言葉の断片に出会い、自分だけの詩を
見つける「詩の展示」ーー最果タヒ展
『われわれはこの距離を守るべく生ま
れた、夜のために在る6等星なのです
。』東名阪を巡回

11月26日(木)に8作目の詩集『夜景座生まれ』を上梓した詩人・最果タヒ。スマートフォンで詩を書き、本やインターネット上にとどまらず、SNS、作詞、詩集の映画化、商業施設とのコラボレーションといった幅広い活動によって、これまで詩に触れる機会が少なかった若い世代からも絶大な支持を獲得している。そんな最果の詩の展示『われわれはこの距離を守るべく生まれた、夜のために在る6等星なのです。』が、12月4日(金)より渋谷パルコ 4F パルコミュージアムトーキョーで開催される。本展は、2019年2月に横浜美術館で行われた『氷になる直前の、氷点下の水は、蝶になる直前の、さなぎの中は、詩になる直前の、横浜美術館は。――最果タヒ 詩の展示』を引き継いだもので、来場者が会場を歩き回り、モビールに吊るされた言葉の断片をはじめ空間全体で言葉を体感するインスタレーション型の展示だ。2020年8月に福岡・三菱地所アルティアムで行われた本展が、渋谷パルコを皮切りに愛知・名古屋パルコ、大阪・心斎橋パルコへと巡回する。「詩になる直前」の言葉たちを来場者自身が追いかけ、偶然目にすることで生まれる新たな言葉を通して湧き上がる、様々な感覚を楽しんでほしい。渋谷パルコでは多彩なジャンルのゲストを招いた開催記念イベントも決定。さらに、新作グッズ、渋谷パルコ館内でのコラボ情報も解禁された。今回は最果タヒ本人に、横浜と福岡の展示を振り返ってもらい、本展の見どころを聞いた。
過去の展示風景 Photo:Ayako Koga
●その人がその場に行って、その人だからこそ見つかる詩が作れる場所を●
ーーまず、横浜美術館での展示を振り返ってみていかがですか?
SNSにたくさんの写真が上がっていて、人によって言葉の切り取り方が全然違うのがはっきりわかって興味深かったです。読書は作者から一方的に言葉を渡されるもののように思われがちですが、私はもっと能動的なものだと思っています。1行が重く見えたり、行と行が繋がって見えたり、それは人によって違っていて、また、その人のそのときの心情や考え事とも関わっているように思います。だれかが読んだ瞬間に、その作品はその人の中で完成します。そうした言葉の動きが、よりはっきり見える場所として、モビールの作品を作り始めました。実際にSNSでたくさんの写真を見ることができ、この「能動的な読書」というものがより実感できた気がしました。今回の展示にも、そのときの手応えは大きく関係していると思います。
ーーモビールだと、見逃してしまう言葉もきっとありますよね。それも面白いと思われた?
すべての言葉を読んでほしい、というよりは、そのときその瞬間、視界に飛び込んできた言葉、自分がなぜか記憶してしまった言葉というのが、「作品」であると思っています。横浜の展示の話をいただいたとき、言葉は本でも読むことができるので、展示にするならば展示でしかできないこと、必然性のあることをしたいなと思いました。展示は何より、その場に行く必要があるので、その人がその場所にその瞬間に立ったからこそ現れる言葉、を大事にしたくて。モビールはどんどん言葉が切り替わり、並びも変わっていきますが、「この瞬間の並びがなんだか好きだな」と、一瞬を切り取ったとき、その言葉はまさにその人によって完成しています。そうした言葉の完成を楽しんでもらえたら嬉しいです。
ーーそれを踏まえた今回の巡回展、6月の京都展がコロナの影響で中止になってしまいましたが、どんな展示にしようと思ってらっしゃいましたか?
コロナのこともあり1度止まった時に思ったのは、社会的にコロナという1つの大きい問題に誰もが立ち向かってる感覚でいながらも、それで何を苦しいと思うかは人によって全く違っているということでした。けれど、「コロナ」という言葉に全てが収束されていくため、それまで以上にSNSでは共感される言葉が求められているように感じました。みんながわかってくれることしか発信できず、しんどいことがあっても、他の人の方が大変だしと遠慮してしまったり、自分だけの考えや気持ちを伝えることに勇気が必要になったり。その風潮を特に5月辺り、京都展の開催を悩んでる時期にすごく感じたんです。本来SNSは、個人が自分のために言葉を発信できる場なのに、誰かの目を気にして言えなくなるのはすごく辛いな、って。
ーー確かに。
けれど一方で、自分の感覚を大事にできる場として、芸術や映画、読書のことも考える機会となりました。これらを鑑賞する時間、人を一人にしてしまう、というか、「この絵、なんか好きだな」と思ったら、その気持ちが自分にとって全てとなる。誰がなんと言おうが、好きなのは変わらない、って思える。そういうものが大事だと改めて思った自粛期間でした。そのときに考えたことと、それまで展示や詩作品そのものに対してあった、「読む人が作品を完成させる」という感覚は、重なるところも多いと思います。
ーー8月に行われた福岡の展示はどうでしたか?
