甲本ヒロトと真島昌利が
新バンドに臨んだ想いを、
今『THE HIGH-LOWS』から見出す
過去への決別と新展開の歓喜
何しろ、1曲目が「グッドバイ」である。このアルバムのリリースが1995年と四半世紀前にもなるので、ファンはともかく、若い音楽ファンには事の経緯を知らない人がいるかもしれないので、念のために補足すると──。↑THE HIGH-LOWS↓は[1995年に解散したロックバンド、THE BLUE HEARTSの主要メンバーであった甲本ヒロトと真島昌利を中心に結成された]バンドである。ここではその解散云々には触れないが、そこに触れずとも、1995年6月に解散発表で、本作のリリースが同年10月で、その1曲目が「グッドバイ」というのは、本人が何も言わずとも(何も言わないと余計に)その因果関係を想起させるものだ。
《サヨナラする キレイサッパリ/サヨナラする これでスッカリ/サヨナラする キレイサッパリ/サヨナラする これでスッカリ》《今までありがとう/本当にありがとう/今までありがとう/もうこれでお別れですよ》(M1「グッドバイ」)。
歌詞は《バイバイバイ》が大半を占めているのだが、途中で《サヨナラする/ダサイやつらと》なんてフレーズもあるので、思わず何かを勘ぐってしまう。《キレイサッパリ》《これでスッカリ》とも言っているし、全体的には明るく、大らかなロックンロールな印象なので、別れが余程嬉しいのかなと思ってしまうほどだが、こういうのを“下衆の勘ぐり”と言うのだろう。
続く、M2「ママミルク」はタイムが6分弱と、収録曲の中でも長尺で、[歌詞がある部分は合わせても1分強しかない]。しかも[ライヴの定番曲であったが、間奏の演奏時間がツアーを追うごとに長くなり、15分以上かけて演奏したこともある]というナンバーだ。つまり、この楽曲は歌ではなく、演奏中心ということだ。このテイクからもその演奏の楽しさ、ワクワク感みたいなものは如何なく伝わってくる。どこかライヴセッションのようである。頭は、調 先人(Ba)、大島賢治(Dr)のジャングルビートから始まり、そこに白井幹夫(Key)のピアノが重なる。出だしから新たなメンバーをフィーチャーしているように思えるが、これはたまたまだろうか。たぶん、たまたまなのだろうが、ヒロト&マーシーが新しいリズム隊とともにバンドに始めたこと、そしてそのバンドにはキーボーディストがいることを印象付けるには格好なイントロではあったであろう。ダンサブルなロックチューンだが、決して甘いだけはなく、全体にピリリとワイルドさが感じられるのは、前バンドとの差別化だったのか…とまで考えると、それは完全に下衆の勘ぐりだろう。(上記の[]はすべてWikipediaからの引用)
以下、疾走感あふれるM3「ミサイルマン」、鍵盤の効いたM4「BGM」と続いていくのだが、M5「ジュー・ジュー」辺りから、本作はロックの先人たちへのオマージュが如何なく発揮されていることが露わになっていくような印象がある。M1「グッドバイ」にはT-REXの匂いを感じられたが、M5「ジュー・ジュー」にTHE WHOテイストがあるということは、これは狙ったとか狙わないとかではなく、そうしたオマージュを隠していないのだなという想像がつく。M7「スーパーソニックジェットボーイ」はThe Rolling Stones、M8「なまけ大臣」からはT-REXはもちろん、The ClashやThe Beatles(中期)なども感じられる。全てを自分で確認したわけではないけれども、↑THE HIGH-LOWS↓は本作以降のアルバムにおいても、彼らが影響を受けたであろう洋楽のテイストがちょいちょい出てきているとも聞く。ここにはどういう意図があったのか…と考えるまでもなく、↑THE HIGH-LOWS↓がどう仕様もなくロックバンドであることが表れているのだと思う。この辺をTHE BLUE HEARTS後期との比較で語ると如何にも…という話になりそうだが、前述のM1「グッドバイ」で述べた因果関係の話以上に空想事になりそうなので止めておく。ご興味のある方は、THE BLUE HEARTSのラストアルバム『PAN』をググってもらうといいと思う。