要友紀子(かなめ・ゆきこ)セックスワーカーとして働く⼈たちが安全・健康に働けることを⽬指して活動するグループSWASH(Sex Work And Sexual Health︓スウォッシュ)代表。共著に『セックスワーク・スタディーズ 当事者視点で考える性と労働』(SWASH編著、日本評論社)。https://swashweb.net/

要友紀子(かなめ・ゆきこ)セックスワーカーとして働く⼈たちが安全・健康に働けることを⽬指して活動するグループSWASH(Sex Work And Sexual Health︓スウォッシュ)代表。共著に『セックスワーク・スタディーズ 当事者視点で考える性と労働』(SWASH編著、日本評論社)。https://swashweb.net/

要友紀子が問う「藤田孝典さんに聞き
たい。風俗よりも素晴らしい仕事って
何?」

ナインティナインの岡村隆史による、コロナ禍で美人風俗嬢が増えるというラジオでの発言が炎上。一方、この発言を特に熱心に叩いていた“社会活動家”藤田孝典氏が、コロナ禍で性風俗店は補償がなかろうが休業しろと発言。さらに性風俗産業自体を廃止すべきと主張し、これまた炎上。性風俗には「搾取」「貧困」などの言葉をセットに語られるグレーな業界というイメージが根強い。これに対して、セックスワーカーが安全・健康に働けることを目指して活動するグループSWASHの代表を務める要友紀子氏は異を唱える。
 金銭を支払えば、誰にでも公平に性的なサービスを提供してくれる、性風俗従事者の人々。自力では性欲解消になかなか辿り着くことのできない人々はもちろんのこと、彼女や彼氏といった決まったパートナーがいても、「プロのテクニックを味わいたい」「パートナーとは、試せないプレイをしてみたい」と望む人たちにとっても、性風俗従事者たちはなくてはならない存在だ。しかし、そのサービスを享受することに、後ろ暗さを覚えるとまではいかずとも、「お金を払うからといって、見知らぬ人に性器を舐めて咥えてもらっていいのか」と問われると、「なにひとつ問題はない」と、堂々と胸を張っては言いにくいのではないだろうか。最近はセックスワークの是非をめぐって、人権の観点から議論されることも多いが、実際に風俗の現場で働いている人たちは、性風俗という自らの仕事について、どう考えているのか。セックスワーカーの健康と安全のために活動するグループ『SWASH』の代表を務める要友紀子氏に話を聞いた。
     ◆      風俗店を利用する上で、もっとも気になるのが、彼女/彼らは果たして、本当に好きで働いているのかということ。借金のカタだったり、ヒモに強要されてだったり、また貧困によって、自らは望んでいないにも関わらず、働かされているのではないかという疑いは、払拭しきれない。これに関して、要氏は、それぞれのケースを一緒くたにせずに丁寧に見ていくことが重要だという。
「例えば、借金があって風俗で働くというケースですが、風俗で働いて返せばいいというつもりで作った借金なのか、それとも風俗で働いてからできたものか、親族の病気だったりで、やむを得ずに出来た借金なのかで、まったく違いますよね。だから、『借金のために、嫌々風俗で働かざるを得ない』というのは乱暴なまとめ方です。ヒモに『稼いでこい』と言われて働かされている子がいるという話も、よく言われてますが、パートナーの要求に応じて、嫌なのに働くこと、彼氏/彼女の言いなりになってしまっているということは、セックスワークではなく、共依存の問題。セックスワークではない職業でなら、言いなりに働かされ、搾取されていいわけでもない。恋人の言いなりになっちゃダメだよねという話です」
 こうしてつぶさにひとつひとつ、解いてもらうと、望んでないのに性風俗店で働かざるを得ない人がいる、という問題の根本は、性産業そのものではなく、別のところにあることがわかる。
 が、そうはいっても、性産業には、ある種のいかがわしさ︱︱女衒のような存在が、中間搾取をしているのではないか︱︱という印象もつきまとう。アダルトビデオの出演強要問題が世間を賑わせたこともまだ記憶に新しいが、性風俗産業には、そういった構造はないのだろうか。
「そういうケースもあります。けれども、事件化するほとんどは、ホスト・スカウト絡みやJKビジネス、外国人の働く裏風俗、ツイッターやLINE、出会い系でお客さんを見つける個人売春といったアンダーグラウンドで起こっていることです。犯罪は不可視化されたところで起きるので、合法的な領域の“適正風俗”では人身売買は、ほぼない。一方でアンダーグラウンドは違法なので、つけこまれて『バラすぞ』とか『写真撮った』と脅されるリスクがあるし、見守る人もいない。合法とされている場をなくすと、むしろ働く人たちへの危険は増えてしまうんです」
