Bread & Butterの
名盤『Barbecue』から探る
氏らの音楽的指向と、
現在のシーンとの繋がり
新進気鋭の音楽家が支えたサウンド
決定的なのはM2「ピンク・シャドウ」とM10「メモリー」だろう。ともにブラックミュージックの要素を憚ることなく露呈している。もろにファンクであり、ソウルである。バンドサウンドでグイグイと迫っている。ギター、ベース、ドラム、パーカッション、鍵盤、コーラス。どれも50年も前の音源とは思えないほど録音状態も良く、素晴らしいテイクを聴くことができて、優れたメロディーを秀でた演奏が下支えしていることがよく分かる。それもそのはず──音楽ファンであればよくご存知のことだと思うが、『Barbecue』に参加しているミュージシャンが半端ないのだ。演者の顔触れで代表的なところを上げると、細野晴臣(Ba)、鈴木 茂(Gu)、林 立夫(Dr)、小原 礼(Ba)、斉藤ノブ(Per)、ジョン山崎(Key)、そしてコーラスで山室英美子、新居潤子(※現:山本潤子)、榊原尚美らの名前を作品クレジットに見つけることができる。ティン・パン・アレー、サディスティック・ミカ・バンド、トワ・エ・モワ、ハイ・ファイ・セットのメンバーである。安易に“はっぴいえんど史観”に寄りかかりたくないというか、このメンバーだからすごいと単純化したくはないけれども、日本のロック、ポップス創成期のバンド、グループのメンバーで、のちに邦楽シーンに圧倒的な影響を及ぼす人物たちが関わっているという事実は拭い難い。そういう音である。
メロディーはともかく、このサウンドは当時の日本には若干早すぎたのだろう。『Barbecue』がリリースされた1974年というと、井上陽水の『氷の世界』が年間アルバムチャートの1位になったり、カーペンターズのアルバムもヒットしたりした年だが、シングルは1位:殿さまキングス「なみだの操」、2位:小坂明子「あなた」、3位:中条きよし「うそ」と、流行歌はまだまだ演歌が強かった時代。フォークは大衆にしっかりと認知されていたが、ロック、ポップスはまだまだメインストリームには遠かった。そんな中で、Bread & Butterは自らの指向するメロディーセンスを貫き、当時の新進気鋭だったミュージシャンたちとともに『Barbecue』を作り上げた。詳細な資料を入手したわけではないけれど、上記のような当時の音楽シーンの情勢からすると、リアルタイムでのセールスは芳しくなかったであろう。しかしながら、そうしたふたりの姿勢、精神はのちのアーティストに受け継がれていく。山下達郎がライヴアルバム『IT'S A POPPIN' TIME』(1978年)で「ピンク・シャドウ」をカバーしたのは有名なエピソードである。また、Bread & Butterは地元・湘南でカフェを開き、そこではユーミンや南 佳孝らが集いセッションを行なっていた。当時、中学生だった桑田佳祐はそのカフェに入りたくて仕方がなかったが、勇気が出なくて入れなかったという可愛らしくも桑田氏のBread & Butterに対する敬意を感じる話もある。最近では星野 源が山下達郎のカバー、オリジナルともに「ピンク・シャドウ」が好きであることを公言したとも聞く。仮にBread & Butterがいなかったら邦楽シーンがなかった…とは言えないが、氏らの音楽性が音楽シーンの形成に大きな影響を与えたことは間違いない。
TEXT:帆苅智之