能と攻殻機動隊の組み合わせは最高の
マリアージュ!VR能「攻殻機動隊」再
演記念対談インタビュー

8月に世田谷パブリックシアターにて講演したVR能「攻殻機動隊」の再演が決定。伝統芸能と最先端技術のコラボにより誕生した、伝統を超えた電脳の世界、誰も見たことのない世界へと誘われるVR「攻殻機動隊」。11月の東京芸術劇場プレイハウスでの再演を前に、演出の奥秀太郎、前回に続いての出演となる観世流能楽師の坂口貴信、今回が初出演となる観世三郎太にインタビュー。能と「攻殻機動隊」との組み合わせで伝えたいテーマや新たに発見したこと、二つの組み合わせの相性について、それぞれの立場から感じたことを伺った。

――「攻殻機動隊」との組み合わせとして、伝統芸能の中でも能に行き着いた理由を教えて下さい。
奥:これはもう神の導きですね(笑)。3Dを使って「攻殻機動隊」の舞台をやっていたときに、3D映像を使った舞台演出のお話があり、宮本亜門さんとのご縁から、坂口さんとのGINZA SIX観世能楽堂での「スペクタクル3D能『平家物語』」をやらせていただきました。ご縁が重なったと改めて実感しています。能との出会いは中学校の観賞会だったと思います。そのころから能に対して「本当に素敵だな」という憧れのようなものを抱いていました。新潟のりゅーとぴあ(能楽堂)にも通っていって、演出や映像で何かできないかなという気持ちはずっと持っていましたね。そうこうしているうちに行き着いたという感じです。
――伝統芸能もアニメも好きなのですが、今回のような新しい組み合わせが出てくると、一瞬「ん?」と思うこともあります。もちろんそこから「おぉ!」に変わることもちろん多いのですが……。伝統芸能に携わる立場として、VR能「攻殻機動隊」の企画を聞いたときの、率直な感想を教えてください。
坂口:映像を使って演出することに関しては、あまり抵抗がなくやっていました。それは能舞台ではなく、映像を使う舞台という認識だったからです。しかし、今回は新作ですし、原作は漫画ということだったので、いつもとは違う感覚になりました。というのも、私自身「攻殻機動隊」という作品を知らなかったので、どんな作品になるのかを想像できなかったというのが一番大きいかもしれません。でも奥さんが「絶対おもしろくなるから!」と力説するので、「じゃあ、やりますか」ということで、ね(笑)。
奥:アハハハハ。
坂口:新しいことをする時には必ずお家元にご相談しなければいけません。今回もお家元にお話したところ、「漫画のことはよくわからないけれど、原作の方にご相談して、原作に忠実にきちんとやりなさい」というお言葉をいただきました。「能の台本として成り立つものを書いていただかないとできません」と奥さんに伝えて、形になっていったという経緯があります。
観世:私は能楽師でもあり、大学生でもあるので、どちらの立場からも思うところがありました。能楽師としては「できるのかな」という率直な疑問が浮かびました。大学生としては「おもしろそうだな」という気持ちになりました。
――伝統芸能✕アニメ(サブカルチャー)という組み合わせが増えている流れや風潮をどう捉えていますか?
坂口貴信
坂口:能の世界でも、漫画を取り上げている新作はこれまでもありました。ですが、私自身もちょっとそういうものにアレルギーがなかったといえば嘘になるかもしれません。古典を重視するという教育をずっと受けてきていましたからね。でも、能の世界を広める、能を世界に広めていくためには、こういう組み合わせも必要なのではないかとは思っています。組み合わせることが主になるのではなく、自分たちが今までやってきたことを「より多くの人たちに理解してもらえるための窓口にする」というスタンスは崩してはいけないと思っています。
観世:能は敷居が高いと思われがちです。それは大学生という立場で友達を舞台に誘うときにも実感しています。「攻殻機動隊」とコラボすることで少しでも能が身近な存在になってくれれば良いなと思っております。実際に「攻殻機動隊」とのコラボの話をしたら、「観に行きたい」と言ってくれた友達が何人もいたので、若い世代に受け入れるためには、こういったチャレンジも必要だということを改めて考えるようになりました。
奥:古典芸能とポップカルチャーの組み合わせはいろいろありますが、能と「攻殻機動隊」以上の組み合わせは思いつきません、最高のマリアージュだと断言できます。「攻殻機動隊」の根底には能から受けた影響もたくさんありますし、能は日本の数多くの伝統芸能の大本になっているものであり、伝統芸能の筆頭です。「攻殻機動隊」という漫画の世界で描きたかったものとリンクする部分が非常に多いと感じています。世界中にファンのいる「攻殻機動隊」と、日本が誇る伝統芸能の筆頭。日本発、しかも最高の組み合わせから生まれる新しいものに期待もしていますし、意気込んで作り上げているところです。
――「攻殻機動隊」以外の組み合わせは考えられなかったわけですね。
奥:心の広いみなさんのおかげで最高の組み合わせが実現したことに、心から感謝しています。一生この演目だけやっていてもいいと思うほど、完璧な組み合わせだと思っています。これ以上のコンテンツは日本にも世界にもない、自分にとっては頂点のような存在です。
――「攻殻機動隊」が大好きな奥さんが、一番惹かれるポイントを教えてください。
奥:義体化された中には魂しか残っていないという根本的な発想は、能と素晴らしく合うと思っています。あとは、何といっても2.5冊しか出ていない漫画なのに、広がる世界観がとても衝撃的でした。初めて読んだのは中学3年生のときで、ちょうど「AKIRA」とかもすごく流行っていた時代。「攻殻機動隊」により惹かれたのは、女性キャラクターが登場してしかもエロスを感じる部分。中学生男子にとってはすごく大きかったですね。それでありながら、何とも切なさを感じる世界観に魅力を感じていました。
――坂口さん、観世さんは「攻殻機動隊」にはどんな印象を持っていましたか?
