Cö shu Nie 初の無観客配信ライブ
で作り上げた「絶対的に美しい時間」
の音楽たち

2020.12.19(Sat)『A coshutic Nie Vol.1 in Billboard Live TOKYO』 for Streaming+
Cö shu Nieがバンドとして初となる無観客配信ライブ『A coshutic Nie Vol.1 in Billboard Live TOKYO』を開催した。
本公演ではこれまでのライブとは違うアレンジで楽曲が届けられる特別なライブ。その個性的な世界観と、ボーカル・ギター・キーボード・マニピュレーターに作詞作曲を担当する中村未来、ベースの松本駿介、ドラムの藤田亮介の奏でる3ピースとは思えない音の深みと世界観が、配信という形態でどう表現されるのか、期待に満ちたままスクリーンの前で待機した。
定刻になった瞬間、画面にはピアノに向かう中村の姿、アッシュグリーンの髪は照明の光を浴び白銀のように輝いている。衣装も真っ白なドレス、低音から高音までをたっぷりと含ませて歌われたのは先月youtubeの人気動画企画「THE FIRST TAKE」でも披露された「黒い砂」だ。藤田のタイトなリズムに松本のベースがうねるように絡んでいく。それをなぞるでもなく歌い上げる中村の声がふと消える。アウトロもなく曲の世界が泡のように弾けて消える。間髪をいれず二曲目「家」が披露される。
中村のボーカルはとても肌触りが良い、シルクのように鼓膜をなでたかと思うと蜂蜜のようにしっとりと甘く感じる、だがその甘さを感じていると急に低音で心が惹きつけられる。二曲目で既に心はCö shu Nieの世界に取り込まれている。
静寂と躍動、最初のMCで中村が挨拶とともに語った言葉は
「絶対的に美しい時間にします、最後までお付き合いください」
これを言えるアーティストはなかなか居ない、絶対的に美しい時間とはどんなものなのだろうか、言葉が想像を超えて存在する。だけどこの後待っている時間が”絶対的に美しい”であろうと思える空間を開始5分強で既にCö shu Nieは作り上げている。
ピアノから離れ、ハイチェアに腰掛けた中村のアカペラから始まった「inertia」。チル・アウトするような余白と空気を含んだ音楽。たゆたうような時間で歌われる鎮魂歌はどこか狂気すら感じさせるが、Billboard Live TOKYOの上質なライブ空間が聖堂のように見えてしまうライティングとカメラワーク。残響する音たちに松本の唸るようなベースが混ざり合う。
此処で最初のMC、松本が「ありがとうございます、こんばんはCö shu Nieです」と語った瞬間やっと息をつけた気がする。これが現実に行われてるライブであることを思い出す。
ライブ自体も久しぶりという三人がとても楽しみにしていたという今回の『A coshutic Nie』、
「アコースティック」ではなく、あくまで「A coshutic Nie」だという部分を強調しつつ、「普段の曲とアレンジを変えて披露していけたら」と語り「Lamp」へ。
TVアニメ『約束のネバーランド』エンディングテーマであるこの曲は、元のアップテンポなロックナンバーからゆったりとした絶妙なアレンジへ変化していた。中村が歌い上げるハイトーンでのフェイクは、ファルセットに行きそうで行かない絶妙なトーンで響く。決してアコースティックではない、「A coshutic Nie」であるという言葉の意味を音楽で伝えてくる。
「アマヤドリ」ではハミングを口ずさむ中村に朝の木漏れ日のように照明が差し込む、タイトでシンプルなドラム、中村のボーカルと共に歌うようにベースがサビで歌う、三人での演奏であるが、音数が少ないとは一瞬も思わない。それぞれが他の二人を際立たせるように調和しながら、しっかりと自分を主張しているようだ。三人がちゃんと音楽を持っている。
松本駿介
「ice melt」ではビロードのような中村の低音が響く、今回の配信公演で特筆したいのは照明だ。曲の世界観を増幅し、物語を作っている照明効果は本当に素晴らしかった。
