イタリアの聖堂で

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【まなおのアニメ感想戦!】第19回 
すべての人に届いてほしい。傑作アニ
メ映画「劇場版ヴァイオレット・エヴ
ァーガーデン」

イタリアの聖堂で◆苦難を乗り越えて

 いつまでも待っています。以前にそう書いた(https://anime.eiga.com/news/column/kagawa_eiga/109484/)「劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン」がついに、2度の延期を経て9月18日に公開されました。
 戦時中の上官・ギルベルト少佐の最期の言葉「あいしてる」の意味を、手紙の代筆業を通じてすこしずつ理解していく少女ヴァイオレット・エヴァーガーデンの心の物語。
 テレビシリーズから受け継いで結末を描く最終譚は、公開初日の早朝から4連休中も座席を埋め続け、いかに多くの人がこの作品を待ち遠しく想っていたかが窺えます。私自身ほぼ1年間、胸の奥にずっとこの作品の存在がありました。
 本コラムではストーリーのネタバレを控えつつ、作品への想いを書き残したいと思います。
◆京アニの描く、日常と生命
 京都アニメーション作品が技術的にいかにすばらしいかは(レビューで言うのもなんですが)“百聞は一見にしかず”に尽きると思います。圧倒的映像美、引き込まれる構図の数々(のちに監督の単独絵コンテと知りさらに驚愕)、鶴岡(陽太)さん率いるきめ細かな音響、Evan Call氏の壮大な音楽、吉田玲子さんの神脚本。アニメ映画としては大ボリュームの140分の間、秒単位で感動を重ねてしまうほど、圧倒的な技術がこの作品を支えています。
 京都アニメーションはこれまで「涼宮ハルヒの憂鬱」「けいおん!」「氷菓」など、多くの魅力的な“日常“を私たちに贈ってくれました。
 穏やかな日々に訪れる唐突な非日常。生き生きとした人物たちが普遍的な時間を豊かに送るからこそ、誰にでもいつまでも愛しい、そんな作品があり続けているのだと思います。「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」は架空のヨーロッパを舞台にし、手紙が物語の中心に置かれる点でも一見ファンタジックですが、身近に死を体験し、深く傷つき、それでも生きていくということは、本質的には私たちにとっての日常の一部を描いています。
 フィクション作品の中で命を扱うことや、私たちがそれに共感を持つのは本来、容易ではありません。
 それでも京アニの作品にリアルを感じ、気づけば気持ちを重ね合わせてしまうのは、草木の息吹、水の流れ、ひとびとの生き方と想い。一つ一つの自然や生命に真剣に向き合い、表現し続けた深い技術と魂があるからこそです。この唯一無二の凄さは、劇場版を通じて一層噛み締めることができました。
◆あの頃のわたしへ 届けたい手紙
 個人的な話ですが、最も将棋の修行に打ち込んでいた16才の春、ひとりの恩師が亡くなりました。
 実家のアパートの階下に住み、偶然にも私に「将棋」を与えてくれた方でした。
 色々な行き場のない思いが重くのしかかって、大好きだった将棋と向き合うのもだんだん辛くなって来ていた時期です。
 もしできるなら、あの頃の私にこの作品を届けてあげたい。そんな風にも思います。
 作中で送られた多くの手紙のように、少佐の「あいしてる」のことばのように、この作品そのものもまた、自分の心を鏡のように映し出しながら、進むべき道を照らしてくれる力があります。
 当時が過去になった今の私にとっても、この作品からどれほどの希望を与えてもらっているかわかりません。
◆「心から、あいしています」
 遺された人の生き方を、思いを、こんなにも純粋に描き切った作品は、後にも先にも本作だけになるのかもしれません。「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」は本作で終幕を迎えますが、大切な手紙のように、ヴァイオレットやギルベルトの生きた証は、きっといつまでも残り続けるのでしょう。たとえ何年経っても、ひとりでも多くの人々に届いて、希望の光となることを願っています。
 最後はただの感想ですが、本作を映画館で観ることができて、京都アニメーションの作品がこれからも世界中で輝いて、たくさんの人に寄り添い続けていく、そんな未来を感じられたことが、本当にただただ幸せです。
 すばらしい映画をありがとうございました。
 これからもずっと。

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