『ご注文はオーケストラですか?』の
延期公演は「感謝の気持ちがあふれる
空間になる」 『ごちうさ』音楽P、
藤平直孝氏が考えること

2014年にTVアニメ第1期が放送され、今秋には第3期放送が決定した『ご注文はうさぎですか?』。多くのキャラクターソングを生み出し、DJイベントなどの展開も行ってきた音楽プロデューサーの藤平直孝氏に、3年前から考えていたというオーケストラ公演『ご注文はオーケストラですか?』(以下『ごちオケ』)について語ってもらった。もともと考えていたオーケストラ公演の意図や、新型コロナウイルス感染拡大によって振替公演となった2月6日の東京公演開催に向けて考えていたことなど、「ごちうさ」への熱意と愛情あふれるインタビューをお届けする。

■音楽から何か原作のフォローになることができたらいいなと
――2019年10月1日に発表された『ごちオケ』ですが、企画の構想はいつごろから練られていたのでしょうか。
実は2017年終わりくらいからやりたいなと思っていたんですよ。『ごちうさ』ってキャラソンがとにかく多くて、いわゆるアイドルアニメのように作中で歌が必要になるわけでもないのにここまで曲数が多いのが特徴だとずっと言ってもらっていたので、何か違ったことをしたいなと思っていて。お客さんがそこまで深く知っていなくても楽しめるような場所を、オープニング/エンディングの曲だけではなくキャラクターソングを使って作るには、オーケストラがいちばんわかりやすいのかなと。
――かなり前から考えられていたんですね。
はい。ちょうど劇場でも上映したOVA『Dear My Sister』について動いていたときに、何か音楽的に踏み込んだイベントができたらいいなと思っていたのがオーケストラ公演でした。その前に『ご注文はDJ Nightですか?』というイベントをやり続けることになったんですけど(笑)。要は、音楽を聴く場、楽しむ場を作ってあげられたらいいなと思っていたんですね。
――具体的にオーケストラ公演の話が進み始めたのはどういったタイミングからですか?
別の作品のオーケストラ公演でソニー・ミュージックソリューションズ(以下『SMS』)さんとご一緒することがあって、『ごちうさ』って面白いと思うんでけどオーケストラでどうですか?とお話ししたところ、ご快諾いただいたという流れですね。
――SMSとの接点になったのは何の作品だったんですか?
TVアニメ『スタミュ』という作品です。今回『ごちオケ』で指揮をしていただける中田延亮さんは、その『スタミュ』のときにも指揮をされていて少しお話をさせてもらいました。作品をしっかり勉強してから指揮に臨んでいただける方なので、どのように指揮していただけるか楽しみです。
――『ごちうさ』はサウンドトラックの曲などを聴いていても、オーケストラの演奏に合いそうな雰囲気はありますよね。
そうですね。「日常系アニメ」と呼ばれているような作品はけっこうオーケストレーションの曲が多いので、そういう意味でうまくハマる部分もあると思います。さらに僕はキャラクターソングもやってもらいたいと思っていたのですごく良かったと思っています。
――キャラソンを作るうえで、藤平さんが大事にしている点、ポリシーなどはありますか?
そうですねえ、キャラソンの難しいところはキャラの特徴をずっと捉え続けなければいけないということなんですよ。一本の軸というのがキャラクターはずっと変わらないと思っていただけるとわかると思うんですけど、アーティストの場合は必ずあっちに迷ったりこっちに迷ったりするんですけど、キャラクターは迷わないんです。ひたすら一本の軸があるので、この軸をブラさないこと。軸の周りを装飾していくことでもっと大きなものにならないか、ということがキャラソンを作るうえでいちばん大事にしているところですかね。
――キャラクターの魅力を芯に、それを膨らませるようなイメージですかね。
だから、音楽ジャンルの幅はすごく広くしています。それこそ、ジャズをやったりテクノポップにしたり。それでも軸にあるキャラクターはブレないので、音楽の方向性がバラバラでも歌詞だったりメロディだったり、声優さんの歌声だったり、変わらない部分をしっかり提示できれば幅が広がっていく。ということを、すごくキャラの特徴が強い『ごちうさ』ではやれるんじゃないかなと思ったことが、曲数がどんどん増えている要因かもしれないですね(笑)。
――たしかに『ごちうさ』はキャラが強いですよね。
強いんですよ。なんかわからないんですけど、みんなそれぞれのかわいさがあるじゃないですか。一人でも成立するんですけど、3人、5人と揃ったときの個の強さ。戦隊ものとかだと、5人がそろったら巨大ロボに合体して一緒に戦う流れがあるじゃないですか。『ごちうさ』って一人でも個性があるのに、5人がそれぞれの個性を強調して大きな円に見せてくるんです。そこを音楽から何かファンの皆さんに提示できたらいいなと。「原作ファン」「アニメファン」と別々に存在するのではなく、「ごちうさファン」というくくりにしたいと考えて、アニメを放送していない時期もずっとリリースを続けています。
■音だけじゃなくて映像も込みでひとつの空間になる
――そのような思いを込めて作っている楽曲が、オーケストラの演奏になるとどう聴こえるのか。音楽監督・編曲の萩森英明さん、劇伴編曲監修の川田瑠夏さんが大きな役割を担っています。お二人にこの企画を伝えたときの反応はいかがでしたか?
