【FM802×SPICE ヘビロな人のヘビロ
曲~あの人のルーツはこの10曲~】1
1月度ヘビーローテーションアーティ
スト・しなの椰惠編

大阪のラジオ局、FM802が自信を持って1ヵ月間毎日、特定の楽曲をOAするヘビーローテーション。そのヘビロアーティストに、自身のルーツとなる楽曲のアンケートを取り、その話を交えながらFM802DJがインタビューする企画【FM802✕SPICE ヘビロな人のヘビロ曲~あの人のルーツはこの10曲~】。今回は、2020年11月のヘビーローテーションアーティスト・しなの椰惠にインタビューを敢行。11月18日(水)にリリースした1stアルバム『世間知らず』に収録されている「駄目なあなたのまま」が11月度のヘビ―ローテーションに選ばれた。今回の対談はFM802で『ROCK KIDS 802-FRIDAY&SATURDAY-』(毎週金曜日21:00-23:48、毎週土曜日22:00-25:00)を担当しているDJの高樹リサが、ヘビロ曲についてはもちろん、愛も憎しみも抱えて歌う「しなの椰惠」を作り上げてきたルーツ曲を当時のエピソードを交えて訊いた。
高樹リサ
●今はまだ受け止めてる最中です●
ーーまず曲作りを始めたキッカケはどういうものだったのでしょうか?
個人的にキツい時期に、自分のことを代弁してくれるような曲を探していたんです。でも、なかなか見つからなくて、無いんだったら作んなきゃと思ったのがキッカケですね。
ーー自分のことを歌にしたのが始まりだったんですね。キツい状況で曲を作るのは辛くないんですか?
一番キツい時はその時のことを書けなくて、その嵐みたいな状況が落ち着いた後に、一回整理しておこうという気持ちで作っているので、意外と落ち着いてます。
ーー負の感情だけでなく、幸せな気持ちの時に作った楽曲はありますか?
私は幸せだと逆に何も書けないんです(笑)。
ーーかっこいい! 幸せだと書けない。なるほど。
幸せなときは自分に満足しちゃってるので何も浮かばなくて。私が世界で一番ハッピーだから他に何もいらないと思っちゃうんです。自分に足りてない部分があるなぁと思う時の方が、「なにくそ!」というエネルギーが湧いてきて創作意欲に繋がりますね。
ーーそうやって出来た曲を、人前で歌おうと思ったのはどういうキッカケだったんですか?
ライブをやる前からライブハウスに出入りしてライブを観てたんですけど、そこで歌っている方々の素っ裸感に憧れていたんです。今思えばハッキリ言って曲も良くないし、お客さんも全然いなかったのに、汗を流して泣いて、叫んでいるのがめちゃめちゃカッコよくて。そういう場所って普段生活してても無いじゃないですか。私もそういうふうに表現しているのを、誰かに聴いてもらいたかったんです。
しなの椰惠
ーー誰かに聴いてもらいたかったという意味では「駄目なあなたのまま」が11月のFM802のヘビーローテーション楽曲になっています。今まで以上に多くの人に届いていますよね。
実は未だによく分かってなくて(笑)。毎日、FM802で流れているというのも実感がないですし、まだアルバムのジャケットとかミュージックビデオとか自分のライブ映像とかを観ても、他人事みたいに思えちゃうんです。でも、こうして取材などで触れていただくとやっと実感できるというか、初めてその事実を少しずつ受け止められるんです。今はまだ受け止めてる最中ですね。
ーー今後、この楽曲に救われましたとかメッセージがダイレクトに届くことになると思いますよ。
めっちゃ楽しみです。その反面ちょっと怖いですよね。なんかその人の人生に入り込む感じというか。私の曲を知ってるその人のことを私が知らないという関係性とか変な感じがしますね。
ーー私は「駄目なあなたのまま」を聴いた時、メロディーからポジティブな印象をすごく受けたんですけど、歌詞には<どうせ生きていくんだから>という、椰惠さん自身の死生観が含まれているなと感じました。昔からそういうことについて考えていたりしたんですか?
どうなんですかね……。でも自分自身、キツい経験をしてきたから「今どんなに苦しくても大丈夫。どうせ寝たら忘れる」と思い込まないとやっていけないというのがあるのかも知れません。例えば失恋した友達がいて「死にたい」とか言われることがあっても、私は「いや絶対大丈夫だから。三ヶ月後絶対彼氏できてるよ」と思っちゃって。今思えばちょっと冷たいですよね。
ーーどこかいい意味での諦めというか、結局生きていくんだからというメッセージが、コロナで予測をしてなかった事態になった今だからこそ聴きたい曲だなと思いました。
作ったのはコロナ前なんですけど、偶然重なりましたね(笑)。
高樹リサ
●年代が違っても当時の感情とか言葉がちゃんと届く音楽ってすごいなと思えた●
ーー今回は「しなの椰惠のルーツになった10曲」を選んでいただいております。まず、椰惠さんが生まれる前の楽曲も多く入ってますよね。尾崎豊さんの楽曲はどんな時に聴いたんですか?
