Noismが実験舞踊『春の祭典』/『Fr
atres III』プレビュー公演を本拠地
・新潟で開催、激動の1年を有終の美
で飾り新シーズン開始へ

2020年8月27日(木)、28日(金)、日本唯一の公共劇場専属舞踊団であるNoism Company Niigata(Noism)が、本拠地りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館で、Noism0+Noism1+Noism2実験舞踊vol.2『春の祭典』/『Fratres III』プレビュー公演を行った。ここでは、その様子を中心にコロナ禍においても精力的に活動するNoismの近況と展望を記したい。
■再出発からの苦境…さらなる再始動へ
Noismにとって2019/2020シーズンは激動だったに違いない。Noismは2004年の立ち上げ以降3年ごとに新潟市と契約を更新してきたが、市の財政難などの事情を受けて、2020年8月以降の活動が一時未定となった。2019年9月、2022年8月までの2年延長が決定し第6期(2019年9月~2022年8月)が始まったのは明るいニュースだった。そして2019年12月に新潟、2020年1月に埼玉で行われたNoism1+Noism0 森優貴/金森穣 Double Bill で再スタートを切った。
そんな矢先、新型コロナウイルス感染拡大により舞台芸術は苦境に追い込まれた。Noismも6~7月に予定されていた実験舞踊vol.2『春の祭典』/『Fratres III』新潟公演、東京公演、札幌公演を中止した。そうしたなかで一部旧作を期間限定無料配信した。
本公演は延期となったが、6月13日(土)、14日(日)に実験舞踊vol.2『春の祭典』/『Fratres III』の公開リハーサルを新潟県内在住の活動支援会員対象に行う。7月10日(金)~12日(日)には3月に予定していたNoism2定期公演 vol.11を振替して実施した。そして8月27日(木)、28日(金)に新潟で実験舞踊vol.2『春の祭典』/『Fratres III』プレビュー公演を行った。Noismは9月からスタートのシーズン制を採るが、1年の最後のタイミングで中止公演をプレビュー公演として形にしたのである。

『Fratres III』 撮影:村井勇

■井関佐和子と山田勇気による至高の佳作『Adagio Assai』
実験舞踊vol.2『春の祭典』/『Fratres III』プレビュー公演は、同時上演『Adagio Assai』含めすべて金森の演出振付による初演作品である。
最初の『Adagio Assai』はモーリス・ラヴェルのピアノ協奏曲 ト長調 第2楽章を用いたデュエットだ。下手から井関佐和子、上手から山田勇気があらわれる。舞曲風の直情に訴える曲調だが、彼らは容易に触れ合わない。ゆったりとした動きから上体を強く動かす動作まで緩急自在に舞台に息づく。背後の大きな幕には二人の様子が間をおいて写し出され、時空間に陰影を加える。井関と山田は、その場で湧き上がる感情や二人の距離を身体のニュアンスから繊細に物語る。やがて、それぞれ消えていく。Noism0の百戦錬磨のベテランならではの表現力が光った。
『Adagio Assai』 撮影:村井勇
■Noismの「集団」としての真価を示す『Fratres III』
続く『Fratres III』は『Adagio Assai』の切ない幕切れの余韻に続いて上演される。この作品には金森とメインカンパニーNoism1が出演。アルヴォ・ペルトの「Fratres for Violin, Stringsand Percussion」に振付されている。フラトレスとはラテン語で「親族、兄弟、同士」の意。金森は弦楽器と打楽器のための版を用い群舞作品『フラトレスI』(2019年7月初演)、ヴァイオリンとピアノのための版を使って金森自身のソロ『フラトレスII』(2019年12月初演)を創作しており、今回が三部作の最終章である。
『Fratres III』 撮影:村井勇
冒頭、舞台正面奥から金森がそろりと歩んでくる。そして金森が前で踊り、11名のアンサンブルが囲む。リフレインする音楽と共に、彼らは主従ではなく相互に影響し合うように踊り、一丸となっていく。『フラトレスI』から続けてみていると、三部作の仕掛けがなるほどこういうものだったのかと得心させられる。幕切れに米粒の雨が降り注ぐのも三作共通だ。
Noismは芸術監督で舞踊家、演出振付家でもある金森の存在抜きに語れまい。だが「同士」がいなければ成り立たない。『フラトレスIII』は、金森がしばし述べる「集団性」の真価、16年の歴史を刻んできたカンパニーの血と汗の結晶だろう。
『Fratres III』PR movie
■鋭く時代と切り結ぶ問題作実験舞踊vol.2『春の祭典』
最後は『春の祭典』である。イーゴリ・ストラヴィンスキーによる同名曲にはヴァーツラフ・ニジンスキー版(1913年)以来、多くの版がある。金森は恩師であるモーリス・ベジャールの版(1959年)、ピナ・バウシュ版(1975年)を何度も観劇しており、両巨匠の版を前にして長年着手には躊躇したと明かす(公演当日配布のプログラム)。当初、東京都交響楽団との共演が企画され、限られたスペースで踊ることを考えた際に浮かんだアイデアが"もし「春の祭典」を演奏するオーケストラが踊り出したら?"というものだったという。そして2019年に始めた実験舞踊シリーズの第2弾として「この音楽の精神、人間という生物の精神的痙攣を表現できるかもしれない。21世紀の"生贄達"を表現できるかもしれない」と考えたそうだ。
実験舞踊vol.2『春の祭典』  撮影:村井勇
冒頭、舞台前方に横に並ぶ白い椅子(須長檀)。椅子には5本の細い背が横並びについている。上下白で顔も白く塗った21名は、どこか所在無げで心が空っぽのよう。そこから、さざ波立ち亀裂を生じるような鮮烈な音楽に突き動かされ、腰をたわめたかと思うと激しく体を震わせて踊り出す。円になり誰かを囲んで持ち上げたりもする。混沌とした今の社会に生きる正気を失ったヒトの群れようで、ここでも"生贄達"が生まれる。印象的なのはダンサーたちが身体の深部から音と呼応していること。このために音楽が書かれたかのようである。
実験舞踊vol.2『春の祭典』  撮影:村井勇
数ある『春の祭典』のなかでも異色で斬新。だが人間が抱える原初的な衝動や暴力性を捉えている点はニジンスキー以来のDNAを感じさせる。同時にNoism1✕SPAC 劇的舞踊vol.4『ROMEO& JULIETS』(2018年)でシェイクスピアの恋愛劇の舞台を現代に置き換え当世の病巣をえぐりだしたように、時代と切り結ぶ創作姿勢に変わりはない。
『春の祭典』と『Fratres III』は毛色が異なるが、集団のあり方を示し問うという点では通じよう。『Adagio Assai』も含め近現代の名曲との協同作業としても充実し視聴覚に訴えた。

