GREAT3のデビューアルバム
『Richmond High』は
名うての3人の瑞々しい
アンサンブルが詰まった秀作

ポップで勢いのあるデビュー作

平たく言えば、GREAT3はロック界のミュージシャンズミュージシャンが集った格好である。ここからは彼らのアルバム『Richmond High』に話を移していくが、そんなふうにとらえると(これは筆者の偏見が混じっているだろうけど)このバンドが出す音はさぞかしマニアックというか、玄人受けするというか、ややもすると衒学的なものになってしまうのでは…という気もする。しかし、少なくとも『Richmond High』はそんな匂いがないのがポイントである。それは、もちろん本作がデビュー作だから…であるのかもしれないけれど、勢いがあって、それでいて瑞々しいポップな作品に仕上がっているのである。

エレキギターのフィードバックノイズ(たぶん)から始まるM1「Richmond High」でアルバムが幕を開けるので、特にその印象は強い。荒々しいビートはロカビリー風。エッジの効いたサウンドはモッズかパンクか。歌詞も意味があるんだかないんだか分からない感じだが、そこも含めてロックの衝動が詰まっているようである。続く、M2「Fool & the Gang」は先行シングルにもなったポップチューン。ギターサウンドは若干ブルース寄りであるものの、とにかく歌メロがはっきりとしているし、歌がB、Cと展開していく様子は現在のJ-POP、J-ROCKに通じる親しみやすさがある。デビューが1995年であったことや、彼らがORIGINAL LOVEや小山田圭吾らとの距離も近かったことからか、GREAT3を渋谷系と見る向きもあったようだが、「Fool & the Gang」のポップセンスと、Cメロで見せるやや凝ったコーラスワークなどからすると、そう思う人がいても不思議ではないと思わせるナンバーだ(実際に渋谷系なのかどうかはよく分からない)。スリリングなイントロから始まるM3「I Believe In You」は、ワイルドに歪んだギターが全体を引っ張っていくナンバー。《ひきつり目が眩みそうなほど/スピードの効いたレースの始まり/何を求めてるのか/今ではわかりもしない》という歌詞がぴったりマッチしている。間奏でラテンっぽく、情熱的に展開していくのが一筋縄ではいかないところで、なかなか興味深い。

興味深いと言えば、そのスリリングなM3から一転して、ボサノヴァタッチでメロディアスなM4「Oh Baby」へと連なっていくのも興味深い。GREAT3が勢いだけのバンドでもないし、メロウなだけのバンドでもないことが、この辺で露になっていくようだ。「Oh Baby」は可愛らしいサビメロがサイケな音作りと相俟って、ドリーミーな雰囲気の楽曲に仕上がっているのも注目したいところである。M5「エデン特急」はカントリー調のリズムがポップで、歌メロはキャッチー。何よりも《悲しみも願いも全てがどうでもよくなる時/失うことは恐くないその手を差し出す夜/Everybody's Got A Right To Love/こんなに打ち拉がれてるのに/失うことは恐くない壊れた橋を渡れ》との歌詞が強烈で、そこにもこのバンドの独自性が発揮されているようにも思う。さらに、ハードなアプローチのロックチューン、M6「Madness Blue」から、米国のフォークデュオ、Seals & Croftのヒット曲のカバー、M7「想い出のサマーブリーズ」と曲順に緩急あるところは、ここまで聴いてくると、このバンドらしいと思ってしまうところである。

アナログではB面1曲目となるM8「腰ぬけマシーン」は、ネクストサイドのオープニングらしく…と思ったかどうか分からないが、疾走感のあるロックンロール。荒々しいサウンドでもサビがスウィートで、これまたGREAT3らしさを感じさせるナンバーだ。Jigsawを彷彿させる《Sky High!》の箇所は彼らならではのユーモアととらえてもいいだろう。M9「ジェット・コースター日和」はタイトルが秀逸。実際、疾走感があってスリリングでまさしくジェットコースター的な雰囲気がありつつ、M1、M3辺りとは違って、どこかさわやかである。《あぁもう二度と泣きはしない/あぁもう二度と迷いはしない》《ジェットコースターに乗ってるような/声でもあげながらくぐり抜けるさ》《ジェットコースターに乗ってるときは/両手をあげながら目を閉じないで》の歌詞もとてもいい。M10「Summer's Gone」はイントロから“これはいい曲だ”と予感させるナンバー。しっかりとしたアンサンブルながら淡々と進むAメロから、Bを経てサビに入っていくも、それが下世話ではない程度にメロディアスなところが心憎い。シャレオツなリリックもこの曲を色褪せないものにしていると思う。

インスト曲であるM11「Mr.Spicoil (with The Guitar Hero)」は、SE的に歓声も入った“なんちゃってライヴテイク”。これまたM10のあとがこれというのが何とも“らしい”ところだ。M12「Under the Dog」は7分を超える大作で、古今東西のロックバンドがやってきたロックバンドらしいミッドナンバーと言ったら若干語弊があるだろうか。サビはキャッチーだが、どこか物悲しさがあるというか、叙情的というか、独特の余韻を残す旋律だ。しかも、言葉のひとつひとつがしっかりと音符に乗っており、その他の収録曲とは一線を画す印象もある。M13「My Bunny Eyes」でアルバムはフィニッシュ。サイケでブルージー。2分ちょっとのタイムがフィナーレに相応しい感じである。

OKMusic編集部

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