短期間の活動にもかかわらず
ロックの発展に大きく寄与した
バッファロー・スプリングフィールド
の『アゲイン』

本作『アゲイン』について

本作のレコーディングは67年の1月から10月まで長期にわたっている。それはパーマーのカナダへの強制送還の問題があって、サポートミュージシャン等の調達や打ち合わせによるものだと思われる。

収録曲は全部で10曲。ヤングの書いた曲は3曲。このうちスタックス風の「ミスター・ソウル」は別として、「エクスペクティング・トゥ・フライ」と「折れた矢(原題:Broken Arrow)」の2曲ではグループのメンバーは録音に加わっておらず、ヤングのソロ作にも登場するジャック・ニッチェがプロデュースとストリングアレンジを担当し、実質ヤングのソロプロジェクトになっている。サウンドコラージュ等を使った6分以上の実験的大作「折れた矢」では、レッキング・クルーの一部のメンバーが務めているとも言われている。

また、本作で初めてフューレイの書いた曲が3曲収められており、うち2曲(「ア・チャイルズ・クレイム・トゥ・フェイム」「悲しみの想い出(原題:Sad Memory)」)には、すでにポコのサウンドの萌芽が見られる。どちらもアルバムのハイライトとなる重要なナンバーである。「ア・チャイルズ・クレイム・トゥ・フェイム」ではドブロに名ギタリストジェームス・バートンが参加しており、バートンは本作でエンジニアを務めているジム・メッシーナの依頼で呼ばれた。メッシーナはこの後、バッファローのメンバーとなり、グループ解散後はフューレイとともにポコを結成する。ポコ脱退後は元ゲイター・クリークのケニー・ロギンスと双頭バンド、ロギンス&メッシーナを結成して一躍ブレイクする。「グッド・タイム・ボーイ」はフューレイらしくないソウルフルな曲で、アレンジはアメリカン・ソウル・トレインという覆面チームとなっており、ホーンセクションが起用されている。リードヴォーカルはマーティンが担当している。

スティルス作の曲は4曲。「エヴリデイズ」(ライヴ録音)はジャジーなナンバーで、彼の音楽性の広さが窺える。ベースはジム・フィールダー、ピアノはスティルス自身が弾いている。また、彼の代表曲のひとつとして知られる「ブルーバード」は、すでにスティルス節が炸裂というか、クロスビー・スティルス&ナッシュのサウンドになっている。曲の最後に登場するクロウハマーバンジョーはキャット・マザーのメンバー、チャーリー・チンの演奏。このアレンジは、はっぴいえんどにも影響を与えている。ラテン風味の「ロックン・ロール・ウーマン」は、彼の代表曲「イット・ダズント・マター」を思わせる旋律を持つ。彼の得意とする作曲パターンの雛形と言えるかもしれない。今聴いてもまったく古くなっていない名曲である。

彼らの音楽性がわかる
ジャケット裏の謝辞

本作はこの時代に多かったサイケデリックロックやフォークロックと無関係とは言わないが、アルバムの根底に流れているのは温故知新の精神である。70年代のロックに向けた彼らのメッセージは、ジャケット裏に記された多くのミュージシャンへの謝辞に現れている。ブルース、フォーク、ロック、カントリー、オールドタイム、ブルーグラス、ジャズ、ポップスに至る、さまざまな音楽を創ってきた先人たちへのリスペクトである。

僕が本作を入手したのは今から50年近く前(インターネットやスマホはない)であり、ここに記されたアーティストのレコードを探して聴くことが勉強でもあった。それにしても、ニール・ヤングもスティーブ・スティルスも未だに現役で音楽を創造し続けているのだから、やっぱり彼らはすごい。

TEXT:河崎直人

アルバム『Again』1967年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. ミスター・ソウル/Mr. Sou
    • 2. ア・チャイルズ・クレイム・トゥ・フェイム/A Child's Claim to Flame
    • 3. エヴリデイズ/Everydays
    • 4. エクスペクティング・トゥ・フライ/Expecting to Fly
    • 5. ブルーバード/Bluebird
    • 6. ハング・アップサイド・ダウン/Hung Upside Down
    • 7. 悲しみの想い出/Sad Memory
    • 8. グッド・タイム・ボーイ/Good Time Boy
    • 9. ロックン・ロール・ウーマン/Rock & Roll Woman
    • 10. 折れた矢/Broken Arrow
『Again』(’67)/Buffalo Springfield

OKMusic編集部

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