INTRVIEW / 小山田壮平 小山田壮平の
初ソロ作品を形作った、Gateballers
とインドで出会った「ハルキくん」

小山田壮平が初のソロ・アルバム『THE TRAVELING LIFE』を8月26日(水)にリリースした。
共にandymoriで活動した藤原寛(Ba.)のほか、Gateballersから濱野夏椰(Gt.)、久富奈良(Dr.)の2人を迎えたバンド編成で制作された今作は、「旅」をテーマに据えた12曲を収録。andymori 、AL、そしてソロ名義での活動と、小山田が体験してきた確かな時間の流れ、また音楽との向き合い方の変化を感じられる作品だ。
今ではレーベル・メイトであるGateballersとの出会いのきっかけから、小山田に大きなインスピレーションを与える土地・インドでの体験まで、今作が生まれるまでに辿った旅の道程を振り返った。
Interview & Text by ヒラギノ游ゴ(https://twitter.com/1001second)
Assistant by Daisuke Akai(https://twitter.com/daaaisuuukeee)
Photo by Shintaro Nakamura(https://www.instagram.com/nakamuran0901/)
「僕の曲を聴いてくれ!」Gateballersとの出会い
――外出が制限される状況が続いていますが、この数ヶ月どう過ごされていましたか?
小山田:今は福岡に住んでるんですけど、やっぱりなるべく外に出ないようにしています。何年か前から料理を好きになっていたのがよかったです。何日かに1度、車でスーパーへ食材を買い出しに行くのがちょっとしたイベントになっていて、気晴らししながら生活できています。
――この期間、特によく聴いた音楽はありますか?
小山田:インナージャーニーというバンドの『クリームソーダ』という曲がとても好きでよく聴いてます。あと、最近一番よく一緒に飲みに行くのが工藤祐次郎くんという宮崎のSSWなんですが、彼のアルバムもよく聴いてます。
――今回のアルバムのレコーディングも福岡で行ったのでしょうか。
小山田:主に伊豆のスタジオで録ったんです。部分的に下北沢でも。レコーディング中は東京の事務所に寝泊まりしつつ、伊豆まで録りに行っては戻ってきてという生活をしてました。
IZU STUDIOというところでレコーディングしたのですが、今回ギターを弾いてくれた(濱野)夏椰のお父さん、濱野泰政さんがそこのスタジオ・エンジニアさんなんですよ。IZU STUDIOは2018年に作った会場限定のEPのレコーディングの時もお世話になっていますし、ALの(長澤)知之もここでレコーディングしています。
夏椰とは彼がデビューする前、高校生の頃からの付き合いなんです。僕がライブハウスで酔っ払ってたら、いきなりタメ口で「壮平くん壮平くん! 僕の曲を聴いてくれ!」って感じで耳にイヤフォンをねじ込んできた初対面の高校生が、夏椰でした(笑)。
――そんなに前から親交があったんですね。
小山田:そうなんです。で、その後andymoriの活動を終えて、自分の事務所を作ろうというタイミングで夏椰もバンドを始めていたので、一緒にやろうということになって。レーベル・メイトとしてこれまで活動してきました。
今回の作品以前にも、僕のEPの制作を手伝ってもらってます。2016年から弾き語りツアーを毎年やっていまして、そのライブに来たお客さんに手土産として持って帰ってもらっているEPですね。今回同様ギターを夏椰、ドラムを(久富)奈良くんにお願いして、レコーディング場所もIZU STDIO。
――小山田さんから見た今作のバンド・メンバーの印象を教えてください。
小山田:そうですね、まず夏椰のギターは無邪気で情熱的なというか、プレイがエネルギッシュでかっこいいんです。あとすごく音楽に詳しいので、いろんなアレンジのアイデアを持っていて、アレンジャーとしても頼りにしてます。
