ヨーロッパ企画「京都妖気保安協会
ケース4『鴨川ミッドサマードリーム
』」生配信視聴レポート~舞台を観て
いたはずの「夏」を取り戻した

神はヨーロッパ企画に「今年の本公演は、新型コロナウイルスで実施できません」という試練を与えた。しかし彼らは、演劇活動と並行して今まで培ってきた、映像や配信などの様々な技術や人材をフル活用することで、こんな機会がなければできなかったであろう、新感覚の“演劇”を爆誕させた──こんな神話風のオーバーな口調で紹介したくなるぐらい、ヨーロッパ企画の生配信劇「京都妖気保安協会 ケース4『鴨川ミッドサマードリーム』は、代表の上田誠が会見で宣言した通り「演劇と映像のハイブリッド」であるとともに、古都京都の伝説やシェイクスピア喜劇の世界、様々な人々の劇場&舞台への一方ならぬ思いを結集した、会心の一撃となるオンライン演劇だった。
ヨーロッパ企画「京都妖気保安協会 ケース4『鴨川ミッドサマードリーム』」より。
妖怪から異世界系まで、京都市内の各地で起こる様々な怪奇現象を調査し、大ごとにならないよう保守管理する。そんな裏の仕事人たちの働きぶりを描いてきた「京都妖気保安協会」シリーズ。面白いストーリーが生まれそうな場所をロケハンし、その地形や置かれたアイテムなどを活かした短編芝居を作り、さらにその演技をワンテイクでライブ配信する。今回の舞台に選ばれた[京都府立文化芸術会館]は、今年でオープンから50周年を迎える老舗の公共ホールで、ヨーロッパ企画が毎年京都公演を行っている場所。最終回を迎えるには、どこよりもふさわしい舞台だと言えるだろう。
怪現象が頻発したために、臨時休館をするに至った[京都府立文化芸術会館]。そこに妖気保安協会の面々(石田剛太、酒井善史、角田貴志、土佐和成)と、行く先々で彼らと出くわし、ついにはインターンとなった大学生たち(藤谷理子、諸岡航平)が調査に入る。時期的に幽霊が出やすい季節ということもあり、魑魅魍魎の巣窟のようになっている劇場内を、淡々と調査する保安協会員たちと、いちいちビビってる大学生たち。しかしその時、舞台上に大きなワームホールが出現したため、パラレルワールドで『夏の夜の夢』を上演していたある劇団の舞台が、そのままワープしてきてしまった……。
ヨーロッパ企画「京都妖気保安協会 ケース4『鴨川ミッドサマードリーム』」より。
劇場の入口からロビー、そして客席から舞台へと、毎年ヨーロッパ企画の京都公演を見に来た観客の目線を、そのままなぞるようなカメラワークで始まる導入部から、観客(特に地元京都)のツボを突いてたまらない。毎回死亡フラグかと思うほど(上田談)各種うんちくを語りまくる諸岡、それをいなす藤谷、そして終始クールなスタンスの妖気保安協会員役たちのやり取りは、通常のヨーロッパ企画の舞台とは、またちょっと違うおかしみを漂わせる。
しかしそこから「いつの間に?!」とビックリするような早替えで『夏の夜の夢』を演じるヨーロッパ企画のメンバーの姿は、脚本こそかのウィリアム・シェイクスピア先生だけど、醸し出される空気感は、完全にあの「ヨーロッパ企画」だ。婚礼の余興として、芝居を見せることになった職人集団が、妖精たちの住む森の中で立ち稽古を行う場面。職人たちが「登場人物の死を、観客が本気にしたらマズい」など、演劇がイマイチわかってない議論を交わし続けるという、『夏夢』の中でも笑いどころの多いシーンの一つだ。ここでのワチャワチャとしたやり取りが、通常のヨーロッパ企画の舞台そのもので、一気に親近感と多幸感が増す。このシーンをより効果的に見せるために、今までのシリーズでは、ヨロ企らしい群像芝居を抑えていたのではないか……とうがったほどだ。
ヨーロッパ企画「京都妖気保安協会 ケース4『鴨川ミッドサマードリーム』」より。
しかし突然「ここはパラレルワールドですよ」と言われても、素直に大人しくするわけなどない劇団員たち。好き勝手な行動を取るうちに、劇場の地下に封印されていた、とある化物(中山祐一朗)を目覚めさせてしまう。シェイクスピア芝居でおなじみの道化っぽさもあるけど、ふと涙を誘ってしまうような中山の演技が、さすがヨロ企の先輩らしい貫禄だ。さらにそこに、シリーズレギュラーのスミレ(早織)とリョウタ(永野宗典)夫婦、もう一人の大学生(日下七海)に加え、保安協会と因縁のある骨董屋(本多力)、訳ありで遅れてきた保安協会員(諏訪雅)、保安協会と顔なじみの妖怪(中川晴樹)が次々に加わって、ジグソーパズルのピースが何倍にも増えるような状況となる。
人数が増えるのに比例して、劇場の使い方のダイナミズムも増幅。14年間劇団本公演を続けていても、一度も使ったことがなかった舞台機構が活躍したり、毎年観客として通ってても気づかなかった、ロビーの死角スペースが活用されたり。ドタバタな展開に引き込まれつつも、フッと「この大移動に着いてくる撮影スタッフの皆さん、劇場中の電波を保安している配信スタッフの皆さん、大変だなあ」と、裏方陣の苦労もおもんぱかってしまった。そしてクライマックスでは、登場人物全員が劇場内に集まって、客席が無人だからこそ可能な仕掛け、映像だからこそ可能な見せ方で、この大騒動を収束に導こうとする……。
ヨーロッパ企画「京都妖気保安協会 ケース4『鴨川ミッドサマードリーム』」より。
その理由は決定的なネタバレにつながるので、ここでは説明できないけど、最後に演じられた『夏の夜の夢』は、どうしたって「今年上演されるはずだったヨーロッパ企画の本公演」と重ね合わせてしまうし、それを客席で見ている登場人物たちの笑顔は、そこにいるはずだった私たち観客自身の姿と重なって、何とも切ない気持ちになる。でも私たちは確かに、彼らと「空間は共有できなくても、時間は共有できる」(上田談)という体験をしたし、日本中のあちこちで数多くの人たちが、同じ時刻にPCやスマフォの画面を通して、同じ笑いと感動を味わったはずだ。そのことを想像すると、さらに胸が熱くなった。
通常のヨーロッパ企画の本公演と同じく、なかなかにネタバレがはばかられる内容なので、あまり多くを語れないのがもどかしい。というわけで、10月4日(日)23時59分まで、イープラスの「Streaming+」で視聴可能なアーカイブを拝見してほしい(チケット購入は同日20時まで)。生配信ならではの臨場感が欠けているとはいえ、コロナで失われた「夏」を少しでも取り戻す、そんな夢を見るようなひと時になってくれるはずだ。
ヨーロッパ企画「京都妖気保安協会 ケース4『鴨川ミッドサマードリーム』」より。
取材・文=吉永美和子

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