Editor's Talk Session

Editor's Talk Session

【Editor's Talk Session】
今月のテーマ:コロナ禍でも
活動し続けるライヴハウスと
バンドマンの本音

音楽に関するさまざなテーマを掲げて、編集部員がトークセッションを繰り広げる本企画。第11回目のゲストは、9月に会社の独立を決断した新宿Marble店長の鈴木賢介氏と、3markets[ ]のカザマタカフミ(Vo&Gu)。コロナ禍でも精力的に活動を続けるふたりだが、配信ライヴが増え続けるのと同時にライヴハウスでの生ライヴが再開されてきた現状をどう感じているのだろうか?
座談会参加者
    • ■石田博嗣
    • 大阪での音楽雑誌等の編集者を経て、music UP’s&OKMusicに関わるように。編集長だったり、ライターだったり、営業だったり、猫好きだったり…いろいろ。
    • ■千々和 香苗
    • 学生の頃からライヴハウスで自主企画を行なったり、実費でフリーマガジンを制作するなど手探りに活動し、現在はmusic UP’s&OKMusicにて奮闘中。マイブームは韓国ドラマ。
    • ■鈴木賢介
    • 2004年のオープン時にライヴハウス新宿Marbleにアルバイトで入社し、09年に店長に就任。コロナ禍を受け存続危機に陥るも20年9月に経営会社から新宿Marbleとともに独立。
    • ■カザマタカフミ
    • 新潟生まれ、長野育ち。不安が具現化されたような人間。石橋を叩くだけ叩いて渡らない、ひどい時は石橋が崩れ落ちるまで叩く臆病なバンドマン。

