朗読「蒲田行進曲完結編『銀ちゃんが
逝く』」開幕 主演の味方良介が言葉
を詰まらせる一幕も

2020年7月10日(金)より、東京・紀伊國屋ホールにて、つかこうへい没後10年追悼イベント 朗読「蒲田行進曲完結編『銀ちゃんが逝く』」が開幕した。本作は、新型コロナウイルス感染防止のため、本来予定されていた通常公演を中止し、3日間の朗読劇に変更し、劇場で観劇するパターンと、特にチケットの申し込みが多かった初日公演を有料ライブ配信するパターンとで上演された。
(左から)植田圭輔、味方良介、井上小百合
初日前には、出演者の味方良介、井上小百合、植田圭輔、そして演出の岡村俊一が舞台上に登壇し、公演にかける想いを語った。
岡村俊一
会見では、まずは岡村から挨拶。「一度は中止となったこの舞台だが、つかの10年目の命日に何か『演劇』を届けることができないか、と考え、生まれたのが朗読劇という形式だった」と語る。ところが、「最初は半分くらいが朗読だったのに、どんどん朗読じゃなくなっていって、6月が終わる頃には8割朗読ではなくなってしまった」と岡村が苦笑いを浮かべると、たまらず味方たちも噴き出す。「ひょっとしたら、つかさんが『紀伊國屋(ホール)で、俺の命日に何をやってるんだ』と言っていたのかもしれません。俳優の力というものはおそろしいもので、ソーシャル・ディスタンスを保ちながらも、今できることの形ができあがっていったんですよね」と振り返っていた。
味方良介
銀ちゃんこと、岡倉銀四郎役を演じる味方は、「あの……」と口にするが想いが溢れそうになったのか、言葉を詰まらせる。「ちょっと泣きそうですね。何を話そうか考えていたんですけど……劇場にいるってに最高ですね! 幸せだし、演劇ができること、つかさんの命日にここに立てるということ……こんなに幸せなことはないなと思います」と少し目を潤ませながら一言一言、胸の奥から言葉を絞り出すように話し出した。
味方は一息ついて「やれることは稽古でやってきたし、これが舞台に乗って僕らの力でお客さんにどれだけ届けられるかも楽しみ。また『蒲田行進曲という作品を紀伊國屋ホールで』と待っていて下さった方もたくさんいらっしゃると思うので。その想いに恥じぬよう120%、200%の力で燃え尽きたいなと思います」と意気込みを見せる。そして「朗読劇と言っていますが、進化型です。どこが朗読劇なんだ? と思われるかもしれないですが、皆さんに観ていただいて、楽しんでいただけたら僕はもう、それだけで満足です」と改めて喜びを口にしていた。
井上小百合
つか作品初参加となる小夏役の井上は、乃木坂46卒業後、今年6月に本多劇場で行われた一人芝居『DISTANCE』に続いての出演となる。「いろんな困難を乗り越えて、劇場でお芝居ができるというこの奇跡に感謝しています。人によっては演劇は必要ではない存在かもしれないですが、自粛期間を経て、私にとって誰かと泣いたり笑ったりする時間は、生きる上で大事な物なんだなあと改めて思いました。いろんなリスクを背負って劇場に来てくださる方々に、絶対に届けられるものがあると信じて……楽しんでいきたいと思います」と力を込めた。
植田圭輔
井上と同じく、つか作品初参加となるヤス役の植田は、「今日という日を迎えるまでいろいろなことがありまして……出演が決まったのはもう随分前で。僕にとっても皆さんにとってもどんどん状況が変わっていきましたが、それでも今、できることを目指して、試行錯誤しながら今日を迎えられたことを光栄に思います」と真摯に語る。
植田は続けて「僕は、つかこうへいさんにはお会いしたことはないのですが、今日という日につかさんの作品で演じられるということは、僕の人生においてもすごく大きな意味があると思っています」と胸を張り、「きっと、ご覧になるお客様にとっても。きっと、この日のために(役者を)続けてきたんだろうなと思うぐらい、気合い十分です」と笑顔。でも「全然朗読劇じゃないです」というと隣でニヤリと笑う味方。「魂を届けますので、ご覧になる方も魂で受け取ってください」と自信溢れる言葉を述べた。
ここまでの挨拶の中で「朗読劇と銘打ったが朗読劇じゃない」ということについて話が盛り上がる。以前『熱海殺人事件』の朗読を経験したことがある味方は「つか作品は朗読でやるものじゃないなと……(笑)。稽古中、岡村さんにも『やってみますけど、無理じゃないですか?』と言ったんです」と笑う。「つかさんが書いた台詞には、文字を超越する力があるんですよ。生きた人間が作った時間は、やっぱり“文字”じゃなくて“言葉”に現れるので」と自論を展開。
「もはや朗読劇の範疇ではないんですが、朗読の良いところも意識した新しい形ができあがったと。難しいことはよく分からないんですけど、僕はこの世界がものすごく好きで、仲間と作る“演劇”がやっぱり大好きだ、と改めて思わせてくれた機会になりました」と胸の内を語った。
味方の言葉を受けるように、植田も「これは朗読? 演劇? はっきりしてくれよ岡村さん! と言いました」と言うと味方だけでなく岡村も噴き出す。植田は本作について「エネルギッシュなので、僕たちが体感してる時間軸で言葉が発せられていくから、どうしても脚本を置いてしまいたくなることがすごく多くて……みんなで協力して調整しながら朗読劇に見えるようにしました。なんじゃこりゃ? と思われるかもしれませんが、これは僕らに突きつけられた挑戦であり、この世界で生きていく意味みたいなものを感じています」と笑いを交えつつ話していた。
会見後、ゲネプロ(通し稽古)が披露された。
【あらすじ】
「新撰組」の撮影が進む東映京都撮影所。
初の主演映画に意気込むスター俳優銀ちゃんが、子分の大部屋俳優ヤスに 自分の恋人小夏を押しつけることから物語は始まる。小夏は妊娠しているのだ……。
ヤスは銀ちゃんに見せ場を作り、小夏のお産の費用を稼ぐために、 危険な「階段落ち」に挑戦する。
しかし、ヤスが命をかけて生まれた娘のルリ子は、不治の病に冒されていた。そして小夏も、心の底からヤスを愛することはできなかった。銀ちゃんは、自分の貧しく卑しい生まれの血のせいでルリ子が病気になってしまったのではないかと苦悩する……。
そして、新たな「新撰組」の撮影が始まる。
銀ちゃんは「俺の命と引き換えに娘の命を助けてくれないか」と祈る様な気持ちで一世一代の「函館五稜郭の石階段落ち」に挑む。
果たして銀ちゃんの祈りは、娘の病に打ち勝てるのだろうか?

