藤巻亮太×桑原あい×鳥越啓介、『T
he Premium Concert 2020』に向けて
語る 「2020年の締めくくりに気持ち
のいい音楽を」

その音はきっと、激動の2020年を乗り越えて、新しい年への希望を繋ぐ架け橋になる――。12月1日(火)、東京・サントリーホールで開催される藤巻亮太の単独公演『The Premium Concert 2020』は、彼にとって2年連続のピアノ&ストリングス・コンサートであり、およそ9か月ぶりの有観客ワンマンライブになる。アレンジと演奏にジャズ・ピアニストの桑原あい、さらにストリング・カルテット、ベース(コントラバス)を加えた6人編成をバックに、レミオロメン時代やソロの楽曲を新しい解釈で演奏する、一年一度のプレミアムな一夜。昨年は「粉雪」「オウエン歌」「大晦日の歌」など多彩なセットリストで楽しませてくれたが、果たして今年はどうなるだろう? 特別な思いを乗せたコンサートに向けて、藤巻亮太、桑原あい、鳥越啓介(B)の3人に意気込みを語ってもらった。
――少し記憶を巻き戻して、去年のコンサート『The Premium Concert 2019』にはどんな思い出がありますか。
藤巻亮太:僕はスリーピースのバンドが原点でしたが、あいちゃんと出会って、ピアノと歌という世界を意識するようになりました。そして、その先にピアノと弦カルテットという世界があったんです。僕にとっては初めての経験だったので、最初はすごい緊張感がありました。
桑原あい:絶対緊張しますよね。
藤巻:しかも去年のコンサートでは、あいちゃん以外はみなさんはじめまして、だったんです。鳥越さんもその時初めてご一緒させていただいたんですけど、「はじめまして」と言った時の空気感ってすごく大事じゃないですか。ましてや僕は弦カルとやるのは初めてで、すごい緊張してたんですけど……今でも覚えていますが、リハーサルスタジオに入っていった時に、その場の空気感がすごく良かったんです。あいちゃんが中心にいて。
鳥越啓介:あいちゃんがいればね、だいたい雰囲気がいいんですよ。間違いない。
桑原:あははは。
藤巻:なんかすごく楽しそうで(笑)。その時に「あ、良かった」と思ったんです。それってけっこう大事ですよね。
鳥越:それは絶対大事。
桑原:それはね、空気の悪い現場を経験したことがあるからですよ(笑)。レコーディングでも「(暗い声で)はい、OKです。じゃあ次」って言われるのと、「いやーもうめちゃくちゃ最高! 次行きましょう!」って言われるのとでは、全然モチベーションが違くないですか? そういうものをいろんなところで見て、私は絶対こういう人になろうというものがあって、それだけです。あとは、その場に好きな人しかいなかったから、イエーイ!ってやってただけです(笑)。
藤巻:それで僕も、思い切って歌わせていただこうと思えたんです。
藤巻亮太
――鳥越さんをメンバーに呼んだのは、桑原さんですよね。桑原さんと鳥越さんは、トリオでバンドを組んでいたり、付き合いは深いですよね。
桑原:弦カルのアレンジは、ほかの編成の時とはまったく別物なんですよ。そこで不安要素をいかに取り除くか?がすごい大事で、演奏者を誰にするか?が一番大きな材料なので。鳥越さんなら絶対大丈夫だということで、お願いしました。
鳥越:恐縮です(笑)。
藤巻:僕は弦カルで歌う場合、タテ(基準になるリズム)を見失ないそうになってしまうんです。だからおっしゃる通りで、「とりあえず鳥越さんを聴こう」と(笑)。
桑原:そうそう! リズム感に対して絶対間違いない人が一番下にいてくれるから、安心して藤巻さんも歌えるだろうし、私もアレンジしやすいし。
藤巻:僕にとって鳥越さんは、リズムの土台となってくださる方です。すごい安心感がありました。鳥越さんは、男性シンガー、女性シンガーを含めて、弦カルとやることは多そうですよね。
鳥越:まあそうですね。ドラムがいる編成ももちろん好きだし、そのぶん楽にはなるんだけど、ドラムレスの編成も意外と好きなんですよ。僕は2か月に一回ぐらい自分のライブを企画していて、それもほとんどドラムレスなので。
藤巻:緊張感はあるけれど、そのぶん出てくる良さというか、何かありますよね。何なんでしょうね?
