NIGHTMAREが有観客ライブ開催に踏み
切った意義とは、ライブ会場とアーカ
イブ配信を見て考える

NIGHTMARE 20th Anniversary Live DARKNESS BEFORE DAWN

2020.7.18 新木場STUDIO COAST
7月17日(金)、18日(土)、2日間に渡ってNIGHTMAREが約5カ月ぶりに有観客ライブ『NIGHTMARE 20th Anniversary Live DARKNESS BEFORE DAWN』を東京・新木場STUDIO COASTで開催した。
活動休止を経て、今年2月にキャリア初の横浜アリーナ公演で華々しく復活した彼ら。本来ならバンド結成20周年イヤーとしてその後も盛大に活動する予定だったのだが、新型コロナウイルスの影響で予定していた活動は次々とキャンセル。しかし、ツアーファイナルが行われる予定だった場所で、彼らは2日間の有観客ライブ開催に踏み切った。
STUDIO COASTのような大きな会場で有観客ライブを行なうのは、おそらく彼らが初。この環境下で、なぜ彼らは有観客ライブ敢行を決断したのか。その真意を見極めるべく、ここでは公演のなかからイープラスのストリーミングサービス「Streaming+」で生配信も行なった2日目のライブの模様を、STUDIO COASTでの生ライブと、アーカイブ配信(7月24日23:59まで)のダブルで観覧を実施。立体的にこの日行なった彼らのライブを振り返り、その意義を考えてみた。
NIHGTMARE 撮影=菅沼 剛弘
開演前、STUDIO COASTにはいままで見たことのない光景が広がっていた。新型コロナウイルス感染予防のため、場内は完全座席指定。政府のガイドラインを守って、収容キャパの1/10ほどしかいない観客がソーシャルディスタンスを保って椅子にポツンと座っている様は、なにかの式典が始まる前のよう。BGMでNIGHTMAREの楽曲が流れてきても、観客たちは新しいライブマナーを守り、マスクをしたまま席で静かに待機。いままでとは違う新しいライブ環境のなか、アーティストもファンも手探り状態で挑んだ有観客ライブ。
初日はライブが開幕してもずっと着席したままだったファンに、YOMIが立ち上がってもいいことを伝えたという。そのため、2日目は客電が消えた瞬間から客席は総立ち状態に。SEに合わせてクラップを鳴らし、RUKA(Dr)、Ni~ya(Ba)、咲人(Gt)、柩(Gt)を迎えた。最後に現れたYOMI(Vo)がセンターに立ち、ライブは「パンドラ」からスタート。アウトロで楽器隊が次々と音を重ね、NIGHTMAREのアンサンブルを積み上げていくところは、配信だと一切ノイズもなく、クリアにその瞬間を体感することができた。
NIHGTMARE 撮影=菅沼 剛弘
「COAST!」とYOMIが叫び「Can you do it?」へ。気合の入った表情のRUKAが顔にかかった髪の毛をパッと手で払いのけた直後、曲はブレイク。《ねえ聴こえてる?》《もう迷わない》《もう大丈夫》とバンドの意思を届けるように、YOMIが早くもエモーショナルな絶唱を聴かせる。そうして「みんなの心に光が差し込む、光が感じられるライブをしたい」と、この公演を決断したバンドの想いを言葉で告げたあと、初期の名曲「ネオテニー」披露に、観客の鼓動はさらに高鳴る。何が大切なのか、心の宝石を忘れたくないという歌詞が先のYOMIのMCと合間って、心を揺さぶる。
いまの状況を考え、今回の有観客ライブにあたって、彼らは「ジャイアニズム」シリーズのような、暗くて激しいヘドバンで暴れ倒す楽曲を封印。「ネオテニー」を筆頭にレア曲を散りばめ、メロディックな歌ものを軸に、楽曲で魅せて、聴かせる方向へとシフトした新しいライブスタイルに挑戦。それがもっとも感じられたのが、ショートSEを挟んでからの中盤のブロックだった。
ここからはNIGHTMAREの懐かしさとせつなさが絶妙に絡み合い、心を締め付けるメロディックナンバーが次々と開花。RUKAのドラムを合図に咲人のアコギの激しいカッティング、ベース、ピアノが次々と重なり、会場全体が曲へとグイグイ引き込まれていった「シアン」。YOMIが画面越しにまっすぐに視聴者を見据え、歌い出した「アルミナ」は、咲人のファルセットを使ったコーラス、Ni~yaが曲中指弾きで放つメロディが曲のせつなさをさらに後押し。「邂逅カタルシス」は青い夏の空に想いを馳せるように、青い照明が曲を美しく彩る。
NIHGTMARE 撮影=菅沼 剛弘
アーカイブ配信の映像を見ていて印象的だったのは、これらの楽曲を演奏するとき、アップで映るメンバーたちが互いにアイコンタクトを交わし、丁寧に音を重ねることを楽しんでいたこと。そして、オンラインのクリアな音で視聴すればするほど、NIGHTMAREは名曲揃いであることを再認識させられた。しかも、いまの彼らの演奏力で聴くと、その感動もひとしお。それを表すように、実際会場内では演奏が終わるたびに観客から熱い拍手が送られていた。
