舞台『スルース』で吉田鋼太郎との二
人芝居に挑む俳優・柿澤勇人が、蜷川
幸雄のある言葉を思い返す

1970年にイギリスで発表され、翌年のトニー賞で演劇作品賞を受賞したアントニー・シェーファーの『スルース〜探偵〜』が、吉田鋼太郎、柿澤勇人により上演される。1972年にはローレンス・オリヴィエとマイケルケイン、2007年にはマイケルケインとジュード・ロウの主演で映画化もされた同作。著名な推理小説家・ワイクと、その妻の浮気相手・ティンドルが繰り広げる駆け引きの数々。一人の女性をめぐる男性たちのやりとりが、思わぬ結末を導き出す。ティンドル役をつとめるのは、柿澤勇人。吉田鋼太郎とは『デスノートTHE MUSICAL』(2015年)で共演し、さらに吉田演出『アテネのタイモン』(2017年)にも出演している。今回は柿澤に、この『スルース〜探偵〜』について、また共演相手・吉田鋼太郎の話も訊いた。
柿澤勇人
――柿澤さんはこれまで、『スクール・オブ・ロック』、『デスノート』など映画化された戯曲の舞台作品に多く出演されています。先に映像となった作品はどうしても観客がそのイメージでキャラクターを無意識に見てしまうところがあると思うのですが、映画作品のキャラクターの印象に引っ張られることはありませんか。
そのあたりは、僕はまったく意識しません。今回の『スルース』もジュード・ロウが演じていますが、鋼太郎さん含めて別物になると思います。この芝居のポイントはふたりの関係性。どちらがマウントを取るか、どちらが抑えたり引いたりするかのやりとり。僕と鋼太郎さんの間で、「今日は、鋼太郎さんは抑えていたな」とか、「自分は、今日は強くいき過ぎた。もっと回りくどくやれば良かったな」とか、そういう芝居の駆け引きに考えが向きますね。
――舞台上にはふたりしかいませんし、その日のお互いのメンタリティによって芝居の雰囲気も変わってきそうですね。
これは今回に限らずですが、舞台は日によって全然違いますね。コンディションよって変わったりもしますし、たとえばカンパニーのなかでちょっとしたケガをしている人がいたら、それだけでもガラッと空気が違ってきます。「どうやったら一緒にゴールテープを切れるか」という緊張感が漂う。もちろん、演者は体調やケガなどの状況をお客様に知られないようにしなきゃいけない。そういう部分でも緊張感があります。今回は、それらが如実に表れそうですね。
柿澤勇人
――吉田鋼太郎さんとはこれまで何度か共演されていますが、柿澤さんにとって改めてどういう存在でしょうか。
頼もしくもあり怖い存在です。鋼太郎さんは芝居に関して膨大な知識量があります。たとえばシェイクスピアについては、日本で一番知っている役者ではないでしょうか。本読みのときも、こちらの理解が深まっていない状態だったら、「今、分からないままでやっているだろう。もっと実感しなさい」と指摘されます。
――一方で吉田鋼太郎さんは共演者を鼓舞させるのがうまい印象もあります。2017年の『アテネのタイモン』では、吉田さんは演出もつとめていらっしゃいましたが、柿澤さんの「体づくりを準備したら良いのか」という質問に、「そのままでいい、俺が導いてやる」と答えたとか。
鋼太郎さんはいつも気持ちを後押ししてくれるんです。鋼太郎さん自身、蜷川幸雄さんのカンパニーでの経験も大きいのではないでしょうか。現場の空気を良くして、モチベーションも高くお芝居をさせてくれる。スタッフさん含めて巻き込むのが上手。鋼太郎さんと一緒だと、みんながポジティブになれるんです。ただ、厳しいところももちろんあります。締めるところは締めますし。その場がどういう空気なのか、現場の状態をすぐに察知する方。だからこちらもまんまと乗せられるんですよね。
柿澤勇人
――どういう瞬間に吉田さんの厳しさを感じますか。
