須川展也が描き出す、新たなバッハ「
無伴奏パルティータ」の世界~サクソ
フォン・ソロ・リサイタル開催へ

サクソフォン奏者の須川展也が2020年11月26日(木)、東京・紀尾井ホールで『須川展也 plays J.S.BACH サクソフォン・ソロ・リサイタル』と題したコンサートを行う。8年ほど前から研究を重ねていたバッハの「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ」を披露するステージについて須川は「みんなで素敵な時間を共有したい。僕と一緒に演奏しているような感覚で楽しんで欲しい」と呼びかけている。
――東京でのリサイタルは久々ですね。
はい。新型コロナウイルスの影響で、3月から公演が延期や中止になりました。久々のコンサートは、8月に(千葉交響楽団さんと)千葉県習志野市であり、9月に(名古屋フィルさんと)愛知県名古屋市、10月には東京芸術劇場でNHK交響楽団の公演が2公演、としばらくオーケストラ公演が続きました。コロナ禍後、東京でのリサイタルは11月26日が初ですね。
――須川さんは、奏者として国内外で活躍なさっていますが、静岡県浜松市に拠点を置く「ヤマハ吹奏楽団」の常任指揮者も務めていらっしゃいます。今年は5月に大会の開催が中止になりましたが、本来であれば秋は、ゴールド常連の楽団の練習や、(楽団の)『全日本吹奏楽コンクール』への出場など、お忙しい時期でしたよね。
そうなんです。コンクール以外にも、3月のサントリーホール公演や、6月の浜松での定期演奏会など、ヤマハ吹奏楽団と大事に準備を進めていたコンサートがたくさん、残念ながら中止になってしまいました。
――2007年から14年間務めている、常任指揮を年内で退任なさると聞きました。
ヤマハ吹奏楽団には本当にお世話になりました。14年の経験は、僕にとっても大切な大切な財産となりました。何しろ素晴らしい団員のみなさんの演奏と音楽を愛する共通した思いの大きさ!感謝の気持ちで一杯です。常任指揮者ではなくなりますが、ヤマハのみなさんとはこれからもずっと繋がります。それから指揮の経験が、音楽の全体像を掴むためのスキルアップにもなりました。これからもさらに演奏に活かして行きます。​
――そうですね。たくさんの大会や、コンサートが延期や中止になっていますし、新しい生活様式の中で、生演奏を聴く機会があることは、本当にかけがえないことと感じます。11月に紀尾井ホールで行われるソロ・リサイタルでは、バッハの「無伴奏パルティータ」に取り組まれます。何年も前から、研究を続けられていたのですよね。
はい。8年くらい前に、とある演奏会でバッハによる無伴奏作品だけのコンサートをしませんか?というご提案をいただきました。そこでパルティータならいけるかも、と思って取り組みはじめました。「これは、一大チャレンジだな」と思って、あれこれ試行錯誤を繰り返しました。今では、バッハの音楽は、すべてのジャンルの源、と思っているので、サクソフォンによる演奏で、ぜひそれをみなさんにもお届けしたい、と思っています。
――アドルフ・サックスがサクソフォンを製作したのは 1840年の中頃と言われています。ということは、J.S.バッハが『パルティータ』を生み出したバロック時代には、楽器がありませんでした。バッハも予測していなかったアレンジを、須川さんが世界に発信していくのですね。
最初は難易度が高すぎて、不可能と思いました。楽器の構造からしてまったく違います。ヴァイオリンは弓で弦を弾いた際の振動が音になりますが、サクソフォンは楽器に息を吹き込み音を響かせていきます。息継ぎが必要なんですよね。また、ヴァイオリンで表現される重音を、どうするのか。時間をかけて考えていきました。
――特に困難だった点は。
ブレスと重音ですね。音楽の流れを妨げずにブレスすること。そして重音はアルペジオで演奏していきます。そのフレーズを表現するために最適な音を慎重に選んでいきました。
――サクソフォンでの「パルティータ」の演奏を、バッハはどう思うでしょうか。