小学5、6年生の時に父親のCDラックにあったのを借りて聴いたんです。当時は音楽自体に興味がそもそもなかったんですけど、これだけCDがあるんだから試しに端っこから聴いていこうと思って聴き始めたのが始まりです。
ーーお父さんの影響だったんですね。
そうですね。その時に尾崎豊さんのCDと出会って、「ダンスホール」を聴いたんですけど、歌詞で<金がすべてじゃないなんてきれいには言えないわ>というのが当時の幼心にめちゃめちゃ刺さったんです。そこからいろいろ調べていくうちに、私が生まれる前に亡くなっている人だと知って。人生が1秒も被ってないし、生きてきた年代も違うし、もうダンスホールもなかったのに、当時の感情とか言葉がちゃんと理解できて、ちゃんと届く音楽ってすごい! と思えたんです。
ーー小学生でその歌詞がビビッときたと思えるのもすごいですよね。
確かに。その当時の環境にストレスが溜まっていたんだと思います。その後にライブ映像も観たんですけど、全力出しすぎて喉が飛んじゃってるんですよ。でもその青年の全力な姿に全員が熱狂してるんです。衝撃映像でしたね。
ーー先程のライブハウスで歌ってる方に感動したという話にも繋がりますし、まさに音楽の魅力に気付いた原点ですね。ラッツ&スターはどういうキッカケだったんですか?
これも父親のラックで中学2年生のときに出会った音楽です。その頃に両親が離婚したんですけど、この曲を聴いたら小さい頃ずっと車で流れたのをフワッと思い出して。小さい頃は歌詞なんて分からなかったけど、改めて聴いた時になんで両親はこの曲をよく聴いていたんだろうとか考えちゃって。
ーー「Tシャツに口紅」は凄く切ない曲ですよね。
別れの歌だけど、そんな曲を二人がずっと聴いてたということは、当時から将来こうなることを考えていたのかなとか、そういうことを考えて泣いてしまって。でもこの曲がなかったらそういう考えにも至らないし、小さい頃に車で聴いてたことなんて思い出さなかったし。音楽を聴くと当時の記憶が蘇る事ってあるじゃないですか。その音楽の力を実感した曲ですね。だからルーツではありますけど、未だに安易には聴けない曲で、プレイリストには入れてないです。1、2年に1回聴きたいなと思うことがあるんですけど、その時はもう大人だから泣かないぞと思いながら聴くんです。
しなの椰惠
ーーすごい色んな経験をしてきてるんだろうなというのは、この短い時間ですごく感じます。続いてRCサクセションですが、こちらもこの流れ的にもちろん……?
父親のCDラックから借りたものですね(笑)。
ーー父親CDラックシリーズ第3弾ですね!
元々この曲自体は知ってたんですけど、ある日、父親がRCサクセションのライブ映像を見てたんですよ。その時は清志郎さんに対して「この人知ってる」程度だったんですけど、観ているうちにどんどん惹きつけられて。すっごい派手なメイクで派手なアクセサリーとかつけて、年齢なんて関係なく、なりふり構わず歌ってるのがすごいカッコよくて。ライブに行きたいと父親に話したら「この前亡くなったんだよ」と言われてめちゃくちゃショックだったのを鮮明に覚えてます。
●「喉に髭生えてる」人が好きなんです●
しなの椰惠
ーー次は雰囲気が変わって、Hi-STANDARD「STAY GOLD」、Ken Yokoyama「Ricky Punks III」と続きます。
この2曲は私がライブハウスに通い始めたころに先輩に教えてもらった曲なんです。最初にKen YokoyamaのライブDVDを借りてハマってしまって。動画を漁ってたら「Ricky Punks III」の和訳付きMVに出会ったんですけど、その歌詞にグッと来たんです。震災を受けての曲なんですけど、ちゃんとその時代背景が見えて、Kenさんの震災以降の活動とかも調べて。そっからハイスタに入ったんです。
ーーHi-STANDARDからではなくKen Yokoyamaから入ったんですね。
そうなんです。Kenさんはギターはもちろん、声が好きで。しゃがれ声というか「喉に髭生えてる」と私は言ってるんですけど、そういう声の人がすごい好きなんです。
ーー喉に髭が生えてるって何かわかる気がします(笑)。そういった意味ではRADWIMPSの野田さんは喉に髭が生えてないですよね。
RADWIMPSは高校生の時に好きだった先輩の影響ですね。「閉じた光」は、声の使い分けというか、曲中で曲調が変わるんですけど、それに合わせて声が変わるのが凄い良くて。
高樹リサ
ーー曲中でも声や歌い方が変わりますし、バンドの歴史でもどんどん変わっていきますもんね。私も好きなので、この曲チョイスされているのが新鮮だなと思っていました(笑)。次の阿部真央さんはこの中では唯一の女性シンガーですね。
そうなんです。阿部真央さんも、喉に髭が生えてるんですよ。髭と言ってもキューティクルのある髭ですけど(笑)。特にこの「デッドライン」は力強い声で歌うんですけど、その中でも女性特有のしなやかさとか、ちょっと凛としてるところが憧れなんです。カッコいいだけじゃなく、女性同士だからこそ分かる部分もあるので、そこが凄い魅力的です。