小山田:アレンジは基本的にギター・パートがメインですが、例えば「ローヌの岸辺」ではピアノを逆再生した音が入っているのですが、それも夏椰のアイデアです。。ただ、彼は思いついたら「あとは任せた!」って感じでやり逃げするようなところもあって(笑)。上手く落とし込むのに少し苦労しました。でも、そういう無邪気なところがアルバムの随所に反映されていていいなと思います。
――続いてドラムの奈良さんはどうでしょう。
小山田:奈良くんは曲を汲み取る感性が本当に素晴らしいんです。派手なプレーをしなくても“これが欲しいんだよな”っていうものをすぐに感じ取って叩いてくれるドラマーです。
――では最後に、andymori時代からの付き合いである藤原寛さん。
小山田:寛は……何なんですかねあれは(笑)。僕の表現で言えば、色鮮やかなベースを弾く人だと思っています。
――メロディアスなフレージングをする方だということですか?
小山田:そうですそうです。元々クラシック・ギターをやっていたことも関係あると思うのですが、曲を楽しく、彩りのあるものにしてくれるベースですね。あとはやっぱり、僕の曲を一番理解してくれるベーシストなので、頼りにしています。
インド、方丈記、空港での高鳴り
――今回のアルバムはソロ名義の作品です。これまでのandymoriやALの活動とは、どのような区別をされていますか?
小山田:名義については何か強く意識しているわけではないですね。ALについても、元々andymoriをやっていた頃からあるプロジェクトに自然と主軸が移っていったという流れだし。今回の作品にしても2016年からやっている弾き語りの曲が徐々にまとまってきたので、ソロ・アルバムを作ろうか、という成り行きによるところが大きいんです。
――では、今回「旅」というテーマに至ったのはなぜでしょう。
小山田:いくつかきっかけがあって、ひとつは以前ネパールへ行った時に出会った日本人のグループです。彼らはアジアを転々としながら暮らしていて、僕も出会ってから2週間ぐらい一緒に過ごしました。その中にダンサーのハルキくんという人がいて、彼やその周りの人たちと過ごした時間からはとても大きな影響を受けていると思います。
ハルキくんはとにかくずっと踊ってるんですね。歩きながら踊るし、食事中でも「楽しい!」って言ってすぐ踊り出す。それに、ハルキくんが踊っていると近所の子供たちがわーっと集まってきて、僕もつられてギターを弾いて、なんでもない昼下がりの道端がとても楽しい空間になったりするんです。
そういうおもしろい人たちと出会って、「彼らは人生を旅してるんだな」と羨ましく思ったんです。ちなみに今回の作品のブックレットにも、ハルキくんが撮ってくれた写真を1枚使わせてもらってます。とても綺麗なガンジス河の写真なんです。
――「人生を旅する」感覚は、それまでご自身にはないものだった?
小山田:その時はそう思いました。でも、ふと振り返ってみると、いろいろな人と出会って、別れて、自分の心も旅を重ねてきているんだってことを改めて感じました。
僕は17年間東京に住んでましたけど、引っ越しが好きで、契約更新の度に東京中を転々として、さらに昨年からは福岡に戻って。そういう意味ではあちこちに旅をしてきたし、彼らも自分も「人生を旅している」という意味では変わらないなと思ったんです。
小山田:あともうひとつ、今回の作品を作る上で意識したことがあります。昔教科書で読んだ『方丈記』の「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という一節をたまたま読み返す機会があって、とてもしっくりきたんです。ここで言われる「生まれては死ぬを繰り返していく」といった世界観に自分の心の奥深いところが共鳴していると気づいてハッとして。
――おっしゃるように、この作品で描かれる「旅」は単なる場所の移動に留まらず、時間の経過もまた旅として捉えているように感じられました。
