「宅間孝行さんは厳しいけれど頼りに
なる器の人」「田中美佐子さんはそこ
にいてくれるとホッとする人」二人が
共演する『よみがえる明治座東京喜劇
』とは?

2021年1月29日(金)より東京・明治座にて『よみがえる明治座東京喜劇-ニッポン放送「高田文夫のラジオビバリー昼ズ」全力応援!!-』が上演される。高田文夫が企画を務める本公演は2部構成になっており、1部は宅間孝行が脚色・演出・出演、田中美佐子が主演を務め、特別出演に前川清の喜劇『こちとら大奥様だぜぃ!』が上演される。この作品について宅間と田中に話を聞いた。
――本作は高田さんからオファーされたと伺いましたが、是非そのあたりを詳しく聞かせてください。
宅間:高田先生によると、日本を代表する喜劇役者・三木のり平さんが定期的に明治座でやっていた喜劇シリーズがあって、高田先生がのり平さんの事を自分にとっての“祖”であり非常に尊敬し、慕っていらっしゃるという事で、のり平さんがやっていたような東京喜劇をやりたい、と明治座さんと話していた事からこの話が始まったんです。
だからベースとしては“のり平喜劇の復活”があって、ありがたい事に僕にお話が来たんです。あとは時間との勝負でしたね。どこの時期ならスケジュールが取れるかっていう。
宅間孝行
――そこから今度は宅間さんから田中さんへのオファーという流れになりますが。
宅間:この世界のルールとしてはあまりやってはいけないんですが……本人同士で仕事のやり取りをするってのがね(笑)。この件の打ち合わせをしている時、ちょうど美佐子さんと芝居をしている最中だったので、「ならば女性を主役にして、田中美佐子さんではどうだろう」って話をしたんです。高田先生もちょうどその芝居を観にいらした直後だったので、その時の印象も含めてドンピシャだ!って話になり、打ち合わせの最中に美佐子さんに電話をして……。
田中:あれって打ち合わせしている最中だったんだ! 知らなかった(笑)。
宅間:(笑)。それで「興味ある?」って聴いたら「やるやる!面白そう!」ってすぐに美佐子さんが乗ってきてくれたので、「美佐子さん、やる気満々です」ってその打ち合わせの場で報告して。そこからはどどどっと話が進んでいきましたね。
――田中さんは最初に宅間さんからこの舞台の話を聴いたとき、正直どう思われたんですか?
田中:宅間さんと前回舞台をやる時にも制作スタッフから何度も言われたんです、「ここだけの話、台詞だけはちゃんと入れておいてくださいね」って。欽ちゃんの舞台の時は台詞を入れていくと「台詞やってきちゃった!あーあ、上手になっちゃって」って逆に怒られてたんですよ。だから本番3日前であろうともまだ脚本をもらえないときもあって「いい加減脚本ください!」って言いそうになった事もありました(笑)。

田中美佐子

宅間:そうだったの!?
田中:私はただでさえ緊張しいなので、この前の舞台ではどアタマの出番の時、心臓バクバクで、最初の頃は生きて舞台を終えられるかなって思うほど。でも毎回出番前に宅間さんが肩をポンと叩いてくれて「楽しんでね」と言ってくれて。舞台に立てば、ものすごく安心したし、回を重ねるごとに宅間さんの器の大きさも感じて、とても頼りになる存在でした。宅間ワールドというのが分かってきてそこにハマる人がいるっていう意味が分かりました。だから舞台が終わるころにはとても寂しくなった。今回新しい仕事の話を振られたときは「やる!」って即答したんです。
――さて、今回の脚本はいつ頃から書いていたんですか?
宅間:実は1年前くらいに書き上げていたんです。
田中:あっという間だったんだよね。舞台の話を聴いた後すぐ、ね。あれ、1日くらいで書いたの?
宅間:1日はさすがに(笑)。何を言ってるんですか!それなりにちゃんといろいろ調べて書いたんですってば。
田中:江戸時代の事を随分勉強したんでしょ?
宅間:そのとおり。脚本を読んでそれが分かったの?
田中:うん。だって脚本の隅々に溢れていたから。宅間さんらしいなーと思いながら読んでたよ。相当勉強しないとこれは書けないって思ったもの。江戸時代の言葉尻とか。アドリブ風に書いてあるけれど、これはこのままやらないと後で伏線回収がきちんとあるから、って事が分かる内容だったの。
――宅間さんが考える「のり平喜劇」とはどんなものだと感じたんですか?
宅間:今回この作品を作るに当たって、のり平さんのビデオとか当時の台本とかを見たんです。ですが、この話が来るずっと前に寺田農さんから「のり平作品は観た方がいいよ」って勧められていたんですよ。それで寺田さんって「のり平劇団」の人だった事を知ったんだよ!

