谷原章介、東山紀之とともに舞台版『
チョコレートドーナツ』に挑む その
心境とは

実話をもとに映画化され、日本でも反響を呼んだ『チョコレートドーナツ』は、1979年のウェスト・ハリウッドを舞台に、育児放棄された障がいをもつ子供を育てるべく、男性カップルが差別に負けず奮闘する物語。この作品が、世界で初めて日本で舞台化されることになった。演出は宮本亞門、翻案・脚本を手がけるのは谷賢一。映画版ではアラン・カミングが熱演した主人公ルディを東山紀之がつとめ、彼と共に闘う検察官ポールを谷原章介が演じる。谷原に作品への意気込みを訊いた。
ーー世界初の舞台版へのご出演となります。
今回、ダウン症のある少年マルコ役で、実際にダウン症のある高橋永くんと丹下開登くんがダブルキャストで出演されるということで、ぜひご一緒したいと思いました。ポスター撮影のとき高橋くんにはお会いしたんですが、すごくセンシティブで、やわらかい印象があって、稽古場や本番、本番前にはコミュニケーションをしっかりとっていきたいなと。東山さんはじめ、キャストは芸達者な方ばかりがそろっているなと感じます。マルコ役の高橋くん、丹下くんを中心に、ルディとポールで三人でファミリーを作る、そして、カンパニーとして、共に楽しみ、エネルギーを与え合うということを大事にしたいです。​
谷原章介 
ーー映画版と舞台版では異なる趣向も凝らされています。
映画版は2014年の劇場公開時に観ているんですが、これが本当に実話だったのか……ということにとても驚きを感じました。そして、2020年になっても、セクシャル・マイノリティの方への理解が進んでいるかというとそうでもなくて。2020年の今でもこれだけつらい状況があるのだとしたら、40年前、1970年代後半はいったいどんな状況だったんだろうと。強い差別意識をもつ人たちが多い中、ルディが自分の思いを強く主張し、マルコとポールと家族を作ろうとする、そのエネルギーにすごく魅せられました。ポールは真面目でピュアな人で、社会規範に強く縛られているところもあって。そして、舞台版のポールは、映画版とは異なり、語り部的な役割を与えられているんです。あくまでストーリーの中に存在しているルディがいて、そのルディに協力して助けて見守っているポールと、お客さんとの間に立って、世の中、今の状況はこうなっているんです、ということを客観視しているポールがいるという感じです。ルディにはけっこう理不尽なところもあるのですが、その理不尽さについていくためにも、ルディへの強い憧れであったり、強い愛情であったり、ルディの一番のファンであることが、今回ポールを演じる上でのキーかなと思っています。
また、舞台版は映画版よりさらにショーアップされている印象です。映画は、ショーパブでのシーンは数も長さもそんなにないですが、今回、曲数も増えて長くなります。そこに、ショーアップして見せたいという亞門さんの意図を感じました。亞門さんがおっしゃっていたのが、ただのつらいストーリーにはしたくない、観客の皆さんにはエンターテインメントとして楽しんでいただいて、その裏にはこういうストーリーが実話としてあったという、その二つの側面を提示したいと。70年代にはさらにつらい状況があったということから、ひるがえって、今の状況を考えるきっかけにしてほしいということをおっしゃっていました。
谷原章介 
ーー東山さんについてはいかがですか。
東山さんは、僕の中では、少年隊、「仮面舞踏会」、そこから印象が始まっているんですけど、その東山さんがドラァグクイーン姿で歌い踊るということで、それも楽しみです。かなり濃厚なシーンもあるので、楽しみだけではなく、ドキドキも。東山さんとは今回が初共演で、これまでお会いしてお話ししたこともほとんどなくて。あれだけ舞台やライブ、映画にドラマ、ニュース番組まで多方面で活躍されている方が、今回のような役に挑戦されるということで、どんな姿を見せてくださるのか楽しみです。東山さんの作品で印象に残っているのは『大岡越前』ですね。それと『必殺仕事人』。現代劇にも出演されていますが、時代劇のイメージがすごく強いです。凛とした強いたたずまいのイメージがあるので、そこは、ルディの強さとリンクするところでもありますね。ただ、東山さんはストイックで真面目なイメージなのですが、ルディはもっと荒々しくてだらしなくて理路整然としていない感じなんです。そういう役柄を、あれだけ端正でストイックな東山さんがどう演じるのか、楽しみです。
ーー演出の亞門さんについてはいかがですか。
誠実でやわらかで、いろいろな人の意見をちゃんと受け止めて、それを一つの形にまとめあげられる方ですね。作品を観ての印象は、本当に華やか。今回はいわゆるミュージカルとは違いますが、かなりショーアップされています。ただ、僕はそこには出ていなくて、店で観客として観ているという設定なんです。亞門さんが、今回のように重いテーマの作品とどう向き合われるのか、楽しみです。​
ーーこれまで男性を愛する役どころも多く演じてきていらっしゃいます。
デビューして数年後に、映画『デボラがライバル』でデボラ役を演じたんです。そのころから、セクシャル・マイノリティの問題に興味があって、いろいろな書籍や雑誌を読んで勉強しました。10代のころから、映画にしても、『さらば、わが愛/覇王別姫』であったり、『アナザー・カントリー』『モーリス』といった作品を多く観てきましたね。デボラを演じたときは、勉強のため、いろいろなショーパブに行きましたし、仲の良い友人もいます。そこから学びましたが、人は決して一人ではいられない。寄り添って家族を作りたいものなんだと思うんです。今回の物語もそういうところを描いていますよね。
谷原章介 
ーー谷原さんは「うたコン」をはじめ、司会も数多くつとめていらっしゃいますが、今回の役どころではその経験も生きそうですね。
