【レポート】Dance Base Yokohama、
DaBYコレクティブダンスプロジェクト
第1回 新作トライアウトで示した、
新たな創造環境からの創作発信の可能

2020年6月、横浜に“新しいパフォーミングアーツの拠点”としてDaBY(デイビー)ことDance Base Yokohamaがオープンした。「プロフェッショナルなダンス環境の整備とクリエイター育成に特化した事業を企画・運営するダンスハウス」で、アーティスティックディレクターを、愛知県芸術劇場シニアプロデューサーの唐津絵理が務める。DaBYでは「異ジャンルのクリエイターがコレクティブな手法で協働して創作活動を行う新プロジェクト」である「DaBYコレクティブダンスプロジェクト」を進め、2020年8月30日(日)に第1回 新作トライアウトを催した(YouTubeチャンネルでも配信)。
DaBY コレクティブダンスプロジェクト 第1回 新作トライアウト 写真提供:Dance Base Yokohama (c)HATORI Naoshi
■新たな創作の形を探るクリエイション
「DaBYコレクティブダンスプロジェクト」はDaBYアソシエイトコレオグラファーの鈴木竜が演出・振付し、若手音楽家、映像作家、ドラマトゥルク、ダンサー、制作、建築のバックグラウンドを持つ舞台美術作家が参加。「従来のダンスの枠に囚われないクリエイターが集まり、各自の専門性・アイデアを生かした議論を重ね、複数の視点による実験を行うことで、新型コロナウイルス感染症が拡大する今を生きる新時代のアーティストたちによる創作の在り方を模索」する。
fragment #01 被膜について

半年以上前から議論を始め、2020年7月に本格始動したプロジェクトのテーマは「認識のズレ」だという。クリエイションから生まれる要素を「fragment (かけら) 」と称し、映像・音・写真などの様々な媒体を用いた小作品として定期的に発表。それらを基にトライアウトを行っていく。鈴木は「認識のズレ」から派生して「悪」に焦点をあてる。そこでドラマトゥルクの丹羽青人や若いアーティストらと共に手探りしながらクリエイションを進めた。

fragment #02 境界線について

fragment #03 地形について

三方を客席に囲まれたフラットな空間。そこに平台や箱馬を並べ、正面奥の大きめのモニターを置いたパイプの櫓上に鈴木が座っている。ダンサーは中川賢、植田崇幸、畠中真濃。三人に対し、鈴木がラップトップを見ながらランダムにタスク(課題)をあたえて進行していく。「畠中、空間に地形を見つける」「中川、音楽の重力で場を動かす」「畠中、リセット」「植田、物語を踊る」といった具合に。
ダンサーたちはタスクを受け止め自在に対応し、「六本足で踊る」とタスクを課された中川の当意即妙な動きなど印象に残る。そして、彼らの動きに添うように、舞台美術の2名が床にテープを貼ったり、マイクスタンドを置いたりしていく(舞台美術:一色ヒロタカ、宮野健士郎)。音楽(タツキアマノ)、映像(大宮大奨)もその状況に応じて、オリジナルなものをぶつけてくる。
fragment#4 記憶について(一部)
何が起きるのか興味津々。卓越した踊り手が鈴木のムチャぶりでも自分のものにしてしまうので惹きこまれる。ただし、タスクを課される展開が続くので、やや平坦にも感じられる。とはいえ、当初予定にはなかったという照明を直前に入れ空間表現により変化を付けるなどの配慮も見られ、ダンス、音楽、美術、映像などそれぞれの要素の力は感じた。
DaBY コレクティブダンスプロジェクト 第1回 新作トライアウト 写真提供:Dance Base Yokohama (c)HATORI Naoshi
■実弾ならぬ“実談”演習でフィードバック
終了後の「実談演習」と題された催し(クローズド)では、居残った観客とオンライン参加者がクリエイターたちと意見交換した。参加者は批評家、ライター、音楽家、ダンス公演を多数見続ける熱心な観客など多岐にわたる。クリエイターたちが一人ひとりコメントを述べたあとに質疑応答が行われ、今後への期待と共にテーマ・コンセプトに対する疑問、音楽や舞台美術がダンスとどのように協働したのかなどが話題となった。実弾ならぬ“実談”と題され、アーティストも観客も率直に語らう。制作途中の作品が公開される機会はなくもないが、今回のように比較的初期段階から公開し、濃密なフィードバックを得ていくことは稀だ。
実談演習の様子 写真提供:Dance Base Yokohama (c)HATORI Naoshi
きたる11月、2021年2月にもトライアウトを予定。次回出演ダンサーは今回とは異なるという。回を重ねて創り、壊しながら生み出す試行錯誤を繰り返せることがDaBYの存在価値であり貴重である。実験を実験として終わらせず、ここでクリエイションをした作品を国内外へ広く届ける。DaBYならではのプロジェクトの展開を今後も見守りたい。
取材・文=高橋森彦

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