小山田:そう思います。あと、「旅」をテーマにしようと思った理由として最後のひとつが、2018年の末のことなんです。その頃、また久しぶりにインドへ行きたくなって、空港へ向かって、諸々の手続きを終えました。免税店を横切って、飛行機に乗り込んでいく、その時にものすごくわくわくして。それまであまり意識したことがなかったんですけど、その時改めて「ああ、自分は旅が好きなんだな」ってことを実感したんです。なので、今作にはそういう、旅というもの自体に対する昂りや興奮の部分も描かれていると思います。ちなみに、Gateballersのみんなとも一緒にインドを回ったことがあります。
――小山田さんは旅先ではどのように過ごされることが多いのでしょう?
小山田:場所にもよりますが、インドやネパールを一人旅する時は、一番安い宿に泊まって特に予定を決めずふらふらと動くことが多いですね。
――現地の人と交流をすることもありますか?
小山田:そうですね。最初にインドへ行ったときはブッダガヤという場所で弾き語りをしたんですけど、気づいたらすごい人数が集まってきていて、その中の1人に声をかけてもらって、家に泊めてもらって。そうだ、その時娘さんを紹介されて、かなり猛プッシュされたんですが、まだ19歳だったので「すみません……」と言ってことなきをえました(笑)。
――結構波乱の旅だったんですね。そもそも最初にインドへ行ったきっかけはなんだったんでしょう?
小山田:17〜8歳のときに藤原新也さんの『メメント・モリ』というインドを撮った写真集を見たことですね。
――ああ、andymoriの名前の由来にもなった。
小山田:そうですね。その中に人間の足が犬に食べられてる有名な写真があるんですけど、「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ」というキャプションとともに、ものすごく衝撃を受けたんです。
それと、僕には姉がいて、もう亡くなってしまったんですが、生前に「インドは10代のうちに行っておけ」と言っていたんです。それがあったので、19歳の時に初めて行きました。
音楽との付き合い方・作り方の変化
――今作は全曲書き下ろしではなく、以前から歌ってきた曲も収録されていますが、収録の基準やバランスはどのように決めていったのか教えてください。
小山田:このアルバム1枚の中で、風景がどんどん移り変わっていく、ひとつの旅のような作品にしたいというのがあったので、それに沿うものを選んでいきました。
小山田:単純に旅のことを歌う曲もある程度は必要だったのですが、例えば「あの日の約束通りに」という曲は、旅先ではなく自分の住んでいる土地で過ごす日常を歌った曲です。直接的に旅を歌ったものではないこういった曲を入れることで、“人生が旅である”というテーマが浮かび上がってきたと思います。
――なるほど。時系列はどのように考えていますか? 例えば、「ゆうちゃん」は子供時代のことを歌ったものですが、12曲中の5曲目ですよね。子供時代の曲を1曲目に持ってきて、徐々に大人へと進んでいくという順番もありえたかと思うのですが。
小山田:そうですね、歌詞の時系列にはあまり縛られず、それよりは曲調に重きをおいた感じです。というのと、「ゆうちゃん」の曲順については、旅をしている間にふと昔のことを思い出すイメージです。そういえば、今回は初めて曲順をすべて固めてからレコーディングしたんですよ。今まではその時やりたい曲をどんどん録って後から考えてたんですけど。
――今回、完成までに一番時間がかかったのはどの曲でしょう?
小山田:「雨の散歩道」かな。歌詞を2ヶ月くらいかけて推敲しました。初めにメロディと最初の一節があって、それをベースに組み立てていったんですけど、結局納得できるものができなくて一度ボツにしたんです。でも、どうしてもこのメロディが頭の中でリフレインし続けて、これは完成させなきゃいけない曲なんだなと思って。
このメロディの中で自分が表現したいことが一体何なのか思考を重ねて、少しずつ歌詞に反映していきました。今までにないほど推敲を重ねた曲なので、自分でもとてもいい詞ができたなと思っています。
――これまではあまり推敲を重ねるような作り方はしなかった?
小山田:そうですね。昔はもう、自分の中の衝動をいかに吐き出すか、というスタンスでした。今はより「作品を作る」という感覚で向き合えていると思います。
