フォークからロックへと
転身を遂げたボブ・ディランの
歴史的傑作『追憶のハイウェイ61』
本作『追憶のハイウェイ61』について
本作のセッションにギタリストとして参加したアル・クーパーは、同じくギタリストとして参加したマイク・ブルームフィールドのプレイのすごさに尻込みし、急遽オルガンを弾くことになった。プロデューサーのトム・ウィルソンはアル・クーパーのオルガンを素人とみなし音をカットしようとしたのだが、ディランが残そうと強く主張したそうだ。確かにこのオルガンは素晴らしく、この演奏がなかったら、こんなにヒットしたかどうか分からない。「ライク・ア・ローリング・ストーン」はジミヘンやジョン・レノンら同時代の多くのアーティストだけでなく多くの悩める若者たちに驚きをもって迎えられ、ディランはロックの歌詞というものを根本から変革することになるのである。また、このセッションで出会ったマイク・ブルームフィールドとアル・クーパーのふたりは意気投合し『スーパー・セッション』(’68)や『フィルモアの奇跡(原題:The Live Adventures of Mike Bloomfield and Al Kooper)』(’69)といったロック史に残る名作をリリースする。
収録曲は全部で9曲。「ライク・ア・ローリング・ストーン」以外の曲も、詩的な歌詞に彩られた名曲揃いである。ブルームフィールドが参加しているだけにブルース色が少し濃い目だが、ポール・グリフィン(Key)、ハーヴェイ・ブルックス(Ba)、ボビー・グレッグ(Dr)、チャーリー・マッコイ(エリアコード615のメンバーで本職はマウスハープであるが、ここでは生ギターをプレイしている)らのツボを押さえたシンプルな演奏には無駄がなく、ディランの歌をしっかり引き立てている。
この頃のディランは冴えまくっている時期で、次作の『ブロンド・オブ・ブロンド』(’66)は、ロック界初の2枚組ということで話題になったが、完成度は非常に高く、こちらはシンガーソングライター作品のはしりともいうべき傑作である。そしてこの後、オートバイ事故を起こし、しばらくウッドストックで隠遁生活を送ることになるのである。それ以降の活動については、また別の機会に述べたい。
TEXT:河崎直人
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