福岡は色々再開してる時期で、お客さんが入るか入らないかという不安もありましたが、かといって人によって状況は全く違うし、「来てください」とは言えないなと思っていました。ただ、街の中心という場所でもあるため、何かのついでや通りがかりに遊びに来てくださった方はいて、反応もいただけて嬉しかったです。このときはギャラリーの入っているアルティアム全体のサマーキャンペーンにも詩を使っていただいたので、私のことを知らない方が、ビルのエスカレーターやガラスや壁に詩があるのを見つけて、「なんだろう?」って興味を持ってくれたりもして。街の中に詩があって、通行人がそれに不意に出会う、という詩のあり方はずっと目指して作ってきたものだったので、そうした作品と、展示作品が同じビルで作れてよかったなと思います。不意に詩に出会うと、「詩だ」という前提を持って作品に触れないから、読解しなくちゃとか思わずに言葉を読み進めることができたりするんです。「よくわかんないけど、でも好きかも」って思ってくれる人がそこでいてくれたらいいなと思っています。また、福岡から展示にも新作を追加して、それらの中には身体を使って読むような、そんな物質としての詩も存在しています。
ーーちなみに新作はどのくらい追加されたんですか?
どこから読んでもいいループする詩や、角度によって言葉の並びが変わる立体の詩を作ったり。この二つは佐々木俊さんが考えてくれたものです。モビールや、「詩ょ棚」という本棚を模した作品や、詩によってできている時計は私のアイデアで、こちらは横浜美術館のときからあるものをブラッシュアップしています。特に本棚の作品は、横浜美術館では図書室の中に潜ませていたのですが、今回は展示会場に置くので、少し形を変えています。あと、透明の詩の立体物は、もともと「詩のホテル」を京都で開催したとき、飾りとして作ったものから派生した作品です。
●詩はアナログにもデジタルにもなれる。なら、アナログでやった方が絶対いいと思いました●
過去の展示風景 Photo:Ayako Koga
ーーデザイナーの佐々木俊さんが展示のディレクションをされていますが、空間の作り方はどのように意識されたんですか?
詩のモビールは、詩をたくさんのモビールにすると決めてから、一つずつ言葉をモビールに割り振って、配置する場所などを決めて、それを佐々木さんに渡して、モビールの形や文字をデザインしていただきました。
ーー『詩句ハック』(Web Designingで連載されていた、デジタルテクノロジーと詩を融合させた作品)の、『見わたす詩』のVRもインスタレーションに近いと思いますが、過去の作品が今回の展示のヒントになったものはありますか?
それらは楽しそうだから作ってみたものばかりなので、そこからヒントになる、ということはあまりなかったかもしれないです。もともと横浜美術館の展示のときに最初に提案されたのが詩句ハックのようなデジタル作品の展示で、私はそれに違和感があったんです。わざわざ見に行かなければならない展示という場は、やっぱり私にとってはアナログの極みのような場所で、特に、詩といういくらでも複製ができて、「モノ」として存在しない作品を展示するなら、アナログな方法をとった方がいいと思いました。これまでも、ルミネのビルの階段やエレベーターに詩が展開されたり、『さいたま国際芸術祭2020』で大宮市の路地裏に大きな詩を書いたりしましたが、そうやって、「そこにある詩」をその場に立って読むことって特別な体験であるように思います。アナログの価値は自分がその場にいること。『詩句ハック』から考えるより、『詩句ハック』の真逆を行くように考えたというのが大きいですね。アナログの物の出会い方って、この時代この国に生まれて、その場所に行ったから出会えたという、自分の存在の肯定にも繋がるんじゃないかなって思います。私の詩は直筆原稿もないし、オンリーワンはないんですけれど、でも読む人って最初からオンリーワンだし、その人が何をどう読むのかもオンリーワンで。それを最大限に活かした展示にしないと勿体ないと思ったんです。詩はアナログにもデジタルにもなれるんだったら、アナログでやった方が絶対いいと思いました。
●星が離れているからこそ星座は作られる。距離が保たれることの美しさ●
過去の展示風景 Photo:Ayako Koga
ーータイトルを『われわれはこの距離を守るべく生まれた、夜のために在る6等星なのです』にした意図はありますか?
横浜美術館の時のタイトルは、モビール作品そのものに対するタイトルでもありました。中止になった京都の文博で、モビールの他にも作品をいくつか展示すると決まったので、 別のタイトルを作れたらいいなと思って考えました。人には分かり合えない部分がどうやってもあって、自分が完全に共感できる人なんていないし、いないからこそ自分はいるんだって思います。でもそれは悲しいことだとは思わなくて、星は重なり合わないからこそ、巨大な星座を夜空に作ることができます。決して近づいたり、妥協しあって「同じ」になることはないけど、それでも星と星をつなげたら一つの絵になって、近づくよりももっとそれって美しいことだと思いました。星座に、モビールが少し似ているな、と思ったというのもあります。
ーーでは、今回の見所は?
