『分島花音の倫敦philosophy』 第五
章 ニューシングル制作秘話と見つめ
直した音楽スタイル

シンガーソングライター、チェリスト、作詞家、イラストレーターと多彩な才能を持つアーティスト、分島花音。彼女は今ロンドンに居る。ワーキングホリデーを取得して一年半の海外滞在中の分島が英国から今思うこと、感じること、伝えたいことを綴るコラム『分島花音の倫敦philosophy(哲学)』第五回目となる今回はニューシングルに込めた思いと音楽との向き合い方について。

このコラムが無事に出ている頃には、私は再びロンドンの家に戻り、2週間の隔離生活を始めていることと思います。少しずつ日常を取り戻しつつある中、皆さんいかがお過ごしでしょうか?
今月28日に、ロンドンでレコーディングをしたニューシングル『poolside』がリリースされました。今回はCDではなく7インチのレコードを作りました。盤面がクリアオレンジ色の小さなレコードです。レコードは2年前にも1度製作したことがあり、その手間とコストと完成までの時間の長さに驚いた記憶がありました。それでも私がレコードを製作し続ける理由は、私がレコードに『音楽以外の価値』も感じているからだと思います。
ロンドンにはレコード店がCDショップよりも目立ち、アメリカではCDの売り上げよりもレコードの方が販売数が伸びているとかで、日本の音楽シーンと大きく違った動きを見せています。しかし実際一番売り上げを占めているのはサブスクリプションなどでのストリーミング配信で、CDやアナログ盤といった『形あるもの』で音楽を手に取る時代は古くなりつあるのが現状です。ネットで気軽に音楽が楽しめる様になった今、新しい音楽と気軽に出会う機会が増えたのは良いことの様に思いますが、アーティストの作り出す音楽を『形あるもの』として手に取りたい気持ちも、誰かのファンを経験した方なら一度は思うことではないでしょうか。
悲しいかなCDがオブジェになりつつある時代。私もレコードにこだわるつもりはありませんでしたが、1つの作品として作るときに、ジャケットや盤面のカラーなどアナログ盤の方がより自分の表現の自由度が高く、アナログ盤のフォルムに純粋に愛らしさを感じたからです。もちろん、レコードにしか表現できない味のある音質も好きなのですが、『聴く』という本来の目的を超えた部分が、今後音楽を『形あるもの』として届けていくための大きな鍵になっていくのではないかなと感じています。そういった意味も踏まえて、レコードには漫画(ちょっとしたストーリ)をつけたりもしています。
最初に音楽にストーリーをつけたのは2年前、同じプロジェクトで音楽を製作したときでした。ただ音楽を出してもなかなか注目してもらえない状況を、なんとか音楽に興味を持ってもらえないかと思い、物語を製作することにしたのがきっかけです。それまでアニメソングに携わっていて、物語あっての音楽を作っていたこともあり、物語があった上で音楽を聴いてもらうことは音楽に『音楽以外の価値』を感じてもらう目的でもありました。私はプロの漫画家でなければプロの脚本家でもない為、作品と呼べるには未熟なものではありますが、他のミュージシャンがまだやってないことをやろう!なんか周りに迷惑かけない程度な、でもなんか変なことがいい!と考えて出た答えでした。
今回の表題曲は「poolside」。日本にいると流行とか、量産型とか、みんなが良いものが良いという口コミに流されて、他人の目を気にしてしまったり、自分自身の良し悪しを、自分以外の誰かの評価に委ねてしまったり、評価のない自分、必要とされていない自分はダメな人間なんだ、と落ち込んでしまったりすることがありました。
ロンドンには白人も黒人もアジア人も中東系の人種もいて、その明らかな違いに優劣もなければ良し悪しもなく、様々な人がそれぞれの文化やスタイルを大切にしながら生活しています。私みたいな名前も知らないミュージシャンでも音楽に耳を傾けてくれて、一緒に楽しんでくれたり、応援をしてくれたり、そういった人との関わり方に救われた経験を歌にしようと思って作りました。
poolsideというタイトルは、以前「自由落下とピノキオ」という楽曲を作ったとき、焦ったり不安になったりすると地に足がつかない様なふわふわとした感覚になるイメージを「無重力」という言い方で表現していたのですが、友人が「自分は逆で、プールに水が貼ってある無重力の状態だと水から上がれて自由にどこへでもいけるイメージ。水がないとプールが乾ききって底から出られない」と自分の真逆の考え方を言っていて面白いな〜と感じたので名付けました。
カップリングは「IDEA」(イデアと読みます)。こちらは付属のストーリーに寄り添ったイメージで作っていて、物語の中のキャラクター、人の眠りを操るヒュプノスが、眠らせた相手に語りかけている様な歌詞になっています。デモの段階ではロックっぽいアレンジだったのですが「こっちの方がクール」ということでアレンジの段階でちょっとレゲエみたいな感じになりました。
他の人がやってないことをやるというのは、受け入れられなかったり、自分も不慣れなことで不安もあります。
でもここ2年ほど、TRANSIENT RECORDSとして自主制作のプロジェクトを続けてきて分かってきたことは、私は決して熱血で競争を重んじる様なタイプではないということ。音楽の在り方はミュージシャンそれぞれだということ。
「こうじゃないといけない」というセオリーに心が負けてしまったことが何度もありましたし、できない自分は弱くてダメな人間なんだと自分を責めたこともありましたが、自分以外の人間はみんな自分と違うし、自分は自分以外にはなれないのです。本当に当たり前だしわかりきったことなのに、一つしかない自分の体を無理やり切り分けようとしたり、自分以外の誰かに成ろうと必死になったこともありました。
自分の音楽のスタイルを見つめ直すことは、長い活動の中で何度も行ってきたことでしたが、TRANSIENT RECORDSをスタートさせて、そしてロンドンでの経験もあり、他と比較してもどうしようもない自分自身の音楽と向き合える様になってきました。
photo by Kumicom.
一時帰国前に現地で日本人のカメラマンと、その友人のヘアメイクアーティストの2人と知り合って作品撮りに参加しました。今回のリリースのタイミングで写真を使わせて欲しいと言ったら快くオッケーをもらったので今回はその写真を。
素敵な二人のプロフィールのご紹介もさせてください。
フォトグラファー Kumicom.
愛媛県出身
2018年 独立後フリーランスフォトグラファーとして人物撮影を中心に活動
2019年 ロンドンへ渡英後ファッションフォトグラファー、ファッションエディターとして活動中
所属事務所 TABLE ROCK
ヘアメイク Azusa matsumori
岡山県出身
都内のヘアサロン勤務後、フリーランスのヘアメイクとして独立
ファッションブランドを中心に広告、ミュージックビデオ、雑誌など様々な分野で活躍中。
女性の素材を活かし、遊び心のあるメイクに定評がある。

新曲、ぜひ聴いてくださいね。来月はまたロンドンからお届け出来るかと思います。ではまた!

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