小沢健二、新曲「ウルトラマン・ゼン
ブ」MV公開 “Ozawa Kenji Graphic
Band”と作り上げた自身初の監督作
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今回、“Ozawa Kenji Graphic Band”として集結した11人のグラフィック・デザイナーは、男性7名に女性4名、年齢も21歳から49歳までと幅広い。300名近い候補者の中から、今回のMVのテーマにフィットするという基準で選ばれたのは、昨年ハンドソープ「キレイキレイ」のリニューアルを手がけた多嘉山ゆりあ、RADWIMPS『君の名は。オーケストラコンサート』など音楽や映画のアートワークで知られる寺澤圭太郎、Eテレ『ピタゴラスイッチ』『2355』などの映像作品を世に送り出してきた石川将也、レーベル〈Pizza of Death〉のデザイナーであり小沢と長く共作しているダイスケ・ホンゴリアン、インスト・バンドneco眠るのドラムも担うグラフィックデザイナー・三木章弘ら、錚々たるプロフェッショナルの面々。つくり手の“多様性を確保したかった”ことが公募した理由のひとつだというが「この、素晴らしい人たちが集まって力を出してくれるということ自体が、僕がこれまでやってきたことの『ゼンブ』と思っている」と、新曲の歌詞にある<ぼくの「ゼンブ」賭け>になぞらえて小沢は話している
Ozawa Kenji Graphic Band
言乃田埃
石川将也
大西裕二(フィヨルデザイン)
小沢健二
お豆腐
佐藤豊
ダイスケ・ホンゴリアン
多嘉山ゆりあ
田口陵(CIDER INC.)
寺澤圭太郎
三木章弘
山下ともこ
MVでは全編にわたり「ウルトラマン・ゼンブ」の歌詞がメロディに合わせてグラフィック・デザインで表現。歌詞に含まれる漢字・ひらがな・カタカナ・アルファベットの文字を分解して再構築。楽曲にシンクロさせてビジュアライズした映像作品となっている。
MV公開に合わせて、小沢健二本人へのインタビューも到着した。
――このMVの構想はいつ頃生まれたものですか?
この10年ほどCDジャケットなどのアートワークを自分でやってきたから、デザインと音楽の関係を、どちらも手を動かして自分で作業しながら、やっぱり考えていた。その中でGIFづくりからアイデアが生まれたんだけど、アイデアの実現にはものすごい枚数のグラフィックが必要で、しかも良いデザインじゃないといけないし。だから高いレベルのグラフィックデザイナーが何人も必要で、リスナーを信じて公募しました。そしたらやっぱりとても高いレベルの人たちからたくさんの応募があって、ものすごい数のポートフォリオを拝見しながら「こんな人たちが聴いてくれてるのか! がんばろ!」と思いました。応募してくださった方、今回はお願いしなかった方々も含め、本当に光栄で、感謝でいっぱいです。
――それで公募によるグラフィック・チームをつくった。1ヶ月という短期間での完成ですが、どのように制作されたんですか?
グラフィック・デザインを連続させて音楽みたいな映像作品をつくる、という手法自体は僕は自信があったのですが、実際にきちんとできたのは、僕の方法論も当たっていたのだろうけど、なんせみんなのスキルと才能と、そして人間性が最高だったからです。みんなで24時間Slackで話をしながらつくっていくのは本当に楽しかった。
なんか、Slackアートという感じはあります。今まで存在しないタイプの映像作品を作るのだから、Slackに雑談チャンネルを作って、そこでの雑談で技術を開発していきました。7歳長男とかも雑談に乱入してきて、そういうエネルギーが作品に影響していったなあと思います。朝起きたメンバーは通知が100とか来てる(笑)。毎日デザインのファイルを僕もふくめてみんなで回して、どんどん技術と理解を深めていきました。
――このデザイン・チーム、“Ozawa Kenji Graphic Band”と名づけたんですね。
あと、みんなプロなので、誰かがポーンと新しいものを出してきたときに、何をやってこうなっているのか、お互い即座に理解し合えるんですよね。今回のメンバーは1人を除いてGIFなんて作ったこと、ほとんどなかったんですよ。GIF動画は一般的にアマの世界で、デザイナーのみんなは普段、もっとプロの世界のデザインをしてるから。でもアニメーションやモーション・グラフィックではなく、「グラフィック・デザインが動く」ということを11人みんながイメージしてくれて、GIFというローテクで、DIY的で、「アマの世界」のものに興味を持つ心の広さがあったから、これだけの時間で作品ができあがった。
――初監督とのことですが、具体的にはどのような形で指揮をとったのですか?
