KEIKO ソロデビュー初となるライブで
歌い上げた「未来の話を語る」音楽

2019.09.06(Sun)『“KEIKO First Live K001 ~I’ m home~”』@渋谷 CLUB QUATTRO

ステージに一人立つ姿は、凛として楽しげだった。
三人組ボーカルユニットKalafinaとして活動していたKEIKOが、2020年9月6日、渋谷 CLUB QUATTRO にてソロデビュー後の初ライブとなる『“KEIKO First Live K001 ~I’ m home~”』を開催した。
昨年には梶浦由記のライブツアーにボーカルとして参加していたが、今回が待望の“ソロシンガー”としての最初の一歩のライブとなった。だが、昨今の新型コロナウイルス感染症拡大の影響下、今回のライブは有観客配信の形を取ることになった。もともと10月からはツアーの開催も予定されていたのだが、これも中止となった今。出来る形を模索して開催に至ってくれたことをまずは関係各所に感謝したい。
今回筆者は配信を自宅から拝見したのだが、配信画面のチャット欄は開演前から期待する人のコメントが流れつづけていた。会場に参加し、生で音を体感するのも最高だが、ざっくばらんに感想や思いを発したり、他の人のコメントを楽しめるこの形にはこの形の面白さがある。どちらにしても開演前にはわずかな緊張と大きな期待が渦巻いていた。
時間となり、バンドメンバーとともにステージに登場したKEIKO、その瞬間に「おかえり!」で湧き上がるコメント欄、一曲目は疾走感溢れるナンバー「Be Yourself」だ。
バンドメンバーの生音をうけながら笑顔で登場したKEIKOは歌い出す。ゲストボーカルとしてではなく、ステージの主役として音楽を紡ぐ彼女を見るのは2年前の3月以来だ、モニターを見つめる目が自然とそのパフォーマンスに釘付けになる。
グルーヴィーなサウンドが刺激的な「始まりは」、それに続く「Ray」を聴いて改めてKEIKOのボーカリストとしてのレンジの広さに驚嘆してしまう。
Kalafina時代は低音を担当していたKEIKOだが、ハーモニーの中でときおり見せる高音にドキッとしたことも何度もあった。元々のシンガーとしてのポテンシャルの高さがあるからこその表現の広がりは、端的に見ている者をわくわくさせてくれる。想像を喚起出来る表現者だからこそ、ファンは待ち続けていたのだろう。
歌い終わり深くお辞儀をして笑うKEIKO、「やっと逢えたね」という一言にまたコメント欄が湧く。「今日この空間に優しい音楽、燃える音楽、一杯にして皆さんと楽しみたいと思っています」と語り、配信のカメラにも手を振る。そうだ、今日KEIKOが対峙しないとならないのは目の前の観客だけではなく、カメラの向こうの無数のファンでもある。カメラをまっすぐ見ながら「いきなりコメント拾うかもしれないから、よそ見しないでね?」と語りかける姿は楽しそうだ。
初披露となった新曲「溜め息の消える街」はジャジーで余白のあるナンバー、どことなく雨の雰囲気を感じるようなメロディに絡む、低音の響きが多めのKEIKOのボーカルは、低音ではあるがどこかKalafinaの時とも違う雰囲気で歌い上げられる。本当に曲によっての歌の印象がガラッと変わるのがKEIKOのソロの面白さだ。
優しいバラード「茜」に続いて披露されたのは梶浦由記が井上麻里奈に書き下ろした楽曲である「宝石」。FictionJunctionでも披露していたこの楽曲、やはり曲と声のマッチングがしっくり来る。梶浦由記との思い出の曲でもある「風の街へ」もまたそうで、やはり重ねてきた年輪というものは確実にあるのだということを感じさせられる。だが、その甘美な思い出に浸っているだけではないのがソロとして踏み出したKEIKOだ。