昔は詞を推敲することもあまりなかったので、リリースした後ですごく後悔することもあったんですけど、今は作品として自分の中で納得できるものをじっくり作るようになってきました。今思うと「やだなー」って思う曲もいっぱいあるんですよ(笑)。
――その場の衝動をありのまま出したからこそ生まれた表現もあるかと思いますが、少なくとも今はそういうモードで作ってはいないと。今は感情の波が落ち着いてきて、割と凪いだ状態という感じでしょうか。
小山田:そうですね。本当にそこは年齢を重ねて変わってきた部分だと思います。
曲に対するスピード感も変わってきていて、昔は作ったらすぐライブでやる、バンド・アレンジが決まってなければ弾き語りででもやる、みたいな感じだったんです。「俺を見てくれ、こんなすごい曲を書いたんだ」という意識が常にあったんでしょうね。
でも、徐々に自分も変わっていって、今はちゃんと自分で納得できる形にしてから世間に出したいし、いい作品に仕上がった上で聴いてもらいたいなって思いです。
――なるほど。そういった変化は、ご自身として非常にポジティブに捉えてらっしゃるんですね。
小山田:そうですね、そう思います。今でも時間をかけずにできる曲はありますけどね。例えば今作に収録している「スランプは底なし」は本当にものの10分、20分とかでできましたね。この曲の終わり方を思いついたときには「でかした」と思いました。
――<この曲もきっと最後まで書けない 適当に終わらせるだろう>ですね(笑)。
小山田:スランプのくせに何をいい終わり方しようとしてるんだ! みたいな(笑)。もうスランプなんだから適当に終わらせちゃえよ、どうせいいものは出てこないから、という感じです。でも真面目な話、スランプの時に「スランプじゃない」って思いながら作業を続けるのって苦しいじゃないですか。認めてしまった方が開き直れていいなと思ってるのは本当のことなんですよ。
きっとこれからもスランプは定期的にくると思うんですけど、この曲によって少しいい方向にいくといいな、という期待も込めてます。
――なるほど、スランプに対しても今はそういった落ち着いた心持ちでいるんですね。
小山田:そうですね、昔はそうはいかなかったと思いますけどね。もっとわがままで、自分の感情を抑えられなかった。今は確実に落ち着きが出てきたし、昔よりは人のことを考えられるようにはなったかなって思います。ようやくちゃんと社会人らしくなったというか。そういう変化は今回の作品にも表れていると思うので、感じ取りながら聴いてもらえたらうれしいです。
【リリース情報】

小山田壮平 『THE TRAVELING LIFE』

Release Date:2020.08.26 (Wed.)
Label:JVCKENWOOD Victor Entertainment
[初回限定盤 / CD+DVD] VIZL-1786 ¥3,800 + Tax
[通常盤 / CD] VICL-65411 ¥2,800 + Tax
[Vinyl / 2LP] VIJL-60226〜60227 ¥3,500 + Tax
Tracklist:
01. HIGH WAY
02. 旅に出るならどこまでも
03. OH MY GOD(映画「#ハンド全力」主題歌)
04. 雨の散歩道
05. ゆうちゃん
06. あの日の約束通りに
07. ベロベロックンローラー
08. スランプは底なし
09. Kapachino
10. 君の愛する歌
11. ローヌの岸辺
12. 夕暮れのハイ

●初回限定盤特典DVD 『THE TRAVELING LIFE DVD』

[Live]
・あの日の約束通りに (なんば Hatch 2019.9.19)
・革命 (中野サンプラザ 2018.10.30)
・16 (中野サンプラザ 2018.10.30)

[Music Video]

・OH MY GOD
・HIGH WAY
■ 『THE TRAVELING LIFE』特設ページ(https://www.jvcmusic.co.jp/oyamada)

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