リーガルリリー インタビュー 1年ぶ
りの有観客ライブ『1997の日』に先駆
けて、改めて「1997」を紐解く

ちょうど1年ぶりとなるライブハウスでの有観客、無配信ライブ。この日は、たかはしほのか(Vo/Gt)の生誕日でもあり、イベントタイトルである『「1997の日」〜私は私の世界の実験台〜』は、今年2月にリリースした1stフル・アルバム『bedtime story』収録曲の「1997」から命名されており、本作の中でもリーガルリリーの表現の核を示唆するような世界観を持つ。そこで今回のインタビューでは楽曲「1997」にフォーカスし、改めてこの2020年におけるリーガルリリーのスタンスを紐解き、また、メンバーそれぞれのロックのオリジンにも迫ってみた。
――11月にプラネタリウム・ライブを配信で行いましたが、12月のライブは有観客で無配信。そこはきっちり分けようという感じだったんですか?
たかはし:シンプルでいいなと。
――ライブハウスは足を運ぶ人しか見られないから?
たかはし:カメラに向かって歌うのとお客さんと同じ空気を吸っている感覚は全然違いますね。
海:お客さんがいる時は“その人たちに向ける”じゃないけど、そのほうが自分たちももっと自由にできるなぁという感じはあります。
――この話を知ったとき、すごくリーガルリリーらしいと思いました。そして今回はたかはしさんとゆきやまさんの誕生年でもあり、『bedtime story』収録曲の「1997」の名前が冠されたライブですけど、わりと毎年誕生日にライブをするじゃないですか。それはなぜ?
たかはし:理由は何もなくて(笑)。
ゆきやま:節目みたいなものだね。
たかはし:でも誕生日は一番感謝を伝えたいので。関わってくれてありがとうっていう気持ちでライブをしています。
――それでは、アルバムのリリースから10ヶ月経ちましたけど、改めて「1997」という曲のことを紐解いてみようと思います。この曲のインスピレーションはどこから生まれたんですか?
たかはし:アルバムの曲を作っている時、一番最後に生まれた曲なんです。スタジオで個人練習に入った時に……その時は夏が終わりそうだったので自分のためにフジファブリックの「若者のすべて」を一人で弾き語りしてたんですよ。そこで生まれた、なんか気持ち悪くて気持ちいいギターがあって。そのギターフレーズから2番のAメロのギターが生まれて、別の日にスタジオに持って行ったらすぐにこの曲が完成したんです。
――「若者のすべて」を弾いていたらギターのフレーズが?
たかはし:D♭のコードがどんどん変化していくんですけど、それを適当に弾いていたらすごく気持ちのいい音が出て、そこからあのフレーズができて。
リーガルリリー・たかはしほのか
――そのフレーズを聴いて、お二人はどういうアレンジができるなあと思いました?
ゆきやま:これ、できるのに何段階ぐらいかあったんですよね。最初、ほのかが「かっこいいギター持ってきた」って言って持ってきて。そこでセッションして「わー! これでいこうよ!」ってナンバーガールみたいな曲ができて。その次もまたセッションしたんですけど、ほのかがメロディを歌って、「それいいじゃん」となったんです。
たかはし:きたー!ってね。
ゆきやま:「これくっつけられるんじゃない?」って、くっつけたらすごく良いサビができたんです。
海:2Aとサビの感じは全然違うけど、合わせたらなんか……。
たかはし:歌詞を繋げてみたら同じことを言っていたという。AメロとBメロはもともとあって、本当はその2つがサビのような感じだったんですけど、じゃあこのサビをまとめるとどういうサビが生まれるかっていうことで、今の1サビ<あの坂を越えて〜>になりました。
――イントロも海さんのベースはすごい低音で、バリバリに90年代オルタナな音色で。
たかはし:当時はペイヴメントにすごくハマっていたんです。ペイヴメントの「Stereo」のめえええええ〜〜んってギターを絶対入れたいなと思っていたので、そこに入れました。ちょうど1997年リリースのアルバム(「Stereo」はアルバム『ブライトゥン・ザ・コーナーズ』収録)で。すごい、同い年なんだ、奇遇だと思ったり。
――それは奇遇ですね。あと、曲の始まりはわりとダークで、そこから展開していくじゃないですか。
たかはし:私、サビがポップな曲がとても好きなので、今回は好きなものを全部入れました。
――サウンドやアレンジ、構成ができて、たかはしさんは何を歌いたいなと思いましたか?
