは思いますが、交響曲第12番は指揮されていますか。
藤岡さんはこれまでに何度も演奏しているそうですが、関西フィルとは初めてです。関西フィルとしては、2005年6月定期演奏会で広上淳一さんの指揮で演奏して以来となります。
―― 前半は、いかにも藤岡さんらしいプログラムですね。そして、5月はソリストとしてデュメイ監督が登場です。
デュメイ監督が尊敬する名ヴァイオリニスト アイザック・スターンさんのご子息デイヴィッド・スターンさんが指揮をし、ベルクのヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」を共に奏でます。ドヴォルザークの交響曲第7番は、デイヴィッド・スターンさんの提案でした。
デイヴィッド・スターン   (c)Tom Watson
―― 6月は飯守泰次郎さんで、ドヴォルザークの「スターバト・マーテル」です。
関西フィルハーモニー合唱団が2013年に創立以来、スケールの大きな宗教曲を取り上げています。ブラームスの「ドイツ・レクイエム」、ドヴォルザーク「レクイエム」、メンデルスゾーン「聖パウロ」、ハイドン「天地創造」、フォーレ「レクイエム」、ベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」、ヴェルディ「レクイエム」、メンデルスゾーン「エリア」とやって来て、昨年シューベルトの「ミサ曲第6番」が中止になりました。これまで、藤岡さんと飯守さんが交互に指揮されていますが、2016年に高関健さんがハイドン「天地創造」を指揮されています。そして今回がドヴォルザークの「スターバト・マーテル」。豪華なソリストの皆さんと共にお届けします。
桂冠名誉指揮者 飯守泰次郎  (c)金子 力
老田裕子(ソプラノ)
八木寿子(アルト)
畑儀文(テノール) (c)EIJI SHINOHARA
与那城 敬(バリトン)   (c)Hiromi NAGATOMO
―― 7月はコロナでキャンセルとなった2020年3月のプログラムを、そのままスライドです。
はい。アレッサンドロ・カルボナーレさんのスケジュールも上手く押さえられました。高関健さんの指揮でショスタコーヴィチ交響曲第8番。この曲を関西フィルで取り上げるのは初めてです。
高関 健   (c)Masahide Sato
アレッサンドロ・カルボナーレ(クラリネット)
―― 9月は、デュメイさんでベートーヴェンの交響曲第7番。ベートーヴェン・イヤーが終わったタイミングでこの曲を取り上げる真意を教えてください。
関西フィルは昨年のベートーヴェン・イヤーでは、タイムリーなプログラムは組みませんでしたが、デュメイ監督はこれまでベートーヴェンの交響曲第7番を2回取り上げています。毎回私たちに新しい発見をもたらしてくれました。きっと皆さまがアッと驚くに違いない新鮮なベートーヴェンをご堪能下さい。ピアノのミシェル・ダルベルトさんはもちろんデュメイ監督のご指名です。モーツァルトのピアノ協奏曲第26番「戴冠式」は、天上の響きがすると思います。
ミシェル・ダルベルト(ピアノ)   (c)Jean-Philippe Raibaud
―― 10月は菅野祐悟さんのチェロ協奏曲の世界初演と、ラフマニノフの交響曲第2番という組み合せです。
この組み合わせは2016年4月の定期演奏会、菅野祐悟さんの交響曲第1番とラフマニノフのピアノ協奏曲第3番以来2度目です。今回、演奏するチェロ協奏曲は、宮田大さんのリクエストによって生まれました。前回、チケットは満員札止め。今回もチケットが完売するといいのですが。
菅野祐悟(作曲家)   (c)松井康一郎 ワンミュージック 
宮田 大(チェロ)   (c)Yukio Kojima
―― 11月のデュメイ監督の定期でもチェリストが登場です。世界的なチェリスト ジャン・ワンさんの弾くドヴォルザークです!
