Have a Nice Day!が記録した非常事態
宣言下のドキュメント、『Rhapsodie
s 2020』に刻まれたリアル

前作『Dystopia Romance 4.0』(2019年11月発売)前後のライブから、モッシュピットで体をぶつけ合うオーディエンスだけでなく、後方でシンガロングする人など、ファン層が混在してきたHave a Nice Day!。新作『Rhapsodies 2020』は、新型コロナウイルスの影響で緊急非常事態宣言が発令された時期にスピーディに制作された、ジャケットに描かれたサブタイトルにもある“C-19 Anthem”を浅見北斗の視点で切り取ったドキュメンタリータッチな仕上がりに。しかも本作には、外出自粛要請が政府から出た翌日の2月27日に開催されたライブ映像を同梱。2020年の春という、誰もが混乱しつつメンタルを必死で維持しようとしていたタイミングと重なる作品といえるだろう。
モッシュピットというものも、もう一つの概念というか。俺は今後、過去に存在した概念を形作るヴェイパーウェイヴとしてやっていこうかな(笑)。
――『Dystopia Romance』を4.0まで作っていたのに、現実にディストピア来ちゃいましたね。
確かに。ハードな現実がやってきて、結構、思った以上に根が深いというか。だから難しいなと思って。世界というか時代が。
――今回の『Rhapsodies 2020』はアルバムリリースまでに、散発的に曲を配信してらしたので、一枚にまとまる経緯がどういうものだったのか興味深くて。
今回は、自分が感じていることとか思っていることを瞬間瞬間で切ってる曲だったから。言ったら、前作での「僕らの時代」とか「わたしを離さないで」のように、ある種の普遍的な曲というわけではなくて、もうちょっとドキュメンタリーなものなんです。だから、やっぱアルバムなりにまとまってないと何のことかわからないというか(笑)。1曲1曲は良い曲だと思うんですけど、まとまった時にしか見えないものなのかなと思ってるし。作り始めた時が4月前半で、緊急事態宣言が出た頃だと思うんですけど、その頃からこういうアルバムにしようかなというか。1曲で今のこの状況を言い切るのは多分不可能だというのがあるから、違う角度から何回も違う曲で言い直さないとなと思って。1日ごとに刻々といろんなものが変動してくる瞬間があって、その日に言ったことが一週間後に同じように思えない可能性もあるから、何回も言い直して、こういう形になって。
Have a Nice Day! 撮影=大橋祐希
――「トンネルを抜けると」が割と早い時期にあったそうですね。
「トンネルを抜けると」が多分、一番最初。最初っから「TOO LONG VACATION」みたいなシニカルな曲はちょっとしんどいなと思って。だから少し引いた曲というか、わりかし自分が飲み込んでる曲をとりあえず一番最初は作っておいてっていう。とりあえずそれを言っとけば、そっから先は結構シニカルな表現も許されるかなと思って(笑)。
――アルバム本編では最後に収録されているので不思議ですね。でもタイトル通り、今の状況を抜けたら……という未来への希望もほんのりある。
ああ、確かにそうですね。「トンネルを抜けると」は、一個前のアルバム『Dystopia Romance 4.0』の感じを一番引き継いでる曲で。あのアルバムは、言ったら東京という風景画だったり、その時にすれ違って行った人の横顔だったり、友達の肖像画だったり、ある種自分の外側にあるものなんです。けど、今回の『Rhapsodies 2020』の「トンネルを抜けると」以外の曲は結構、自画像に近いかな。特に「GET UP KIDS!!!」とか「LOCK DOWN」「TOO LONG VACATION」はめちゃくちゃ自分ぽい曲だなぁというか、わりかしエゴが強く、自分のシニカルな向き合い方みたいなのがポンと出てて、そういう意味では、これだけを見せ続けるのは変な人に思われそうだなと(笑)。
――そういう判断もあって「トンネルを抜けると」の意味があると。ところでこのコロナ禍の状況においては、音楽って不要不急だって言われて。浅見さんは何を一番思いました?
