アイビーカラー WHITE Release Tour
のLIQUIDROOMでのファイナルは彼らの
新たなドラマの幕開けだった

2020.02.14アイビーカラー WHITE Release Tour “眠りにつく街で” 東京公演 @恵比寿LIQUIDROOM
アイビーカラー Photo by 後藤壮太郎
「アイビーカラーのイメージを、いい意味でぶち壊したかった」と、リリースインタビューで佐竹惇(Vo&G)は言った。外部アレンジャーも起用し、より細密で、大人びた、陰影の濃い楽曲で新境地を拓いた最新ミニアルバム『WHITE』。その世界をライブ空間で思い切り解放する、〈アイビーカラー WHITE Release Tour“眠りにつく街”で〉の、今日はツアーファイナル。ライブハウスに来るのは数か月ぶり、という人もきっといるだろう。厳格な感染予防対策、キャパシティ半分、椅子あり、歓声なしの状況で何ができるのか、メンバーに逡巡もあっただろう。2021年2月14日、東京・恵比寿LIQUIDROOM。アイビーカラーを愛するすべての人の思いを乗せて、新たなドラマの幕が開く。
アイビーカラー Photo by 後藤壮太郎
スポットライトを浴びた佐竹惇が、歯切れのいいリズムでエレクトリックギターをかき鳴らす、1曲目は『WHITE』のオープニングを飾った「東京、消えた月」だ。これまで以上にパワフルに、ダイナミックに、骨太に奏でるバンドサウンドがいきなりかっこいい。酒田吉博(Dr)の蹴りだすキックの重低音が、下腹にずっしり響く。碩奈緒(B)と川口彩恵(Key)はにこやかな笑顔を見せつつ、出している音はえげつないほどに太く強い。行儀よく座っているオーディエンスを見て、「立っていただいてもいいですか!」と佐竹が煽る。5分前まで静かな緊張感に満たされていたフロアに音が響き、光が溢れ、熱い風が吹き抜ける。しばらく忘れていたこの感覚、そうだ、これがライブだ。