鳥越:意外と、隙間が気持ち良かったりするんですよね。空間を楽しむというか。
桑原:わかる!
藤巻:僕の場合は、最初は空間が怖かったんです。それは20代だったせいもあるんですけど、空間を楽しめるほど余裕がなくて、とにかく誰が隙間を埋めるか?を考えていたから。
桑原:私も、昔はやたら弾きまくってました(笑)。だからバラードが嫌いだったんですよ。グルーヴに対してそこまで自信がなかった時期は、バラードが一番怖いから。でも今はバラードが一番好き(笑)。
藤巻:やっぱりそれは、何年か経て?
桑原:スティーヴ(・ガッド/Dr)とウィル(・リー/B)と3人でやり始めた時から、グルーヴに対してすごく考えるようになったんですよ。最初のレコーディングで、スティーヴに「この曲、グルーヴができてないから、あいだけ録り直して」って言われたんです。めちゃくちゃ怖かった(笑)。でも最初は怖いと思ったけど、よく考えたら当たり前のことで、そこからどうしたらグルーヴのことがわかるんだろう?ってめっちゃ考えたけど、頭ではわからなかった。
鳥越:僕が思うのは、グルーヴって、結局自分が一番気持ちよくなれるというか、自分が気持ちよくなって、それをみんなと共有できているか。もちろんグルーヴ感が違う人もいて、ん?と感じることもあるんだけど、たぶん自分の中で一定のリズムというものが確立できるようになると、(グルーヴ感が違う人とやっても)逆に気持ちよくなってくるから。
藤巻:……そこだ。そこですね。リズムに関しては、お二人の鋭さは極上のものがありますので。
桑原あい
――話をちょっと変えて、藤巻くんの曲をアレンジする時に、桑原さんはどういうところに気を付けていますか。
桑原:私、(去年のコンサートで歌った)「粉雪」は、中学生の時に聴いてたので。
鳥越:俺も、超聴きましたよ。
藤巻:ほんとですか? ありがとうございます。
桑原:あれはドラマ『1リットルの涙』の挿入歌ですよね。「3月9日」も。中学時代、あのドラマがめちゃくちゃ流行ってて、みんな「粉雪」を歌って、卒業式には「3月9日」を歌いましたから。
藤巻:ありがとうございます(照笑)。
桑原:そういう人のアレンジということもあるけど、藤巻さんはすごいメロディメイカーだから、原曲の良さは絶対に消しちゃいけない。その上で、ピアノと弦カルでやることによってのクラシックの部分、ジャズの部分、ポップスの部分の、ちょっとずつのエッセンスのバランスというところが一番大事かなと思います。あとは、藤巻さんの声で歌うということ。頭の中で藤巻さんの声を想像しながら譜面を書くということが大事かなと思ってました。
鳥越:僕の場合は、もちろん譜面上に書いてあるものもあれば、お任せの部分もあったりして。
桑原:私は、信頼できる人だと、ベースはちょっと余白を残すんです。弦カルの譜面は完全に書くんですけど、鳥越さんだったら私が書くものよりよっぽどいいものをやってくれるだろうと思うので、マストのところだけ書いて、あとは「こういう雰囲気です」とだけ書いておくのがベース譜です。ドラム譜もだいたいそう。リズム隊に対しては、ゆだねる部分がすごく多いですね。
鳥越:去年のコンサートは今でもよく覚えていて、本当に気持ち良くて、すごい良かったよね?