川田さんはご自身でバークリー(アメリカの名門音楽大学)に行って学ばれている方なので、すごくオーケストレーションに興味があるらしくて。僕から直接お伝えしたんですが「監修じゃなくて私が全部アレンジします!」というくらいやる気になってくれていました(笑)。でも、「それこそ、ごちうさ(ご注文はうさぎですか? BLOOM)の納期とかありますよね?」ということで、もちろん全部は担当されないのですが(笑)。萩森さんはSMSさんがアサインしていただいた方なのですが、萩森さんのアレンジを川田さんも「すごく素敵で嬉しいです」とおっしゃっていました。
――最近でこそアニメでオーケストラコンサートを開く作品もいくつかありますけど、日常系アニメではめったにないように思います。
かしこまるわけではないんですが、通常はいわゆる楽器の構成をオーケストラにして演奏する、音を楽しむ場になることが多いんです。『ごちオケ』では後ろにスクリーンを背負って、映像も出されるのでもっとラフな公演になると思うので、そこはまた違った見せ方ができたらいいなと思っています。
――オーケストラになることで、たとえば千夜のBGMに入っている琴の音のような和のテイストが違った形で表現されるのも聴きどころのひとつかなと思います。
もともとない音だったり、ある音をそのままでは表現できないから違う音に切り替えなきゃいけないという部分が、オーケストラアレンジの醍醐味であり、萩森さんが一生懸命に頭を悩ませていたので、皆さんに一番に楽しみにしてもらいたい部分ですね。キャラクターソングの部分でも、速水奨さんが演じるタカヒロにはサックス奏者という裏の顔があるので、そのあたりをどうするかも相談しながら進めました。
――そこでしか聴けない生演奏に加えて、スペシャル朗読劇と映像まであるというのは贅沢ですよね。
映像は新作ではないのですが、『ごちオケ』用に作ったものなのでアニメ本編とは違った楽しみができるのかなと思います。SMSさんが手掛けている公演は、音だけじゃなくて映像も込みでひとつの空間になる…プラネタリウムのようなものが近いなと感じていて。目を閉じても感じられるし、目を開けても感じられるし。生の朗読もそうだし、本人たちに歌ってもらうパートもあるので、すごく盛りだくさんな内容になるだろうなと思っています。
――演奏を担当する楽団が「東京フィルハーモニーごちうさ交響楽団」となっていたのですが、これは誰のアイデアなんでしょうか?
SMSさんから「楽団の名前を変えたいと思うのですが、どの案がいいですか」と3案くらいいただきました。シンプルに「ごちオケ交響楽団」みたいな案もあったのですが、もはやそれ東京フィルハーモニー関係ないじゃん!と(笑)。「そこはやっぱり残してください」と逆にこちらからお願いして、今の形になっています。お客さんも喜んでくれると思ったので、提案していただけたのはすごくありがたかったです。
撮影:加藤成美
■オーケストラの“しきたり”みたいなものはあまり気にせず来てください
――アニメの楽曲をオーケストラで演奏することの意味・意義について、藤平さんはどのようにお考えですか?
