グラムロックの
代表作として知られる
T・レックスの『電気の武者』

本作『電気の武者』について

これまでT・レックスはボランとミッキー・フィン(ティラノサウルス・レックス時代はスティーブ・ペリグリン・トゥックと)のふたり組であったのだが、本作『電気の武者』からは本格的なロックグループとして活動するために、スティーブ・カリー(Ba)とウィル・レジェンド(Dr)をパーマネントメンバーに迎えている。また、前作『T・レックス』(‘70)で起用した元タートルズ(後のフロ&エディ)のハワード・ケイランとマーク・ボルマンをバックヴォーカルに迎えてレコーディングは行なわれた。特別ゲストとして、イアン・マクドナルド、バート・コリンズ(アメリカのジャズプレーヤー)が参加している。印象的なアルバムのジャケットデザインは、デザイン集団のヒプノシスが担当している。

収録曲は全部11曲。アルバムはまるでリトル・フィートのようなリズム感覚をもつ渋いブギナンバー「マンボ・サン」で始まる。この曲で新生T・レックスがスタートする。ケイランとボルマンのバックヴォーカルも、ボランのように中性的なのが面白いところ。「プラネット・クイーン」も同系列のナンバー。2曲目のフォーキーな「コズミック・ダンサー」はティラノサウルス・レックス時代の難解なサウンドではなく、ビートルズのような明快なポップさを感じさせるスタイルである。ビスコンティの華美なストリングスアレンジもあって素晴らしいナンバーに仕上がっている。

シングルヒットした「ジープスター」(全英2位)と「ゲット・イット・オン」(全英1位)は言わずと知れた名曲であるが、「ゲット・イット・オン」はボラン得意のキャッチーなブギスタイルで、完成度は後の「テレグラム・サム」(『ザ・スライダー』収録曲)のほうが高いものの、名曲である。80年代にはパワーステーションがカバーし大ヒットしたのも記憶に新しい。

「モノリス」「ガール」「ライフ・イズ・ア・ガス」は愛好者の多い叙情的なナンバーで、ボランのソングライティングの巧みさが光る楽曲群だ。ブルースっぽいロッカバラードの「リーン・ウーマン・ブルース」は、ボランのギターがミストーンだらけなのが気になるが、これがワザとだとしたら理由が知りたいところである。

本作は全英で1位を獲得(全米32位)し、その後も44週間チャートに残る大ヒットとなった。この後、グラムロックシーンを牽引することになるのだが、そのブームは2〜3年ほどの短期間で終わってしまう。イギリスではこの後もボランはアルバムをリリースし、遺作となったアルバム『ダンディ・イン・ジ・アンダーワールド』(‘77)のリリースツアーでは、ダムド、セックス・ピストルズ、クラッシュらを前座に起用するなど、パンクロッカーたちの活動を後押ししていたのだが、この年に悲劇は起こるのである。彼は生前、「30歳までは生きられないだろう」と語っていたそうだが、実際に事故が起こったのは30歳を迎える2週間前のことであった。ただ、グラムロックのブームは終わっても、本作と『ザ・スライダー』がロック史上に永遠に残る傑作であることは間違いない。

なお、T・レックスは、本作のリリースから49年が経った今年、グループでようやくロックの殿堂入りとなった。

TEXT:河崎直人

アルバム『The Electric Warrior』1971年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. マンボ・サン/Mambo Sun
    • 2. コズミック・ダンサー/Cosmic Dancer
    • 3. ジープスター/Jeepster
    • 4. モノリス/Monolith
    • 5. リーン・ウーマン・ブルース/Lean Woman Blues
    • 6. ゲット・イット・オン/Get It On
    • 7. プラネット・クイーン/Planet Queen
    • 8. ガール/Girl
    • 9. モティヴェイター/The Motivator
    • 10. ライフ・イズ・ア・ガス/Life's a Gas
    • 11. リップ・オフ/Rip Off
『The Electric Warrior』(’71)/T. Rex

OKMusic編集部

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