9月19日@日比谷野外大音楽堂

9月19日@日比谷野外大音楽堂

メリー、未来への扉を開いた
日比谷野音公演のレポートが到着!

“あの日からどれくらい時間が経つのだろう”── 現メンバーで2001年に結成したメリーは2020年で19年目を迎える。“君とならずっとどこまでだって一緒に行けると思っていた” ── 19年前、ガラ(Vo)は長く一緒にやっていけるようにと人間性を重視してメンバーを集めた。そんな“永遠を夢見た”けれど、2020年9月19日、東京・日比谷野外音楽堂『メリー「5 Sheep Last Tour」』公演をもって、健一(Gu)がメリーから脱退した。

2020年2月の健一脱退発表を受け、本来なら3月から5月の3カ月間にわたり行なわれる予定だった5人体制でのラストツアー。新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、例に漏れずメリーも開催の延期を余儀なくされた。緊急事態宣言が解除された後も、エンターテインメント業界再建に向けた状況は厳しいものだった。

メリーも延期、再延期と続く中で、北は北海道、南は福岡までを巡る17本の全国ツアーの開催を決めた。賛否両論、その風当たりはおそらく強かっただろう。でもそれは至極当然のこと。この未曾有の事態に誰もが不安だったし、誰もが守るべきものを守りたいと思っていた。その想いは、メンバーも観客も同じだっただろうと思う。テツ(Ba)がプレイングマネージャーとしてバンド活動の指揮を取り、メンバー5人で試行錯誤しながら作り上げた初めてのツアーである。最後までツアーを完走できたのは、寄付金によって彼らを支えた人たちの功績もあることを忘れてはならない。そして本来のファイナル公演から4カ月遅れの9月19日、デビューライブから節目節目でこのステージに立ってきた、メリーの聖地とも言える最高の舞台、日比谷野音で健一を送り出し、同時に未来への扉を開いたのだった。

この日は午後から雨が降る予報だった。今にも涙がこぼれ落ちそうな曇天の中、開演の17時ちょうどにSEが流れ始めた。黒い衣装に身を包んだネロ、結生、テツ、健一がステージに現れると場内から拍手が沸き起こる。恭しく一礼をしたローディーから渡されたギターを健一が手にした頃、カラフルなモヒカン姿のガラが姿を見せた。1曲目は健一作曲の「Happy life –reprise-」。この「–reprise-」バージョンは、2017年5月に行なった日比谷野音でのアレンジを音源化した印象深いもの。“世界がどうなったって 別にそれでいい 目の前の人達を幸せにしたいだけ”。今のメリーの状況や想いを、不器用ながらまっすぐに届けるメッセージソングだ。“俺たちにとってこのツアーはすごい重要でした。健くんとの日々を日記に書いていました。9月19日日比谷野外音楽堂、忘れないように心に刻んでくれ!!”。ガラの叫ぶようなMCの後、ファンへの想いを綴った「群青」、ラストの“自分の歩むべき道はどれですか?”をシャウトするように歌った「オリエンタル BL サーカス」、「迷彩ノ紳士」と続いたアップチューン。いつもならステージの熱とフロアの熱が一体化している頃だが、歓声も思うように上げられないコロナ下ではなかなかそうもいかない…。しかしその分、バンドアンサンブルや、伸びやかなガラの歌声に自然と耳が傾く。

「sheeple Living Dead Remix」での抑揚をつけたアンサンブルや、空へと抜けていくガラのヴォーカルは心地良かった。健一のストロークが際立つ「平日の女 –A面–」。健一のギターとガラの歌のみになるエンディングがやけに心にしみる。“今夜はファイナル。みんなわかってるよね。最高の最高の記憶をあなたに与えたい”とMCをした後、なんとか持ちこたえている空を見上げて“雨が降らないからメリーが降らせたいと思います”と「傘と雨」を歌い出した。が、ガラが音程を取り損ねたのか、演奏をストップさせ、“♪何事もなかったようにメリーの雨を降らせます”と再び歌い始めるハプニングもあった。

ガラのア・カペラから始まった「路地裏哀歌」、健一作曲の「高層ビルの上でラストダンス」ではガラが真っ赤な傘を持って軽やかなステップを見せる。マーチングドラムのリズムが印象的な「【人間曲芸坐】」で赤いリップを顔に塗りたくったガラは、続く「ハーメルン」でそのリップをさらに塗り広げ、真っ赤な顔で不気味な笑みを湛えていた。終盤は「F.J.P」「ジャパニーズモダニスト」「千代田線デモクラシー」と、現代社会に切り込むハードなナンバー三連発。できる限りのレスポンスで懸命にステージを盛り上げようとするオーディエンスと、いつもと変わらない熱量のパフォーマンスをぶつけるメンバーとの熱の応酬を見るにつけ、彼らの絆の深さを感じずにはいられなかった。そしてラストは「エムオロギー」。 “君とならずっと どこまでだって 一緒に行けると思っていた”。一瞬歌えなくなって、少し顔を歪めたガラ。痛みと共に新しい未来へと一歩を踏み出す彼らにふさわしいナンバーで本編を締め括った。