桑原:すごい良かった! 達成感がすごかった。
鳥越:みんな終わったあとに「わーっ!」ってなってた(笑)。
藤巻:そうそう。みんなハイタッチして、「良かった!」って。また、(2019年の会場だった)紀尾井ホールが良かったんです。今年はサントリーホールですけど、両方とも響きが素晴らしいので。お二人はクラシックホールでやることも多いと思うのですが、僕は初めてだったので、会場の鳴りだけで気持ちよくて、音が上から降ってくるような感覚でした。あの時にストリングス・アレンジの醍醐味をさらに感じたというか、「ここでこれを聴いたら気持ちいいに決まってる」と。会場と、あいちゃんのアレンジと、鳥越さんをはじめみなさんのプレーと。
鳥越啓介
――アレンジで言うと、去年は「大晦日の歌」にベートーヴェン「交響曲第九番」から「歓喜の歌」のメロディを入れたのがファンの間で大好評でした。あれは、あいさんのアイディアですか。
桑原:そうです。
――あれは、歌詞に「第九」が出てくるところから思いついたんですか。
桑原:そうですね。直前に「第九の様に」という歌詞が出てくるので、ここしかない!と思いました。
藤巻:「大晦日の歌」というのは、12月31日にそば屋に行って、そばを買って帰って、ゆでて食べたら柔らかかったというだけの歌なんですけど(笑)。でもまさに前回、リハーサルの時から涙が出そうになった曲です。本当に感動しました。
桑原:ありがとうございます。
藤巻:今年のコンサートは12月1日ですけど、もう師走なので、「大晦日の歌」はまたやりたいなと思っています。鳥越さんはどうでした? 去年の「大晦日の歌」は。
鳥越:「第九」のフレーズは、僕もじーんとしました。しかも、あの部分のコード進行が泣かせるんですよ。
藤巻:おっ。専門的な話が出ましたね(笑)。
桑原:「大晦日の歌」と「第九」をマッシュアップさせる時に、コード進行が肝だなと思って――。
鳥越:もともとはトニック(主音と根音が同じコード)中心だけど、あいちゃんのアレンジのリハモがすごいよね。「第九」のオリジナルの土着なコード進行だと、そんなに感動する感じもないんだけど、泣かせるリハモのおかげで感動できる。
藤巻:リハモ?
桑原:リ・ハモナイズ。もう一回ハーモニーを付ける。
藤巻:そうか。だから急にそば屋の雰囲気じゃなくなるのか(笑)。
藤巻亮太
桑原:そこの歌詞って、どんな感じでしたっけ?
藤巻:えっとね、「何年経ってもこの響きを君と聴きたいな」。そこから「第九」に行くんだけど。
桑原:そうだ! それ! 歌詞を見てて「ここしかない」と思ったのは、「君と聴きたい」が重要だったんですよ。大晦日に第九を本当に聴かなくてもよくて、「今年も一緒にいたね」ということが、イコール第九の響きだということで良かったから。
藤巻:それは物語の中の二人のことでもあるし、我々メンバーのことでもあるんだけど、そこにいるお客さん全員とそういう空気になるというか、「この響きを来年もまた一緒に聴きたいよね」という空気になる。あれは非常に感動的でした。
桑原:その歌詞を見て、「第九」をそこに入れようと決めたから。だから、歌詞のおかげです。
藤巻:そう言ってもらえるとありがたいです。歌詞が大きなものとつながる瞬間というのがあると思うんです。すごい小さい世界の物語なんだけど、その部分だけ、未来とか、夜空とか、パッと開ける感じがあって、それをちゃんとキャッチした上でさらに広げていただいたということに、感動しました。
――そして、今年はさらに、新曲もやってくれるとか。
藤巻:そうなんです。「大地の歌」という曲をやろうと思っているんですが、それには理由があるんです。あるラジオ番組で2019年から2020年にかけての1年間、被災地に行って現地の方々にインタビューする番組をやらせていただいたんです。東日本の沿岸部から、台風被害の土地など、様々な地域へ行くことで、みんな一つの大地の上にいて、この大地の上でしか我々は生きられないし、たくさんの恩恵を受けている。その反面、災いも同時に引き起こされて、恩恵を受けながらも翻弄されながら生きていくのが我々だということを感じたんです。あるとき、インタビューしていく中で思ったのが、「最後は生き様だ」ということだったんです。取材をさせていただいたある方が「大変だと思っていただいてもいいけれど、不幸だとは思わないでほしい。それは自分が決めるから」と仰っていて、ものすごく胸に刺さったんです。人間の美しいものを見たような気がして、それがきっかけで書いたのが「大地の歌」です。その後に起きたコロナというものも、その中で一人一人が戦って、どのように生きていくか?が問われていると思っています。「大地の歌」は被災地の復興のために書いた曲ですが、2020年末のこのコンサートで、ぜひともやって、多くの人に聴いていただきたいなと思っています。
――楽しみにしています。コンサートの肝になるような曲ですね。
藤巻:歌詞の中に「祈りながら」という言葉があるんです。この間あいちゃんとアレンジの打ち合わせをした時に、曲を聴いてもらったんですが、歌詞を読む前から「これは祈りの歌ですね」と的確に言ってくれて。その瞬間に「アレンジはもうお任せします」という気持ちになりました。祈るしかないけれど、そこにはすごいパワーがあるかもしれないじゃないですか。そういう部分をお届けできればと思っています。
桑原あい
――去年はコンサート中盤に2曲、桑原あいコーナーがありました。今年もやってくれるんですよね?
