オルタナカントリーの
先駆けとなった
エルヴィス・コステロの
『オールモスト・ブルー』

アトラクションズの結成

デビュー作の後、コステロ専属のバックバンドが結成され、2枚目の『ジス・イヤーズ・モデル』(‘78)からアトラクションズとして参加する。メンバーは、ブルース・トーマス(Ba)、ピート・トーマス(Dr)、スティーブ・ナイーブ(Key)の3人。3枚目の『アームド・フォーセス』(’79)以降のアルバムはエルヴィス・コステロ&ザ・アトラクションズ名義でのリリースとなり、4th『ゲット・ハッピー!』(‘80)、5th『トラスト』(’81)まで、コステロの才能が炸裂する名作群が生まれる。『トラスト』にはアトラクションズをバックにして初めてのカントリーナンバー「Different Finger」が収録され、これは本作に向けてのリハーサル的な意味合いがあったのかもしれない。

実際にはピート・トーマスはカントリーロックグループのチリ・ウィリ・アンド・ザ・レッドホット・ペッパーズに在籍しており、ブルース・トーマスもクイバーというカントリーロックグループにいたので、ふたりともカントリー系のバックはお手のものである。

本作『オールモスト・ブルー』について

そして、コステロ初のカバーアルバムとして本作『オールモスト・ブルー』はリリースされる。バックはアトラクションズの他、トミー・ミラーがフィドル、男女混合コーラスグループのナッシュビル・エディション、そしてデビュー作でもバックを務めたジョン・マクフィーがギターとペダルスティールで参加している。プロデュースはサザンソウルとカントリーの両方で活躍するビリー・シェリルで、まさに本作にとっては最適のプロデューサーである。

収録曲は全部で12曲。ハンク・ウィリアムス(1)、ドン・ギブソン(2)、ロレッタ・リン(3)、マール・ハガード(5)、ジョージ・ジョーンズ(6、7、9)、チャーリー・リッチ(8)、ドティ・ウエスト、エミルー・ハリス他(10)といった大物カントリーシンガーのカバーの他、ブルースシンガーのビッグ・ジョー・ターナー(11)の曲も収録している。「I’m Your Toy」「How Much I Lied」はグラム・パーソンズのナンバーで、フライング・ブリトー・ブラザーズ時代の「Hot Burrito #1」がなぜか「I’m Your Toy」と改題されているのだが、僕はその理由を知らない。また、マール・ハガードの「The Bottle Let Me Down」はグラムの愛唱曲でもあり、だからコステロはこの曲を取り上げたのかもしれない。

バックを務めるアトラクションズとマクフィーの演奏は素晴らしく、カントリーの焼き直しというよりはロックスピリットに満ちた新解釈のカントリーと言ってもいいだろう。中でも、スティーブ・ナイーヴはロックフィールを持ちながら、カントリーならではのホンキートンク・ピアノが実に上手い。言うまでもないが、マクフィーのギターとペダルスティールは秀逸で、ハードロックからカントリーまで守備範囲とする彼の存在なくしては、このアルバムは成立しなかっただろう。

しかし、やはり主役はコステロのカントリー的でないヴォーカルであり、これが本作をオルタナティブ化しているのである。実際、この作品を聴いてカントリーが好きになり、90年代にオルタナカントリーのアーティストとしてデビューした当時の若者は少なくない。そして、これはコステロの狙いでもあったのだろうが、本作のリリース以降、グラム・パーソンズの見直しが始まる。

コステロのパーソンズへの思いはオルタナカントリーのアーティストたちにも引き継がれ、現在はグラムへの極めて正当な評価が下されるようになったように思う。これまで“カントリーだから”と本作を無視してきた人は、邪険にしないでこの機会にしっかり聴いてみてほしい。

余談だが、本作がリリースされた時、輸入盤のシュリンクラップにステッカーが貼られていて、そこにはコステロ本人のイヤミとして“Warning! This album contains Country & Western Music & may produce radical reaction in narrow minded people.”(注意! このアルバムにはカントリー&ウエスタンが収録されており、心の狭い人々には面白くないでしょう)と書かれていた。

TEXT:河崎直人

アルバム『Almost Blue』1981年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. ホワイ・ドント・ユー・ラヴ・ミー(ライク・ユー・ユースト・トゥ・ドゥ)? /Why Don't You Love Me (Like You Used to Do)?
    • 2. スウィート・ドリームス/Sweet Dreams
    • 3. サクセス/Success
    • 4. アイム・ユア・トイ/I'm Your Toy
    • 5. トゥナイト・ザ・ボトル・レット・ミー・ダウン/Tonight the Bottle Let Me Down
    • 6. ブラウン・トゥ・ブルー/Brown to Blue
    • 7. グッド・イヤー・フォー・ザ・ローゼズ/A Good Year for the Roses
    • 8. シッティン・アンド・シンキン/Sittin' and Thinkin
    • 9. カラー・オブ・ザ・ブルース/Colour of the Blues
    • 10. トゥー・ファー・ゴーン/Too Far Gone
    • 11. ハニー・ハッシュ/Honey Hush
    • 12. ハウ・マッチ・アイ・ライド/How Much I Lied
『Almost Blue』(’81)/Elvis Costello

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着