――単独ではなく複数のグラフィックデザイナーに参加頂いた理由は?
子どもってすごく多面的な存在ですよね。不思議なほど老成したところ、残酷なところもあれば、素直さ、可愛らしさもあって。だからそこから生まれたこの曲も、多様なビジュアルでなければ、と考えたんです。だから多様なデザインができる、多様なデザイナーが必要でした。あと単純に、一人でこれだけの量のGIFは作れません!(笑)
多様なバックグラウンドとかタッチが必要だったので、300人近い応募の中から、タッチが「かぶる」方は、才能・実績バリバリでも泣く泣くはずしました。お断りをするのが本当に残念でした。
――SNSを見ていると、90年代の小沢健二像を知らない、若い、新しいリスナーも増えているようです。彼女/彼らからの反応をどう受け止めていますか?
若い人というと、今回公募の呼びかけに応えてデザイナーとして手を挙げてくれた、21歳の言乃田埃(いいのだ・ほこり)さんや25歳の多嘉山ゆりあさんがいい例です。ライフが出た時には生まれていなかったりするのに、うれしいことに僕のリスナーで、同時に才能に溢れていて、スキルも超絶で、僕と感覚が近くて。そういう人たちと友人になって、直接やりとりしてものをつくり上げるというのは、本当にうれしい経験です。
――MVでは「涙」の文字が雨のビジュアルで表現されています。また、漢字のパーツの一部として表音文字のひらがなが混ぜ込まれているシーンも散見されますね。また、グラフィティで書かれたカタカナがあったり。
――GIFをベースにしている理由は?
――これまでも今回もジャケット制作やグッズ制作など、様々なことをDIYされています。小沢健二ほどのキャリアがあれば全てプロフェッショナルにおまかせでもいいはず。自分の手を動かすことにこだわる理由は?
そして手を動かすと、理解も深まります。今回こんなに大胆に一流のグラフィック・デザイナーを集めることができたのも、僕自身が一応ソフトウェアがいじれるから、みんなの共通言語で、提案ができる自信がありました。
手を動かすのが好きなんです、要するに。手を動かして損はない(笑)。
――3ヶ月連続シングルリリース、これは実に26年ぶりのことですね。創作意欲にあふれている?
真面目にいうと、その理由からだけじゃなくて1995年に「強い気持ち・強い愛」、「戦場のボーイズライフ」、「さよならなんて云えないよ」「痛快ウキウキ通り」とかを出していたときみたいな、「仕事しなきゃ」「つくらなきゃ」っていう気持ちがいまはある。世の中の状況も、1995年(注:阪神大震災や地下鉄サリン事件のあった年)とちょっと似ているし、その中で、つくらなくちゃ、という気持ちはあります。
――「ウルトラマン・ゼンブ」にはご自身のコーラスが入っています。コロナで制作体制が変わったという影響もありますか?
この「ウルトラマン・ゼンブ」も他にできている曲も、もともとはライブのためにつくっていた新曲だったので、(アリーナ・ツアー中止の代わりにシングル発売を決めて)短期間でレコーディング・クオリティに持っていくのは大変だったけれども。コロナになって、なるべくミニマムな人数でやらないといけないという制約の中、新しい、超少人数でできる音楽のかたちではあります。でも、30何人でやる音楽を追求してからの弾き語りだから、ただ弾き語りをするのとは、理解もアプローチもちがいます。そういう意味で「新しい弾き語り」です。
このMVで何よりうれしかったのは、一緒にやってくれたグラフィック・デザイナーたちが、明るい気持ちになっていくのがわかった。これは僕も含めてですけど。それが今回の制作で得た、最強に最高のものです。
そういう「みんなが明るい気持ちになるような、へなちょこな作品(笑)というのは、最初の段階から強く思っていました。それがうまくできたと思っています。
【リリース情報】
小沢健二 『ウルトラマン・ゼンブ』
Label:Universal Music
Tracklist:
1. ウルトラマン・ゼンブ
■ 小沢健二 オフィシャル・サイト(http://www.hihumiyo.net/)
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