「今日ここは渋谷です、渋谷は庭でした」そうMCで切り出したKEIKOは思い出話の中で、「スクランブル交差点で尾崎豊の「スクランブル・ロックンロール」を聞いていた」というエピソードを披露。「中学生時代から思い入れがあるからカバーすることもしてこなかったけど、このステージからソロの始まりということでチャレンジします」と尾崎豊の
代表的ナンバー「I LOVE YOU」を歌い出す。
ささやくように低音を重ねるその姿からは尾崎豊という不出生の天才ロッカーに対する尊敬がにじみ出ていた。ストイックに音楽に向き合い、音楽に対する愛情を惜しみなく注ぐその姿を凝縮しきったようなこの数分間は、観客たちの集中度合いもそれまで以上に高まっていた。
針を落とす音すら気になってしまうくらい、KEIKOの声帯から生まれる音を聞き逃したくないという思い。でも緊張はない、リラックスしながらも集中している時間はコロナ禍で漫然と生きていた我々に生きる面白さを思い出させてくれる。
そんな特別な時間からのMCでは、メンバー紹介から配信のコメントをチェック、衣装のポイントは?というコメントに「衣装はスタッフ全員一致のもので、靴はKalafinaの時にアンコールなどで履いていた自前のブーツだから、自分もリラックスしています」と答えたKEIKO。新しい試みに関しても積極的な姿勢を見せ、「どんな形でも音楽を伝えていきた
いし、これからは一緒に参加してもらえるようなものも考えていきたい」と語った。
アッパーなロックチューン「エンドロール」で激しく躍動したと思ったら、続く「Change The World’ s Color」でその勢いはさらに加速する。額に汗を浮かべながら歌い終わった一声目は「こんな感じ!」とにこやかに笑う。
終始ステージで歌うことの喜びを隠さないKEIKOは、上記二曲は配信ライブがなかったらアルバムにいれなかった楽曲とコメント。製作中のアルバムは、コロナの状況がなければ暗い曲ばかりのアルバムになったかもしれない、今の状況を踏まえて明るい曲、前を向けるような曲を入れることになったと今の世界状況を受けて心境の変化があったことを伝えてくれた。「最初の予定の暗い曲ばかりのアルバムも聴きたい!」と視聴者からのコメントもあったが、この先もどんな音がKEIKOから生まれてくるか、その楽しみが増えていくのは幸せなことだ。
ソロとしての出発点である「命の花」を情感たっぷりに歌い上げたあと、アンコールで登場したKEIKOは1stアルバムが12月2日に発売されることを発表、期待に胸膨らむ中、最後に披露されたのは、梶浦由記がKEIKOのソロのために曲を書き下ろした新曲「七色のフィナーレ」。
梶浦の曲にKEIKOが詩をつける、師弟合作で生まれたこの曲はどんなものなのか期待の中奏でられた音楽は、想像以上の明るさを持った楽曲だった。
稀代の作曲家である梶浦由記はこれまでにも様々な作品の様々なシーンに彩りを加える名曲を生み続けてきた。そんな梶浦がソロとして踏み出したKEIKOに送ったメロディーは希望に満ち溢れ、道を照らすような明るさに満ちた曲だった。そんな贈り物にKEIKOが載せた言葉の中で印象的だったのは「僕らが話した未来の話をしよう」というフレーズ。
かつて「未来は君に優しいだろうか」と言ってステージを降りた音楽の申し子が新たな一歩となるこのステージで「未来の話をしよう」と言った時、止まっていた時間が確実に動き出した気がした。Kalafinaの三人で最後に動き出したKEIKOが未来の話を始めるのであれば、その音楽に救われた我々も、この靄掛かった薄暗い今の向こうにある“あやふやだった未来”に向かっていかなければいけないと思う。そんな事を考えてしまうほど、明るく、喜びに満ちた歌声だった。
KEIKOが進む道は全てが未知で、一歩先がどこに続いているのかもわからないのかもしれない。だが彼女には音楽がある。音楽がある限り、きっとKEIKOは無敵だ。
レポート・文:加東岳史

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