コロナ禍でより心に響く。今だからこ
そ見たいミュージカル『RENT』ゲネプ
ロレポート〜花村想太、堂珍嘉邦、八
木アリサらver.

ミュージカル『RENT』が2020年11月2日(月)から日比谷シアタークリエで開幕した。1996年の初演以来ブロードウェイで12年4ヶ月のロングラン、世界15か国で各国版の上演、2005年には映画化もされた本作。日本では1998年に初演された後も、繰り返し再演され、今回は多くのキャストを一新して約3年ぶりの上演となる。11月1日(日)に行われたゲネプロ(総通し舞台稽古)の模様はすでにお伝えしたが、今回は、11月3日(火)に行われた別キャストによるゲネプロの様子を写真と共にお伝えする。
ミュージカル『RENT』ゲネプロの様子

ミュージカル『RENT』ゲネプロの様子

今回、筆者が見たゲネプロのキャストは以下の通り。
 
☆マーク:花村想太(Da-iCE
☆ロジャー:堂珍嘉邦CHEMISTRY
☆ミミ:八木アリサ
☆コリンズ:光永泰一朗
☆エンジェル:上口耕平
☆モーリーン:フランク莉奈
★ジョアンヌ:宮本美季
☆ベニー:吉田広大
(☆はWキャスト、★はシングルキャスト)
ミュージカル『RENT』ゲネプロの様子

ミュージカル『RENT』ゲネプロの様子
物語の舞台は1991年のニューヨーク、イースト・ヴィレッジ。映像作家のマークは、友人の元ロックバンドのボーカル、ロジャーと古いロフトで暮らしている。夢を追う彼らに金はない。家賃(RENT)を滞納し、クリスマスイヴにもかかわらず電気も暖房も止められてしまう。恋人をエイズで亡くして以来、引きこもり続けているロジャー自身もHIVに感染していた。せめて死ぬ前に1曲後世に残す曲を書きたいともがいている。
 
ある日、ロジャーはSMクラブのダンサー、ミミと出会う。ミミもまたHIVポジティブ。一方のマークはパフォーマンスアーティストのモーリーンに振られたばかり。彼女の新しいパートナーは女性弁護士のジョアンヌ。仲間のコリンズは暴漢に襲われたところをストリートドラマーのエンジェルに助けられ、恋に落ちる。
季節は巡り、彼らの関係もまた少しずつ変わってゆく。出会い、衝突、葛藤、そして別れ。1年(=525,600分)をどう生きるのか。そんなメッセージが込められている名作である。

ミュージカル『RENT』ゲネプロの様子

ミュージカル『RENT』ゲネプロの様子
2011年に結成された、4オクターブのツインボーカルが魅力の5人組ダンス&ボーカルグループ「Da-iCE」のボーカルを務めている花村想太。舞台出演経験は何度かあるが、今回が初ミュージカル出演で初主演となる。
   
花村のマークは、いい意味での若さがあった。実年齢が30歳ということに驚いたのだが(笑)、20代前半のフレッシュさと爽やかさを感じた。そして、さすがは美声の持ち主で、欲を言えばもっと歌声を聞きたいと思った(マークはソロで歌う場面は実はそんなに多くない)。
 
初日前の囲み取材で、自らのことを「人に弱みを見せるのがすごく苦手。我が道をいくというか、結構一匹狼タイプの人生というか、考え方をするタイプ」と分析しつつ、「この『RENT』ファミリーで得たものは、アンディだったり、ほかのキャストのみなさんだったりがその扉を不思議とこじ開けてくれるという環境に置いていただいたこと」と語っていた花村。本人のなかでもいろいろと葛藤があったのだと思うが、この『RENT』に新風を吹き込んでくれことには間違いない。

ミュージカル『RENT』ゲネプロの様子
ミュージカル『RENT』ゲネプロの様子
2017年からの続投キャストの一人である、ロジャー役の堂珍嘉邦。自身がロックシンガーということもあって、説得力のあるロジャーを表現してきた堂珍(まぁロジャーよりも歌い手としては全然売れているのだけれど、ソウルの部分で)。今回は、役づくりを深めた結果なのだろう、より人間臭さが出ていたように思う。例えば、ミミを見つめるその視線、「One Song Glory」で天を仰ぐ表情、マークをはじめ仲間に対する思い、自分がHIVポジティブであることで感じる死の恐怖。そういったものが前回よりも明確に見えた気がした。
「この作品は、それぞれに役が与えられている。でもその中の人間性だったりとか、その人の発している雰囲気というか、ヒューマンみたいなものがうまく役と溶け合い、その出たり入ったりするのがすごく面白いと思っていて」。そう初日前の囲み会見で語っていた。あの人間臭さは堂珍そのものだったのか。相変わらず、気がつけばクセになるロジャーで目が離せない。

ミュージカル『RENT』ゲネプロの様子
八木アリサが演じたミミ。現役のモデルということで、とにかく抜群にスタイルが良い。見た目だけで判断してしまうと、歴代のミミの中で一番線が細くか弱い印象だが、実際の八木ミミは見た目からは想像がつかないほど芯が強く、Sっ気たっぷりの強いミミだった。甘えるというより、挑発的にロジャーを誘惑する姿や、徐々に弱っていくというよりはポキっと心が折れてしまったかのような姿は新鮮。新たなミミを見た気がする。
ミュージカル『RENT』ゲネプロの様子
そして、上口耕平のエンジェルについても語っておきたい。ドラァグクイーンの役となると、どうしても「過剰に」役を作ってしまいがちになると思うのだが、上口のエンジェルはいい意味で自然体で非常に好感が持てた。高い声が出なくても、「女らしさ」を作らなくても、時々「男らしさ」が滲み出ても、あの可愛らしいクシャッとした笑顔だけで、「あぁエンジェルだ」と感じた。なかなかのハマり役だったと思う。
ミュージカル『RENT』ゲネプロの様子

ミュージカル『RENT』ゲネプロの様子
ミュージカル『RENT』ゲネプロの様子
1996年の初演以来、変わらず強いメッセージと勇気と愛を伝え続けてきた『RENT』。コロナ禍や分断された社会の状況から鑑みても、この作品がもつパワーを改めて思い知る。「過去もない、未来もない。今日という日を精一杯生きる(No day but today)」という言葉を噛みしめながら、ぜひ名曲揃いの本作を堪能してほしい。
 
上演時間は約2時間50分(30分休憩あり)。ちなみに、モーリーンのパフォーマンス(1幕の「Over The Moon」)では、残念ながらいつものように観客は声が出せない。その代わりに、新しい観劇スタイルとして、MooMooボード(税込400円)という蛇腹のハリセンで盛大な拍手を送ろう。
取材・文・撮影=五月女菜穂

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