そうしてYOMIが唯一タイトルコールをして始まった「ナヅキ」のアクト。せつなさがマックスに高まるこの曲で、突然“お茶目YOMI”が発動。YOMI、柩、咲人のフロント3人が揃ってリズムに合わせて左右にステップしたあと、YOMIがマイクスタンドを持ち、柩、続いて咲人のところへとにやけ顔で近づいていく。画面に背を向け、次に後方にいるNi~yaに向かって接近した瞬間、狙いを定め、演奏しているNi~yaの股間をマイクスタンドで“ポン”と一撃! 驚きながらも笑ってベースを弾き続けるしかないNi~ya。それを見た柩は上手で思いっきり吹き出し、RUKAはうつむきながら笑いを堪えている。こうして、カッコいい自分たちを自ら壊してしまうところもNIGHTMAREの魅力なのだ。
「ナヅキ」の演奏が終わったあと、配信映像の画面には薄暗くなったステージが映し出されているだけだったが、現場では柩が「ヒドい!」と言って、メンバー同士で笑い合う声が漏れてきて、客席もクスクス。そうして照明が灯り「お前、本番中にやめろよ」とNi~yaが笑顔で怒ると「じゃあ本番中じゃなかったらいいんだよね? 本番終わったらモジモジしてあげるから(笑)」とYOMIに言われ、ついつい「ハイ」と素直に答えてしまうNi~ya。配信映像では、このとき後ろで大爆笑していたRUKAの表情もバッチリ抜かれていた。
NIHGTMARE 撮影=菅沼 剛弘
そのあと、YOMIが真剣な表情に戻り「僕たちはライブをできる限りやりたいし、新しい音も届けていきたい。だから、今後も守ることは守って、活動をしていきます」と宣言したあと、「僕らが前向きに活動しているところを見せて、みんなに力を与えていきたいと思います」という言葉に続いて、「ASSaulter」からライブは終盤戦へ。演奏が始まると、RUKA以外のメンバーがフロントで激しく動き出し、間奏では咲人が身体を後ろに大きく反らし、華やかなパフォーマンスで観客を魅了。Ni~yaが客席のクラップを煽り、演奏が「Quints」へとなだれ込むと、いつもファンが大合唱をする場面で、耳に手を当てカメラをじっと見つめるYOMI。その後、拳で胸をトントンと叩き、客席、画面の向こうのファンに「声、届いたぞ」と合図を送り、そして今度はステージからRUKAのビートにのせて4人が声を一つに重ね、エモーショナルな歌声を送った。
こうして、YOMIの言葉通り、観客、視聴者の心を熱く鼓舞しながら、パワーを注入していく力強いアクトを披露したあと、本編最後に彼らが届けたのは「Morpho」だった。NIGHTMAREの楽曲のなかでは異色の、柔らかい風にくるまれ、そのまま空に吸い込まれていきそうな美しいメロディーに胸が締め付けられ、感動が広がる。最後のギターソロが始まると、場内には夜明けのような光が広がり、人々の心に希望となる灯りをしっかりと刻みつけて本編を締めくくった。
NIHGTMARE 撮影=菅沼 剛弘
アンコールは、お馴染みの5人のトークコーナーで開幕。YOMIと咲人が顔を近づけ1本のマイクで歌うシーンが定番となっている「惰性ブギー」のために、ガード付き特殊マイクを作ろうだとか、ソーシャルディスタンスのいまだからこそバンドとして叶えていない夢の場所に挑む絶好のチャンスだとか、いまの状況を逆手にとったプランで大盛り上がりするメンバーたち。ここでは、いつもは振られてもほとんどしゃべらないRUKAが「ナヅキ」での股間事件についてメンバーと楽しそうにトークを繰り広げ、ファンを大いに喜ばせた。
そのあと、10月7日に4年ぶりとなるニューシングル「ink」を発売し、その前後には『20th Anniversary Live Tour』と題したライブを10月3日に仙台GIGS、10月11日にZEPP TOKYOで開催することを発表。「RAY OF LIGHT」でアンコールをスタートさせたあとの「落羽」は気持ちのこもった演奏で、マーチングドラムに合わせ、どこまでも躍動感に満ち溢れた楽曲を通して、《必ず飛び立てる》とみんなにエールを届けて、とてつもない感動を呼び起こす。そして最後は「この曲をみんなで歌えることを楽しみにして……」とYOMIが伝え、「Star〔K〕night」を演奏。歌えない代わりに、観客たちは一斉に右手を斜め上に差し出し、声にならない声を届け、ライブは温かい気持ちがこみ上げるなか終了した。
激しい曲がなくても、ヘドバンができなくても、叫べなくても、それでもこの日のライブに深く共感し、感動して泣いている観客たち。新しいNIGHTMAREのライブの届け方。その前向きな第一歩を提示した貴重なこの公演。見逃した人は、7月24日まで行われているアーカイブ配信でぜひとも確認して見てほしい。
取材・文=東條祥恵
撮影=菅沼 剛弘
NIHGTMARE 撮影=菅沼 剛弘

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