コロナ禍でもライヴに来る
その価値を返せているのか

千々和
新型コロナウイルス感染拡大の影響で4月に緊急事態宣言が出され、世の中の状況が変わりましたが、3月~4月頃はそれぞれどのような活動をされていましたか?
鈴木
東京都知事から外出自粛要請が出たあと、3月28日に新宿Marbleで3markets[ ](以下、スリマ)のライヴがあったんだよね。
カザマ
その日がツアー東京公演の初日だったんです。あの時の新宿は誰も歩いていなくてすごかったですよね。なんか…つらかった。
鈴木
そうだったね。でも、あのライヴがあって新宿Marbleの考え方が変わりました。チケットは100枚以上売れていたんですけど、会場に来たのは30人くらいだったんですよ。そんなこと今までになかったから、“コロナとはこういうことか!?”と実感しましたね。その前までは、コロナの重大性にそこまで気づいてなかったし、“みんな影響受けすぎだよ”とか思っていたので。
石田
その頃は、みんな夏くらいに終息すると思ってましたからね。
鈴木
はい。でも、その日に“これは違うぞ”と思って。そこからの公演も中止や延期にシフトする考え方に変わりました。
カザマ
志村けんさんの訃報が出たのもきっかけですよね。それが一番大きかった気がする。身近な人が死なないと人ってあまり危機感を持たないじゃないですか。志村けんさんはみんなにとって身近な人だったから、そこで初めて危機感を持った気がしました。バンドをやってる側からしたら、最初は別にコロナは怖くなくて。そもそも“人生終わってるからいつ死んでもいいじゃん”というスタンスで活動をしているので。だから、“来たい奴が来ればいい”という考えでライヴをしていたのですが、コロナ禍になって人が会場に来ないのを目の当たりにして、“あぁ、バンドが終わるんだな”という感覚が日に日に強くなっていきました。
石田
自分の意思でバンドを終わらせるのではなく、終わらされるという恐怖みたいなものがあった?
カザマ
そうですね。でも、“コロナのせいだ”と言って終われるならそれはそれでありがたい話だと思いますけど。
千々和
スリマは今年の5月に予定していたSHIBUYA CLUB QUATTRO公演が2度延期になって、2021年5月27日に開催予定になりましたね。
カザマ
僕は最後まで開催したい派だったんですよ。お客さんが来なかったら“コロナのせいにできる”という気持ちもあったので。でも、やっぱりバンドとしての考えは違ってて、メンバーひとりでもやりたくない人がいるならライヴはできないから延期になったんです。コロナが流行り出した時にTwitterで“死んでも開催する”と言ったことに対して嘘をつくことになったのが、自分的には一番ショックでしたね。“やる!”と言ったことは基本的に実現しなきゃいけないと思っていたので…周りからしたらどうでもいいかもしれないですけど、僕の中では何かが崩れていったんですよ。
千々和
今もそうですけど、特にその頃はバンド側もライヴハウスもライヴができるかどうかの判断基準が分からなかったですよね。
カザマ
そういう意味では、今まさにライヴハウスはとても大変だと思っています。今までライヴはライヴハウスでやるという考えだったのが、コロナの影響で配信をするようになって“家でもできるじゃん!”という考えになったし、実際に僕も配信機材を揃えたんですけど、やっぱり“ライヴハウスでやる意味ってどこにあるんだろう?”と思ったんで。僕らはライヴハウスでライヴをしていたから生でやる意味を知ってるけど、若い子たちの中でライヴハウスへ行くという文化がなくなることが一番怖いですね。鈴木さんはどうやって若い子たちを取り入れようとしてるんですか?
鈴木
僕、ニュース番組の報道は炎上させるだけで意味がないと思ってるから、ほとんど観てないんですよ。自分がリアルで体感している感覚から新宿Marbleのルールを決めていて、考えが違う人がいるのを認めているので“嫌な人は来なくていい”っていう考えでやっています。結局、誰かが若いバンドの居場所を作っていかないとカザマさんが懸念しているように、2年後、3年後にはライヴハウスに若い子がいない状態になると思うんです。でも、僕が思うに若い子たちは全然諦めてないですよ。ライヴができるタイミングをうかがってるだけで、親に反対されても続けたいと思っている子たちはいますよ。これからも変わらずにその子たちのやる気を見守りながら一緒に頑張っていきたいと思っています。あと配信が飽和状態なのを痛感してるので、やめるとまでは言わないけど、今までは全公演に配信をつけようと思っていたのを、今後は極端に言うと1割くらいに減らそうと思ってます。周りの目や意見に負けず、普通にライヴハウスを営業していくことで“もうライヴハウスは動いてますよ”と発信して世間に風穴を開け続けていれば、それがバンドたちにもお客さんにも伝わってまた戻ってくると信じてます。で、ちょうど今朝考えていたのが、“みんな帰ってきてよ”みたいな企画をやりたいなと。1カ月間フリーライヴをやりたいんですよね。
カザマ
お客さん対してってことですか?
鈴木
そう、お客さんに。人数制限はもちろんあるんだけど。
カザマ
お金は大丈夫なんですか?
鈴木
そこをどうしようか考え中で(笑)。でも、お金に関してはあとで返ってくると思うんですよね。