性風俗で働くという自己決定 では、貧困についてはどうなのだろう。生活に困窮した女性が性風俗で働くという事例があるという。『風俗に福祉が負ける』という言葉があるが、そもそも性風俗での労働が、女性のセーフティネットとして存在する社会構造を認めてもいいのだろうか。
「『本当は風俗で働きたくない』という風俗嬢がいたとして、『風俗で働きたくないなら何がしたい?』がセットじゃないといけないと思うんです。実際は、『あなたのしたい仕事はなんなの?』って聞いた時に、だいたいの人はなかなか答えられないと思います。これは、風俗嬢に限らず、サラリーマンだって、その他の仕事してる人だって、多くの人がそう。金になるんであれば、本当に自分がやりたいことをやりたい。ただ、いま金になる仕事の中では、選択肢に望むものがないという現実がある。2013年にSWASHで行った『東京・埼玉・すすきの店舗型ヘルス店の 「平均的」風俗嬢』という調査によると風俗嬢の平均月収は約34万円なんです。同調査では、セックスワーカーの前職の平均月収は19万。ようするに『19万じゃ無理です』と言って、みんな風俗に入っている。だから、他に積極的にやりたい仕事がないとしても、34万と言わずとも30万円くらいのベーシックインカムがあれば、風俗を辞めるかもしれません。そうすれば福祉は風俗に勝ったということになる。結局、風俗を辞めたい人が辞められる世界がいいというなら、どういう福祉があれば辞められるかという話までしないと無責任なんです」
 風俗で働くことが、熟考した上での自己決定であれば、それは尊重されるべきだ。が、自己決定を求めるのは危うい人も、性風俗で働いているという批判もある。例えば、知的障害を持つ女性だ。彼女たちの自己決定権を尊重しないわけではないが、少なくとも性風俗という業種がなければ、彼女たちがそこで働くこともないと思えるのだが……。
「実は知的障害があるかもしれないというのは、なかなか断定できません。はたから見て、知的障害なのか精神疾患なのか鬱なのか、わからない人がいるんですよ。でも、お店の人やお客さんとコミュニケーションができたり、話ができる。そういうボーダーラインにいるような人に関して、『風俗で働くのがよくない』と言うのなら、裏を返して、『では、性風俗で働かないなら、どうすればいいと思う?』という問いかけがセットでなければならない。これについても『どうするのがいい?』というところまで導かなくては、無責任だと思います。作業所で働けばいいんですか、それとも、自立支援施設に入って生きていったほうがいいと言うんですか、それは誰が決めるんですかって。本人でしょ。もしも作業所で働くことで、笑顔がなくなる生活をしているなら、笑顔があるほうを選びたいと普通思うじゃないですか。その人にとっては笑顔で働ける場が風俗かもしれない。そこをみんな見ようとしないんですよね」
風俗店は犯罪の温床という嘘 風俗で働くことを否定するのならば、受け皿になるものが必要となる。さらにその受け皿が風俗で働くことよりも勝っているとは、本人以外の誰も決めることができない。しかし、『風俗を廃止しろ』と主張する人々はまた、違った角度からの問題も提起している。
 先日も、生活困窮者支援ソーシャルワーカーであり、NPO法人ほっとプラス代表理事を務める藤田孝典氏が、性風俗について「これほど性暴力が溢れる社会で、セックスワーカーが暴力対象にならないわけがない。いくら業界で内規やルールを設けようが、性暴力、強制性交などの違法行為は後をたたず、リタイア後にも、精神疾患や自殺未遂、自殺に追い込まれる人を生み出し続ける産業。廃止論、全廃は全く極端なものではない」とツイートし、セックスワーカー当事者たちから、猛反発を食らうことになった。
 とはいえ、確かに、不特定多数を対象とした性行為が行われる以上、性暴力や性暴力の対象となりやすいのではないか、という疑問はつきまとう。もし犯罪の温床という現実があるならば、性産業はやはりその存在を問わるべきではないだろうか。しかし、この件に関しても、要氏は異を唱える。