坂口:藤咲先生が書いた脚本を七五調に直して、能本にしたものを読んだだけです。というのも、私の論理として「攻殻機動隊」を知らない人が観ても分かる舞台にしなきゃいけないと思うからです。「攻殻機動隊」の世界はみなさんの方が良く知っている。私がやるべきことは、能でどう表現するのか、どんな場面なのかを理解することだと思っています。例えば、「葵上」をやるときに「源氏物語」を全部理解しているかと言われたら、そうではありません。演じる私たちもその場面しか知らないことも多くあります。しかし、深く感動できるよう演じています。私が思うVR能「攻殻機動隊」のテーマは似たような見た目の人がたくさんいる中で、最終的には個はひとつしかないということです。それを私が最後に謡うセリフ「素子はただひとり」が表していると思っています。見た目は見た目であって、中身は誰一人として同じ人はいないという思いで演じています。
観世:出演のお話をいただいて、原作を読もうとは思ったのですが、実はまだ読むことができていません。舞台は11月なのでお稽古が始まるまでには、原作はもちろん、時間があれば、アニメや映画も観られたらとは思っています。
――8月の公演を観たときの感想を教えてください。
観世三郎太
観世:とにかく全部が素晴らしかったです。個人的に好きだったのは、素子2が3人くらいに増えているところ。普段の能ではありえないことなので、どういう風になっているのだろう、すごいなと思い覗き込んでしまいました(笑)
――そのときは、能楽師、大学生どちらの目線で観ていたのでしょうか?
観世:常に能楽師、大学生、両方の目線で見ることを大切にしています。ただ今回は、せっかくの「攻殻機動隊」とのコラボで、同世代の方へ能の魅力を広げられるチャンスですので、大学生として観て、その感覚を持って広めていくことを心がけました。若い人へ広く伝えていくためには、大学生の感覚で発信したいと思っています。
――歴史のある世界の中で、とても柔軟な考え方ですね。
坂口:そういう意味では、お家元がこれから流儀を代表していく立場である三郎太さんの出演をよく許してくださったなと思います。若い人たちが見てくれないと、生き残れないですからね。新しい挑戦をしていく試みを組み入れていこうという考えを、先生もお持ちなのかなと感じています。
――伝統芸能にとって残すことはとても大切ですよね。
観世:お客さんありきのものなので。より良いものにすることはもちろんなのですが、お客さんに観ていただいてこそだと思っています。だからこそ、お客さんの意見も大事だと感じています。
坂口:栄えることよりも続けることが大事な世界で、自分の代で潰すことのないようにしなければいけません。一代、一代、責任を持って三郎太さんで27代まで続いてきているわけですから。そういった中で、大きな変革の時代を迎えているという実感はあります。
――伝統芸能✕最先端技術の組み合わせとなれば、ディスカッションも多かったのではないでしょうか?
奥:演出する立場としてはプレッシャーはありましたが、本当に懐の深い方ばかりで、感謝しかありません。
坂口:今回最後まで相談を重ねたのはカツラをつけることですね。最後まで反対していました。昔ながらの能面にあのカツラは似合わないと思いました。だいぶ自分の中で葛藤した部分ではありましたね。
観世:カツラと面は能楽師としては「おっ?」と思いましたが、大学生としては「なかなかおもしろいし、合うな」と見入ってしまいました。私自身も能楽の世界に身を置いていますが、まだ21歳大学生なので、いつも2つの意見の中で葛藤しています。
坂口:三郎太さんのこういう感覚を大事にしたいと思っています。
観世:先生(父・二十六世観世宗家 観世清和)からは、普段から「広い世界を見なさい」と言われているので、こういった交流も含めて、いろいろな世界を見ることを大切にしていきたいです。
――カツラ以外に葛藤を感じたアイテムや演出はありましたか?
坂口:とにかくカツラは最後までどうしても「大丈夫かな」という不安があったのですが、奥さんが「すっごい綺麗です」ってほめ殺してくるので、納得した感じですかね(笑)。
奥:衣装もとても価値のあるものを使わせていただいたので、今できる最高のカツラと能面の組み合わせを試行錯誤しました。衣装に合わせて色味などを時代を感じるものにしたりなど、本当に大変でした。顔の形や目の位置、鼻の高さなどこだわる部分も多かったので。
坂口:能面の素材は何でできているのですか?
