Sound Horizon

Sound Horizon

【Sound Horizon リコメンド】
リスナーへの信頼が生む
“解釈に開かれた音楽”

奥深くダークなストーリーが展開する“物語音楽”で熱狂的なファンを掴むSound Horizon。最新作『絵馬に願ひを!』(Prologue Edition)はリスナーの操作によってストーリーが変化するという前代未聞の内容だ。コンポーザー・Revoは、なぜそんな作品を生み出したのか?

Blu-rayの機能を活かした
ストーリーが分岐する音楽作品

 Sound Horizonの新作がすごい。こんなすごい音楽作品は、ちょっとなかなかお目にかかれない。前代未聞である。ヤバい。どうヤバいのかを以下に記そう。
 まず、この作品はCDではなくBD、すなわちBlu-rayでリリースされている。つまり、ディスプレイで再生して鑑賞するものなのだ。てことは、“ライヴ映像やMVが収録されているのかな?”と普通なら思うはず。しかし、そうではない。いやまぁ、映像に合わせて音楽が再生される作品なので、MVと言ってもいいかもしれないけど、この作品はそれに留まらない。なんと、画面上に選択肢が表示され、その選び方によって再生される楽曲が変わるのだ。
 最近は動画配信サービスやゲームの世界で、選択肢の選び方によってストーリーの変化する映画やドラマをチラホラ見かけるようになってきた。こういう作品は“インタラクティブシネマ”というジャンル名で呼ばれることが多いようだ。『絵馬に願ひを!』はそうした映像作品にかなり近いことをやっていると言える。
 もうひとつ、つけ加えるならば本作を再生する時に表示される映像は、アーティストが登場して歌い踊る、いわゆるMVのようなものではない。目に映るものでもっとも目立つのは歌詞だ。この作品の映像は楽曲の進行に合わせて、画面上をさまざまな配置や演出で歌詞が表示されていくというものになっている。
 こうした風変わりに歌詞を表示するやり方も、ここ10年くらいの音楽シーンで見かけるものに近いとは言える。ボーカロイドやニコニコ動画の音楽シーンが盛り上がった2000年代後半以降は、視覚的な演出を行ないながら画面上に歌詞を散りばめていくMVがポピュラーなものになったのだ。

リスナーの解釈と考察を誘う
Sound Horizonの魅力とは?

 しかし、Sound Horizonが今こんな作品をリリースするのは単なる思いつきとか、流行りものに乗ったみたいなことではない。むしろ、この作品はメジャーデビューから15年を迎えたこのグループが、ずっと続けてきたことの延長線上にあるものなのだ。
 では、そもそもSound Horizonの作品とはどういうものか? それは、いずれも一枚のアルバムを通してストーリーが語られるものになっている。メロディーは情景を描写し、間奏では台詞が語られ、作品がプロローグからエンディングまで、ひとつの筋書きを成している。俗に“物語音楽”などと呼ばれるジャンルでも、Sound Horizonは特に古株と言っていい存在だ。
 そこで語られるストーリーというのは“生と死”や“光と影”などの妖しげなテーマに彩られたドラマチックなものばかり。ただし、ものすごく謎に満ちていて、間違いなく、一聴しただけではどういう物語なのかその全貌を把握することはできない。そこでリスナーはCD付属のブックレットや歌詞カードをじっくりたっぷり穴が空くほど眺めることになる。だが、歌詞として書かれているのは、実際に歌われているのとは別の当て字がふられていたり、わざと伏せ字にされていることも多い。CDの盤面やケースに物語を理解するための仕掛けがあることも少なくない。
 リスナーはこうして、散りばめられたヒントを集めながら、ストーリーや登場人物の迎える結末について推理を繰り広げることになる。そうやって作品の解釈と考察に夢中になってしまうのが、Sound Horizonの醍醐味なのだ。
 グループ唯一のメンバーであるRevoは、この壮大で、複雑で、大がかりで、謎に満ちた作品を、たったひとりで構築している。しかし、重要なのは、Revoは必ずしもその謎を解いて真相に至ることを要求しているわけではない、ということだ。Sound Horizonの物語は正解探しではない。Revoが推奨しているのは、むしろ僕たちリスナーが考察を傾けることそのものなのである。
つまり、Revoはリスナーが想像力を持つことを大切にしているわけだ。解釈や考察を傾け、過去に何が起こったかを探り、そして、実際には起こらなかった出来事にすら想いを巡らすことを彼は重視している。他でもない、Sound Horizonの物語の中でも、そのメッセージはたびたび語られている。
だからこそ、この新作『絵馬に願ひを!』なのである。もともと音楽作品がストーリーを描くものになっているというだけでもちょっと変わっているわけだが、それをBlu-rayでリリースし、しかも選択肢によって内容が分岐しているとなると、やはりとんでもなくぶっ飛んだ、前代未聞の作品と言えるのではないだろうか。しかも、その選択肢の表示されるBlu-rayという形式自体が、リスナーが正解がひとつではない物語を楽しみ、また自分自身がストーリーに関与するための仕かけになっているわけだ。
Sound Horizon
7.5th or 8.5th Story BD『絵馬に願ひを!』(Prologue Edition)

OKMusic編集部

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