ペンギンラッシュのパンクな精神性と
は? “ジャジーでおしゃれ”に問う
一粒の違和感

名古屋出身の男女混成4人組バンド、ペンギンラッシュ。ジャズやファンクの要素を持ちつつ、ポップスとしての親しみやすい聴感も持つ。さらに最も特徴的なのは、ボーカル・望世(みよ)の、現代を生きる中で感じる個人としての違和感を表現した歌詞だ。既に2作のアルバムをインディーズリリースし、単なる心地よいグルーヴとして聴き流せないファンを獲得している彼らが、9月2日リリースの3rdアルバム『皆空色』₍かいくうしき₎ でメジャーデビュー。新作ではヒップホップやエレクトロニックの要素も昇華し、よりジャンルやトレンドで語ることがナンセンスに感じられる今、バンドの心臓部を担う望世と真結(Key)に結成の経緯からこのバンドの向かう先を聞いてみた。
――お二人が出会った経緯はどんな感じなんですか?
望世:高校が同じなんですけど、その高校の軽音部に所属していて、そこで出会いました。
――軽音部はどんな感じでした?
望世:最初、部活ではなかったんです。吹奏楽部が強豪の高校だったので、学校に音楽系の部活は2ついらない、みたいな感じで(笑)。だから部活じゃなくて同好会で、そこから部活にするために奮闘していました。
――へー! どんな音楽をやっていたんですか?
真結:高校時代は自由にバンドを組むんじゃなくて、クジで先輩・後輩関係なくイベントごとにバンドを組んで。その時その時のバンドで曲を決めていたりしたので、本当にバラバラでした。
望世:同じバンドに好きなジャンルがバラバラな人たちが集まるので。一つのイベントでパンクと東京事変をやったり(笑)。
――一番離れてるジャンルでどれぐらいの幅でしたか?
望世:パンクロックもその頃流行っていたパンクじゃなくて、ラフィンノーズとか、そういう系が好きな子がいたので。それと現代だとSHISHAMOとか(笑)。かなり幅広かったですね。
――(笑)。部活と並行していろいろな音楽を聴き始めたんですか?
望世:顧問の先生がジャズ/ファンク系のピアニストで、先生がライブ活動をやっていて、その先生の影響がすごく大きかったですね。そこからそのジャズとかファンクを教えてもらうようになって。それで、結構、幅が広がった感じですかね。
――特にハマったアーティストはいましたか?
真結:その時、衝撃的だったのは、風味堂SUPER BUTTER DOG。私はそれまで東京事変もまともに知らなかったので、知った瞬間からハマりだしましたね。
――そこからさらに洋楽をディグっていったり?
望世:そこからちゃんとスタンダードジャズとか、ファンクも遡っていったりしましたね。だから、入りは日本のポップスで活躍されていた方達ではあります。
――いきなり演奏しようと思っても巧い人たちなわけで。
望世:めちゃくちゃ難しかったです(苦笑)。だから挫折して。
真結:コピーしようと思ってやめた曲も結構ありましたね、できなくて。
――真結さんはその段階でもう完全にキーボードですか?
真結:もともとピアノは中学くらいまで習っていたんですけど、ギターがやりたくなって、でも、高校でその先生にキーボードをやれって言われて、再開しました。そこから今やっているようなキーボードのプレイスタイルは学んでいきました。
――ギターにしろキーボードにしろ、ブラックミュージックのコードは全然、パンクとかと違いますけど、それはどうやって勉強したんですか?
望世:まともに勉強したことがなくて(笑)。ね?
真結:今でもその、ジャズやファンクで使えるコードを入れようと思っているわけでもなくて、聴いてきた中からそういうのが自然に作曲する時に出てくる感じなんですかね。意識している感じはしないです。
ペンギンラッシュ 撮影=菊池貴裕
――リズム隊の男性陣は軽音部の先輩なんですか?
望世:高校の先輩とかではなくて、高校生の頃からライブハウスに遊びに行ったり、出演したりしていたんですけど、そこで出会った先輩です。
――どんなライブを見に行ってましたか?
望世:名古屋って、今もそうですけど、結構、ギターロックとかラウド系が盛んで。だから高校生の時に地元のライブハウスに行くんだったら、大体ギターロックかラウド、歌モノ、そんな感じでしたね。
――経緯を聞いているとこの4人でバンドになったのもすごい出会いだなと思うんですが、共通言語があったんですか? それとも二人が引っ張る感じ?