たかはし:最初は何も決まっていなかったので、逆に私自身を歌おうと思いました。テーマがない場合、もう自分しか見つめられないので。だから自分が生まれたっていう、一番大きなことを歌おうと。漠然としていることってとてつもなく膨らみすぎてしまい、なんか淡いというか……そんなことを歌いました。言葉にしただけというか。
――生まれた年でもあるし、東京に出現したっていうような感覚もある歌詞ですね。
たかはし:はい。
――それはある程度大人になったから、そういう風に捉えられるんですか?
たかはし:そうですね。ここ2年ぐらいで考え方もすごく変わったりして、大人になった気がします(笑)。ちょっと生きやすくなったというか、対応してきたというか、この社会に。
――リーガルリリーの対応の仕方って、自分のままで行けるということなのかなと思うんです。
たかはし:そうですね。それでしか対応できない。
――この曲にはいろんな要素やメタファーがあると思うんですが、<なくなった空白 1997年の12月>の空白というのは?
たかはし:“人口が増える”っていうことを“空白を埋めた”と表現しています。日本ってすごい島国なので、空白が埋まったような気がして……ピースがハマったというか。
――そういう風に実感して生きていけるといいですよね。
たかはし:はい。結構この曲を作って救われました。楽になりました。
――生まれた意味とかそういうことじゃなくて?
たかはし:はい。モヤモヤしてる気持ちを素直に言葉にできたというか。本当に自分を大切にしなきゃと思いました。<私は私の世界の実験台>って自分という実験台がなければ実験できないから、まずは体調管理をしようと(笑)。科学者みたいに自分自身を実験していくんだなぁって、それはすごく面白いことだなと思います。
――単語として“実験台”って言葉はちょっとどきっとするところはありますが、考えてみたら生きてる間に何かをしようと思うと、こういうことですよね。
たかはし:そうですね。
――たかはしさんらしい言葉選びだなと思うんですが、お二人はどうですか?
海:どんなに些細なことでも実験と言えば実験だし、みんな生きている上でしてるんだと思います。
たかはし:良かった(笑)。
ゆきやま:うん、してるよ。
リーガルリリー・ゆきやま
――いろんなことに立ち向かって行ったり試してみたりする時に、自分が元気じゃないとできない?
たかはし:そうそう。見える景色が変わるじゃないですけど、自分の体調って大事だなと思います。
海:実験だと、成功しても失敗しても実験は実験っていう。
たかはし:そう! もし実験が成功しちゃっても、その成功したものを誰かに使われるとかもあるし。悪いやつとかに(笑)。だから実験中が一番いいなと思って。
――常に渦中にあることが?
たかはし:はい。実験してる時が一番楽しいから。
――この曲の中でも実験されてるのでは。
たかはし:そうですね(笑)。これとこれを合わせたらすごくかっこよくなるね、とか。
ゆきやま:最後、ポエトリー入れてみたら?とか。
海:最後だけサビ始まり、マイナーでいく?とか。
たかはし:夢心地がいいなぁとかね。やっぱり気持ちいいことだけを追求したい(笑)。
――そして、今ゆきやまさんがおっしゃったように、最後はポエトリーリーディングなんですよね。この部分をポエトリーにした理由を教えてください。
たかはし:これはもうメロディにできなくて。だけど、最後にたくさん詰め込みたい言葉があったので、「話そう」ってなってできました。この<1997年の友達を集めてチョークの粉を集めた>っていうのは同じクラスメイトの話で。“チョークの粉を集めた、何をしてるいるのかなぁ私たちは……”あまり学校は好きではなかったんですけど……でも、学校の話です。
――なるほど。<催涙弾で流した涙>っていうのは比喩ですか?
たかはし:これは、当時香港でデモがあったんですけど、催涙弾ってひどいなと思って……その涙って攻撃、涙攻撃?ひどいなと。涙って、悲しい時、辛い時、嬉しい時、幸せな時とかに流す感情なのに、それを利用して涙を流させるってひどいなと思って。
――近くで起こってることですし。
たかはし:しかも一年前、香港へライブをしに行っていたので、よりニュースが身近でした。
――ここからはたかはしさんの地元である福生の話を聞きたいんですが。東京の中でも面白いところですね。
たかはし:田舎だよね(笑)。
ゆきやま:うん(笑)。田舎だけど東京の他の部分と比べてちゃんと異質感があって、すごく好きです。
――大人になってからわかったことはありますか?