鋼太郎さんが出演するドラマについて「観ましたよ」と言うと、「あいつの芝居はどうだった?」と別の若い役者さんの感想を尋ねてくるんです。「俺はこう思うんだよ」などポジティブな意見もあれば、「俺はあの芝居は納得できないよ。どう思う?」とかもある。芝居に関して、誰が相手であろうと妥協しないところですね。
――今作は復讐や嫉妬心が各人物の気持ちの軸となります。そこで駆け引きやマウントの取り合いが発生する。ただ、そういう嫉妬心は誰もが持つものですし、この物語にはそういった部分にシンパシーを感じる人が多いのではないでしょうか。柿澤さんは俳優としてこれまで嫉妬心を抱いた相手はいますか。
たくさんいますよ。劇団四季を退団した後、蜷川さんに出会ったのですが、よく「売れろ、売れろ」と言われ続けてきました。で、同年代の人たちはどんどん売れていく。宮本亞門さんが演出された『スウィーニー・トッド』(2013年)で共演した高畑充希は、朝ドラ『とと姉ちゃん』(2016年)に出演するとき、本人から「朝ドラが決まった!」と聞いて、「おめでとう」というやり取りをしていた。そうしたら瞬く間にスターダムにあがっていった。そういう姿を見ていくなかで、「俺は何か残せているんだろうか」と常に考えるんです。でも、「みんなすごいな」ではなく、「また一緒に芝居ができるように頑張らないと」と自分自身の気持ちを高めています。
――刺激を得るわけですね。
鋼太郎さんや藤原竜也さんと一緒にいるときも、常にそう感じていますから。「俺はまだまだ足りないところが多いんだ」と。蜷川さんからはよく「おい、カキ。お前、売れてるか?」と会うたびに言われていました。「もっといけるだろう?」とか。だから「売れる、売れてない」という言葉にすごく敏感なんです。ドラマ『太陽は動かない』(2020年)の撮影のとき、現場が早く終わったらみんなで飲みに行っていたんですけど、鋼太郎さん、竜也さんはやっぱりすごく目立つんです。その場のお客さんから写真撮影を頼まれたりするのですが、自分はカメラマンに指名されることもありました。鋼太郎さんからは「まだまだ、そういうことなんだよ」と言われるんです。もっともっと、やらないといけない。
柿澤勇人
――そういったストイックな姿勢を指してか、吉田さんは『スルース』の公演決定に際してのコメントで、柿澤さんのことを「狂犬」と称していました。また2020年、新型コロナの影響で柿澤さんが出演する予定だったいくつかの舞台が中止になったことを受けて、「柿澤勇人は鬱憤を溜めに溜めている」とも表現をされています。柿澤さんにとってこの『スルース』は、溜め込んだ気持ちを思いっきりぶつける場になるのではないでしょうか。
新型コロナに関係なく、僕は常に何かを溜め込んでいますね(笑)。何か晴らしたい思いを、いつも持っています。
――そういうところが「狂犬」と言われる所以なのでしょうね(笑)。
ただ、新型コロナについて言うと、今まで何でもなかったことが気になってしまい、芝居中はより集中力が必要となってきました。
――というと?
例えば、芝居中に叫んだりすると唾が飛ぶことがあるじゃないですか。以前ならそんなことはまったく気にならなかったんですけど、今は、照明でそれが目立って見えてしまったとき、自分で「あっ、ダメだ」と現実に戻りそうになることがある。これまでとは違ったストレスを感じています。なんとかそういう考え方を変化させないと、芝居にならない。でも、今回の舞台は、鋼太郎さんがどんな芝居でも受け止めてくれる。だからそういうストレスを感じず、思いっきりやりたいですね。
柿澤勇人
取材・文=田辺ユウキ 撮影=福家信哉

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