望世:共通言語はあんまりなくて(笑)。ベースとドラムの二人は、お世話になっていたライブハウスの店長さんが引き合わせてくれたんです。もちろんお互い知ってはいたんですけど、最初は私たちはまだ高校生だったので。もう“お兄さん”なのでほんとに会話も「何喋ればいい?」って感じで(笑)。
真結:「私たちこういうことやってるんで、演奏してください」っていう感じの姿勢で。
望世:徐々に私たち二人で舵を取れるようになりました(笑)。
――そもそも二人は何をやっていきたいと思ってました?
望世:バンドでしたね、やっぱり。高校生の時に組んでいたベースは県外の大学に行ってしまったので脱退って感じになったんですけど、そのまま二人でやろうともならなかったし、解散しようともならなかったし。
――今のニュアンスからしたら、どんな感じの音楽だったんですか?
望世:今回の『皆空色』に「turntable」っていう曲があるんですけど、その曲はもともと高校生の時に作った曲で。2曲目くらいにできた曲です。今はリアレンジしたので、その当時よりはだいぶ難しくなっているんですけど。こういうキャッチーな曲と、あと1stアルバムに入ってる「ルサンチマン」っていう曲も、高校生のころ一番最初に作った曲なので、音楽性はあんまり変わってないと思います。
――どういう形で作曲するんですか?
望世:高校生の時はスマホのガレージバンドとかで。
真結:今もだけど(笑)。そういうので簡易的なデモを作り、あとはバンドでみんなでアレンジしてく感じで作っていきます。
――ビート感はこのバンドにとって大事だと思うんですけど、そういうものを理解してくれる二人だった?
望世:そうでしたね。今思えば確かに。
真結:でも、思っていたのと全然違う、予想外のアレンジがくるのも面白いなと思いました。
――最近、音大出身のミュージシャンでファンクやジャズをやっている人は多いですけど、そういうバックボーンでもないので、確かに珍しいですね。それを力技でやっているところがすごいと思います。
望世:ははは。力技でしかないですね(笑)。
ペンギンラッシュ/望世 撮影=菊池貴裕
音楽は常に時代背景と一致していると思うし、それによって生まれたものはたくさんある。いつまでもチルしてるわけには、っていう。
――ペンギンラッシュをサブスクで聴くと、他のおすすめアーティストで出てくるのはCRCK/LCKSとかで。
真結:大好きです。
――でも背景が違うっちゃ違うし。
望世:全然違いますね。CRCK/LCKSの皆さんにもすごい言われるんですよ。「音大やのん?」って(笑)。
――あとはんoonとか近いのかなと思っちゃう。
望世:んoonとかものんくるとか、共演よくします。
――そういうところもありつつ、望世さんの歌詞の世界がすごくストレートなので、また違う味わいがあって。
望世:(笑)。
――望世さんがボーカリストとして自分の歌い方を掴んだなと思ったのっていつ頃ですか?
望世:やー、今でもまだですよ(笑)。
――ジャズやソウル、ヒップホップのアーティストに憧れている感じじゃなくて、オリジナリティがあるので、どうやって歌い始めたのかな?と。
望世:昔、ピアノを習っていたんですけど、ピアノがあまりにも下手くそで(苦笑)。その先生がもともと声楽の先生だったみたいで、「歌ってみる?」って言われて、歌ってみたら先生に火がついて(笑)。「歌頑張ろう!」みたいになって、しばらく歌ってましたね。その先生が割と「自由に歌って」みたいな感じだったので、特に直されることもなく。多分、クセとかとかその当時からあったと思うんですけど、あんまり直されなかったので。高校生になってからほんとはギターがやりたくて軽音部に入ったけど、リードギターにはなれないなと思って(笑)、もう一回ボーカルをやってみたら、顧問の先生が「お前は歌やな」ってなったので。ずっとあまり勉強していない、それが出ちゃってるんじゃないですかね(笑)。むしろ、どっちかというと歌が入ってない音楽が好きですし(笑)。
――ジャズでもインストを?
望世:ジャズも、ジャズボーカルはあんまり好きじゃない。一応、通ったといえば通ったんですけど、ピアノトリオとかの方が断然好きですね。
――誰に似ているとかは思わないけど、スタンスとしてはSydとか、ああいうメロラップっぽさもある感じというか。
望世:ああ、ヒップホップ大好きです。
――ヒップホップの歌い上げる人じゃないタイプにヒントがあったのかな?と。
真結:今作は特に影響が出ていそうですね。
望世:そうですね。なんか、もう自由にやろうと思って。
ペンギンラッシュ 撮影=菊池貴裕
――去年のアルバムから約1年、特に吸収してきたのはヒップホップ的な部分?