いや、そうなんですよね。どうしてもツイッターで情報を見ちゃうので、見ちゃうとやっぱりそういう発言があって。音楽って別に(生きるためには)必要不可欠なものではないし、衣食住と違ってなくなっても建前の社会生活は営める。でも、そもそもちょっとこれはもしかして音楽というかロックってものだけに限定されるかもしれないですけど、ロックンロールってものは、そもそも人に頼まれてやることとはちょっと違うかなと思って。その感じがちょっと変だなと思って。だから、必要とされて存在しているわけではなくて、やりたくてやってんじゃねえのかという(笑)、気持ちがすげえあって。そういう意味では「GET UP KIDS!!!」とか「LOCK DOWN」で言いたかったことは多分、そういうことなんじゃないのかなというか(笑)。今、要するに音楽を必要とされていない、いる、とか、誰かのためにやってるわけじゃなくて、てめえがてめえのためにやってんじゃねえかっていうのをすごい思って。だから音楽をやってる人が不要不急だっていうことに対して、なんか怒ってるのとかも違うんじゃないかなと思って。怒るのもわかるけど、それに傷つく必要もないし、それは、事実は事実としてあるだけであって。
――同感です。ところで「LOCK DOWN」に関する文章をnoteに書いてらして、しかもこの歌詞に登場するアーティストのプレイリストまでありましたね。
ははは。多分あれと同じプレイリストを心に持ってる人はあんまりいないだろうなと思う。これは自分の中でずっと感じていることなんですけど、自分と同じものが好きだとしても、やっぱり違う角度から好きというか、同じ角度から好きな人はなかなかみつからない。
――でも浅見さんのロックンロール地図を知るには好適ですよね。その独特さは何を例えに挙げたらわかりやすいですかね。
バッド・ブレインズ、マイナー・スレッド、ブラック・フラッグみたいなものって多分ハードコアパンクなんですけど、そっからもっとパンクにハマったか?って言ったらそんなことはなくて。根底はパンクだと思うんですけど、プライマル・スクリームもそうだし、ジョイ・ディビジョンとかもそうなんですけど、根底はパンクとかアナーキズムとかあって。でもそれを別に全面に出してるわけでもなく、みんなそれを根底に持っているというか。基本的にはキラーズとかブラック・キッズ、MGMT、LCD soundsystemとか、2000年代のアメリカのバンドが好きなんですけど、思想としてはやっぱりイギリス的なパンクなのかな。イギリスってグライムとかダブステップとかダンスミュージックも根底にパンクがあるじゃないですか。だからやっぱり、自分が興味あるのはそういうものなんだなと。USは純粋に音楽とメロディと歌詞構造みたいなものだけで受け取ってるんですけど、根底ではイギリス的なパンクみたいなものに惹かれ続けてるのはあります。
――グライムでもなんでも、すでにあるビートは“もう人がやってんじゃん、新しいもの作ろう”っていうメンタリティですよね、イギリスは。
初めてダブステップを聴いた時、“こんな暗い音楽で乗れる人いんの?”と思って(笑)。でもブリアルとかコード9がワッと来て。その時にディストピアって言葉を初めて知って。
――へー、映画や小説じゃなかったんですね。
『Remix』とかの記事を色々読んでいて。ああいう周りの本を読んでいて、ディストピアって概念があるんだなっていうのを初めて知って。結局、ダブステップ、そんなにめちゃめちゃ聴いたわけじゃないですけど、その時ディストピアっていう概念をダンスミュージックから初めて知った。“だからこんなに暗いんだ”と思って(笑)。
――今さら知りましたが興味深いです。後半の曲「SPRING BREAKS 2020」も今を俯瞰するオピニオンとして強いなと。さっきの“必要とされて音楽やってるんだっけ?”という話で。
「SPRING BREAK 2020」も「トンネルを抜けると」に近いような、現状に寄り添っていくというか描写してるのかな。自分のエゴというよりは街の空気感から生まれた曲なのかなと。
――言わばいつもどおりの春じゃなかったんですが、そもそもいつも通りの春ってあるんだろうか?とも思ったんですよね、この曲を聴きながら。
確かにそうですよね。結構やっぱりみんな同じようなことをループしいているようでいて、必ず実は別の場所で別のことしているというか、逆に同じ場所にいると劣化していくというか。だからループしていく中で、新しい何かに触れてないと必ずノスタルジックなものに囚われていって、それだけになってしまう。
――今もいろんな分断が生まれてますけど、コロナって“この人はこれをこう捉えるのか”とか、そういうものの見方とか人の本質を知る機会だったのかとも思って。
確かにそうっすね。自分と同じだなと思ってた人がそういう風に捉えてたわけじゃないんだなぁっていうのを結構目の当たりにするというか、びっくりした部分もあるし。そりゃそうだよねって納得した部分もあるし。だからお互い、あんまり近づかなかったんだなって、なんかすげえわかるというか。
Have a Nice Day! 撮影=大橋祐希
――そしてアルバムタイトルが“ラプソディ”=狂想曲で。なぜこのタイトルに?