たかはし:村上龍さんの『限りなく透明に近いブルー』を読んでいた時に、福生はすごくかっこいいなと気づいて。いろいろ調べていたら、リリー・フランキーさんの絵が建物に描いてあることを知って。幼稚園の時に、幼稚園バスがそこに停まるんですよ。裸のお姉さんの絵で、幼稚園生ってそういうの好きだから、みんな笑いながら。だからすごく記憶に残ってるんです。まさか、リリー・フランキーさんの絵だったなんて。
――基地や米軍ハウスは遠いんですか?
海:少し歩くぐらいですね。一番最初に3人でアーティスト写真を撮った時はあの辺で撮りました。
ゆきやま:段々福生のことを思い出してきたんですけど、私は友達と福生へ遊びに行っていました。そこでなんだろう、普通の都心では見れないようなお店がいっぱいありました。全然、音楽と関係ないけど(笑)。
たかはし:あとは古着屋とか?
――アメリカ文化が残ってる感じなんですかね?
たかはし:はい。大切に守ってる人がいるんだなという感じはしました。
海:私は(リーガルリリーに)入って、初めて福生に行きました。部屋でもいろんなものがごちゃごちゃあった方が落ち着くタイプなので、福生もいろんな文化があるから、肌馴染みがいいというか。
たかはし:わかる。
海:それを初めて行った時に感じたので、本能的に居場所になってくれる場所なのかなとは思いました。
リーガルリリー・海
――聞くところによるとたかはしさんは福生のギターショップでしかギターを買わないそうで。
たかはし:そうなんですよ。結構周りの人もそういう人が多くて。そこのギターショップにはすごく可愛いオーナーのおばちゃんがいて。ヴィンテージギターしか売ってないんですけど、初めてそこに行って感動したのは、グレコの1万円のレスポールとギブソンの新しめな10万円以上するレスポールを弾き比べたら、明らかに古いグレコの日本製のギターの方が良かったんです。
――メーカーがどうこうじゃなくて、ずっとアンプに通してたりするといいんでしょうね。
たかはし:ですし、その時全然ギターがうまくなくて、音の良し悪しもわかんないじゃないですか。知識も全然ないのに、すごくわかったので感動しました。
――リッケンバッカーもテレキャスターもそのお店で買ったものですか?
たかはし:そうです。リッケンバッカーもグレコのリッケンバッカーで。偽物なんですけど、私は本物だと思っています(笑)。
――じゃあそのおばちゃんから、新しいギターはあまり良くないよっていうような価値観を得たんですか?
たかはし:ギターのルーツなど詳しくて。国産でタグにはUSAって書いてあるけどアジアのここの工場で作ってて……みたいな超オタクなんです!(笑) 初心者の頃に試奏するのって恥ずかしいじゃないですか。ちょっと遠慮してたんですけど、「あ、私ギター弾けないから遠慮せず弾いてね」って(笑)。チューニングはすごくうまいんです。
――いいですねぇ。では、ここからはちょっとルーツっぽいお話をお聞きしたくて。バンドでも人物でもなんでも構わないんですが、みなさんが初めてロックを感じたことってなんですか?
たかはし:小学校の時にドラムをやっていたんですけど、その時の音楽の先生がすごく厳しくて。楽譜を忘れたら授業を受けさせてくれなかったり、遅刻なんてもっての他だし……で、私どれかできたらどれかできないという感じだったので、毎回怒られて(笑)。今は楽譜忘れたら演奏に参加できないっていうのは理解できるんですけど、当時は適当に合わせればいいじゃんと思ってたから。だけど今思うと、技術がなくてできないのに楽譜を忘れるって、参加資格ないなと思って。とか、その先生に学ぶことはたくさんあるなと思って、その人が私のロックの原点かもしれないって思います。先生自身すごくロックで、年に一回、5年生と6年生がクラスごとに合奏をするんですけど、譜面を先生が書くんですね。私は本当にドラムが好きだったので、毎日のように音楽室に行ってたんですけど、中にはそんなに興味のない人もいるじゃないですか。叩いてバラバラになると「ほのかーっ! 何やってんだ!」って。その時、先生が涙目になってて。今考えると、うわー、先生って子供に対して接してたんじゃなくて、本当に音楽のために接してたんだと思ってなんか泣けました。
――先生が怒るのはひとつの真理ですね。
たかはし:はい。絶対舐めないんです、子供のことを。すごく厳しかったんですけど、音楽に関して大きな影響を受けた人物ですね。
――お二人はどうですか?