実験舞踊vol.2『春の祭典』PR movie

■17年目のシーズンも意欲的に活動
観劇した8月28日(金)の公演は2019/2020シーズン最後の地元・新潟での公演だった(このあと東京で「サラダ音楽祭」に出演)。客席の反応は熱かった。カーテンコール時、金森は退団する5人のダンサー(Noism1の池ヶ谷奏とタイロン・ロビンソン、Noism2の森加奈、長澤マリーヤ、橋本礼美)に花を贈った。激動のシーズンの最後にこうしてプレビュー公演を実施し、有終の美を飾り、次シーズンへつなげる機会を設けられたのは喜ばしい。
『Adagio Assai』 撮影:村井勇
Noismは9月22日より17thシーズンがスタート。新メンバー8名含む総勢25名のダンサーが公演やイベント、ワークショップなどで活動する。外部出演、地域貢献活動に対してもますます意欲的だ。カンパニー公演としては、まず12月12日(土)に豊橋で実験舞踊vol.2『春の祭典』/『Fratres III』プレビュー公演を控える。2020年1~2月には新潟・埼玉で『Duplex』Noism0 / Noism1を催し、金森がNoism0新作を、昨年に続くゲスト振付家の森優貴がNoism1新作を発表。そして2020年夏に実験舞踊vol.2『春の祭典』/『Fratres III』本公演を行う。
『Fratres III』 撮影:村井勇
2020年3月にBSN新潟放送により放送された「芸術の価値~舞踊家金森穣 16年の闘い」が第57回(2019年度)ギャラクシー賞選奨に選ばれ、9月にはBS-TBSで全国放送された。日本ではバレエやダンスが盛んではあるが、海外の舞踊団やダンサーに目が行ってしまう傾向にあろう。しかしながら金森率いるNoismは、新潟の地で16年にわたってプロフェッショナルかつ創造性豊かなダンスカンパニーとして発展し、国内外へと活動の幅を広げてきた。日本舞台芸術史上かつてない道を歩むNoismの存在と金森の目指すところが、これまで以上に広く知られつつあるのは何よりである。足元にあるかけがえのない宝物を大事にしていきたい。
文=高橋森彦

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