バッハは教会を豊かな音楽で包むパイプオルガンと、奏者の心臓に近いところで人間の内面を語るヴァイオリン、両方の名手でした。サクソフォンはそのどちらの要素も活かせる可能性を秘めているかもしれません。なので、もしかしたらバッハは、サクソフォンの出現を予測していたのかもしれない…なんて、自分の勝手な推測ですが、こうひらめいたらさらに楽しくなってきてしまって(笑)。きっとバッハにも喜んで受け止めてもらえるのでは、と思っています。
――サクソフォンで演奏される「パルティータ」。とても楽しみです。
僕もとても楽しみです。演奏はゼクエンツ(循環進行/英語ではシークェンス)を中心に展開していきます。作品は、ヨーロッパの国々の舞曲から構成された組曲。「アルマンド」はドイツ、「クーラント」はフランス。色んな国の景色が見えると思うので、どんな風にダンスを楽しんでいるのか、想像しながら聴いてもらえたらうれしいです。
――知っているけれど、聴いたことがない曲。少し緊張もします。
バッハは和音の変化があるので、自然に身体が動くことを感じられると思います。僕がドキドキする緊張と、ホッとする解放を表現していくので、耳だけではなく全身で音楽を感じて欲しいですね。僕と一緒に、楽器に息を吹き込むようにして呼吸を合わせながら聴いてもらえたら、身体がサクソフォンの音楽の中に入っていき、自然と身体に音楽が響いていくと思います。そんな風に音楽を体感してもらえたらうれしいですね。
――10月21日には、紀尾井ホールで演奏する、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ全曲(第1番BWV 1002、第2番BWV1004、第3番BWV1006)を収録した新CD「バッハ・シークェンス」をリリースしました。
今回のレコーデイングを通して、あらゆるジャンルの音楽はバッハという源から流れてきているということを、改めて強く感じました。バッハの神業である「ゼクエンツ(反復進行のこと)」は、現代の音楽にたくさん取り入れられています。例えば、サクソフォンが主役になるジャズでは、ツーファイブ。シャンソンの「枯葉」の和音進行などにも現れています。紀尾井ホール以外のコンサートでは、前半にバッハ、後半にはピアノと一緒に、バッハにルーツを感じる作品をいろいろご紹介するプログラミングを計画しています(11/4佐賀市文化会館、11/21高崎芸術劇場(完売)、12/27入善コスモホール、2021/2/23成城ホールなど)。
――アイデアが満載で楽しそうです。長年研究してきたことが結実します。自分へのご褒美などがあったりするのでしょうか。
ご褒美…。一番のご褒美は、観客のみなさんにいただく〝拍手〟です。サクソフォンでバッハを演奏する素敵な時間を、みなさんと共有できたらいいなと思います。
――須川さんの演奏を聴いて、「私も演奏してみたい!」と思われた方には、11月15日に発売されたアレンジ譜(「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ全曲 サクソフォン独奏(ソプラノ、アルト)のための」)をオススメしたいですね!
演奏にチャレンジしていただけたらとても嬉しいですし、楽譜を眺めながらCDを聴いていただけたら、きっと楽しみが増えると思います。日本のサクソフォン奏者は、クラシックもジャズもとてもレベルが高いです。サックス吹きのみなさんに、バッハのパルティータをトライしていただけたら嬉しいです。初心者の方にも楽しく演奏いただける楽章もありますよ。
生のコンサートでの演奏はうまくいくこともあれば、いかないときもあって。両方あるから楽しいのだと、僕は思っています。スポーツでもそうですね。例えうまくいかないところがあったとしても、その選手のチャレンジしている姿を観て、何度も感動しますね。そこも魅力の一つと思っております。偉大な音楽作品に向かい合って、演奏者と聴いてくださる皆さんと一緒に呼吸をしながら楽しめるコンサートができたら幸せです。​
取材・文=Ayano Nishimura 撮影=池上夢貢

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