独自のソウル音楽を追求した
初期ヴァン・モリソンの
傑作『ムーンダンス』
ワーナーでの活動がスタート
68年と言えば、若者たちは「30歳以上は信じるな!」と言い、一般的にはサイケデリックロックやブルースロックが全盛の時である。ところが、そういった世間の風潮にザ・バンドのメンバーは流されず、アルバムの内ジャケットに家族や親戚の記念写真を載せ、ブルース、カントリー、フォーク、R&B、ブルーグラスなどをもとにプログレッシブとも言えるルーツロックを構築していたのである。このアルバムに大きな影響を受けたエリック・クラプトンやジョージ・ハリソンと同じように、おそらくモリソンも『ビッグ・ピンク』で人生が変わったのではないか。ザ・バンドとは方向性こそ違うものの、ザ・バンドのメンバーがほぼカナダ出身であり、モリソンもよそ者のアイルランド出身であるだけに、黒人音楽ということにとらわれず、自分なりの“ソウル”ミュージックを追求しようとしたのだろう。そして68年9月、モリソンはワーナーに移籍して初のソロアルバム『アストラル・ウィークス』のレコーディングを開始する。
『アストラル・ウィークス』は、アイリッシュ、ジャズ、フォーク、R&B、ブルース、カントリー、サザンソウル、クラシックなど、モリソンを形成している音楽を基盤にしながら、『ビッグ・ピンク』に負けず劣らず革新的なサウンドを紡ぎ出している。このアルバムのバックを務めるのは、ジャズサイドからベースとバンドマスターにリチャード・デイビス、ドラムがMJQのコニー・ケイ、パーカッションとヴィブラフォンのウォーレン・スミス・ジュニアが参加、普段モリソンのバックを務める管楽器のジョン・ペインとギターのジェイ・バーリナーらで、このアルバムをモリソン最高の作品と言う人も少なくないが、それも頷けるほど完成度の高い出来栄えである。
本作『ムーンダンス』について
収録曲は全部で10曲、ザ・バンドの解散コンサートの模様を描いた映画『ラストワルツ』でも披露された「キャラバン」のほか、「クレイジー・ラブ」「イントゥ・ザ・ミスティック」「ジーズ・ドリームス・オブ・ユー」など、モリソンの代表曲とも言える名曲がずらりと並んでいる。タイトル曲の「ムーンダンス」は前作のテイストを持つジャズっぽい曲であるが、本作ではフォーク、カントリー、ソウルなどの幅広いスタイルを盛り込みながら、全てがモリソン独自のソウルミュージックになっているところがミソである。本作で彼のスタイル(ヴォーカルだけでなくソングライティングでも)は完成の域に達している。本作をリリースした時、モリソンはまだ25歳…。
モリソンはこの後、ウッドストックに移り住み、リスペクトするザ・バンドと親交を深める。ザ・バンドの『カフーツ』(‘71)に収録された「4%パントマイム」ではゲストヴォーカリストとして参加、リチャード・マニュエルとベルファスト・カウボーイは鳥肌ものの掛け合いを聴かせている。
もし、本作が気に入ったら、『ストリート・クワイア(原題:His Band and the Street Choir)』(‘70)、『テュペロ・ハニー』(’71)、『セント・ドミニクの予言』(‘72)や、熱気にあふれたライヴ盤『魂の道のり(原題:It’s Too Late to Stop Now)』(’74)は、どれも『ムーンダンス』に負けないぐらいの名盤揃いなので、ぜひ聴いてみてください。
TEXT:河崎直人