アンコールは、メジャーデビュー直後の「首吊りロンド」「さよなら雨(レイン)」や、インディーズ時代の代表曲「バイオレットハレンチ」「T.O.P」と、思い入れの深い曲が並んだ。途中のMCでガラは“ツアーをやって自分の世界観が変わった。行かないと気がつかなかったことが全国にあって、それはこれからの人生において大きな糧になると思う”と、このツアーを強行して得たことを伝えた。そしてメンバーひとりひとりが今日の日を迎えた想いを語る。“いろんなことが重なりすぎて頭の中がごっちゃごっちゃになりながらツアーを回りました。今日この地で5人でラストライブなんだなと思うと、グッと(身を引き締めて)立てています”と結生は正直な心境を、“正直言うと今日この日を迎えるまで、時間よ止まれと思っていたんですけど、今思うことは俺たち6人の未来、最高に幸あれってことです。いい景色を見せてくれてありがとう”とネロは感謝の気持ちを伝える。テツは“俺は今、自分の気持ちを保つことが正直できません”と言葉を詰まらせる。“最後、笑って送りたいんで、日比谷の空に拍手を響かせてください”と、メンバーひとりひとりの名前をコールした。そして健一は、“この日のMCを前から考えたりしてたんですけど、言葉が見つからない。本当にありきたりなんですけど、どうもありがとうございました”と率直な想いを語った。

そして最後に“この19年俺たちが毎日一緒にいて築いてきた絆は、形が変わっても絶対に消えることはない。俺らも健くんもみんなも、未来に向かって進んでいるよ。“メリー”ってハッピーって意味もあるじゃん。ハッピーに健くんを送りたいと思います”とガラ。その後の「バイオレットハレンチ」の間奏で一度袖にはけると、墨汁を持って再び登場。口に流し込んで顔中に塗りたくる。初期を彷彿とさせるパフォーマンスを見せて“これがメリーだ! よく焼き付けとけ!!”と絶叫した。ラストは、健一が奏でる繊細なギターイントロが美しい「そして、遠い夢のまた夢」。この日の前日に公開されたソロインタビューで、健一はメリーを“1番夢に近づいた居場所”だったと語っていた。この曲を奏でながら、メンバーの胸の中は、どんな想いが去来しているのだろうか。そんなことを考えながら、一音一音を噛み締めていた。

メンバーがステージを降りると、ツアーの写真と共に、ガラが付けていたという日記がスクリーンに映し出される。このツアーをどんな想いで駆け抜けてきたのか、うかがい知ることができた。そして“みんなとメリーの未来のために”と、最後にもう一度「Happy life –reprise–」をプレイ。途中、ガラが結生、テツを誘導して健一の元へ。4人がフロントに並んで演奏する姿をしっかりと目に焼き付ける。やがてテツはネロのドラムへ向かい、健一と結生が向き合ってギターを爪弾く。そうそう、これもメリーのライブの中の好きなシーンの一つだった。正直、いまだに健一がいなくなったメリーを想像することができないでいる。晴れやかにメンバーが去ったステージをぼんやりと眺めていると、フロアで大きな拍手が沸き上がった。それは、大声を出して思いの丈を伝えられなかったファンの想いだ。健一への餞として贈られた温かな拍手は、いつまでもいつまでも続いた。その想いはきっと、彼らの胸に届いたことだろう。

photo by 尾形隆夫
text by 大窪由香
【セットリスト】
01.Happy life ‒reprise
02.群青
03.オリエンタル BL サーカス
04.迷彩ノ紳士
05.sheeple Living Dead Remix
06.平日の女 -A 面 -
07.傘と雨
08.路地裏哀歌
09.高層ビルの上でラストダンス
10.【人間曲芸坐】
11.ハーメルン
12.F.J.P
13.ジャパニーズモダニスト
14.千代田線デモクラシー
15.エムオロギー
<ENCORE 1>
16.首吊りロンド
17.さよなら雨 ( レイン )
18.バイオレットハレンチ
19.T.O.P
20.そして、遠い夢のまた夢
<ENCORE 2>
21.Happy life ‒reprise
9月19日@日比谷野外大音楽堂
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OKMusic編集部

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