海:私は多分、そういう影響を受けてるのはやっぱりお母さんかなぁと思う(笑)。
たかはし:いいねぇ、それすごくいい!
海:小学生の時は周りに洋楽を聴く人が本当にいなくって、テレビからしか音楽情報を得ていなかったんですけど、唯一お母さんがそういうのが好きで。お母さんがガンズ(アンド・ローゼズ)がめちゃくちゃ好きで、若い頃にライブに行ったっていう話を聞いたんです。私は全く知らないのに「また来日するらしいから一緒に来て欲しい」と。「ほんとに自己満なんだけど、昔自分が見たライブのアーティストを娘と一緒に見たい」っていう。
たかはし:いいねぇ。
海:それで一回だけ東京ドームのツアーについて行ったことがあったんですけど、私大きい音が当時は苦手で。
ゆきやま:私も。
海:映画館でも耳にティッシュを詰めて見ていたぐらいなんですけど、その時のライブは大きい音が全然大丈夫だったんです。「ああ、なんか生の音って違うんだ」と思ったのが、結構自分の中で大きいですかね。その後吹奏楽とか軽音とか、生でやるものに興味を持つようになったので、それは大きいかなと思います。
――ゆきやまさんはいかがですか?
ゆきやま:なんだろう、ロックって抽象的でわかっていないところもあるんですけど、私も海ちゃんと同じで音が大きいことに高揚した瞬間っていうのはやっぱりライブですね。普通に音源で聴く音楽も好きだったんだけど、それとは何か違うものがあるっていうのを体感できたのがライブだったので。高校で軽音部に入って、その辺にあるライブハウスのようなところになぜかハマっちゃって、その時は理由はわからなかったけど。で、通っていくうちにやめられなくなって、そのまま続いて今に至るみたいなところがあって。それがすごくロックっぽいのかなって自分では思いました。
リーガルリリー
――話が脱線しますけど、漫画原作の映画『音楽』で全く楽器に触ったことのない不良3人がベース、ベース、ドラムで初めて音を鳴らすんですよ。
一同:ははは!
たかはし:普通、最初はギターとボーカルだよね。
――それでダーン!って音を出したら感動して。
たかはし:今すごく興味が湧きました。絶対観ます。
ゆきやま:それを言われてみて思い出したのが、ライブハウスに行き始めた後にほのかとバンドを組んだんですよ。で、立川にあるすごく狭いスタジオで、なぜかわからないけどすごくかっこいい気がする曲を一緒にやってて……それが「リーガルリリー」っていう曲で。
――それはいつか世の中に出るんでしょうか。
たかはし:いや、二人だけの秘密! これはほんとに恥ずかしい。
ゆきやま:ものすごい高揚感があったのを覚えてて、「あ、これなんだな」「一番気持ちいいのはこれだな」っていうのは確かにあった。
たかはし:覚えてる。で、私がラットを思いっきり踏んでさ、二人でわー!って盛り上がって、「曲出来ちゃったね」みたいな。高二ぐらいの時に。最初コピーしようかっていう話もあったんですけど、コピーより全然早くて。オリジナルの方が簡単だなって。
ゆきやま:最初の頃に作った曲ってほとんど音源化してるんですけど、唯一音源化してないぐらいの曲です。
――それは伝説にしておくのがいいかもしれないですね。そして、12月のライブはちょうど1年ぶりにお客さんを入れたワンマンライブになりますけど、どういう意気込みですか?
たかはし:練習をたくさんして、無意識に爆発できるようにしたいです。
――それぐらい体に入ってないと?
たかはし:そうですね。だって呼吸って無意識にするじゃないですか。そういう感じのライブになるように頑張ります。
ゆきやま:今年溜めたエネルギーのカメハメ波みたいな。
海:本当にライブも少なかったし、カメハメ波だね。
たかはし:必殺技を使おう。

取材・文=石角友香 撮影=南阿沙美
リーガルリリー

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