ーー同じ女性シンガーとして影響受けた部分が大きいということですね。クリープハイプは声という点ではまた違う色ですね。
クリープハイプさんは父親に教えてもらったんです。今まで割と低い声の人がずっと好きだったので、めっちゃいいよと言われたんですけどピンとこなくて。でもいつまで経っても離れないんですよ……あの声が。
ーーわかります。めちゃくちゃ癖になりますよね。
ずっと頭で流れてるんですよ。まんまとハマってしまって、CDも聴きこみましたし、ライブにもかなり行きました。あと尾崎世界観さんの人間性が好きで。小説も書かれてるんですけどそれも面白いし、音楽じゃないところでも「尾崎世界観しか出せない魅力」みたいなものがすごい詰まってて、私も私にしか出せない魅力を出していける人になりたいなと思っています。
しなの椰惠
ーー椰惠さんの書く言葉も、分かりやすいのにすごくインパクトがあるから、本じゃなくても詩として読んでみたいなとも思いますよ! 続いて9曲目は、毛皮のマリーズですね。
これはちょっと遡るんですけど、小6の時に人生で初めて観たライブが毛皮のマリーズが武道館で行った解散ライブなんです。当時中学1、2年だった兄と二人で来ました。
ーーだから選曲も「ジ・エンド」なんですね。
解散ライブの一番最後に歌った曲なんですよ。MCもほとんどなかったんですけど、志磨さんが暴れまわりながら泣いてたんです。もちろん武道館でライブを観るのも初めてだったし、その光景が印象的で。だから武道館に行くと絶対マリーズのこと思い出します。
●真っ直ぐすぎる言葉は、ちゃんと人に届くんだと思った●
高樹リサ
ーー今話して頂いてる表情からも伝わります(笑)。10曲目がサンボマスターなのは意外でした。
基本、私ひねくれてるんですよ。「頑張れ」とか「諦めるな」とかそういう言葉が大嫌いなんです。でもサンボマスターさんに言われると頑張ろうと思えちゃう。なんて淀みのない言葉なんだと。ずる賢さなんて全く感じないじゃないですか。MCもすごい不器用というか実直で、ライブでも自分の喉がどうなろうが関係ない、とにかく伝えるんだと、汗とか涙とか全部の水分出して枯れるまで叫んで。サンボマスターさんくらい真っ直ぐすぎる言葉は、ちゃんと人に届くんだということを知りました。
ーーめちゃくちゃ分かります。サンボマスターは刺さりますよね。一番最初に出会ったのはライブなんですか?
『NARUTO -ナルト-』の主題歌だった「青春狂騒曲」が出会いですね。フェスで初めてライブを観たんですが、それがまた物凄いカッコよくて。自分をさらけ出してるのがやっぱり一番カッコいいんですよ。
ーーでも今回選曲していただいた「I love you & I hate the world」は、元気付けるような曲とはまた違いますよね。
この曲は、元気になる曲ではなくて、それこそ「生きていくというのはこういうことだよね」みたいな、ちょっとしたいい意味での諦め感というか。いつもは太陽みたいな存在のサンボマスターだけど、この曲は私の隣に居てくれるというかというか、同じベクトルで話してくれてる感じがするんです。ちょっと立ち止まってみようみたいな時はこの曲を聴いてます。
ーーこの曲がリストに入ってるのを見て、気づいたことがあって。9月にYouTubeで配信された『”沸沸” HATSUTAIKEN LIVE』で最後の曲の前に「たくさんの憎しみとたくさんの愛を込めて歌います」と言ってたんですよ。
……あ! 「love」と「hate」だ!
ーーそうなんですよ。だからこの曲の感性というか、この曲の想いが椰惠さんに染み付いてるんだろうなぁと(笑)。
私も今繋がりました。そうか……「love」と「hate」の言葉が染み付いてるんだ。本当に嬉しいです。たしかに言ってましたね。なんにも考えてなかった。
しなの椰惠
ーーしかもこの言葉って、「しなの椰惠」を表してるなとも思うんです。ポジティブかネガティブかなんて、そんな区別も要らないと思えるほど、「愛」と「憎しみ」どっちの感情も自分のものにして生きてる人なんだなと思えました。
それめちゃくちゃ嬉しいですね。気づいてもらって嬉しいです。人に言ってもらった言葉で一番嬉しいかも知れないです。
ーー私も繋がって嬉しかったです。この10曲を辿ってきた、しなの椰惠さんは今後どういうふうに活動していきたいですか?
誰かのルーツになりたいです。……決まりましたね。
ーーハハハ!(笑)
でもこれ昔から思っていることで、私にとっての尾崎豊のように、生きている年代も違う人が私の曲を噛み砕いて、別の音楽が生まれるのが一番良いと思うんです。その人の音楽人生においてちょっとしたキッカケになることが出来れば嬉しい。音楽の歴史の一つになれれば、お金なんていらないです。……生活さえできれば(笑)。
【FM802×SPICE ヘビロな人のヘビロ曲~あの人のルーツはこの10曲~】
文=城本悠太 撮影=日吉“JP”純平

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