望世:常にやりたいことしかやってなくて。そうなった結果がこれですね。1年単位ぐらいでアルバムを出しているんですけど、毎回、根本は変わってない部分はあります。ただ、毎回ちょっと新しいことにチャレンジしていたりするので。今回も“これをやってやろう”“これを取り入れよう”みたいな感じじゃなかったんですが、結果こうなりましたね。
――今回はより“おしゃれ”とか“ジャジーな”とかいう形容以外のチャレンジをしている曲が多くて。
望世:そうですね。これまで流行りだしたのもあったのかもしれないけど、「おしゃれだね」とか「ジャジーだね」とか言われることも多かったんですけど、でもそれをやりたくてやっているつもりはあんまりなくて。たまたまできた曲がそうだったっていう感じなんです。1~2年前ぐらいはかなり流行ったから、そう言われるのかなと思いますが。
真結:今回もやりたいことをやったら、たまたま前回よりはジャジーさが減ったのかなというか(笑)。
――だからジャンルで括るのだけはナンセンスだし。で、いわゆるそういう流行が落ち着いてきて。それこそチルでメロウで、というところから全然違う作品を作ったSuchmosみたいなバンドもいますからね。
望世:最強におもしろかったですね!
――望世さんはそういうスタンスに共感するタイプなんじゃないですか?
望世:勝手ですけど、めちゃくちゃ話合うんじゃないかなって(笑)。
――ずっと新しい ことやるん だ、というパンクな態度?
望世:ああ、もう精神はパンクですね、一生。
ペンギンラッシュ/真結 撮影=菊池貴裕
新しい曲ができるたびに何かしらのチャレンジをしているので、言うなれば全部チャレンジなんです。“新しいことやろうぜ”っていう感じではなく。
――今回のアルバムの中でお二人にとってチャレンジングだと思う曲と、その理由をお聞きしたいんですが。
真結:結構、全部チャレンジですね。新しい曲ができるたびに何かしらのチャレンジをしているので、言うなれば全部チャレンジなんです。
望世:でも今回、新しく取り入れたのは生ドラムを使ってない曲があるということですかね。「woke」「turntable」「高鳴り」はパッドを使っていますて。でも狙ってというか……。
真結:“新しいことやろうぜ”っていう感じではなく、この曲にはこういう音がベストだよね、みたいな感じで。
望世:うん。でも「高鳴り」は面白いかな、生とトラップを混ぜているんですけど。この曲は音と詞が同時にできたんです。アルバム全体で新しいチャレンジかつ、これまでの感じも混ざっているのはこの曲かな。
――トラップっぽいビートでエレクトロニックな部分は割と攻撃的で。しかもピアノも入っているという。真結さんは鍵盤のアレンジはどう考えるんですか?
真結:「高鳴り」について言うと、ここまで音数を減らしたのは初めてでしたね。こんなに減らすのは怖いなと思っていました。出だしのパートは、指一本で弾いているぐらいの“極限まで優しく、優しく…”みたいな、そういう出し方をしているので。ピアノを入れるっていうよりは、その楽曲に必要な音を入れる感覚で作りましたね。でも、後半は“破壊”がテーマで。“破壊感をピアノでどう表現しようか?”みたいな。
望世:“不穏と破壊”がテーマで。
――最近ちょっと、チルから暴力へみたいなモードもあるし、象徴的な音楽や存在としてビリー・アイリッシュのようにローが体にくるような音とダークな世界観でポップスターになるべくしてなった人もいますね。
望世:そうなってきてるんだってすごく感じますね。
――暗かったりメッセージとして重かったとしても、新鮮だと思うと浸透するんだなと思って。
望世:確かに。その点では日本は遅いなと思っちゃいますけどね。
――望世さんの歌詞って、何かを解決する訳でもないし、思いをそのままボン!って出されていて。
望世:リアルですね、めちゃくちゃ。今回は特に、濁すのとか嘘つくのとかはやめようと思って。
――例えば夢みることすらも管理されているような状況を描いた「二○二○」は今年だから作ろうと思ったんですか?
望世:当初は未来のことを書いているつもりだったんですけど、この数ヶ月が激動すぎて。まさに今のことだなと思ったので、このタイトルをつけました。
――こういう状況ってすぐに解決できる訳でもないし、どういうスタンスで現実に向かってる心持ちですか?