今回はPCにヘッドフォンを接続して視聴していたのだが、せっかく用意した温かい飲み物を手にすることも忘れて耳も目もCö shu Nieを捉え続けていた。まるで永遠を凝縮したような時間、音が消えた瞬間に訪れる無音の中にある余韻。松本の「ありがとうございます」というMCで時が動き出す。
「THE FIRST TAKEでは白い壁で緊張感あったけど」と松本が語ると、中村が「(舞台のバックが黒幕なので)黒は安心するなぁ、まあ白着とってなんやけど」とにこやかに笑う。そこから髪の毛の色の話に。藤田が「僕もグレーにしてるんですけど、これ黒ですね」とまた三人笑い合う。まるでファミレスで時間を潰しながら行われる当たり前の会話を見て、Cö shu Nieが普通の青年たちだということを思い出す。
変な話をしているようだが、それくらいここまでの内容が際立っていた。世界観がある、というより、鍾乳石が長い時間をかけて出来上がるように、一音一音が結晶のように作り上げられたCö shu Nieの音楽はそれ自身が奇跡みたいなものだ。それをただ見るしかない僕らはどこか現実味を失っている。異国のカテドラルの風景を見るように、そこにあることの神秘性とリアルの狭間に今日のライブがある。
「サウンドクラウドにだけあげている曲をやります、今日だけの特別な曲になると思われます」と言って「雨」から始まった後半戦。メロウなフレーズが心にじんわりと満たされていく。改めて三人の演奏レベルの高さも実感してしまう。「iB」は中村の声をサンプリングしたイントロからピアノのメロディが心地よく入ってくる一曲。サビで拍子が変わる瞬間に、吐息のようなブレスに心が持っていかれる、操られているような感覚。
TVアニメ『東京喰種トーキョーグール:re』のオープニングテーマでもある彼らの代表曲の一つ「asphyxia」はピアノと激しいバンドサウンドの融合が美しい楽曲だが、今日は「A coshutic Nie」、スリリングな雰囲気は変わらずに情感あふれるアレンジになっていた。スネアが増えたというドラムセットの藤田から放たれるリズムが秀逸の一曲。
藤田亮介
電車の音が響く、さっきまでMCでコロコロと笑っていた中村が
「皆様今日はこうして会いに来てくれてありがとうございます。どんなに遠く離れていても、私達は音楽でつながっている。こうして音楽と共に、一緒に生きていこう、ずっとそう思っています」
そう静かに決意を語り奏でられたのは「gray」。美しい音楽。サビに入った瞬間にビルボード東京のカーテンが開くと、そこにあるのは東京の夜景。この街の夜景はとても美しく、そしてどこか絵空事のように輝くのは何故なのだろう。それでもこの空間が僕らの存在する空間とつながっていることを再認識する。
今ここには濃密に音楽だけがあって、それを媒介としたコミュニケーションがある。それは配信だからとか、時間や場所が違うとか関係ない。音楽が全てを超えてある。
最後の曲は「迷路」。カオティックなイントロから今日一番のボリュームで三人の演奏が奏でられる。最後の一音まで無駄なく奏でられた音にはライブをやることの出来る喜びが詰まっていたような気がする。
「ありがとうございました」
たった一言の最後の言葉、手をふることもなく音楽と共に配信は終わった。深く椅子に腰掛け、しばしの放心の後、そういえば何も食べていないのを思い出して家を出た時、冷たい空気が肌を刺す。そこでやっと心が帰ってきたような気がする。終わったばかりのライブを思い出して改めて中村が最初に言った言葉を思い出す。
「絶対的に美しい時間にします」
それは本当だった、どこを切り取って思い出しても美しかった。心の中で反芻して、もう一度見ることが出来るのは配信の良いところだ。きっとアーカイブ期間が終わるまで何度も見ると思う、そして何回もあの絶対的に美しい時間を体験してしまうのだろう。
レポート・文:加東岳史

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