田中美佐子、宅間孝行

田中:ええっ!知らなかった!
宅間:だから寺田さんにとってのり平さんって大師匠みたいな人なんだよ。石倉三郎さんとかもね。で、当時その事を知っていろいろ調べたんです。「のり平作品と宅間さんの作品はどこか通じるところがある」って言われたので。で、のり平さんの作品は落語をベースにしているが、落語のエッセンスは一つか二つくらいであとは創作。当時にしてはすごくぶっとんだ感じなんです。ベースは江戸時代なんですが、お殿様の大奥様が新興宗教にハマっちゃった話とか、結構自由に書いていたんだなって。スピリット的にはそこが肝かなって思ったんで、今回の作品はそのあたりを踏襲しています。結構リライトしたのでいろいろ言われるかなと思ったんですが、「そのままやっていいよ」っておっしゃってくださったので。僕が言うのはおこがましい話ですが、のり平さんと根っこの部分は近しいなと思っています。
――どのあたりが近しいと感じていますか?
宅間:僕は演劇は文化芸術的なものだとは思っていなくて、とにかくお客様を楽しませるものだと思っているんです。上から目線で語るものではなく、小劇場でやっていた時代から、僕がどう思ってほしいかではなく、お客さんがどう感じて受け止めてくれるかを大事にしていたんです。そこらへんかな。
田中:宅間さんの作品は観ていて楽しいし笑える。で、最後必ず泣かせるというパターンなんですが(笑)、「芝居ってこうでなくっちゃな!観て感動して帰らないと損した気持ちになるし、宅間さんは人の心を掴むのが上手い人だな」と思いながらいつも観劇していたんです。愛情がなくてはここまではできないなって。その後芝居を一緒にする事になってから気づいたんですが。普段ご飯をご一緒する時ものんびりと穏やかな方だなと思っていたんですが、演出になるとものすごく厳しくなるんです。
宅間:(苦笑)

宅間孝行

田中:「笑いの師匠」と呼ばれる方は皆そうで、志村けんさんもそうでしたが、ものすごい怖くて厳しい方が多いんです。笑わせるのにこんなにドキドキしながらやるんだって。相当練習してから本番で見せる事でアドリブのように見せる事もできたりするんです。でも舞台を降りるととても穏やかで優しい方ばかり。欽ちゃん(萩本欽一)とやらせいていただいた時もそうだったんですが、欽ちゃんの期待に応えられているのかどうか、それが不安で不安で、もうやりたくないとまで自分を追い詰めてしまうほどでしたが、それでも舞台から降りてしまうと、目の前には優しい目をした穏やかな欽ちゃんがいて、また頑張りたい!と思う。宅間さんもおんなじです。ああ、こういう事なんだろうなって。
宅間さんも厳しい。「本番で笑いが起きなかったが、それは何故か? 笑わせるように仕向けようって頑張るんじゃなくて、基本に立ち返ってちゃんと芝居をしなければならないんだ」っておっしゃるんです。それを忘れて甘い考えを持つとダメなんだ、基礎的な事は皆同じなんだって思いましたね。しっかり芝居をしているからこそ舞台上で笑わせる事ができるんだなって思いました。
――逆に宅間さんから見た田中さんの印象は?
宅間:映像作品でしかご一緒していなかったんですが、なんか美佐子さんとはプライベートでも仲良くさせていただいていて、現場にいるとホッとする一人でしたね。稽古の時にはやっぱりすごい人だという瞬間がたくさんあったので、本番ではなんで舞台袖でこんなに緊張しているんだろうと不思議に思ったくらい。
田中:逆に私以外の人が緊張しないのが不思議で!私がヤバイヤバイといっている横で私より若い子たちが「全然緊張しない!」という姿を見てこういう風に出てみたいなって思った。
田中美佐子
宅間:そういえば他の役者さんが4、5ページすっ飛ばして上演したこともあったね。あの時はカーテンコールで「先ほど大変な事がおきまして、その飛ばしたところをもう一度やります」って言ったときお客さんから「あああ~」って納得の声が上がった事もありました。舞台上では失敗しようともSHOW MUST GO ONだからアクシデントがあっても先に進むし、むしろその方がいい結果になる事もある。でもその時は4、5ページ飛ばしても芝居が成り立つってことは稽古の意味って……って思いましたね(笑)。
――今回の舞台はいかがですか?
田中:宅間さんが台本を書いて、演出するので、何の迷いもないです。来てくださったお客様を一番に考えてくれる演出をしてくださるから。私は私のやれることを精一杯やるだけです。自分に厳しくやります。宅間さんもそうしてね!
宅間:はい(笑)。
取材・文=こむらさき 撮影=iwa

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