学芸員によるギャラリートークをオン
ラインで堪能 国立西洋美術館【ネッ
ト DE アート 第8館】

全国の美術館・博物館が感染拡大の防止対策を講じながら、新たな日常を取り戻しつつあります。そんな美術館・博物館の中には、STAYHOME期間中に、オンラインでのコンテンツ配信に力を入れていた施設が多くありました。なかでもありがたく楽しませていただき、また、今後も継続を期待するのが、学芸員の方々による作品解説「ギャラリートーク」の動画配信です。ギャラリートークとは、もともと展示会場の指定された場所に、指定された時間に集合し、皆で一緒に聞くものでした。しかしオンラインならば自分のタイミングで視聴できます。事前に知識を得ることで、実際にオリジナルの作品を鑑賞する貴重な時間を、より濃いものにできるのではないでしょうか。

オンラインで楽しめるアート情報をお伝えする連載コラム【ネット DE アート】。今回は国立西洋美術館がYouTube、Facebook、そしてGoogle Arts & Cultureで提供する、オンラインコンテンツを紹介します。
国立西洋美術館 YouTube公式チャンネル サイトより
国立西洋美術館(以下、西美)は、フランス政府から寄贈返還された「松方コレクション」を基礎に、西洋美術に関する作品を広く展示するために、1959年に設立されました。20世紀を代表する建築家ル・コルビュジエが建物の設計を手がけたことでも知られています。そんな西美は、YouTube公式チャンネルでギャラリートークの動画を公開しており、常設展の作品を中心に1点ずつ、画家について、作品について解説します。研究員の方々が説明している動画は1本4分程度ものなので、移動中のスマホやご自宅のパソコンで気軽に視聴できます。ここで、コンテンツをピックアップして紹介します。
松方コレクションって何?
松方幸次郎(1866年~1950年)の美術コレクションのことです。松方正義元総理(第4代、第6代内閣総理大臣)の三男であり、第一次世界大戦中は、イギリスに滞在し造船業で財を成しました。日本に西洋美術の美術館をとの志をもち、総数1万点におよぶ美術品を蒐集したと言われています。
ロダンが見られなかった《地獄の門》
JR上野駅の公園口出口から動物公園方面に歩きはじめ、まもなく右手に見えてくるのが西美です。ゲートを入った私たちは館内に入るよりも手前の前庭で、まずオーギュスト・ロダンの《地獄の門》に迎えられます。ダンテの叙事詩『神曲』地獄篇を題材にしたブロンズの作品で、高さは540cm、幅は390cm。YouTube公式チャンネルに公開されている動画では、館長・馬渕明子氏による解説を聴くことができます。
【国立西洋美術館 ギャラリートーク】オーギュスト・ロダン《地獄の門》 YouTube公式チャンネルより
本作は政府からの依頼により、パリの装飾美術館のために構想されたのだそう。しかしロダンの存命中にはブロンズに鋳造がかなわなかったのだと言います。解説は門の中に描かれた様々な人々にフォーカスしていきます。
「門の一番上に3人の人物が立っています。あの形をどこかで見たことがあると思われた方は正解です。3人の人物は『3つの影』と呼ばれていますが、真ん中の人物は《地獄の門》のすぐ左手に展示される《アダム》と非常に近い形をしています」
【国立西洋美術館 ギャラリートーク】オーギュスト・ロダン《地獄の門》 YouTube公式チャンネルより
「3つの影」の下には「考える人」、門の右下には「フギット・アモール(移りゆく愛)」、目線を上に移すと「ファウネス(人間と動物の間の精霊のような存在)」があり、その右に「私は美しい」など、部分ごとにテーマがあることが分かります。それぞれが非常に立体的です。馬渕館長は「混沌の中から人物が飛び出てくるような、三次元を存分に使ったダイナミックな人物表現」と解説しました。
ティツィアーノのサロメとクロムウェルの勘違い
西美の明るく静謐な館内で出合う、落ち着いた色あいの穏やかでない絵画に、つい足を止めてしまう方も多いのではないでしょうか。常設展で鑑賞できる油彩画として、1560~70年頃に制作されたティツィアーノ・ヴェチェッリオの《洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ》は、新約聖書に登場するエピソードを題材に、サロメが洗礼者聖ヨハネの首を所望して斬首されてしまう結末が描かれています。
【国立西洋美術館 ギャラリートーク】ティツィアーノ・ヴェチェッリオと工房《洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ》 YouTube公式チャンネルより
主任研究員の渡辺晋輔氏は「ティツィアーノが創り出した絵は、この後のヴェネツィア派の方向性を決定づけるような存在」とし、西洋美術史におけるティツィアーノの重要性を示します。画面の内側から光り輝くような印象や臨場感は、「一気に描いたように見えて、実は何度も慎重に塗り重ねられている」ことで表現されているのだそう。動画がティツィアーノの筆致をクローズアップすると、ディスプレイ越しでもつい息をとめて見入ってしまいます。