望世:でも、それにすら気づかない人も多いんじゃないかなと感じていて。やっぱり同世代の友達と普通に遊ぶじゃないですか? まず、私が考えてることはそんな話題にはならないので。それはそれで楽しくはあるけど、もうちょっと気づいてもいいんじゃないかな?とか、そういう話が普通になってくるといいなと思うんですよね。逆に真結と話したり、人によるけど、ミュージシャンと話した方がいろんな社会のことが話題に挙がることが多いので。そういう話をもうちょっとしたい。できたらいいなというのはいつも思います。
――日本でも、ミュージシャンが表現に落とし込んでいかないと。ポップミュージックってきっかけじゃないですか。
望世:うん。音楽は常に時代背景と一致していると思うし、それによって生まれたものはたくさんある訳じゃないですか。それをまず知らない人の方が多いし。いつまでもチルしてるわけには、っていう。
――普通に今生きていて感じること、恋愛とかいろんな側面からの曲があって、“わかるわかる! ”というより、わかった上で自分はどうしようと思う歌詞が多かったです。
望世:ありがとうございます。
――何をアウトプットするために書いてると思いますか?
望世:自分の考えてること……というか日常ですかね。私にとって日常は恋愛することもそうだし、社会的なこと、政治に文句言ったり、それも日常なんですね。だからアルバムを通して聴くといろんなことが書いてあると思うんですけど、それが自分にとっては普通で当たり前で。その当たり前を書いている感覚ですかね。何か伝えたいとか、もちろんあるし、これを聴いて、何か感じてとか気づいてくれたらいいなとか、その人なりの共感を得られればいいなとは少しは思うけど、押し付けたいとは思わないので。
ペンギンラッシュ 撮影=菊池貴裕
――各曲のアレンジのことについてもお聞きしたいんですが。以前からあったという「turntable」、このAメロの拍の取れなさ!
二人:(笑)。
――これどうなってるんですか(笑)?
真結:“どうなってるんだろう? ”っていうのがちょっと狙いですね。普通に四拍子なんですけど、決めるタイミングが複雑なところで入ってたり、前半と後半で全然違うところで入ってたりして、パッと聴いたら何拍子なんだろう?とか、拍を見失いそうになる。
――このメロに歌を乗せていることがすごいなと。
真結:これは当時作っていたときのメロを割とそのまま採用してるんですけど、バックミュージックをガラッと変えて、それにあえて合わせてるっていう。その辺の違和感も逆に面白いなと思って。
――難しい曲をやるぞと思うんじゃなくて、歌ありきで作るからオリジナリティが出るんですかね?
望世:でも結構、ボーカルいじめの曲多いですよ(笑)。
真結:それはわざとな感じがあって。最初の頃から曲を作って、私がメロディを入れてデモを作ったりしているんですけど、でも歌のことはあんまりよくわからないので、“歌メロだったらいいな”っていうメロを好きなように入れるんですけど。なんか、それを望世の歌い方で、いい感じに最初に歌ってくれちゃったので、“いけるんだ”と思って(笑)。いろんなのがどんどん聴きたくなってくるというか。“こういう風にやったらどういう歌い方をしてくれるんだろう?”っていう感覚で作ってますね。
――人間の声というより器楽的なメロディをつけたり?
真結:私はピアノでメロをつけるので、歌いながらつけるメロとは全然違うなぁと思うんですけど、その、歌う時は歌いながらメロを考えたり、符割りを考えたりするじゃないですか。それが合わさることでどっちからも生まれないメロが生まれる気がして。だから面白いと思います。
――なるほど。今、ライブがちょっとできない状況ですけど、ライブは計画されているんですか?
望世:計画したことがどんどん白紙になる毎日なんですけど、それでも意外にしんどくないというか。もちろん毎回“ああ……”ってなるけど。でもそういう時代なんだなって。
――配信ライブの予定は?
望世:計画してますね。やっぱリリースタイミングなので。ほんとはツアーをする予定だったんですけど、ちょっと厳しいかなと思って、状況を見つつ、なにか考えてます。
――ちなみに今後どういうフェスやライブに出たいですか?
望世:全方位かかってこいって感じです(笑)。去年『りんご音楽祭』に出たんですけど、ああいうフェスは最高なんですよ。だからそういうのも出たいし、ロッキンとかでもできると思ってます。昔はずっと浮いてて、ギターロック、ギターロックのアウェイな中にうちらとか全然あったので、慣れたというか、そっちの方が燃えます。

取材・文=石角友香 撮影=菊池貴裕

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