アイビーカラー Photo by 後藤壮太郎

「short hair」から「Once」、そして「魔法をかけて」と、過去のミニアルバムからのアップテンポ曲を選りすぐり、ほぼノンストップでぐんぐん飛ばす。「short hair」ではミラーボールが回り、フロアではワイパーの手振りが自然発生した。歌いながら「楽しい?」と佐竹がたずねる、答えは言わずともわかっている。エアリー成分の入った佐竹のボーカルは、音源で聴くとソフトなイメージがあるが、ライブでは想像以上にたくましい。酒田と碩がアイコンタクトを交わし、ハイテンションのリズムをキープする。アイビーカラーって、こんなにアクティブでエネルギッシュな音を出すバンドだっけ? しばらく振りに会った友人のポジティブな変化を見るような、新鮮な感覚だ。
アイビーカラー Photo by 後藤壮太郎
「大阪、名古屋、そして今日がファイナルです。緊急事態宣言が出て、開催を迷ったんですが、絶対に今日じゃなきゃ成り立たない1日なんだと思います。来てくれてありがとうございます」
アイビーカラー Photo by 後藤壮太郎
MCは真面目に誠実に、しかし「政府はアイビーカラーが嫌いなんちゃうの?」と、笑顔でユーモアも忘れずに。「横顔」は、同じアップテンポでもカントリー風の軽快なリズムが特徴の、明るく伸びやかな1曲。いつかどこかで聴いたようなノスタルジーへと聴き手を誘う、佐竹は本当に非凡なメロディメイカーだ。そこに対位法のように、クラシック調の気品ある旋律を添えて曲の魅力を倍増させる、川口彩恵は本当に優れたキーボーディストだ。そして「はなればなれ」から『WHITE』収録の「カフェ」へ、曲中のせつなさ成分が徐々に増してゆくと、碩奈緒の“歌うベース”が俄然輝きだす。同じく『WHITE』収録の「L」は、彩恵の弾く優美なイントロから緊張感みなぎる攻めのロックチューンへ、アグレッシブな展開を見せる。『WHITE』でメンバー一丸となって作り上げたサウンドの構築美は、ライブでもしっかりと再現されている。
「序盤はアッパーな曲を並べさせていただきました。アイビーカラーのいろんな面を見せていきたいので、ここからはゆったりとした曲をやりたいと思います」
 佐竹がアコースティックギターに持ち替え、オーディエンスを座らせる。「tiramisu」はほっこりとあたたかく、「GIRLFRIEND」は青くみずみずしく、そして「ワンルーム」はどこまでもせつなくエモーショナルに。バラードだというのに、いやバラードだからこそ感情を込めて饒舌に叩く酒田のドラミングが、「ワンルーム」のせつなさをより一層際立たせる。佐竹の声には素朴さと、ナミダ成分とでも言いたいウェットな要素が含まれていて、もの悲しさや憂いをたたえたバラードがよく似合う。バックライト一つでドラマチックに演出する、照明もハマっている。全員が楽曲の世界観を共有して最善のプレーをする、アイビーカラーのチームワークは抜群だ。
「もう半分以上終わっちゃった、速いですね。『WHITE』は、4枚目のミニアルバムです。今日は、今までの作品の集大成だと思っています」
アイビーカラー Photo by 後藤壮太郎
ライブ後半は、桜の花を歌い込んだ「春を忘れても」から、初夏のイメージが薫る「青い風」へ、明るく弾むリズムに乗って季節は進む。彩恵が笑顔でクラップを求め、フロアから一斉に手が上がった。さらにスピードを上げて「愛が鳴るほうへ」、佐竹が「エンジン全開で行こうぜ!」と叫び、七色のライトに照らされてエレクトリックギターをかき鳴らす。このまま一気にラストまで行くか?と思いきや、季節は一気に冬へとチェンジ。「冬のあとがき」「orion」と、エモーショナルなロックバラード二連発でしっとり静かに聴き入らせる、これぞセットリストの妙。バラードだからこそ激しく感情をぶつける、酒田のドラムはここでもよく映えている。
アイビーカラー Photo by 後藤壮太郎
「アイビーカラーは、初ライブから昨日でちょうど5年が経ちました。続けてきてよかったと、心から思います。幸せな瞬間もあったし、苦しい時もありました。これからもしんどいことはあるだろうけど、だからこそこんな素敵な時間を、これからも作りにいこうと思います」
本編ラストを飾る2曲は、アイビーカラーの王道ポップど真ん中、甘くせつなくプラトニックな青春ラブストーリーをみずみずしく描く「夏の終わり」と、これからやってくる夏の気配の中で、バンドの幸せな未来を強く予感させる「夏空」だった。同じ「夏」というテーマの中で過去と未来とが交錯する、美しいフィナーレ。「あー終わっちゃう!」と佐竹が何度も叫んでいる。この時間をずっと終わらせたくない、それはきっとこの場にいる誰もが同じ気持ちのはずだ。
そしてアンコール。どちらもファーストミニアルバム『君が想い出になる頃』収録の「オーケストラ」と「ハッピーエンド」という、力強く前進するアップテンポ2連発は、ツアーファイナルの名残惜しさを振り切るように、どこまでもすがすがしく爽やかに。およそ2時間のライブを全力で駆け抜けた、4人の表情はみな笑顔だ。本編+アンコールの20曲すべてを使い、バンドの過去、現在、未来を見せてくれた、それはまさに集大成と呼ぶにふさわしいライブ。初ライブから5周年と1日、集大成を経てさらに前進してゆくアイビーカラーには、夏空のように明るく晴れ渡る未来が待っているはずだ。
アイビーカラー Photo by 後藤壮太郎
取材・文=宮本英夫

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