あくまで『ごちうさ』というものを広げたいというのが根幹ですが、僕自身もそうですけど、最近は生の音楽に触れていない方が多いなと思っていたんですよね。会場だと隣に人がいるわけですけど、それもまったく気にならないくらい一人の空間にグッと入り込めると思うので。それだけの音響設備、演奏技術に触れる場所を作りたいと思っています。生の音に触れながら、自分があたかも『ごちうさ』の世界に入っているような感覚になれる場所を楽しんでもらいたいと思っています。
――CDや配信で聴く楽曲とは違った感覚があると。
アニメのイベントや『DJ NIGHT』もやらせてもらっていますけど、そういう場所で聴くのってあくまでCDの音なんですよ。きっとカラオケでみんなで歌うのでも、自分の家で爆音で曲を流しても、結局はCDの音質でありスピーカーを通した音になるので。そこがオーケストラになったらぜんぜん違った聴こえ方をする。もしかしたら「なんて壮大な日常アニメなんだろう」と思うかもしれませんし(笑)。そういう新しい『ごちうさ』の感じ方をしてもらえる場にはオーケストラがいちばん向いていると思っています。
――『ごちオケ』公式Twitterでは「\ごちオケってなに?/」という鑑賞の案内をされていましたね。
僕のほうから提案させてもらった企画です。オーケストラというと「ハードルが高い」と思ってしまわれがちなんですよね。今回のオーケストラ公演は、大きなスクリーンを観ながら壮大な音を楽しむ場所であるのは間違いない。そこで、“しきたり”みたいなものはあまり気にせず来てくださいとアプローチすることは大事なのかなと。
――「着ていく服がない」みたいな誤解から解いていこうと。
そうですそうです(笑)。やっぱり一張羅って人それぞれにあるじゃないですか。「仕事のときは襟のあるシャツで」とか「私服はTシャツメインで」とか。今回はこれまでと同じように『ごちうさ』のイベントに行くときの服装でまったく問題ないですよということをちゃんと伝えていこうと。サイリウムや大きなうちわの使用はダメですよ。といった運用も含めて、こういうのは禁止、こういうのはOK、拍手するのはこういうタイミングでやってもらえたらいいですよと先に伝えておくことで、少しでも来やすくなったらいいなと思って。
――「その10」を投稿した翌日、3月27日に京都公演の開催延期が発表、4月30日には東京公演も延期とアナウンスされました。その後振替公演が決まり、『ごちオケ』の公式サイトでは11月に「公演開催についてのガイドライン」が。12月に入ってからは公式Twitterで「\ごちオケってなに?/アナウンスver.」として感染症対策も織り込みつつ呼びかけています。
僕ら関係者はもちろん徹底して対策するにしても、それだけではしょうがなくて。こういった状況でも会場に来ていただける方々、行きたいと思ってくださっている方々に対して、「こういう徹底を僕らはするので協力していただきたい」としっかり周知していくことしかないんだろうなと考えています。集まった「ごちうさのファン」という皆さんが一つになって守っていくことが大事なので。
■『リモート演奏企画』は演奏者の方々の努力の結晶
――新型コロナウイルス感染症との向き合い方についてもお聞きしたいと思います。5月と6月に予定していた京都・東京公演を止める際に、当時どういった話し合いがあったのでしょうか。
『ごちオケ』は主催であるSMSさんがいろいろなジャッジを取っていて、あくまでも僕らは監修という立場なのですが、話し合いは何度も設けさせていただきました。お客様第一で考えて公演を実施するにはどうすべきか。東京公演と京都公演を一緒にしなければいけないということについてはいちばん悩みましたね。別々に振替公演を開催しようという話もありましたが、いつコロナ禍が収束するかまったくわからない状況で話をしていたので。取材を受けている今は、むしろ春より酷い状況かもしれないくらいなので、結果的に1公演に集約したことはひとつの良い決断だったのかなと思っています。
――6月13日には、振替公演の日程発表と合わせて、「リモート演奏企画」第1弾の動画が公開されました。
『ごちオケ』を楽しみにしていた方のなかには、中止になってしまうんじゃないかと不安に思われている方もいるだろうなと。皆さんに、少しでも楽しみに思いながら「ごちオケ」を待っていただくためにできることをとにかく考えたという感じですね。
――リモートで収録しているのに、音が良くて驚きました。映像を見ると演奏されている方々の家なのがすごく不思議な感覚で。
そこは正直、SMSさんしかわからないです。
立ち会いのSMS・新林さん:音はまるで会場で聴いてるかのように良くしてしまいました。すいません!
あはは(笑)謝ることじゃないです!むしろ、ありがとうございます!!