ドヴォルザークは生誕180年。ジャン・ワンさんとは2回目の共演です。2か月続けて、世界的なチェロの響きに浸ってください。
ジャン・ワン(チェロ)
―― 2月定期は、すっかりレギュラーポジションになっている感じさえする鈴木優人さんです。
昨年6月の定期演奏会で、曲目を変えて演奏しましたが、それが関西フィルのコロナ明け最初の演奏でした。その時はブラームス2曲をモーツァルトの交響曲第29番とシューベルトの交響曲第5番に替えて演奏しました。今回は予定していた曲目、ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」と交響曲第2番、そして「悲劇的序曲」を1年遅れで挑みます。
鈴木優人   (c)Marco Borggreve
―― そして3月は、待ちに待った飯守さんのブルックナー完結編ですね。
はい、1年遅れですが、何とかこの0番、00番を以て、飯守泰次郎さんと関西フィルのブルックナー・ツィクルスが終わります。演奏機会の少ない曲ですので、お待ちいただいたファンの方も多いと思います。心配したマエストロの体調ですが、もう心配は無いようで、4月に開催される「大阪4オケ4大シンフォニー2021」では予定通りシベリウスの交響曲第2番を指揮していただきます。
桂冠名誉指揮者 飯守泰次郎   (c)s.yamamoto
―― それは良かったですね。そして「第九」ですが、ヴァハン・マルディロシアンの指揮です。
2019年住友生命いずみホールのシリーズで、グリーグやシベリウスといった北欧プログラムを指揮だけでなく、ピアノの弾き振りまでやって頂きました。「第九」は依頼公演で、過去に一度ご一緒したことがあります。今回も合唱は関西フィルハーモニー合唱団が務めます。
ヴァハン・マルディロシアン  (C)堀 衛
―― その他の自主公演では如何でしょうか。5月と11月に予定している「住友生命いずみホールシリーズ」は、ともにデュメイさんが指揮をされる予定ですね。
はい、それに加え、5月の「スプリング・スペシャル・コンサート」では、ピアノの広瀬悦子さんと関西フィルのメンバーで、アンサンブルを演奏しますし、9月の「兵庫県特別演奏会」もデュメイ監督が指揮することになっています。コロナが収束し、無事に来日出来ることを祈るだけですね。
音楽監督 オーギュスタン・デュメイ   (c)HIKAWA
「住友いずみホールシリーズVOl.50」アンドリュー・フォン・オーエン(ピアノ)  (c)HR
「住友生命いずみホールシリーズVOl.51」石上真由子(ヴァイオリン)  (c)︎Masatoshi Yamashiro
「スプリング・スペシャルコンサート」広瀬悦子(ピアノ)
―― その他では恒例の「Meet the Classic」も「バレンタインコンサート」も、「東大阪特別演奏会」も「城陽定期演奏会」も、首席指揮者の藤岡さんが指揮されます。
はい、テレビ「エンター・ザ・ミュージック」が好調で、すっかり全国区の人気者になられました。東大阪でも、城陽でも、藤岡さんのファンの方が多く、藤岡さんの登場を待たれています。コロナの現在、なかなか集客が難しいのですが、藤岡さんの人気は凄いです。演奏会の模様を収録してオンエアするので、劇場サイドにも喜ばれています。文化パルク城陽も東大阪市文化創造館も、住友生命いずみホールも、「エンター・ザ・ミュージック」の中で紹介されました。
首席指揮者 藤岡幸夫   (c)森口ミツル
「東大阪特別演奏会」神尾真由子(ヴァイオリン)
「第7回親子定期演奏会」林そよか(作曲家)  (c)ayane shindo
「Meet the Classic VOl.43」松岡莉子(アイリッシュ・ハープ)
「Meet the Classic Vol.43」前田妃奈(ヴァイオリン)
「第11回城陽定期演奏会」角野隼斗(ピアノ)
「兵庫特別演奏会」ユリア・プシュケル(ヴァイオリン)  (c)AIGA
―― 関西フィルの持ち味でもある指揮者3人体制が、コロナの影響で上手く稼働しなかったところを、藤岡さんが上手くフォローされた感じですね。
そうですね。本当に藤岡さんには助けられました。来年度はデュメイ監督の来日も叶い、飯守さんもお元気で、1年間が回ればいいのですが。
―― では最後に、皆さまにメッセージをお願いします。
一年間にわたるコロナ禍によって、世界中のオーケストラがこれまでにない大変な年を経験しています。関西フィルもその例外ではありませんが、たくさんの皆様に支えられていることを実感いたしました。応援していただいている皆様に、この場をお借りして心より御礼申し上げます。楽団創立50周年及び甚大な影響を受けているコロナ禍を経て、また、練習拠点を門真市に移して新たなステージが始まります。2021年度も指揮者3人体制は変わりません。関西フィルらしい、親しみやすく間口の広いオーケストラとして、多くの皆様に楽しんで頂ける音楽をお届けいたします。引き続き関西フィルハーモニー管弦楽団をよろしくお願いいたします。
これからも関西フィルをよろしくお願いします!   (c)s.yamamoto
取材・文=磯島浩彰

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