奥:今回は樹脂ですね。
坂口:普通は檜を掘るわけですよ。新しい面を作るというのは聞いていたけれど、樹脂素材を持ってきた。最初はなんでこんなにと思うくらい臭くて、初めての感覚だったので、それも戸惑いましたし、なんでこんなもの作ったのかとも思いました(笑)。
奥:近い将来、木にします。
――世界に持っていく場合には、本物で伝えていかないとですよね。
奥:いずれそうなっていくべく、木素材にする道のりを探っていきます。回を重ねるごとに進化していくので期待してください。
――能と「攻殻機動隊」の組み合わせで発見したことはありましたか?
奥秀太郎
奥:この組み合わせでしかできないことだらけです。他の組み合わせがあるなら教えて欲しいですし「やれるもんならやってみな!」という気持ちになるほど、この上なくありがたいコラボです。
坂口:原作は、話を聞いているだけでも、複雑で難しいという印象があります。絵だけを見て理解できるという類ではなく、もう漫画というものを超えているような気がします。だって、めちゃくちゃいっぱい文字が書いてあるから、何度も読み返さないと理解できないですよね。そういう意味では能が好きな人と通じるものがある気がしています。それでなくても難しい「攻殻機動隊」の世界を能の七語調、古語にすることは、よりわかりにくくているわけで。それを理解しようとする人はマニアックという点で共通点があるので、どちらのファンにも楽しんでもらえる気がしています。
観世:観る立場では発見したことはたくさんありました。というより、普段の能の舞台にはないものばかりなので、発見だらけでした。今度は出演する側として、まずはお稽古の中から見つけていきたいと思っています。
奥:全く新しい演劇体験、全く新しい舞台体験にたどり着けたらいいなと考えています。今回開発した「ゴーストグラム」というシステムも、今後良い形で進化させたいと思っています。再演といっていますが、かなりリニューアルしているので、さらに新たな発見が期待できるはずです。
――リニューアルされているのですね。
坂口:前回と一緒って言ってたじゃない、聞いてないよ(笑)。
奥:私にとっての再演は同じものをもう一度というのではありません。これまで関わってきたものはすべてリニューアルしていますから(笑)。
観世:(笑)。
坂口:新しいものを取り入れると「こうしたいんですよ」ってすぐに相談に来るんですよ。そしてまた私の葛藤が……。
奥:今回は世界最大のあるものが登場します。「攻殻機動隊と能を繋VR、あの世とこの世、彼岸と此岸、虚と実を繋ぐ能楽の未来形である。」とコメントしてくださった野村萬斎さんが「戦闘シーンが観たい」とおっしゃたので、ぜひ実現したいと思い、今いろいろと検討しているところです。再演だけどバージョンアップという形でどんどん進化させていきたいです。
――コロナ禍では、舞台などでの表現方法にもいろいろと変化や難しさが出てきたのではないでしょうか。
奥:最強の出演者と最高のスタッフが揃っていいます。コロナに打ち勝つ9課が出来上がっているので、どのような状況になっても素晴らしいものが届けられると信じています。
坂口:8月の公演は時期が時期だったので、大丈夫かなと思いました。
奥:みなさんがいたのでできたところはあるのですが、なんとかしてやめて欲しいという声があったのも事実です。ただ、演者もマスクをしてというけれど、すでに実際にマスク(能面)をしているし。客席との距離、演者同士の距離を置くことも、この演目ではクリアする条件が整いすぎているんです。
坂口:舞台上には4人しかいないしね。その心配はなかったけれど、お客さんがきてくれるかどうか、それが一番気になりました。でも、あの時期いろいろな舞台が飛んでしまっていたので、さまざまな媒体で大きく取り上げられたこともあり、いい宣伝になりました(笑)
奥:この舞台で、コロナに打ち勝つ勇気を多くの方と共有したいと思います。
――では最後に。VR能「攻殻機動隊」で伝えたいことを教えてください。
坂口:オリジナリティというものが多様化していく中で、世界に広がる「攻殻機動隊」の力を借りながら、能の美意識や不滅性などを発信していきたいと思っています。
観世:今回は一から勉強させていただく気持ちでいます。奥さんや坂口さん、この舞台に関わる方たちの考え方や、どう作り上げていくのかをしっかりと見させていただき、吸収したいと思っています。もちろん、お客さんの感想も楽しみです。
奥:屍を乗り越えて次の時代を生きていきたいというのがテーマというか、目標だと思っています。
観世:能もそうですが、人間が演じているので1回目と2回目では違いが出てきます。そういうところも観て欲しいポイントです。
坂口:意外と見た感じはガッツリ、能です。
観世:そうですよね。能ファンの方も違和感なく観られると思います。
取材・文/タナカシノブ

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