ゲネプロ前の会見で話が出たように、この芝居はよくありがちな朗読劇ではなかった。朗読でヤスの心境、感情を時折語りつつも、実はつかこうへいが作りあげてきた役者がその身体を通して物語を作り上げる“演劇”そのものだった。
銀ちゃん役の味方は、眼力も強く滑舌も良く、そして溢れんばかりの熱量とまばゆいオーラで他の役者たちを圧倒的にねじ伏せ、劇中劇の主役、そしてこの作品自体の主役を見事なまでに務めていた。これまでにもつか作品に挑戦した役者が何人もいたが、つか芝居独特の叩きつけるような激しい台詞回しで喉を傷めてしまう者が少なくない。が、味方はそんなハードルを軽々と乗り越えてしまう「強い喉」という最大の武器を持っている。おそらく今、20代の若さで、つか作品の看板を背負って走れる役者の筆頭ではないだろうか。そう思わせる役者力を今回も感じさせていた。

そして銀ちゃんを神のように崇拝し、銀ちゃんのためなら命を捨てても構わないと豪語する大部屋俳優ヤス役を演じる植田もまた凄い役者力を放っていた。殴られても蹴られてもキラキラした瞳で銀ちゃんにつき従う姿は痛々しいくらいピュアであり、そして小夏に対する複雑な想いを身体全体で表現している様は、植田であって植田ではない。確かに「ヤス」がそこにいたのだ。2.5次元舞台でも確かな演技力を感じさせてきた植田がこの芝居で一皮も二皮も剥けた姿を拝めたことを幸せに思いたい。
小夏役の井上はこれが女優として2作目の舞台とは思えないほどの存在感を示していた。確かにまだ声は細いが、銀ちゃんに翻弄され、それでも女としての激しい情念と、娘の母としての強さ、ひたむきさをうまく表現する演技力は素晴らしいものだった。

メインの3人だけではない。銀ちゃんの最大のライバル・中村屋喜三郎役の細貝圭の堂々とした存在感に目を奪われる。歌舞伎界のプリンスとしてのプライドの高さと、その一方で見せる闇。これぞ銀ちゃんのライバルにふさわしい男を細貝が大胆に描いていた。

時にはこんなお茶目な場面も(笑)

こんな魅力的な役者たちが一同に会し、出せる熱量の限界まで出し切ってもまだまだと思わせるのがつかこうへいの描く世界だ。つかが必ず作品の中に織り交ぜる様々な差別から芽生える反骨心、そして人間愛に思わず涙がこぼれる。今、劇場に足を運びづらい環境下ではあるが、是非この作品は生でご覧いただきたい。きっと演劇の力を全身で体感できるはずだ。
なお、本日新たに7月23日(木・祝)から7月26日(日)の4日間、5公演の追加公演が決定したことが発表されている。詳しくは文末の公演情報でご確認いただきたい。
取材・文・撮影=こむらさき

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