傷つきながら、歩いてゆく。映画『パ
ロアルト・ストーリー』|EDITOR'S
SELECT 012

第12回:映画『パロアルト・ストーリー
』 by Mao Oya

先週、DIGLE MAGAZINEのポッドキャストシリーズ『
』がスタート。ミュージシャンをゲストに招き、偏愛する映画についてトークをしていただくシーズン1の記念すべき第一回目は、
が2011年に公開されたライアン・ゴズリング主演の映画『ドライヴ』について語ってくれました。シンプルなストーリーに、ほとんどキャラクターの感情のみで先進性を表現する『ドライヴ』は映像の色調や音楽含めて、心に深い印象を残してくれる映画です。是非、ポッドキャストでMATTONの偏愛を聞いてみてください。
そして、この偏愛映画について語るポッドキャストに合わせて、今回のEDITOR’S SELECTでは私の偏愛する映画について紹介したいと思います。

私の偏愛映画『パロアルト・ストーリー

STORY

内気で繊細な少女エイプリル(エマ・ロバーツ)は、学校で誰もが認める美人の優等生だが、進路に悩み将来の夢を描けないでいた。両親は離婚しており、母親が連れてきた義理の父親があれこれ自分に口出しすることをよく思っていない。そのためクラブでは女子サッカーチームのフォワードをまかされているが、ここのところ練習に身が入らない。

彼女は、アルバイトでサッカーのコーチであるミスター B(ジェームズ・フランコ)の息子マイケルのベビーシッターもしている。妻と別れシングルファーザーのミスターBはマイケルと2人で暮しているが、子供をかわいがってくれるエイプリルのことが気になっている。 エイプリルと同じ学校に通う少年テディ(ジャック・キルマー)は内向的な性格のアーティスト。

エイプリルに惹かれているが自分に自信がなく思いを伝えることができない。一方で、常識外れの行動で常にまわりを驚かす少年フレッド(ナット・ウルフ)とは仲がよく、夜中のドライブや公園の木をチェンソーで切り倒したりして憂さ晴らしをしている。

教え子とコーチという関係にありながら、エイプリルはある時、ミスター Bと危うい関係を結んでしまう。同世代の男の子とつきあいたいと思いながらも優しく包容力のある大人の男に惹かれてしまった。一方でテディは、飲酒運転をした罰として子供図書館で無償の社会奉仕活動に励むことになった。自分を見つめなおす時間ができた彼は、得意な絵を描くことで周囲の人間に喜ばれ失った自信を取り戻していく。 フレッドは、セックスを通してしか自分を認識することしかできない孤独な少女エミリー(ゾーイ・レビン)と出逢い関係を結んでしまう。

エイプリルはコーチに惹かれてしまったものの徐々に距離を取り始め、やがて関係を断つ決意をする。久しぶりに再会したテディと初めて向かい合ってゆっくり話ができたことがきっかけで、次第に彼の胸の内を知ることとなる。いつしか2人はお互いに心を寄せあうようになっていく。フレッドの無軌道な行動は次第にエスカレートしていき、夜中に無理やりプールに飛び込ませようとしてエミリーと喧嘩になりそのまま別れてしまう。ムシャクシャした気持ちのままドラッグを吸い、ナイフを振りまわし親友テディとも距離を置く。自暴自棄になった彼はテディに重大な秘密を告げるのであった。

引用:公式サイト

どれだけ観たのかわからないぐらい、何回も観ているソフィア・コッポラの姪であるジア・コッポラ監督のデビュー作『パロアルト・ストーリー』。ジェームズ・フランコの短編小説集『パロアルト・ストーリーズ』を基に作り上げられたこの映画は、カリフォルニア州サンフランシスコ・ベイエリアの都市“パロアルト”を舞台に、ティーンの危うさや繊細な心が鮮やかに描かれたリアルな青春映画です。

あらすじに書かれているように、この映画のキャラクターは家族に不満を持っていたり、愛情に飢えていて、心のどこかにぽっかり穴が空いている。それを埋めるように、または現実逃避をするように、大人ぶって悪さをしたり、いい子のふりをしたり、お酒やドラック、セックスだったり、いろんな方法で満たそうとするけど、その方法が自分を傷つけると気づかず、結局、痛みを負うだけで心が満たされない。でもちょっとだけ幸せな瞬間や、自分と向き合う瞬間があって、傷ついて少し止まった後に、その瞬間を糧にまた歩いていく。

「パロアルト・ストーリー」 (c)2013 SAMMY BANDINI FILMS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
「パロアルト・ストーリー」 (c)2013 SAMMY BANDINI FILMS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

彼らの悲しみや寂しさは「自分を銃で打つって痛いかな?」や「事故に遭ったらどうする?」と相手に聞いたり、「どうでもいいし、宿題なんてくそくらえって感じ。あんたなんかと話したくない、それが本心」と一人で部屋で声に出したりと、言葉の節々からも伝わってきて、痛々しい気持ちになります。

「パロアルト・ストーリー」 (c)2013 SAMMY BANDINI FILMS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
「パロアルト・ストーリー」 (c)2013 SAMMY BANDINI FILMS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

閉塞感の中で拠りどころや自分の在り方を必死に探して、傷つきながらながら不器用に前に進むティーンの姿が心を揺さぶる一作です。

「パロアルト・ストーリー」 (c)2013 SAMMY BANDINI FILMS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

また映画の楽曲には、Blood Orange(ブラッド・オレンジ)で活動しているDEV HYNES(デヴ・ハインズ)が本人名義でこの映画のために2曲書き下ろし、Blood Orangeからも「Champagne Coast」と「ou’re Not Good Enough」の2曲が起用されています。彼の楽曲がよりティーンの感情を引き立て、作品を瑞々しい仕上がりにしているので、楽曲にも注目してもらいたいです。

一生懸命に大人ぶっているけど、心の中では闇を抱えているティーンの不安定さや無咎さ、自分が傷つく方に向かってしまう心の弱さが染みてきて、いつの間にか自分と重ね合わせてしまう『パロアルト・ストーリー』。
ちょっと傷ついたり、自分を見失った時に観ると、自分の本当の気持ちに気付けるかもしれません。

映画『パロアルト・ストーリー』 監督・脚本:ジア・コッポラ  撮影:オータム・デュラルド 音楽:デヴ・ハインズ、ロバート・シュワルツマン  出演:エマ・ロバーツ、ジェームズ・フランコ、ナット・ウルフ、ジャック・キルマー、ヴァル・キルマー 2014年/アメリカ映画/100分/5.1ch/カラー/16:9(ワイドスクリーン)/DCP/原題:Palo Alto (c) 2013 SAMMY BANDINI FILMS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. 公式サイト

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