この混乱、と思って(笑)。すげえしっちゃかめっちゃかしてんなと思って。みんな正しいとも言えるし、みんな間違ってるとも言えるし。ある種、分断を防ごうとしてる人が実は分断を進めている可能性もあるし。こんなしっちゃかめっちゃかしたことあんのかな?っていう。インターネットとかが一番顕著なんですけど、それこそもう明日、自分の店が潰れるっていうような、すごい差し迫った人のツイートの後に、今日の夜、彼氏とデートするのにセックスするかどうか悩んでる、みたいな女の子がおんなじタイムライン上に普通に存在してるっていう。同じ場所にいながら世界の捉え方がこんなにも違った瞬間てあるのかな?というか。すごい混沌と狂想してるなと。なんか、それはまさにラプソディなんじゃないかな、この状況を歌うことがまさに狂想曲を作るってことなのかなと。
――今ものを作ってる人がみんながみんなその狂想を反映しているかは分かんないですけど、かなりこれは明確な作品ではありますね。
そうですね。目の前にあるものを。だからこそ今までと同じことをしてるとも言えるんです。『Dystopia Romance 4.0』も東京の今、目の前にいる友達とか知り合いのことを書いている。で、この『Rhapsodies 2020』になった時も、今、この東京って言っていいと思うんですけど、書いて歌にしていくというか。連続したものと言えばしたものかなと思います。
――どうですか? 作ってみて。毎回ハバナイはドキュメンタリーな作品を作っていると思うんですが。
やっぱり『~ 4.0』のときはある種、この時期にアルバムを出そうとか、作らなきゃいけないなっていうことで作ってたと思うんですけど、今回に関しては、やっぱりてめえが作りたくて作ってるというか。でも、パッケージ的なことをいうと、自粛前のライブの映像も入ってるので、俺としては『~ 4.0』をまだ知らない人にはこのアルバムでその存在を知ってくれたら嬉しいなというか。「わたしを離さないで」とか「僕らの時代」とかが実はこの世界に存在しているんだなということを伝えられたらいいなってとこはあるんですよね。
――確かに今回が入り口になる人もいるでしょうね。ところでソーシャルディスタンシングを求められる今は、モッシュピットと対極にあるわけじゃないですか。
そうですね。
――そこはどう捉えてハバナイは活動していくんですか?
なんか……そうすね。まぁ……モッシュピットというものも、もう一つの概念というか。もう多分、もう実態のない概念というか、そういうものがあったというか。
――歴史上の出来事みたいに。
過去の出来事みたいに。一つのヴェイパーウェイヴ(笑)。モッシュピットっていうのは一つのヴェイパーウェイヴで、みんなそういうものがあって、Have a Nice Day!というものは多分そういうものの上に成り立っていて、俺は今後はインターネットの中ではモッシュピットという過去に存在した概念を形作るヴェイパーウェイヴとしてやっていこうかな(笑)。
――パロディやカット&ペーストみたいな存在に?(笑)。まぁ“モッシュピットをまたいつか!”っていうタイプのバンドもいるでしょうけど。
そうですね。もちろんその時が来たら普通にそれが再現できると思うんですけど、今この瞬間ていうのは、過去にできていたことに思いを馳せることが、今現在のことを考えることと繋がんないんじゃないかなと思って。今、目の前の現在を捉えるために必要なのはモッシュピットっていう過去のノスタルジーを追っかけることではなく、今、この世界のこの瞬間を切り取る歌を作るってことで、その歌が必ず未来におけるモッシュピットを生み出すはずなので。だから、今はとりあえずそれは概念として自分の中に残しておこうと。
――と、言いつつ有観客ライブもやられるんですね。
そうです。10月2日に。
――モッシュピットはヴェイパーウェイヴと化すわけですけど。
心の概念としてしか存在しない。とりあえずインターネット上に見える形では絶対立ちあらわれない(笑)。その場にいる人にしか見えないものとして、SNSの光が届かない世界に隔離されるわけですね。逆説的にそれをヴェイパーウェーブと呼べばいいかなと。
――新しいハバナイのスタイルが見られるのか、確認するほかないですね。
そうですね。
取材・文=石角友香 撮影=大橋祐希
Have a Nice Day! 撮影=大橋祐希

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