カザマ
素晴らしい考えですね。
鈴木
ここで大きな赤字を負ってでもやらないと、現状は大きくは変わらないと思うんですよ。“1カ月間フリーライヴやる”と言えば叩く人もいるだろうけど、“もう状況は変わってるんだ”って思ってくれる人がいて、またライヴハウスに行くっていう流れが作れたらいいなと。
カザマ
いいですね。“ライヴハウスに帰ってくる”ってことで、解散したバンドだけを集めてイベントをしたいですね。
鈴木
ここで返ってくるんですか! そんなバンドがいたらすごいですよ(笑)。
石田
でも、そこまで大きなことをしないと話題にならないし、ライヴハウスに行こうと思ってもらえないでしょうね。ライヴハウスそのものだけじゃなく、その道中も危ないから外に出たくないという人も少なからずいるので。
カザマ
僕はずっと外に出ていなくて、本当に人に会うのが憂鬱で仕方ないんですよ。この半年間で、コロナじゃなくて人が怖くなりましたから。こういう人が増えてるんじゃないかと思ってたんですけど、先日久しぶりに有観客でライヴをやったら人が来ちゃって、まったくパフォーマンスができなかったです。告知しないでやったからファンにしてみれば最悪なんですけど、僕には人前に出ることへの恐怖みたいなものがあって…それこそライヴするごとに“俺、大丈夫かな?”と考えたりするので。まぁ、この考えはごく稀でしょうけど。
石田
でも、そういう考えを持っているバンドマンはいるかもしれない。外に出ず、ずっと家に引きこもっているから、どんどんと内側にこもってしまって、人前に出るのが怖い…それこそライヴをするのが怖いと思えてくるとか。そもそも音楽を作ってる人って引きこもり体質だから、それに拍車がかかったみたいな。
カザマ
そうですね。“今までどうやってライヴしてたかな?”ってなりました。配信はやってる中で経験値が上がっていくけど、人前でやるのとは別なものに感じてて。だから、生でライヴをやると興奮しすぎちゃって声が全然出なくなって、呼吸すらできなくなり…本当に倒れるかと思いましたから。本気でバンドを辞めようと思ったくらいだったので。
千々和
10年以上やってたライヴが急になくなったわけですからね。逆に配信ライヴはやりやすかったんですか?
カザマ
配信ライヴに向けた練習もしてたのでやりやすかったですね。でも、もっと未来に光が欲しいと思います。それは自分で考えることなんですけど、今まではライヴをやってるとお客さんの数で自分には未来があるんじゃないかと思えることがあったのに、最近は“なんて音楽業界って未来がないんだ!”と思うんですよ。世の中が一瞬止まった時に音楽の可能性はもっと広がって、表現の場はライヴハウスだけじゃないという考えが出てきて…今、そうやって増えすぎた価値観をどうしたらいいのか分からなくなって悩んでいます。
石田
配信をやるようになったから生ライヴのハードルがあがったとか?
カザマ
それもあるかもしれないですね。配信で観てたお客さんが会場に来たとして、生のライヴなんて一瞬じゃないですか。お金も高いし。なので、コロナ禍でも来てくれた人に対して、それ相応の価値観で返したいのに“ちゃんと返せなかったら…”という点でハードルが上がっているというか。だから、この前のライヴはすごく後悔しました。みんなに申し訳なくて、“お金を返します”って最後に言いましたから。
鈴木
僕は4月くらいからコロナに対する考え方について周りとディスカッションすることをやめたんですよ。もめるだけなんで。みんな価値観が違うし、過敏にならざるを得ない環境の方もいて、その一方で“大丈夫だろう”と言ってる方もいて。僕はひとり暮らしだし、家族ともコロナの間は会わないと決めてるので、新宿Marble以外ではほとんど誰とも会っていないんですね。自分だけを見れば二次感染を身内にさせる可能性は低いと思ってしまうんですが、例えばカザマさんがおじいちゃんと同居してたとしたら、今日こうして話すにあたり、カザマさんのことも心配をしなければいけないと指摘する人もいると思うんです。でも、自分は“それは俺が心配することじゃない”って考えるようにしたんです。“来てくれる人にも家族がいて、その家族や職場の人に感染する可能性があるんだからライヴハウスを営業するな”みたいな意見もあるけど、それは来る人が考えることだと。なぜかもとからこの場所に来ないような人に限ってそういうことを言うので、そう言う人のことは気にせず、“みんなもそれぞれで考えてください”というスタンスでライヴハウスをやっていくことに決めました。
カザマ
バタフライエフェクトですね。ここで石を投げたらブラジルのほうで大きな波が起きるぐらい、世界基準で考えている人なのかもしれない。だったら“鈴木さんにも生活があるんだから想像しろ”って言いたくなりますよ。
鈴木
結局そうなんで、それぞれが直接的に関わる範囲内で考えればいいなと。だから、ライヴハウスに行きたいという人のために、僕はライヴハウスをやらなきゃいけないと思ってます。
石田
“みんなライヴハウスにおいでよ!”じゃなくて、“開けとくので来たい人は来てください”ということですね。
鈴木
そういうことです!

OKMusic編集部

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