「廃娼を唱える人たちは、性産業従事者を被害者扱いしますが、搾取か、搾取じゃないか。強者か、弱者か。好きでやってるか、やってないか。そういう二項対立で物事を考えるほうが無理がある。人はみな、0か100で語りきれないものを持っているので、そういう見方はしないほうがいいと思います。『風俗店で性暴力被害がある』と言われていますが、警察庁の情報公開室に行って、場所ごとの犯罪件数の統計データを実際に調べたことがあります。それによるとラブホテル、ビジネスホテルを含む宿泊施設においては、風営法改正前も改正後も、窃盗事件や強盗・強制性交等・監禁・殺人といった凶悪犯罪は数値的に経年変化なく継続的に起きてるんです。けれど、風俗店という場所で見ると、そこで起きた犯罪のデータはほとんど何十年も挙がってきてない。データとしてないということは、おそらくになりますが、店舗型のお店では、凶悪犯罪はほとんど起きていないはず。そして、ホテルでの事件というのも、店を介さない個人間の売買やプライベートのケースで犯罪は起きていると思われます。犯罪をなくしたいという視点で見るならば、どのような条件がそろえば犯罪が起きるのかを考えないといけないのに、反対派の人たちは、性産業がそもそもおかしいという出発点から始まっているので、性産業は犯罪の温床であり悪という見方をするんです」
社会の犠牲者とみなす差別 そもそも、セックスワーカーたちは、性風俗産業で働くことを、あくまでもただの“労働”とみなしている。つらさやしんどさもあるかもしれないが、多くの労働にはつらさやしんどさがつきものであり、性風俗での労働も、それらとまったく変わらないのだ。
「セックスワークが仕事という意識があればあるほど、自分が主導権を持たなくては、という意識が強くなりますよね。相手をコントロールして、痛かったり不快な目に遭わないようにしないと、仕事が続けられなくなりますから。だからテクニックやスキルを身に着けるし、嫌なお客さんが来た時にはどうやって対処するか、どうやって自分にとって都合のいいお客さんに変えていくか、一日にどうやって人数をこなすかとかと考えることで、仕事という意識をどんどん高めていく。別に無理強いを受け入れることで仕事をしているわけじゃないので、嫌な行為は拒否もできるし、サービスの仕事としてやるわけだから、自分でラインを決められるんです。むしろ性風俗ではない、プライベートのセックスのほうが要求が際限ないですよね。例えば『愛してるからゴムをつけなくていいだろ』と言って、愛という名でもって相手を搾取する。性産業反対派の人、それこそ藤田氏なんかはセックスワーカーのことを『奴隷』だと言いますが、奴隷だったら拒否もコントロールもできないですよ。パートナーのDVで殺される人が3日に1人いると新聞で報道されていましたが、そっちのほうがよっぽど危険じゃないですか」  当事者たちがこのように受け止めているというのに、「それでも搾取されている」「あなたが受けているのは性暴力だ」と主張する人々は、なぜそこまでして性風俗を廃止させたいのだろうか。
「『社会の犠牲者として、助けないといけない彼女たち』という差別ですよ。風俗に堕ちた人たちという見方で、堕ちたのは彼女たちの責任ではなく、社会が彼女たちの可能性を引き出さないからだ、という上から目線。自分たちより下にいる人たちに対して、上がってこいよ、と。藤田孝典氏に、風俗よりも素晴らしい仕事ってなんですかと聞いてみたいですね。搾取やセクハラ、パワハラがない、よりよい労働環境がどこにあるのか。なかなかないでしょう。収入面はもちろん、休みの取りやすさ、ストレスの少なさ、働きやすさ、セクハラパワハラに遭いにくさ、人間関係の面倒くさくなさ、どれをとっても風俗という仕事を選んで助かっているという人は多いでしょう。だから、藤田氏が「廃業せよ、買春者を処罰せよ」と突然言い出したことについて、まわりの人たちはみんな『藤田さん、いったいどうしちゃったんだろう』と言ってますよ」  我々が「そんなに好きじゃないけど、他にしたいこともできることもないし、食うためにはまぁ、仕方がない」と納得してやっている仕事について、完全に赤の他人である第三者が「あなたは搾取されている! だから、あなたはすぐにでも仕事を辞めるべきだし、あなたの業種は世の中から消えてなくるべき!」と主張をしてきたら、どう思うだろうか。セックスワーカーたちが遭っている、性風俗を悪とする論調はそれとまったく同じことである。彼女たちを応援したいのならば、一消費者として、金払いよくマナーを正して風俗を利用すること。それに尽きるのではないだろうか。
要友紀子(かなめ・ゆきこ)
セックスワーカーとして働く⼈たちが安全・健康に働けることを⽬指して活動するグループSWASH(Sex Work And Sexual Health︓スウォッシュ)代表。共著に『セックスワーク・スタディーズ 当事者視点で考える性と労働』(SWASH編著、日本評論社)。
https://swashweb.net/
取材・構成/大泉りか
「実話BUNKAタブー」10月号掲載

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