【国立西洋美術館 ギャラリートーク】ティツィアーノ・ヴェチェッリオと工房《洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ》 YouTube公式チャンネルより
渡辺氏は本作の興味深い来歴についても解説します。「はじめはイギリス国王チャールズ1世のコレクションでした。清教徒革命で彼が処刑されると、コレクションは散逸してしまいました。しかしチャールズ1世の次に政権をとったクロムウェルは、この絵を売ることなく留め置きました。なぜかというと、おそらく彼は勘違いをしたのです」
クロムウェルの勘違いとは一体……? 答えはぜひ、動画でご確認ください。なお、YouTube公式チャンネルには、主任研究員の袴田紘代氏による、ギュスターヴ・モローの《牢獄のサロメ》のギャラリートークもおさめられています。同じサロメ主題を、モローはどのように表現したか。モロー独自の神話解釈とは。あわせてチェックしてみてください。
【国立西洋美術館 ギャラリートーク】ギュスターヴ・モロー《牢獄のサロメ》 YouTube公式チャンネルより
展示機会の少ない作品はFacebookで
国立西洋美術館のFacebookアカウントでは、展示の機会が少ない写本、素描、版画、陶器などを紹介しています。5月3日からは、5回にわたり「人物の内面を見つめ描いた版画」というテーマで版画作品が紹介されました。最初の投稿は、ジョヴァンニ・ベネデット・カスティリオーネ(1609-1664)の《ジョヴァンニ・ベネデット・カスティリオーネの天分》です。
国立西洋美術館Facebookより
「北イタリアの港町ジェノヴァ出身の画家・版画家カスティリオーネによる大胆な自画像です。画面の美しい男は画家自身ですが、彼がこの作品を制作したときは40歳に手が届く頃だったはず。随分と自惚れていますが、ここに描きこまれているものを見ると、さらにその感を強くします」
親しみやすい切り口と文体で、左手に持つラッパや、プットー(翼の生えた童子)、ウサギや鳥の巣が何を象徴するかを知ることができます。さらに5月26日からは5回連続特集で、ピーテル・ブリューゲル(父)の下絵に基づく版画も紹介されました。
国立西洋美術館Facebookより
版画の連続投稿では、「版画はオンラインでも違和感が少ない!」という感想をもちました。立派な額縁の“絵画”をスマホやタブレットなどで見るときと比べて、ディスプレイ越しの“版画”は、展示ケースのガラス越しよりも見やすく、手にもって見られる距離感がちょうど良かったです。ただしこれは個人の感想です。ぜひ積極的に疑ってかかっていただき、西美のFacebookページを訪れ、ご自身の目でお確かめください。
Google Arts & Cultureでうろうろしたり近寄ったり
イチ推ししたそばから、残念なお知らせがあります。Facebookは仕様上、高解像度で写真の拡大表示ができません。そこでおすすめするのが、Google Arts & Cultureです。ストリートビュー機能を使うと、展示室を歩くような感覚で展示の様子を見ることができ、作品によっては驚くほど近寄ることができます。これも、オンラインならではの鑑賞体験です。
Google Arts & Culture 国立西洋美術館 ストリートビュー画面 サイトより
2020年春、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、国立西洋美術館も一時閉館を余儀なくされました。そんななか、馬渕館長が4月14日に発信したメッセージを最後に紹介します。
「美術館はオリジナルの作品を見て頂く場ですから、その機会を提供できないことは残念の極みなのですが、やむをえません。思えば私どもの美術館にある作品は、長い歴史のなかで疫病や戦争、自然災害といったたくさんの災と戦い、生き抜いた芸術家たちの手によって作られてきました。そして各世代の人々の手によって守られ、今日私たちの手に託されてきているのです。そうした芸術の力は、必ずやこの困難な時期に、人々に勇気と希望を与えてくれることでしょう。」(Facebookより抜粋)
美術作品は、見ための美しさや力強さは言うまでもなく、描かれた背景や主題、来歴も見どころです。本稿で紹介したコンテンツでは、本物を鑑賞するのとは異なるアプローチで、オンラインならではのアート体験ができるはずです。YouTube公式チャンネルやFacebook公式アカウントで新たな作品の存在や魅力を発見し、Google Arts & Cultureで予習・復習し、国立西洋美術館を実際に来訪されてみてはいかがでしょうか。
Google Arts & Culture 国立西洋美術館 サイトより

文=塚田史香、画像=各オフィシャルページ引用

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