司会をしていて得たことが役者として生きることがあります。司会はいつもどこか客観的なところにいなくてはいけないところがあるので、今回の役にも共通するところがあるかもしれません。ドキュメンタリーのナレーションをやらせていただく機会も多いですが、主役はあくまで、取材をされている対象と、それを観ている視聴者だと思うんです。その間をつなぐのがナレーターであって、ナレーター自身が自分の感情を移入したり、ここは感動するところだよと感情を押し出してしまったり、観客より先に感極まってしまったり、取材対象に踏み込んでしまったりすると、すべては瓦解してしまうと思うんです。だから、今回のポールも、語り部として登場しているシーンは抑えていかなくちゃいけないなと思っています。ただ、裁判になってからのシーン、そして語り部としての最後の部分はそういうところをとっぱらっていいのかなと。そのあたり、見せ方も全然変わってくるんじゃないかなと思っています。映画版と舞台版とでは台本も全然違うなという印象です。フォーカスされている部分が違うのと、ショーアップして差し込んでいる音楽のシーンが多いからかもしれません。ただ、底辺に流れるルディの強さ、支離滅裂だけれども強い愛情、そしてポールとマルコと三人で幸せな家族を作っていった愛、その愛が世間の無理解によって踏みにじられる様、線はしっかり通っているなと思いました。今回、映画版はもう見ないようにしようと思っています。もともと、原作のある作品に出演するときは、改めて原作は読まないようにしているんです。読んでしまったとき、そちらに引っ張られて大変だったことがあったので。今回も、映画版は映画版としてリスペクトしつつ、舞台版の『チョコレートドーナツ』を作り上げたいです。​
ーー新しいPARCO劇場に立たれるのは初めてですね。
地方も含め、劇場がどんどん閉まっていっている中で、パルコさんがこうやって文化貢献するという使命を持ち続けていらっしゃることがとてもうれしいです。そういう意味でも僕たちも頑張って発信していかなくてはいけないなと、新しい劇場に足を踏み入れて強く思いましたね。すごくいい劇場なので。声を出して響かせたらどんな感じなんだろう、お客さんでいっぱいになったらどんな感じなんだろうと、すごく楽しみです。年に一度はわがままで舞台をやらせていただいているんです。わがままというのは、マネージメント・サイドに対してもそうですし、僕は生のレギュラー番組があるので、どうしても普段の舞台とは変則的な公演になってしまうので、制作の方々に対しても申し訳ないなと思いますし。それでもなぜ僕は舞台をやるかというと、映像ってどちらかというと消費する作業なんです。稽古もほとんどない中、監督の指示のもと、ヨーイドンで、一瞬で、共演者みんなが持ち寄ったもので作るんです。もちろんいいものができることもあるんですが、「ああ、何か7割くらいかな、6割くらいかな」と思ったりもして。プロですからなるべく精度は上げていきたいですが、なかなか難しいことなんです。ただ、それがDVDとしてパッケージになってしまったりする。舞台の場合は、1か月間みっちり稽古できて、言葉の意味、解釈、文脈、行間、いろいろなことを試して、自分なりに、ああこれが最大の答えだということを出す。その作業を通じて、僕はすごくいろいろなエネルギーをもらえるんです。そして、その日、舞台で大失敗したとしても、次の日、違うお客様の前で、もう一回トライできる。その意味で、映像よりも厳しく、でも、温かいと思っていて。ここまで同じことをやってやり尽くした後で、毎回新鮮にお芝居をするということは、実はとても難しいこと。そういった意味で、役者としての楽しみは舞台にあるのかなと思っています。そして、演技はなぞらないようにしています。舞台のときは、特に。映像でもそうなんですが、リハーサルとかで、「あ、今のだよね」って、すごくいいものができる瞬間、それをみんなが認識するときがあるんです。でも、それを、「さっきやった間は、テンポは、強さはこうだったな」と思い描いてやると、似て非なるものができるんです。だから、なぞらない。新たな気持ちで演じることにしています。​
谷原章介 
ーー谷原さんといえば美声で有名ですが、どんなケアをされているんですか。
何もしてないです。枯れたりもしますけれども、枯れても9割、8割、7割程度で、1割まで行くことはないです。7割前後でとどまるというか。不思議なもので、ナレーションのとき、その前にご飯を食べると喉がガサガサになるんです。だから、ご飯を食べないようにしています。舞台に入ると、うがいをしたり、プロポリスを摂取したりとかしますが、基本は無頓着です。いつか痛い目にあうかもしれません(笑)。
ーー7割、8割、9割というのはどう認識されているんですか。
僕はもともとモデルをやっていたので、今どういうポーズをしていて、それがファインダーの向こうからどう見えているか、イメージするんです。その客観視が役者として大事だなと思いますね。それと同じことだと思います。音で伝える上で、役者として唯一の武器ですから。
ーー今回、コロナ禍での上演となります。
舞台上の役者はマスクをしていないので、こわいと思われる方もいるかもしれない。でも、それでも観たいと思わせるだけのエネルギーを僕ら役者は舞台上から出していかなくてはいけないと思います。こわい気持ちを吹き飛ばすような舞台にしたいですね。画面を通してでもなんとか成立するものもあるかもしれない。でも、最終的には、直に会って人とふれ合わないと、人はおかしくなると思うんです。ぜひ、直に、生の舞台を楽しみにいらしてください。
谷原章介 
スタイリスト=澤田美幸
ヘアメイク=川端富生
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=池上夢貢

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