桑原:はい。曲はまだ決まってないですけど。
藤巻:去年のことを言わせていただくと、とてもかっこよかったです。お客さんにとっては、言葉を離れたところにある音楽の力というか、音楽が持つ説得力がガツン!と来るんじゃないかと思うんです。一つのコンサートの中で、歌の世界と、歌のない世界と、そういう振り幅の中で音楽が聴けるのも、この編成ならではの良さだと思うので。僕自身も楽しみにしています。
桑原:だから選曲が大事だなと思うんですね。コンサートの流れを崩さないこと、もしくはいい意味で流れを変えることが大事だと思っているので、その中で自分がどう暴れられるか?が大事かなと。エンタテインメントって、流れがすごく大事じゃないですか。ミュージカルでも、コンサートでも、テレビでも、流れによって時間の感じ方が全然変わるので、いい選曲をしたいと思います。
藤巻:今話を聞いていて面白いなと思ったのは、グルーヴって1曲1曲にもあるけど、全体としてのグルーヴというものもありますよね。
桑原:そう。自分のコンサートでも、全体の流れやグルーヴをすごい気にしてしまうので。藤巻さんのコンサートであるということを踏まえた上でできる曲を、その日のみんなと一緒にいかに楽しめるか?ということだと思います。
――去年の成功体験を踏まえての2年目ですからね。さらに親密な関係の、素敵なグルーヴが聴けると楽しみにしています。
藤巻:あいちゃんのアレンジが、どのように上がってくるのかがすごい楽しみですし、鳥越さんやみなさんと一緒に音を合わせるリハーサルも楽しみですし、それを持ってサントリーホールという、格式の高いところでやれるのも楽しみですし。世界で一番美しい響きと言われている会場ですから。
鳥越啓介
――藤巻くんにとっては、およそ9か月ぶりの有観客ワンマンライブになりますけど、今お客さんに伝えたいことは?
藤巻:有観客でのイベントは最近何回か出演させていただいているんですが、やっぱり今の時期は、模索しながらなのはしょうがないですよね。お客さんにしても、マスクをして、声を出さないで、どの程度共有感を持てるか?というところが大事な部分になると思うんです。演者側は、マスクの下はきっと笑顔で聴いてくれているんだろうなと信じることが大事だなって、ここ何回かで思いました。一生懸命プレーしたいなと思っていますし、お客さんもそれを信じて、心のままに楽しんでいただけたらと思います。
桑原:藤巻さんのファンで、藤巻さんの曲をいっぱい知ってる方々も、「この曲がこういうふうになったんだ」「こういう良さもあったんだ」という、曲をうまく光らせるようなものが渡せたらいいなと思いますね。でも藤巻さんのファンは優しい方が多いので、前回も「すごい良かった!」と言ってくださる方が多かったから、ファンの方を信じてアレンジさせてもらおうと思ってます。
藤巻:確かに、藤巻ファンはみなさん優しいです(笑)。
桑原:藤巻さんのファンだわ、という感じがします(笑)。曲のまた別の光る部分を見つけてもらえたらなと思いますね。
鳥越:自粛期間があって、ファンの方々も癒しの音楽を求めていたと感じます。聴きに来てくださるみなさんの、ちゃんと期待に添えるように、良い演奏で最大限にサポートしたいです。
藤巻:ありがたいです。今年は大変な年でしたけど、2020年の締めくくりに気持ちのいい音楽を、素晴らしい環境の中で聴いていただけたらと思っています。最高の準備をして臨みますので、ぜひとも楽しみに来てほしいです。

文=宮本英夫 撮影=Wataru Yamada

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