吉田美奈子の名作中の名作
『FLAPPER』は
日本が誇る世界に誇るべき
有形文化遺産だ
サウンドと拮抗するヴォーカル力
まず、それが分かりやすいのはM2「かたおもい」だろうか。矢野顕子作曲のナンバーで、と言うことは、矢野顕子らしい独特のメロディーラインなのだが、「かたおもい」はそれとはまた別のニュアンスが確実に出ていると思う。個人的にはどこかセクシーな印象がある。ただ、ずっとそうではなく、時折セクシーな表情が垣間見えるといった感じだ。それが楽曲全体に特有の高揚感を生んで、文字通りの“片思い”感を醸し出している気がする
M3「朝は君に」でのアウトロのギターはすごい迫力だと前述したけども、そこにヴォーカルが絡んでいるのだから、これもまた半端じゃない。そもそも「朝は君に」はかなりパンチの効いたソウルフルな歌声が聴けるのだが、そのテンションが尻上がりに上がっていき、ギターとタイマンを張っている──比喩は上手くないけれども、その歌声が決してサウンドに負けてないことは分かってほしい。それが、これもまたソウルフルなファンクM4「ケッペキにいさん」につながっていくのだから、さらにテンションが上がっていく感じ。かと思えば、オールドスタイルなM5「ラムはお好き?」ではシャレオツなヴォーカリゼーションを見せつつ、そのアウトロではしっかりとシャウトを効かせていたり、M6「夢で逢えたら」やM8「忘れかけてた季節へ」では、さりげなく下品にならない程度に“しゃくり”や“こぶし”を入れたりと、縦横無尽のヴォーカルパフォーマンスを見せる。それを貫禄を呼ぶと本人は否定するかもしれないが、ジャケ写の映るウインクする彼女の姿を見ると、只者ならぬ余裕を感じられるのは筆者だけではあるまい。
TEXT:帆苅智之