師走の寂しさがある時期の開催で、ただでさえ断片的な日々が、一気に過去になろうと、飛び散っていくような時期だと思います。東京は街に情報が溢れていて、文字が溢れていて、それらをすべて吸収することもスルーすることも難しくなる瞬間ってあると思います。モビールにも言葉は溢れているけれど、でも、読まれにいくというよりは、読まれる瞬間を静かに待つような、言葉だと思います。それは、私にとって、詩の言葉はやっぱり読み手が完成させるもので、読み手が現れるまでは「詩になる直前の」言葉だからです。東京だからこそ、言葉のその「待っている」様がより伝わることもあるのではないかと思います。
●渋谷パルコ展から新作グッズも続々登場●
本展オリジナルミニ本「6等星の詩」(非売品)
ーー各会場でミニ本付きのチケットが販売されますが、ミニ本『6等星の詩』はどんなものですか?
本展のタイトルは、実は「6等星の詩」という詩作品の最終行なんです。その詩を一冊の小さな本にしました。佐々木さんがとてもすてきにデザインしてくださって。表紙だけ色違いで4種類あって、現地で選んでもらえます。モノとしてすごく良いので、作者とか関係なくめちゃくちゃおすすめです。
オフィシャルブック『一等星の詩』
ーーオフィシャルブックのタイトルは『一等星の詩』ですね。
もともと展示のカタログを作りたいと運営側に言われていて。ただ、流動的な展示作品であることもあり、読み手がその場にいてこそ完成する作品でもあるので、それを本にまとめることには無理があると思っていました。そうしたらsou nice publishingの編集、熊谷新子さんが、展示の延長線にあるような本を作ったらどうか、とおっしゃってくださって。本もまた、展示作品のうちの一つのように。ミニ本『6等星の詩』と対になるようにタイトルは『一等星の詩』としました。熊谷さんの企画で、いろんな方に詩や詩についての原稿を寄稿していただいて完成しました。展示会場に入る前と出た後では、詩に対する感覚が変わってると思うんです。その中で、よりその感覚が広がっていく本が作れたらという話から『一等星の詩』は完成しました。
ーー展示に行って帰って、『一等星の詩』を読み終わるまでが展示体験なんですね。
そうです! 体験はその人が1番よく覚えている。本人の撮った写真がなによりも鮮明な記録になる、とおもいますし、それなら更に発展させるものを作りたいと思いました。
ーー他にもグッズがいろいろあります。
詩を切り抜いたポストカードは、福岡展開催時、コロナで遠征するのを諦めたり、展示を見に行けない人が通販でこのカードを買って、カードを自分の街に掲げて写真に撮ってSNSにあげてくれて。それは展示会場の外側で別の展示が開催されているようですごく面白かったし、良いキッカケをつくるグッズができて良かったです。もともとは私がただ文字を切り抜いたカードが作りたくて、熱望しただけだったんですけれど……、読者の方たちが素敵な使い方を思いついてくれました。あと、言葉が動くiphoneケースは中に詩の断片があって、シェイクすると言葉が切り替わっていくんです。カチャカチャ音が鳴って可愛いです。
詩そのものカード「座礁船の詩」
詩のスマホケース「青色の詩」 (iPhone11 Pro用)
ーー新作グッズもありますか。
渋谷展から、詩を切り抜いたポストカードの別バージョンを追加したり、「まさか!」となるようなクリアファイルを作らせてもらいました。あと横浜美術館のレストランで展示したミニモビールの小さいカラフルな栞も出すことになりました。それからタトゥーシールも!詩のタトゥーシールが作りたいって前に言っていて、そのときは実現しなかったんですが、ついに願いが叶って嬉しかったです。言葉を手首や、靴下のすぐ上や、それ以外にもいろんな場所にそっと住まわせてほしいです。
【最果タヒ展×亀井堂総本店】 TAHI SAIHATE EXHIBITION KAWARA SENBEI (4個セット)
【最果タヒ展×緑寿庵清水】詩の金平糖 青色の詩(葡萄味)、果物ナイフの詩(王林リンゴ味)、プリズムの詩(銀座ソーダ味)
詩のグラス「透過と反射」(ペアグラス)
詩のタトゥーシール/ボディーシール
ーーでは最後にメッセージをお願いします。
大きな問題が発生した時、自分が何を思うのか、ちゃんと耳を澄ます暇もなく、他の人の意見に流されてしまったり、皆の意見についていくかいかないかの判断だけで結論を急いでしまって、自分でも分かっていなかった気持ちや、なんとなく「嫌だ」と思ってたことを自分自身で無視してしまうことってあると思います。本当は自分がどう思うかなんて自分にしかわからないのに、それがわかるまでじっと待つのはとても難しくもあります。それでも、ふとしたときに自分だけの何かに出会えたら嬉しくて。その瞬間があれば、まだやっていけるって思える気が、私はしています。1人きりの時間で言葉を見た時に「良いな」と思えた、誰も邪魔できない瞬間を作る場所として、詩の展示ができたらいいなと思ってるので、遊びに来てもらえたら嬉しいです。
取材・文=ERI KUBOTA

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