藤原さくら『SUPERMARKET』。自由奔
放な音楽表現が開花した飛躍作
果たして完成したアルバムでは、ジプシー風のアレンジで聴かせる「spell on me」や、藤原さくらのラップが聴けるmabanuaプロデュースの「Right and light」、ミステリアスな余韻を持った「コンクール」、ミニマルな演奏が緊張感を醸し出す「marionette」など、見事に彼女の可能性を押し広げたものになっている。それでいて統一感が失われないのは、彼女の歌にそれだけの包容力と表現力が備わっているからだろう。様々なフィールドで活躍するミュージシャンを招きながら、本作の彼女はかつてなく音楽家としての自由を謳歌している。
さて、冒頭のリード曲「Super good」は、Vulfpeckを一層華やかにしたような小気味良いファンクであり、本作のポジティブなバイブスを印象付ける1曲だ。Ovallによる柔らかい演奏は、人を癒す力と笑顔にさせる力の両方があるように思う。これまでも制作やライブを共にしてきた経緯もあり、彼女の魅力を引き出すには盤石な布陣だ。この曲のムードに引っ張られて、『SUPERMARKET』はめくるめく音楽絵巻を展開していく。
佳曲揃いの本作の中でも、一際惹かれたのが「生活」と「ゆめのなか」だ。前者は<自炊なんて最初だけだし/思考キャパオーバー 片手でUber>といった生活感溢れるリリックを、VaVaの作るメロウなトラックに乗せて歌う新機軸。奔放な冒険心を見せる本作を象徴する1曲だと言えるだろう。
一方「ゆめのなか」は、本作では数少ないソングオリエンテッドなポップソングである。こちらは挑戦的なアルバムとなった『SUPERMARKET』において、彼女の芯にある魅力を伝える楽曲になっているように思う。この曲におけるストーリー性のあるイントロと、深みのある色音、さらにはサビで開ける構成からは澤部渡の仕事の素晴らしさが伺えるだろう。
そして歌詞である。<あなたに冷たくしてしまうのは/「なんとなく」理由なんてない>で始まり、<好きか嫌いかで言ったら嫌い/いつもうるさいし/嫌いなのかって聞かれたら違うんだ>というラインを歌うこの曲は、近しい関係の愛しくも煩わしい関係性を表現した素晴らしい楽曲である。もしかしたら家族かもしれないし、もしかしたら恋人かもしれない、誰もがそうした親しい人がいるだろう。サビで綴られる<まっすぐに生きていたいな>、<大切にしてあげたいな>という言葉には、近しい人こそ傷つけてしまう情けない性と、それでもふとした時に想わずにはいられない我々の心の有様を感じずにはいられない。さり気なく花を添えるパーカッションは、この曲の登場人物の関係性を祝福するようで、風通しの良い音色も含めてきっと長く愛される曲になるのではないだろうか。
まさしくスーパーマーケットのような色とりどりの楽曲が並ぶ中、このアルバムの最後は1分半ほどの弾き語り「楽園」で閉じられる。いろんな文化を旅してみた後、最後の最後で彼女のパーソナルスペースに招かれたような、そんなラストである。言葉数は少ないが、歌詞のテーマは出会いと別れ、そして寂しさを背負ったまま進んでいこうという希望だろうか。ノスタルジックな気分を持った楽曲で、スモーキーな彼女の声は憂いを歌うのによく映える。
この1曲を聴き終えた後、もう一度このアルバムを再生してみる。するとどうだろう、「Super good」ではこんな言葉が聴こえてくる。<Your future will be brighter than yesterday>、そして<Your don’t need cry/I’ll be alright>であると。昨日と明日と繋ぐ歌、人と人を繋ぐ歌、そして変わり続ける音楽性、『SUPERMARKET』は人生に寄り添うようなアルバムなのだと思う。本作が投げかけるポジティブなフィーリングに癒され、励まされる。
黒田隆太朗