THE BACK HORNの音楽としっかり共鳴
できた約90分、画面越しでも届いたラ
イブハウスの熱狂をレポート

THE BACK HORN「KYO-MEI MOVIE TOUR SPECIAL」-2020-(ライブハウス編) 2020.9.6(SUN)
9月6日午後8時、『THE BACK HORN「KYO-MEI MOVIE TOUR SPECIAL」-2020-(ライブハウス編)』を観た。配信ライブという新しい形態が一気に普及したこの夏、彼らも進んで新しい挑戦を選択した。5月末から新型コロナウイルスの影響で延期となってしまった『「KYO-MEI ワンマンツアー」~カルペ・ディエム~今を掴め』の開催が予定されていた13公演の日時に合わせ、これまでに発表してきたライブ映像の中から13作品を厳選し、YouTube にて一夜限りプレミア公開していく『THE BACK HORN「KYO-MEI MOVIE TOUR」-2004~2019-』を開催してきたが、今日がそのファイナルになる。命を削るようなあのステージの気迫を、居ても立ってもいられぬあのフロアの熱狂を、どんなふうに彼らは画面越しに変換して届けてくれるだろうか。
Photo by Rui Hashimoto[SOUND SHOOTER]
「こんばんは、THE BACK HORNです」
山田将司(Vo)の静かなひとこと、爆音一閃、強烈なヘヴィロック「その先へ」のすさまじい重低音がヘッドフォンいっぱいに鳴り響く。《とりあえず全部ぶっ壊そう 閃いたライブハウスで》。THE BACK HORNがライブハウスに戻ってきた、最高の夜を始めるのに最高の歌詞じゃないか。このところさっぱりと髭を落としている菅波栄純(Gt)が、十代の少年のような顔でギターをかきむしる。いくつものカメラが爆音のグルーヴに合わせ、揺れながら4人のアップを追いかける。小細工なし、ワイルド&ダイレクトなリアルライブスタイルだ。
ぐっとギアを上げて「Running Away」へ、さらにスピードを上げて「シンフォニア」へ。ストイックなアスリートのようにまなじりを決してドラムに向かう松田晋二(Dr)と、動きは激しいがクールなポーカーフェイスを崩さない岡峰光舟(Ba)。山田が手招きをして見えない観客に合図を送る。まるで“もっと来い!”と言っているように。帰る場所ならライブハウスにあるから、何処へでも飛んでけよ――。山田が歌詞を変えて叫ぶ。まるで“ここが俺たちの生きる場所だ”という宣言のように。
Photo by Rui Hashimoto[SOUND SHOOTER]
「このステージに立てたことをうれしく思います。僕らのライブがみなさんのもとに届きますように。たっぷり楽しんでください」
本公演への思いを込めた松田のMC、そして光舟の骨太ベースから始まる「白夜」。洒落た4ビートのジャジィなリフと、中間部のカオスな歪みのアンバランスがいい。「暗闇でダンスを」から「がんじがらめ」へ、曲がディープ&シアトリカルな方向へ進むにつれて、山田の表現力が覚醒してゆく。鬼気迫る表情、容赦ないシャウト、クレイジーな感情の暴発、すべてが衝撃的。「ジョーカー」ではステージ下に飛び降りて叫ぶ、スイッチの入った山田は最高にかっこいい危険人物だ。
Photo by Rui Hashimoto[SOUND SHOOTER]
「今日は、普段はライブに来れない人も観てくれてると思います。あらためて、THE BACK HORNです」
山田がエレクトリックギターを持ち、スローでイマジネイティブな「ガーデン」のコードをゆっくりと弾きながら歌う。「ヘッドフォンチルドレン」では鍵盤ハーモニカに持ち替え、松田の叩くレゲエビートに乗せて力強く吹き、歌う。《ヘッドフォンの向こう側に救いがあるの?》。今ヘッドフォンで聴いているからこそ、歌詞が胸に沁みる。この向こうに救いはきっとあるはずだ。光舟の朴訥な、しかし心を込めた口笛の音色が美しい。そして「泣いている人」は、個人的にこの日の最高のハイライトシーンの一つ。エレクトリックギターの美しいアルペジオ、マーチング風の前進するリズム、素晴らしいメロディ、後半にゆくにつれてどんどんエモ度がアップしてゆく生き物のような演奏、すべてがパーフェクト。《次はいつ顔が見れるのかな 近いうち会えるように流れ星に祈ろう》。20年も前のインディーズ時代の曲が、予言者のように2020年夏の現状にぴたりとハマっている。
Photo by Rui Hashimoto[SOUND SHOOTER]
「生きていくことが大変な時代だけど、音楽の力は、生きていればきっといいことあるからって、心の中に訴える力があると思います」
久々に会ったけど、こんなになまってたっけ? 光舟が栄純の福島なまりを突っ込み、4人がなごやかに笑い合うMCタイムの最後を、山田がびしっと締めてくれた。「そんな歌を歌います」と紹介した、6月にリリースされたばかりの最新シングル曲「瑠璃色のキャンバス」は、未来への希望をまっすぐに歌う壮大なアンセムだ。《約束するよ僕ら また会う事を》。本当に、この日聴いたすべての歌の歌詞が、この日のために作られたように聴こえてくる。THE BACK HORNはずっとここにいて、これからも居続けるだろう。
Photo by Rui Hashimoto[SOUND SHOOTER]
ラストスパートは3曲。猛スピードで疾走する「ハナレバナレ」、加熱したエンジンにさらにオイルをぶちこむ「戦う君よ」。山田がマイクを客席に、カメラに向けて「歌え!」とけしかける。「コバルトブルー」は、強烈なストロボの白光の下で暴れまわるフロントの3人を、全力でカメラが追い回す臨場感がすごい。これは画面の向こうの出来事じゃない、今この時間を共有するすべての者たちをつなぐ、音楽という見えない赤い糸だ。
アンコール。新しいニュースがある。9月16日、小説家・住野よるとコラボしたCD付き先行限定版書籍『この気持ちもいつか忘れる』のリリース。12月6日、新木場STUDIO COASTで『マニアックヘブンVol.13』開催。動き続ければ、心は死なない。生き続ければ、必ずまた会える。
「次はライブハウスで会えたらいいね。それまで元気で、生きて会いましょう」
本当のラストチューン「無限の荒野」の、陽性のビートとメロディが明日への希望をかきたてる。山田がカメラにマイクを向け、栄純がお立ち台に駆け上がってすごいソロを弾いた。THE BACK HORNはびんびんに生きている。こうしちゃいられない。次に会うまでにこっちも元気でいなくちゃ。約90分15曲、THE BACK HORNの音楽としっかりと共鳴できた素晴らしい時間だった。
取材・文=宮本英夫
撮影=Rui Hashimoto[SOUND SHOOTER]
Photo by Rui Hashimoto[SOUND SHOOTER]

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