――本番では、もっと人数も増えた編成で迫力のある音になるんだろうなと期待も高まりますね。
やはり、お客さんに「こんなものか」と思われてしまうのがいちばん良くないので。限られた編成のなかでも「これなら期待できる」「観に行きたい」と思ってもらえるものを出そうという共通の認識で動かしていただけていたんだと思います。本当にSMSさん含めて演奏者の方々の努力の結晶ですね。僕がどうこうしたわけではなく、皆さんがそれぞれ「やれることがあるならばやろう」と努力してくださった結果です。
――「ごちうさ交響楽団」と提案があるなど、演奏者の方も乗り気だったそうですが、今回の企画にも意欲的に臨まれていたんでしょうか。
SMS・新林さん:実は、演者の方から「『ごちうさ』のぬいぐるみとか置いていいですか?」という質問をいただいたりもしました(笑)。そこまで大きく映らないかもしれないので(※分割されるため)、というところはあったんですけど、すごく前のめりにやっていただけました。
――公演延期という困難がありつつも、いい関係が続いているんですね。
SMSさんのおかげです。
■マスクをしながらだとしても、聴く音に変化はないので
――2021年2月という振替公演の時期については、どのように決まったのでしょうか?
この日程になった理由に関しては、会場がその日しか空いていないというのが事実なので(笑)。予定していたキャストの皆さんがそろって、しっかり延期という対応でもお客さんを待たせすぎないタイミングで決めました。正直な話、1年以上経ったら「延期」と呼べるのかという思いがあって。東京五輪も「来年開催します」と言われても「2020」ではなく「2020+1」になってしまいますよね。だから本当は年内にやりたいという気持ちはあったのですが、さまざまな要素を考慮した結果2021年の2月になりました。
――2020年の春以降、中止になったライブもたくさんありました。いわゆる「ライブ」ではない「オーケストラ公演」だから振替公演ができるという見通しが立てやすかったという部分はありましたか? 基本的に観賞中は声を出しませんし、オーケストラの飛沫に関する実験なども、けっこう早い段階で行われていたように思います。
緊急事態宣言下の、客席数も半分にするだけではダメなんじゃないかと言われていた時期での決定だったので、判断をする時点ではそういう情報がわからなかったんですよ。こちらからすると、逆にどこまで決断を引っ張れるかという感覚でした。公演の日程は押さえつつ、発表への段取りの部分でお客さんの健康第一を実現できるかどうか。希望を込めた賭けのような心境で「ここで決断するしかありません」という話をさせていただきながら、夏になり秋になり……。
――時間の経過とともに、十分な換気とマスクの着用、声を出さないことなどが有効な対策だとわかってきた。
はい。そういったガイドラインの要素が僕らの判断に乗っかってきてくれたような感じですね。ただ、当時願っていたほど状況が良くなっていなくて。今また感染者が増えてきているこの状況にどう対応すべきかを話し合っています。とにかく公演ができるように……自分たちも1日1日を大事に過ごしながら、お客さんにも来てもらいたいと思っています。
――最後に、来場を予定している方に向けて、改めて呼びかけたいことなどはありますか?
これを読んでいる皆さんは、オーケストラ公演そのものが好きという方もいるとは思いますけど、とにかく『ごちうさ』がきっと大好きでいてくれている方だと思います。僕らも公演についてはひとつひとつの対策を徹底していきますし、皆さんも個人個人として、そして「ごちうさファン」の一人として、日頃からできる気を付け方を意識しながら当日足を運んでもらえたらと思っています。演奏してくださる方々、出演していただけるキャストの方々は、こういうことがあろうとなかろうと、ひとつひとつの公演に体を張って命を懸けている方々です。マスクをしながらだとしても聴く音に変化はないので、『ごちオケ』を楽しみにしてもらいたいなと、改めて強く思っております。
――この状況で前向きな言葉をいただけるのは、「リモート演奏」と同様にファンにとっては心強いと思います。
ありがとうございます。別件なんですけど、今ちょうど『スタミュ』という作品で公演をやっているんですけど(『ミュージカル「スタミュ」スピンオフ team楪&team漣 単独公演「Storytellers」』)、初日からスタンディングオベーションが起きたんです。役者も含めて「公演をやれた」という感動がすごくありました。当たり前のように公演やライブがあったときって、お客さんも僕らも感謝への感度が落ちていたような気がしていて。でも、このような状況になって、2020~21年っていうのは僕らの「演奏させてくれてありがとう」と、お客さんの「演奏を聴かせてくれてありがとう」という気持ちがより強く生まれていくのかなと。だから、無事に開催できれば『ごちオケ』もそういう感謝の気持ちがあふれる空間になると信じています。
撮影:加藤成美
インタビュー・文:藤村秀二

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